第二話 甘えたがり
茉莉ちゃんも大学に行き、病院が開く時間になったので俺はカレンを病院に連れて行った。
診察を終え、薬の処方箋を貰いカレンにはミニバンの後部座席でリクライニングを倒しフルフラットになったシートで横になって休んでもらい、その間に薬を貰って来た。
「・・・。ゴホッゴホッ。」
「大丈夫か? ほら、咳止めのトローチがあるから舐めて。」
車に戻ってきた俺はカレンにトローチを渡す。
「ありがと、和樹。」
「いいさ、早く帰ってお腹に何か入れて薬を飲んで休もう。とにかく早く治すには薬を飲んで休むしかないからね。」
「そうね・・・。」
カレンは持ち込んだ毛布にくるまって苦しそうにしている。
熱もかなり高いのでインフルエンザを疑われたが結果は陰性だった。
ウチは人間が多いし、今が頑張りどきな子が多いからよかった。
それでも、熱が高いののには変わりがないので早く帰って解熱剤を飲ませたい。
俺は急いで帰って、カレンをリビングのソファに横たえる。
「今、茉莉ちゃんが作ってくれたお粥を持ってくる。少しでいいから食べられるかい?」
「ほんの少し・・・。ぬるいのなら。」
「わかった。」
俺は茉莉ちゃんが冷蔵庫に作り置いてくれたお粥の鍋を軽めに火にかけてぬるく温めて、カレンに持っていく。
「一人で食べられる?」
「・・・ううん。あ~ん。」
カレンが毛布にくるまりながら苦しそうに口を開けてくる。
そこから覗く咽頭は赤く腫れあがっている。確かに食べたくても食べにくいな。
そう思いながら柔らかめに作られたお粥を匙で口に運ぶ。
「どう?」
「ふ~ふ~して。」
「すまないな。次からは少し冷ますよ。」
俺は次の匙からは少し息を掛けて冷ましてから口に運ぶ。
しかし、数回運んだところでカレンは口を閉じてもういいと頭を振った。
「じゃあ、薬を飲もう。飲んだらベッドで休もうか。二階に上がれるか?」
「ううん、まだフラフラする。出来れば和樹のベッドで休ませて・・・。」
「ああ、お安い御用さ。」
俺はスポーツドリンクが入ったストロー式の水筒をカレンに渡し、薬を飲んでもらう。
そして俺の部屋のベッドに連れて行こうとしてカレンに肩を貸そうとすると・・・。
「ヤダ。お姫様抱っこがいいわ。」
カレンが顔を赤くして言ってきた。
おや? 少し悪化したか?
「大丈夫か? カレン。顔が少し赤くなってるぞ?」
「・・・バカ。鈍感。早く休ませなさい・・・。」
うん、なんだか怒られたが、とにかく早く連れて行こう。
これ以上悪化したら大変だからね。
俺はカレンを朝と同じようにお姫様抱っこしてベッドまで連れて行く。
朝とは違い俺の首に手をまわし体を強く密着させてくる。
よっぽど寒いのかな?
物凄く熱があるようで体も熱いし・・・。
カレンは俺の胸に頭を押し付けて荒い息をしている。
漸くベッドに横たえて布団を掛けてあげる。
ボウっとして、顔を真っ赤にしたカレンに声を掛ける。
「それじゃあ、俺はあっちに行くけど、何かあったら内線で呼んでくれ。」
そう言って電話の子機を枕元に置いて出て行こうとする。
だが、カレンは俺の手を掴んできた。
「お願い・・・。行かないで。心細いから、傍にいて欲しいの・・・。」
潤んだ瞳で俺を見つめ、息も絶え絶えに懇願されては俺も心配だ。
「わかった。カレンが眠るまで傍にいるよ。」
「・・・。出来れば、ずっとそばにいて欲しいわ・・・。ごめんなさい、無理を言って。忘れてちょうだい。」
「いいよ。出来るだけ傍にいるよ。」
「・・・ありがとう。なんだかみんなに悪いわね。」
「?」
「いいの。ゴホッゴホッ。こっちのことだから。」
「もう、喋るのは止めにしておこう。」
「うん。」
俺はカレンの横に腰を下ろして、カレンが眠りについた後もいのり君が帰って来るまで傍にいた。
「ただいま! 大木さん、カレンは大丈夫?」
いのり君が実家から学校に通い、帰宅して俺の部屋に駆け込んできた。
カレンが眠ってから、いのり君に連絡をして必要な物の買い出しをお願いしていたのだ。
そのため、彼女の手には冷却シートやスポーツドリンクが握られていた。
「ああ、まだせき込んでいる時はあるけど、薬で落ち着いてきているようだよ。」
「よかった。カレンもすごい汗をかいているようだし、良くなってきていると思うヨ。」
「だな。ごめんな。帰りに重たい買い物をお願いして。歩きだと大変だったろ?」
「なんのなんの! 料理人も体が資本だからね。体力には自信があるよ。」
そう言って、いのり君は力こぶをつくって見せる。
「ははは!」
「う、う~ん。いのりじゃない。お帰り・・・。」
「あ、ゴメン。起こしちゃったか。」
「ただいま、カレン。大丈夫?」
「ええ、薬を飲んで、休んだら少し楽になったわ。」
髪が汗で顔に張り付いたカレンはそれに構わずに身を起こし、いのり君に挨拶をする。
「そう? 取り敢えず検温してみようヨ。」
いのり君に促され体温計で熱を測るカレン。しかし熱は未だに高いままだ。
「・・・。高いわね。」
「まあ、薬で楽になっただけだろう。今日はこのまま俺の部屋で眠るといい。
俺は隣の和室で休むし。」
「そうだね! じゃあ、汗をきれいにしないと。
カレン、着替えを持って来ていい?」
「ええ、お願いするわ。」
「わかった。あと体を拭く準備をして持ってくるし、少し待ってて。」
いのり君は荷物を持って、部屋を出て行った。
女の子同士だと、気が付くところが違うな。
「ごめんなさいね。和樹。なんだか今日は甘えてしまって。」
「いいさ。こういう時は思いっきり甘えてくれて。誰だってしんどい時や辛い時は人恋しいものだろ?」
「そうね。そういう事にしておくわ。」
カレンは再び俺の手を握り、体を横たえる。
「・・・。今日一番の甘えはここで休めることかしら。役得と思ってゆっくり休ませてもらうわ。」
「ああ、そうしてくれ。」
しばらくしていのり君が準備をして戻って来て、今から体を拭くから出て行けと追い出されてしまった。
それからカレンといのり君は何やら話し込みながら体を拭いていたようだった。
「大木さんお待たせ、カレンは寝ちゃったし。夕ごはんを作るね。カレンのお粥って残っているの?」
俺の部屋からいのり君が出て来て、夕ごはんの相談をしてくる。
「いや、茉莉ちゃんの作ってくれた白粥がまだあるよ。」
「うん、なら卵粥にして持っていくね。大木さんは何が食べたい?
今日のご褒美に好きなものを作っちゃうゾ!」
「なら、和食でお願いするよ。カレンが元気になった時に食べやすい物があった方がいいだろ?」
「もう、ほんと大木さんは優しいんだから・・・。
わかったよ。ちょうどお父さんから煮物の作り方を教えてもらったし期待していてね。」
こうしていのり君は調理を始めた。
翌日、カレンは熱もかなり下がり、明後日には元気に元通りになった。
しかし、これが我が家の風邪の大流行の始まりだとは露にも思わなかった。
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