1-12*林枯君
*この物語はフィクションです。
林枯の頭の中では、一つの色が廻っていた。
黒。
「……火流さん」
「な、何? え?」
林枯が上目遣いに火流を見て、二人の目が合った。
しかし、林枯は次元の違う場所を見ているような、どこか虚な瞳をしている。
「ライミちゃんとポップちゃんは、同じナイフで胸を刺したんです。まずライミちゃん、次にポップちゃんの順で。そしてそのナイフは、刃も持ち手も黒かったんです」
____火流が、知らない事。
「……な、何で」
「市販のナイフを、わざわざ塗装してあったそうです」
違う。
火流が聞きたかったのは、""どうして新入りの君が、それを知っている?""という事だけだった。
「そして黒いハンカチ……。山滝、山滝、山滝……」
「だ、誰、山滝って。君は何を言ってるの?」
火流は林枯の言っている事が半分も分からない。
それどころか、話も聞いちゃもらえない。
「山滝は……現場の第一発見者。事務所のスタッフ。昨日二人の死体を発見してから……一度も家に帰っていない。だから____黒いハンカチを処理したかった?」
カチカチカチっと、林枯の頭の中ではパズルのピースが埋まっていく。
いや、違う。そんな綺麗なものではない。
確定できない情報。
断片的な真実。
それでも林枯は形をつくろうとしていた。
「何で、ライミちゃんは、死ぬ前、廊下を這いつくばってたんだろう」
遺体が発見される五分ほど前に、ライミは楽屋の前の床を這いつくばっていた。
しかも、着ているコートに何度も手を突っ込む不審な挙動をしていた。
「黒い、ナイフ。黒い、ハンカチ。黒い……」
力が抜けて上手く立てず、林枯は壁に手をつき前屈みになった。
火流が慌てて支える。
林枯の脳裏を、ふと一枚の写真がよぎった。
ライミとポップが映った写真。
それは、遺体が発見される十分ほど前に撮られ、SNSに投稿された写真だった。
ライミは、メガネを外していた。
笑顔でダブルピースしていた。
ポップも笑顔で写っていた。
そして、黒いコートを着ていた。
「____黒い、コート」
それは、偶然というにはあまりに出来すぎていた。




