第七話 絡まり始める糸
俺の運転する車で綾瀬君と霞ヶ関にある警視庁に向かった。
以前、綾瀬君の里帰りに付いて行った時に会った刑事さんから連絡があって、急ぎ来てほしいとのことだった。
余程、急ぎの内容なのだろう。
警視庁の駐車場に着き、綾瀬君に連絡をくれた藤堂刑事に取り次いでもらい、駐車して応接室みたいな部屋に通された。
そこには藤堂刑事が既に待っていた。
「急にすみません。」
「お久しぶりです。刑事さん。
何か進展があったんですか?」
身を乗り出して質問を返す綾瀬君。
「ええ、そのことも含めてお話します。
まずは、座って落ち着いてから話をしましょう。」
促されてテーブルにつき、お茶を淹れてもらう。
「で、ですね。単刀直入に言います。
見つかりました、ご親類は。ですが、誰かとはまだ言えません。
どうしても保安上の点でお話しすることが出来ません。
ただいま最高裁で争われている裁判の判決が出ます。その時にはお会いいただけます。
これは必ずお約束します。」
綾瀬君は息を呑んで、眼に涙を溜めていた。
「私が今日こちらに来たのは、その事件と綾瀬さんの戸籍とかをどう扱うかもあります。
ここからが重要なのですが、綾瀬さんの出生にはとても大きな事件、組織が関わっているのです。
綾瀬さんや親類はその事件、組織の被害者なのです。
現在、件の裁判はその組織のトップの死刑判決を争っていて、このままいけばトップは死刑なんですが、確定したらその配下の過激な武闘派が何をし出すかわからないのですよ。
あちらからすれば綾瀬さんやその親類は目の敵なんですよ。
ですので、しばらくの間は行動を出来るだけ控えていただければと思います。
もちろんこのことを公にすることは絶対にしないでください。
また、自宅周辺のパトロールを増やすことになります。」
「学校と仕事以外は大人しくします。」
「しばらくの我慢をお願いします。もう少しだけ、辛抱してください。」
藤堂刑事の話す裁判については俺も知っている。昨今の新聞やメディアを騒がせている話だ。
国内最大の反社会組織のトップの死刑が確定するかどうか。そしてこれまでに警察や公安が幾度となく撲滅作戦を繰り広げてきているのに対し組織はゲリラ的な報復行動を行っている様相を呈しているということも。
俺は今の話の件に関わるような話が最近あったことを思い出していた。
確か山田さんを騙していた奴がその組織と関わりがあるらしいということを。
「あの、藤堂刑事。ひとついいですか?」
「はい、なんでしょう。」
「最近。私達の新規事業でお店を出すんですが、その店のインストラクターに雇用した子がたしかその組織の人間に執着されているって聞いて用心して欲しいと言われたんですよ。」
「それは。もしかして山田 由紀恵のことですか?」
「え、はい。ご存知で?」
「ええ、彼女は赤ん坊の頃から知っています。
もしかして明美の働いている会社の方で?」
? 明美ちゃんのことも知っているようだ。
なんだか話がややこしくなってきたな。
「ええ、彼女なら私が顧問をしている会社におります。
まさか、明美ちゃんの知り合いだったとは。」
「いやはや、由紀恵の件ではお世話になってありがとうございます。
あの件に関して、中洲を出て東京で仕事をしている明美を頼ったのは私なんです。
彼女は昔から要領よくこういったトラブルなどをうまく回避してきてくれていましたから。
それに私や明美は彼女の母には世話になっていましてね。
安全かつ真っ当な仕事を紹介してやって欲しいと頼み込んだんですよ。
奇妙なご縁もあるものですね。
ですが、厄介になりましたね。
由紀恵と綾瀬さんの件、しっかりと警護しないといけなくなりそうですね。
たぶん由紀恵の件のヤツは綾瀬さんの件に関しても中心的な関与が疑われているんですよ。
ただ、警察も証拠や自供が無ければ動けなくて。
かなり強かで危ない人物なんです。
少々お待ちください。こちらの担当の者を呼んできます。」
そう言って、慌てて藤堂刑事が部屋を出て行った。
「大木さん・・・。」
綾瀬君が目を潤ませて見つめてくる。
「よかったじゃないか。身寄りが見つかって。」
「うん、でも怖いよ。真実を知るのが。
それに何やらみんなに迷惑をかけてしまいそうで。」
「気にするな。みんな大丈夫さ。
あれだけの話だキチンと警察も守ってくれるよ。
それに、俺も綾瀬君を守るよ。」
「うん、お願い。大木さんにそう言ってもらえるのが一番うれしいヨ・・・。」
目に溜めた涙を拭って笑顔を見せる綾瀬君に俺も笑顔を返す。
しかし、困ったなこれは。帰ったら親父さんと常見に明美ちゃんと対策を練らないとな。
俺も綾瀬君にはああいったが、流石に腕っぷしは人並だ。
親父さんや常見のように武道の有段者で日ごろから鉄火場に慣れているってわけじゃない。
何かあったら遅いから、山田さんも含めて問題が起きないように考えていかないとね。
しばらくして担当の人を連れた藤堂刑事が戻って来て、いろいろ話をしてもらった。
ここまでくると俺も巻き込まれた関係者になってしまったようだ。
それに、驚かれてはいたが綾瀬君のほかに未成年の女の子が何人も住んでいるということで、より密に警備をする必要があること、山田さんを巡って怪しい動きがあるので判決が確定するまで藤堂刑事と担当の人がこっそり張り込んでいてくれることになった。
二人はこれをきっかけにそいつを逮捕してしまいたいとのことだった。
そして、その流れで綾瀬君の本当の家族が離れ離れになった事件についても教えてもらった。
綾瀬君の本当の実家は九州でも有数の温泉旅館だったので様々な芸術品を収蔵していたらしい。
現在、裁判で争っている死刑囚のトップはそういったものに傾倒していて綾瀬君の本当の実家が所蔵していた国宝級の茶碗を欲しがり、ありとあらゆる手を使って手に入れようとしたが拒否されて反社会的な方法で没落させようとしたらしい。
その中で山田さんを狙っている奴が主導して、経済的に困窮させて借金漬けにして没落させたらしいとのことだ。
そいつのしのぎは経済的なゆすり、たかりに加えて、グレーゾーンの非合法ビジネスなど多岐にわたるが証拠がないため毎度無罪放免になっているとのことだった。しかも奴はこの一件で取り立てられて組織の金庫番のような役割を負っているらしい。
で、結局没落させて数々の銘品を手に入れることはできたが肝心の茶碗は手に入れることが出来ず、綾瀬君の本当の家族や一族は離散してしまったり、奴らに捕まって消息を絶った人もいるらしい。
綾瀬君はこの話を手から血が出るほどの強さで握りしめ、必死に涙を堪えながら聞いていた。唇だって強く噛みしめすぎて真っ青だ。
「という事なんです。これは綾瀬さんが成人していらっしゃることと、関係者と確定したからお話させてもらいました。
申し訳ありません。突然こんな重苦しいお話になってしまって・・・。
貴女は間違いなく危機的状況の中、ご家族が最善の方法で命を助けられたのだとは断言できます。」
「いえ・・・。ありがとうございます。
わたしは家族のことならなんでも知りたかったです。やっぱり、わたし要らなくて捨てられた子じゃなかったんだ・・・。」
涙を滝のように流している。
「・・・。私もこの件に関しては当時からずっと関わっています。
綾瀬さんの本当のご家族ともかなり面識もあります。ですから私も綾瀬さんが見つかって本当に良かったと思っています。
しかし、綾瀬さんのように救いのあった人、なかった人もたくさん見てきました。
そして由紀恵も間違いなく私や母親が綾瀬さんの本当のご家族と親交があったから狙われていたんだと思います。本当に最低な奴らだ・・・。
ですが、綾瀬さんと由紀恵のお陰でヤツの尻尾がつかめそうです。ヤツさえ確保してしまえば組織の重要な資金源をつぶして、今度こそ壊滅させることが出来ます。
もう少し、もう少しだけ我慢してください!!
貴方の人生を、家族を踏みにじった奴らを必ず捕まえて見せます!」
そう言って藤堂刑事と担当の人は頭を深く下げてきた。
綾瀬君も涙を流しながら頭を膝に着けるくらいまで体を折って応じていた。
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