第十二話 親子
藤堂刑事の音頭で部屋に入ってきたのは俺と啓介、多分里奈と綾瀬君もだろうが予想していた通りの人物だった。
そう、ジャン・ピエール・クーその人だ。
そしてその隣には綾瀬君に似た中年の髪が長い女性がいる。
「ご紹介します。いのりさんのご両親のジャン・ピエール・クー・高千穂さんと、高千穂 みのりさんです。」
そう言って綾瀬君に二人を紹介する。
みんな涙を流している。特に三人はまともに立っていられない位嗚咽して泣いている。
「・・・お父さん、お母さん?」
「はい、その通りだよ。ごめんね。何も知らなくて・・・。知っていたらこんなことにはならなかったのに・・・。
知ってからも名乗れなくて本当にすまない、すまない・・・。」
ジャンさんが応じる。そして隣にいた女性、みのりさんも。
「いのり・・・。ごめんなさい。本当につらい思いをさせて・・・。ごめんなさい・・・。」
「ううん。そんなことない!そんなことなんてないよっ!!
・・・・う、うわぁあああ!!」
そう言って綾瀬君は二人に飛び込んでいく。
本当の親子なのに、今やっとまともに抱きしめあうことが、会うことが出来たんだ。
三人はがっしりと抱き合って声を上げて泣きじゃくる。
そしてこの空間にいる誰しもが涙を流し拍手していた。
そして落ち着いてからジャンさんとみのりさんは俺たちに向き合い土下座した。
「今まで大変ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。事情があったとはいえ娘を大切に皆さんに守り育てていただいた御恩は一生を掛けても感謝し償いきれるものではございません。すべての責任は私が不甲斐ないばかりに・・・。妻と娘を守れなかった私にあります。一切の責めは私にあります。」
「この人は何も知りませんでした。いのりを人知れず産み育てようとして、無理だと悟り施設に置き去りにした私がすべて悪いのです。決して許されることではありません。いかようにも責めは受けます。
本当に申し訳ございませんでした。」
二人とも床に頭を押し付けて泣きながらに言う。
「ジャンさ、お、お父さん、お母さん!! やめて! みんなわかってくれているよ!」
「いいや、いのり。これは君の不甲斐ない最低な両親としてつけなければならないけじめなんだ!」
「そうよ・・・。貴女だってこれまで辛かったでしょう・・・。私達に対して恨みつらみがあったでしょうに、全部言ってくれていいのよ。すべて私が悪いんだから・・・。」
「そりゃあ、小さい時にはいっぱいあったよ! でも、そんなことより! 生きて今会えたことが! わたしを愛してくれていたんだってわかったからいいんだよぉ・・・。」
綾瀬君は二人を抱きしめながら泣き崩れる。
西岡さんが両親の傍に行き話しかける。
「みのりさん、あなたがいのりを置いて行かれた施設の責任者の西岡です。
私は迷惑だなんてちっとも思っていませんよ。だってこんなにかわいくていい子です。可愛くないわけがありません。それに置いて行かれた状況から切羽詰まった状況で、何らかの事情があることはわかっていましたし、お手紙からあなたの人柄がにじみ出ていましたからね。当時はあの事件などで物騒でしたから。
まあ、まさか中心にいる子だとは思いもよりませんでしたけど。
常々、いのりは貴女たちが事情があって愛していたのに手放したんだ。捨てられたんじゃないって言っていましたから。自信を持ってください。」
「ああ、すいません・・・。すいません・・・。ありがとうございます、ありがとうございます・・・。」
みのりさんと綾瀬君は西岡さんに抱き着いて泣き続ける。
そんな二人をジャンさんが優しく抱きしめている。
そうしていると茉莉ちゃんと楓ちゃん、カレンが俺に肩を寄せてきたのでそっと方に手をまわし抱き寄せた。
「よかったね、和にい。」
「ああ。」
「親がいてくれることは本当に幸せ。」
「私はまだ親が健在だけど、恋しくなっちゃうわね・・・。」
ちなみに里奈と啓介は抱き合いながら涙を流し続けていた。まあ、綾瀬君と一番付き合いが西岡さんを除けば長いからな。
落ち着いてから、二人と藤堂刑事から事情を教えてもらった。
当時、日本料理の武者修行に来ていたジャンさんは高千穂家の経営する旅館の板場で修行をしていて、次期女将として修業を積んでいたみのりさんと出会い恋をしたそうだ。
しかし、金子が所属していた反社会的な組織のトップが高千穂家の所有する国宝級の茶碗を欲し、あの手この手で没落させたとのことだ。
みのりさんの両親、綾瀬君の祖父母は殺害され、親類縁者も悉く破滅させられたり、離散させられたらしい。
そんな中、ジャンさんも身の危険が迫っているということでみのりさんを連れて国に帰ろうとしたが叶わずに離れ離れになってしまったそうだ。
その時にはジャンさんは知らなかったが、みのりさんのお腹の中には綾瀬君がいて、みのりさんは逃亡しながら綾瀬君を一人で出産し、育てることが出来ないと悟ってジャンさんが渡していたお金を添えて西岡さんの施設に置いていったそうだ。
その後、みのりさんは藤堂刑事たち警察の人に保護され、公安の管理下で公安、警察などの山奥の保養施設や研修施設を転々としながら働いていたそうだった。まあ、当然ガードが固いので金子たちは消息を掴めずにいたわけだ。
そして今日、トップの死刑判決が確定し晴れて自由の身になったとのことだった。
で、ここからが重要なのだが藤堂刑事は綾瀬君の存在を知り、みのりさんとの関係が確定してから、ジャンさん、みのりさんに秘密裏に接触をし二人を再会させて説き伏せて綾瀬君のため、というか二人のために結婚を勧め、事情があったことも考慮して戸籍などを裁判所などに掛け合って本来のあるべきものになるように尽力していてくれたらしい。
二人も綾瀬君の存在を知り、最初は自分たちが名乗り出ることはできない、結婚できないと言っていたが藤堂刑事に大層怒られて、念願の結婚を成し綾瀬君の戸籍を元に戻す状態まで持ってこれたらしい。
あとは綾瀬君が裁判所の作った書類にサインをすれば晴れて公私ともに親子と名乗れるようになっている。
本当に人のいい、お茶目な刑事さんだ。
本人はこれで昇進の目が潰れましたけど、こっちの方が気持ちがいいじゃないですかと大笑いしていた。
そして、綾瀬君は・・・。
「いいのよ。いのり、私のことは気しなくて。むしろサインしてくれた方がうれしいわ。」
「・・・うん。先生。わかっている。
でもね、先生たちに・・・。じいちゃんばあちゃんに良くしてもらったことが思い出されてね。でも、じいちゃんばあちゃんも喜んでくれるよ。
だから、サインするね。」
声を掛けてくれた西岡さんに応え、藤堂刑事が用意してくれた書類にサインをする。
「はい、確かに。これを私が裁判所に提出すれば受諾されますが、この時点を持って効力は発生します。綾瀬 いのりさんは本来のお名前、高千穂 いのりさんに戻ります。
いままで大変なご苦労を掛け、申し訳ありませんでした。」
みんなが拍手をし、両親と西岡さんに抱きしめられる綾瀬君、いや、高千穂君か・・・。
うん、今までの付き合いがあるから違和感しかないな・・・。
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