第三話 不意打ち
カレンが風邪から回復した週の週末、夜ダイニングでいのり君とお酒を飲みながら寛いで居る。
ルイジのバイトから帰って来て晩酌をしていた。
「いや~。ほんと最近は夢みたいな幸せな生活だよ。」
乾杯をしてビールを一気飲みして、いのり君が口を開く。
「そうなのかい?」
「うん、ルイジでは里奈さんが妊娠しているでしょ?
で、お父さんと啓介さんの新しいお店もできて、わたしをメインの料理人にするんだってお父さんがとても張り切っているし、それに人員不足をお父さんが今までのお礼だって言って自分のお店のスタッフを回してくれて人員不足も解消されたしね。
わたしもお父さんとお母さんと一緒に暮らせるようになっていっぱい甘えていられるし、この間なんて生まれてはじめてお小遣いを貰っちゃたヨ。もうびっくりだよ。」
「ちなみにジャンさんからはいくらもらったんだ?」
「100万。」
「・・・。」
「でしょ? わたしもドン引きだよ?
お父さんが、ウチの生活レベルだと一月分はこれくらいだって言って札束を渡してくるしさ。
お母さんは使わない分は貯金して好きなことに使えばいいって。
それに今まで苦労を掛けた分、私達が思いっきり甘やかすんだって言ってね・・・。
受け取るしかなかったよ。」
「で、結局どうしたんだい?」
「モチのロンで、即行使ったよ。
半分は施設に寄付して、残りは施設の兄弟たちの貯金にって西岡先生に送ったの。
先生がそんなことするなって言っていたけど、やっぱりあそこはわたしの家でみんな家族なんだ。
わたしだけ幸せなんて、絶対に嫌。みんなで幸せになるんだ!」
「そうか。いい使い方じゃないか。」
「でしょ? でもさ、お父さんとお母さんと施設にお礼を言いに行った時にお父さんがかなりの金額を寄付してくれていたみたいで、先生がこれ以上お金が増えると金銭感覚がおかしくなるからこれが最初で最後だって約束させられちゃったよ。
なんとか、寄付以外でということで兄弟分の貯金として渡すことを納得してもらったんだ。
やっぱり、施設を出た時に先立つものがないとしんどいからね。」
超絶お金持ちのご令嬢になってもいのり君は変わらない。そんなところが好ましい。
彼女の明るさやストイックさ、家族愛は偉大だと思う。
「本当にいのり君はすごいな。尊敬するよ・・・。」
「えへへ・・・。」
そんなことを言いながらお酒を飲んでいると・・・。
バタン!!
「お姉ちゃん!!」
二階から大きな音と楓ちゃんの悲鳴が聞こえてきた。茉莉ちゃんに何かあったようだ。
俺といのり君は走って二階へ駆け上がる。
そこには洗濯籠を落とし横に倒れている茉莉ちゃんと、そこに駆けつけた楓ちゃんがいた。
「和にーちゃん、お姉ちゃんすごい熱。」
楓ちゃんが茉莉ちゃんの額に手を当てて言う。
確かに茉莉ちゃんの顔が赤く、息が荒い。
「大丈夫!? 茉莉ちゃん!!」
いのり君が駆け寄って助け起こす。
「・・・。あ、いのりちゃん・・・。ごめん。ちょっとふらついただけだから・・・。」
「お姉ちゃん!! 全然大丈夫じゃない!」
「そうだよ、とにかく部屋のベッドで横になろう。」
俺は茉莉ちゃんをお姫様抱っこして茉莉ちゃんの部屋に連れて行きベッドに横たえる。
楓ちゃんが下から体温計を、いのり君が氷枕を持って来てくれる。
「40度・・・。」
楓ちゃんが体温を測り驚愕している。
確かに直ぐに病院へ連れて行った方がいいな。
しかし、困ったな。俺といのり君はお酒を飲んでしまっている。
「大木さん、タクシーを捕まえるよりカレンに帰ってきてもらった方がいいよ。
今日は山田さんとトレーニングの日のはずだから。」
「そうか。聞いてみてくれるかい? ダメなら、タクシーか救急車を呼んで直ぐに救急病院に行こう。」
「みんな・・・。ごめんね・・・。」
茉莉ちゃんがみんなに謝ってくる。お酒を飲んで動けない俺が謝るべきなのに、クソっ!
「謝らなくていい、すぐに病院に行くから!」
「大木さん、カレンが直ぐに帰って来るって!
わたしはミニバンのリクライニングを倒したりして車の準備をしてくるね!
楓ちゃん! 茉莉ちゃんの保険証とかを用意してくれるかな。
大木さんは茉莉ちゃんについていてあげて!」
いのり君が指示を出し、楓ちゃんと急いで下に駆け下りていく。
「茉莉ちゃん、ゴメン!!
俺がお酒を飲んでいるせいで、すぐに病院に連れて行ってあげられなくて!」
俺は茉莉ちゃんの手を握りしめ、涙を流す。
「・・・。和にい、気にしないで。私の体調管理が甘かったんだよ・・・。」
「そんなことない! 風邪は誰だって引くんだ。でも・・・、こんなには・・・。」
「大丈夫だよ・・・。多分、疲れていただけだから・・・。」
「でも、茉莉ちゃんに何かあったら・・・!」
「大丈夫。亜咲ねえもそう言っていたでしょ?」
「・・・。」
「ね? だから大丈夫。」
しばらくそうしていると、カレンが駆け込んできた。
「帰ったわ! 直ぐに病院へ行くわ。和樹、茉莉をお願い!」
「ああ。」
俺は再び茉莉ちゃんを毛布にくるんでお姫様抱っこして足早にミニバンに乗る。
カレンが運転して俺と茉莉ちゃんを病院へ連れて行ってくれる。
「ごめんなさい、茉莉・・・。私の風邪を移してしまったわ・・・。」
「ううん、気にしないで・・・。」
「でも・・・。」
「いいの。和にいもいっていたよ? 風邪は誰だってひくもんだって。
だから、気にしないで。」
そうしているうちに病院に着く。
あらかじめ楓ちゃんが連絡をしていてくれていたようで、スムーズに診察をしてもらい、強いウイルス性の風邪だろうから抗生物質と栄養剤の点滴をしてもらった。
大事じゃなくてよかったが、数日は熱が下がらないので安静にしておくようにとのことだった。
点滴が終わったら深夜を回っており、カレンが逐一報告をして家に残った二人には遅くなるから早く眠っているようにと伝えていたようだった。
そのため、二階に茉莉ちゃんを連れて行くことは憚られたので、俺の部屋のベッドで休んでもらうことにした。
「和樹、後はお願いできるかしら?
私も明日の朝一に講義があるの。百合子には茉莉のことは連絡してあるから大学は気にしなくていいって伝えておいて。
あと私の時のように優しくしてあげなさい。
それに夜、眠っている時は部屋に入らないであげて。
多分、私もだけど和樹のベッドで眠るときにはしんどくても一人でいたい時もあるのよ。」
そう言ってカレンは二階へ上がっていった。
俺は意味が解らなかったが、顔を赤くする茉莉ちゃんをベッドに横たえ、眠るまで手を繋いであげていた。
「大事じゃなくてよかったよ。」
「うん、ごめんね和にい。」
「気にしなくていいよ。日頃頑張っているんだ。こういう時は素直に甘えて、ゆっくり休んでね。」
「うん・・・。和にいの手、温かいね。」
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