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第1話 TPSの世界


――

幼い頃、ヒーローになることが夢だった。


アニメに出てくる熱血主人公のような、


特撮ヒーローのような、


強い悪を倒し、困っている弱いものを笑顔にするような、


そんな夢を見ていた。


―-




陽射しが顔を照らしているのがわかる。

暑い、寝苦しい。


「――――――」


何か聞こえる。なんだ、テレビかPCをつけっぱなしにして寝ているのはいつものことだが、音量は下げているのにやたら耳に響く。


ボリュームを下げて授業中に眠気が襲う理論、これで少しは不眠が和らぐ。

長年の知恵だ。


「―――――――――」


音が大きくなっていく、今日は目覚めが軽いようだ、でも俺の部屋は一人・・・。


「ねえ、ラウル起きて、もう出発の時間よ」


目が自然と開く、というより強制的に目が開いていく。


なんだよ、今の声。テレビから?

いや、やたらとリアルだった。


「え?」


いつもなら視界がぼやけるのに、やたらはっきりと見える。


「今日はいよいよ、拠点に行くのよ?寝ぼけているのかしら」


目の前には金髪に白い肌、背は170くらいだろうか、スタイル抜群の美女。


「ふぅ…」


彼女も眠いのだろうか、艶めかしい吐息だ。

美人、そして独特の色気を感じる。

 

それも戦闘用?

闇夜に紛れる特殊部隊のような服に、いかにもサバイバルゲームをやりますって言わんばかりのベストを着ている。


美女コスプレイヤーが俺の部屋に侵入したの?



 ・・・いやいやいや、これは何の夢だ?



会ったこともない欧米系の美人が、俺の目の前に顔を近づけている。


周りにはお世辞にも綺麗とは言えない粗雑なベッドやテーブルに椅子に…銃?


俺はガンマニアじゃないぞ。

子供の頃は憧れておもちゃ屋のショーケースに飾ってあった、エアガンやガスガンを眺めてた時もあったけれども。


「拠点・・・?」


 ―“キィィィィィィィィィィィィン!!”―


頭に!金切り音が響く…!


「うう…」

「大丈夫?昨日の基地奪還戦でどこか負傷を?でもメディカルチェックは受けたはず…」


金髪美女が心配してくれてる?

彼女の名前はソフィア…何故か名前がわかる。

いや、これは現実じゃない…。


この部屋は、俺がプレイしていたゲーム…『メビウス』の序盤に“似ている”。


簡素な2段になっているパイプベッドが左右に置かれた、寝るためだけの部屋だ。

『メビウス』って、2100年くらいの近未来の話だったっけ。


その名の通り、“特殊部隊メビウス”の一員である主人公が、荒廃した架空の国の治安を維持する為にミッションをクリアしていく、アクションロールプレイングだ。


知りうる限り、ミッション前やイベント以外で、NPCが話かけてくることはなかった。


夢なのか…痛っ!

脇腹が痛む、打撲か?

骨は折れていないようだが。匂いも感じる。


金切り音が少しずつ収まっていく、それに比例するかのように頭の中に情報が入ってくる。


訓練、実戦、昨日の戦闘…たしかに記憶にある、ゲームじゃなくて自分が動いた記憶。


でも、これは“嘘の記憶”だ。


・・・アレか、明晰夢ってやつか!

今なら目の前にいる金髪美女を…『グヘヘヘ』できてしまう!


さぁ~て、どこから手を付けよう…胸、お尻?

いや、まずは腰に手を当てて引き寄せながら、顔を近づけて…キキキキッスゥ!!

その後でベッドインだ!


「だらしない顔してるわね、いやらしい夢でも見てたの?」


え、だってこれが夢じゃないですかぁ!

なんていい夢だ!いっただっきま~


『パァン』


金髪美女からのご褒美…ビンタだ。

痛みと衝撃が走り、視界がハッキリする。


「起きた?」

「ありがとうござ…いや、そうじゃなくて…」


なにせ、俺は日本人だしラウルなんて名前――――


え?


俺の本当の名前って、なんだっけ?


ついさっき…目を閉じたまま起きた時には覚えていたのに…


「さあ、準備して、オルセンが待ってる」


オルセンというのはゲームメビウスで指揮官の名前だ。

何が何だかわからない。

ゲームの世界に転生した?召喚された?


少なくともフルダイブのゲームなんて、今の時代では架空の産物。

アニメやラノベでしか見たことがない。


それに、これは俺が知っているゲーム『メビウス』の世界とはいえない。


このゲームは完全なソロかオンラインのマルチ協力プレイしかない、相棒となるNPCがいないゲーム。

ソフィアのようなキャラクターはいなかった。


俺は立ち上がって防具を見ると、目に文字が表示される。

キャラの眼に表示されるあたりはゲームと同じ。

装備によって能力の性質が変わるんだっけ。


「な、なあソフィア…さん?この目に映る表示って…」

「ステータスがどうかしたの?」


金髪美女がすかさず返す言葉、“ステータス”

ステータス?

なんというメタ発言だろう…ということは、これはゲームの中?


「じゃ、じゃあログアウトはどうすればいいかな?えーと、ゲームを終了したいんだ」


もしVRゲームプレイ中に寝落ちして、寝ぼけているせいであるなら、一旦ゲームを出よう。

VRのハードなんて使ったこと覚えがないけど。


「何言ってるの?これから武装した集団を相手に乗り込むのに、それを終了って…逃げたいってこと?」

「え?」


訳が分からない、“ステータス”という言葉は普通に出てくるのに、彼女の話し方、肌の質感、匂い…

まるで本物の人間だ。


「自分が今身につけている装備や体の状態はPVSがステータスとして表示するの、まさか忘れてないわよね?」

「あ、ああ。そうだった」

「昨日の活躍で浮かれているの?さあ、行くわよコードネーム“ラウル”」


コードネーム…

でも、俺はラウルなんて名前でもないし、日本人だ。

ソフィアについていく途中に鏡があった。


そうだ、ここでプレイヤーはキャラクターのアバターを変えることができる。


鏡を見るとツンツンな黒髪で、よくあるハキハキした青年みたいな目鼻立ちに180くらいの背丈の俺が作ったキャラだ。


「それでは、今後の任務の方針を説明する」


ソフィアの後をついていき、ブリーフィングルームに入ると剥げた中年の、歴戦の兵士って顔の男で『メビウス』で俺が一番嫌いだった男が立っていた。


 その男(ハゲ)の名前がオルセン。


彼を中心に、俺と同じ服を着た隊員が囲んでいた。


オルセンの説明は序盤に出てくる敵組織、“ジャッカル”の拠点を攻撃し市民の居住区にする為の作戦。


ゲームではチュートリアルだった。


説明を聞く限り、作戦行動はゲームと同じだが、これだけの人数がいれば楽だろう。


曖昧だったゲームの記憶が、今の状況に合わせたように俺の頭の中に入ってきた。


「この基地を占領していた“ジャッカル”は、イーストサイドの辺りを軸にエリアを支配している。奴等は小規模で荒くれ者の集団だが、だからこそ何をしでかすか――――」


オルセンの説明が続く中、俺は一番の疑問を考えていた。


 ―俺は誰だ?―


 ―本当の名前は?―


 ―どこでどんなふうに暮らしていた?―


 ―何歳なんだ?―




―1日目 09:00 部隊拠点-武器庫


自分の装備を確認する。


ゲームなだけあって、アイテムボックスに装備が収納されてる。

現実である分、便利なポケットのように何でも入るわけではないが、そこそこの広さだ。


持っていける武器の種類はゲームと変わりない。

メインウェポン2つにサブウェポンが1つ。


 【メイン武器】

 ・スナイパーライフル(SR)

 ・セミオートライフル(SAR)

 ・アサルトライフル(AR)

 ・ライトマシンガン(LMG)

 ・サブマシンガン(SMG)

 ・ショットガン(SG)

 【サブ武器】

  ・オートマチックハンドガン数種

  ・リボルバー数種


こういう武器は男の子心をくすぐられるな。


なんだか自然と意識がこの世界の、これから始まる任務に意識が集中してしまっている。


「あら、珍しいわね」


隣で装備を整えるソフィアが話しかけてくる。

どんな戦闘訓練も男の候補生よりも上だった…という記憶がなぜか入り込んできている。

現実じゃないのに、“そうなっている”。


そう、記憶がないといっても、すべてを忘れているわけじゃない。

あくまでも昨日までの、この世界ではない世界での自分のことに関して、記憶がないんだ


SMG(サブマシンガン)SAR(セミオートライフル)をよく使っていたのに」

「ああ、今回は汎用性を重視しようと思って…なあソフィア、このライフゲージが0になったら―」

「死ぬでしょ?PVSがそうならないように教えてくれるんだから」


何言ってるの?という顔でこちらを見てくる。

やはりそうか…。

このゲームの主人公は特殊部隊『メビウス』(ゲーム)の隊員で、主人公は特殊なコンタクトレンズを装備している。


ゲーム(『メビウス』)では、そのレンズに搭載されたナノテクノロジーで回復やレベルアップ時のステータスの割り振りを行う。


でも、それはあくまでも設定であって、TPSのアクションRPGである『メビウス』では、ステータスは装備を変える時に表示されていた。


「装着した人間の身体を常にスキャンして、危険かどうかを知らせてくれる。これが“プロヴィデンスシステム、通称PVSね。極秘の最先端技術だけど、これがあるだけで私達はかなり優位に立てるわ」


メビウスの隊員のみに支給される設定のシステム。

これでステータスやレベルが見えているなら、これは現実なのだろうか?


「ソフィア、昨日の戦闘で俺が負傷したのは脇腹だけか?頭を強打したとかは?」

「え?もしかして貴方…フフッ」


お、今日この金髪美人が笑ったのを初めてみたぞ。

今日のお目覚めテレビの占いは大吉だな、うん。

いやいや、そういうことじゃない!


「何笑ってるんだ、俺は真剣に聞いているんだ!」


冗談じゃない、これが現実なら今から死ぬ可能性だってある。

“本当の自分のこと”を思い出せないまま危険を犯せるのか!?


「私達が陽動を仕掛けている間、あなた、SR(スナイパーライフル)で敵を10人倒して制圧したのよ。

撃たれた脇腹は、他の隊員が仕留め損ねた敵が闇雲に

撃った、小口径のハンドガンが防弾プレートの上から一発当たっただけよ?」


「え?」


「それとも、いたいのいたいのとんでけ~って、してほしい?」


是非!じゃなくて…ゲーム(『メビウス』)ではチュートリアルで今いる拠点の基地奪還作戦(チュートリアル)はアサルトライフルを使っていた、スナイパーライフル?


「くっ…」


また耳元で慣らされたような、甲高い一瞬の金切り音…嫌な音だ。


「大丈夫?ラウル!」


金髪美女が不安そうに駆け寄ってくる。

倒れたりはしていないから、肩を貸したりはしてくれなさそうだ。


「だ、大丈夫だ。ガジェットを選びに行ってくる」

「しっかりしなさい、もうこれは訓練じゃないのよ!」


補給係の下でガジェットを選択する。

ガジェットはビット・シールド・ブースト・パルスの4つから1つを装備できる。


「ん?」


PVSの表示だ、UIの色は他と違うけど。

『―未開放のガジェット―』

『―未開放のスキル―』

『―????―』がいくつもある。


俺の知る限り、主なスキルは遮蔽物を乗り越える “スラッシャー”、

横回転で銃を撃つガンスキル “ローリングショット” 

この2つくらいだった。


他にもゲーム以外の仕様というか、技術や武器があるんだろうな。


「ソフィアは相変わらず、お前に厳しいな。」


悩んでいると、2mはあろう大柄の男が話しかけてくる。

なぜかこの男の名前も俺は知っている。


「マイク、昨日はすまなかったな、狙撃兵のお前を差し置いて俺がやるなんて」

「いや、集まった俺達新兵の中で一番優秀なお前が指揮を執るって全員で決めたんだ。それにいいスナイピングだった」


会話の時に都合よく、知識や親しい隊員のことが頭に流れてくるようだ。


そうだ、プレイヤー…ここにいる人達はNPCなのか?プレイヤーかもしれない。


「なあ、こんな過疎ゲーまだよくやってるよな、俺達。」

「カソ?過疎化ってことか?そりゃ本土決戦後なんだ、人口も減ったし正規軍もあってないようなもんだろ?」


マイクにゲーム用語が通じない、やっぱり駄目か。

少なくとも彼等の中ではこの世界はゲームではなくリアルなんだ。


「それよりソフィアだよ、お前と同期だろ?メビウスで招集された中じゃ一番のべっぴんだぜ。いいよな、あのケツ」


マイクの気持ちはわからないでもない。

ソフィアは美人でスタイルも抜群。

格闘戦の技術も高いが筋肉が膨張しているわけでもなく、体のラインはモデルのようだ。


しかし何故か、実物の美人が目の前にいるのに俺には魅力的に感じない。


「なあラウル、ジャッカルの奴等は生き残った無法者の集まりだろ?なんであんな武器を持っているんだ?」

「そりゃあいつらは―」


マイクに答えようとした瞬間、目の前がフラッシュする。話そうと思っていた次の言葉が変わる。


「マフィアの倉庫か警察署や軍の保管庫でも見つけたか、だろうな…」

「銃は持っていても素人、ジャッカルなんて大層な名前使っているけど、実戦経験の少ない俺達にとってはまだ楽な相手だぜ」


マイクはそう言うと、ガジェットを手にして去っていった。

俺も準備を終えると、基地の入り口前でソフィアが待っていた。


マイクに言おうと思ったこと…

それはゲームに出てくる主だった敵組織3チームを、壊滅に追い込むと出てくる最後の組織。


その最後の組織が裏でジャッカルに武器を卸していた、というものだった。


今この段階で、俺が口に出したら不自然すぎる。


「ねえ、今回の任務は私とコンビを組むのはわかってる?」

「ああ」


メビウスというゲームに、特別な思い入れがあるわけじゃない。

ただ銃が撃てるTPSがやりたかっただけなんだ。

エンドコンテンツもプレイ済みだが、そもそもアップデートも3年無く続編も発表されなかった。


何故、この世界なんだ…。


ゲームとどれだけの違いがあるかわからない。

未知数である部分が多すぎる。


考え込んでいると、スピーカーからブザー音と共に召集命令がオルセンの声で流れてきた。


俺にも…目の前にこの世界の文字で“召集命令”と表示されている。


「呼び出しだ、ラウルは?」

「俺もだ…」


マイクも呼び出されたのか、俺は“知っている”


今から2度目のチュートリアルミッションが開始される。

オルセンが呼び出したのは俺とソフィア、マイク、ニック、ジェシカの5人だった。


「近くにジャッカルの拠点があることがわかった。ここを制圧し、この基地にいる避難民の居住区にする」

「サイバーテック社…この規模の建物なら、なんとかなりそうね」


ソフィアは強気に言うが、少し不安そうだ。

設定が新兵なだけに、経験が少ないというのは不安と比例する。


「偵察ドローンの映像では、ここには見張りがいない。人数が少ないからか、ここが拠点だと気づかれたくないか―」

「素人だからかもな」


 オルセンの声を遮り、俺は言った。


「いずれにせよ隙だらけの拠点ということだ。ラウルとソフィアは正面入り口、マイクは大通りの側面、ニックとジェシカは裏口にそれぞれ爆薬を仕掛け、一度に同時爆破する。混乱に乗じて随時突撃、殲滅が今回の任務だ。」




 ―基地出入り口―


準備を整えた俺達5人は、集まって打ち合わせを終えた。メンバーは俺(コードネーム:ラウル)とソフィア、マイクにニックとジェシカだ。


「俺達5人の出来によって今後の作戦が決まる、戦争後の今こそ俺達メビウスの本来の役割だからな」


また勝手に、口がそれっぽいことを喋る。

ゲームじゃ主人公は一切ボイスが入っていないし、セリフもなかった。


「戦争やテロ対策にはあえて参加させず、本物の脅威が国を襲った後に再興を行うための秘匿(ひとく)部隊、それがメビウスの本来の仕事だから、よね・・」


ソフィアは真面目な顔で、“俺が話した言葉”に返して話す。

なんだか心地悪い、自分の意見でも本音でもないのに一丸となってしまっているような、この状況はなんだか気まずい。


「ああ、本当に戦争が起こり、俺たちメビウスが生き残っているとまでは思わなかったけどな」


勝手によく回る口だ。

でも確かに、自分でも意識して会話している。

ゲームと違うことも。

 

俺がプレイしていた『メビウス』(ゲーム)では、荒廃した理由はテロ攻撃に遭った後、政府も機能しない孤立無援の状態だった、ここに至る経緯が違う。


「いくぞ」


俺はいつの間にかPVSに表示されたマップを見る。


 ――“サイバーテック社 ミッション”――


 ――“ファストトラベルしますか?”――


表示が出た、ファストトラベルを視認し意識した。ゲームと同じなら、ジャッカルの拠点まで飛べるはずだ。


 ――“ファストトラベルを開始します”――


 一瞬のブラックアウトの後、周囲の景色が変わる。








第0章1


―憎い。

とにかく憎んでいた。

「人から騙される、この世ではよくあることだ」

高級スーツを着て、そんな言葉を投げかけられたところで…


「俺は…お前達とは違う」


悔しさに紛れて歩きながら呟いた言葉は、雨の音にかき消されていた。





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