第八話 協定締結
「そうね。まずは言いだしっぺの私から話をしましょう。
私は和樹が好きよ。もちろん一人の男性として。
でも、好きになってはいけないっていうのもわかっているわ。
奥さんを、亜咲さんを今でも愛している。そこに私が入り込んではならないって言うのも。」
「・・・わたしも。わたしも大木さんが好き。カレンと思っていることは同じかな。
頭ではわかっている・・・。でもね。大木さんといると、二人でいるとそんなことが不思議と頭の中から消えちゃって、どうしようもなくなるんだよ。」
「カレン、いのりん・・・。私も同じ。
和にーちゃんのことは子供の頃からずーっと好き。亜咲ねーちゃんのことも同じ位に大好き。
でも、やっぱり私の和にーちゃんへの好きは亜咲ねーちゃんやみんなと同じだと思う。
子供の頃は何にも考えなかった。でも、いま大きくなって、男の人っていう目で見ると目が離せなくなる。
お姉ちゃんは?」
「私は・・・。私は。和にいのことが好き。みんなと一緒で一人の男性としての好きだよ・・・。
子供の頃からずっと憧れていた。でも傍にはもう一人の憧れの人がもうすでにいたの・・・。
私は見ているだけでよかった。一緒にいるだけで幸せだったの・・・。
だけど!亜咲ねえが亡くなったのを知ってもしかしたらって思う自分が嫌・・・。」
私達はみんなわかっていたんだ。
みんなが同じ男性を好きになっていることを。
今まではそのことを敢えて聞かない、気付かないフリをしていただけ。
でも、口に出してしまえばもう止められない・・・。
自分に嘘をついて笑顔を振りまくことはいくらでもできる、その代わり心が軋んで壊れていく。
みんな同じだろう。いつか限界が来て破綻してしまうこともわかっているはず。
だからカレンさんは今日、最後に聞いてきたんだろう。
このままの私達ではいけないから。
私達がまた和にいから幸せを奪い去ってしまうのが嫌だから。
これから先、どう和にいに向き合っていくべきかを・・・。
私達、みんな涙を流している。
和にいへの張り裂けそうな気持ちを口にして共有したからこそ溢れた気持ちにフタなんて出来るわけがなかった。
手が届きそうで、届かない。
和にいが私達に鈍感なのは、今もずっと亜咲ねえがいるから。私達をそういう風には見れない、考えられないのは最初からわかっている。
でも、私達はあるかないかわからない一抹の希望に縋っているんだ。
私達には眩しすぎる希望に。
「・・・さあ、みんな涙を拭きましょう。明日に泣き腫らした目をしているのはいけないわ。」
「でも、カレンだって、涙が止まってないよ・・・。」
「いのりん、ティッシュあげる。」
「うん・・・。ありがと。」
「私も泣き止まなきゃ。でも・・・止められないよぅ。」
声をあげてみんなで抱きしめあって泣いた。
和にいのこんなところが好きだとか、こんなことをされてうれしかったって泣きながらお話した。
みんなやっぱり和にいの人としての大きさが好きなんだ。
全てを優しく包み込んで、手を差し伸べて助けてくれるところが。
普通、こんな話同じ人を好きになった女の子同士ではしない。
でも、そういう人を好きになってしまう私たちもやっぱり似ているんだろう。
恋敵だってわかっていても互いに受け入れてしまうところが。
みんなが大好きだから、大切だから・・・。
しばらくして、いのりちゃんが口を開く。
「ねえ、みんな。わたしから提案。」
「なに?いのり。」
「あのね。みんな大木さんが好きでしょ。
だったら、この際恨みっこなしで、みんながみんなの恋を応援しあえばいいんだと思うんだよ。」
「いのりん、どういうこと?」
「大木さんが振り向いてくれるかなんてわからない。もし振り向いてくれた人がこの中にいたなら、わたしは心から祝福できるよ。だってみんな同じ位大切な人だもん。」
「そうね。そのとおりね。」
「だからさ、みんなで大木さんに今まで以上に素直になってしまえばいいじゃん。
もちろん抜け駆けはなし。ズルもしない。きちんと何があったかを報告する。
その代わり、わたし達みんなが協力し合うの。
この間のデートだってそうだったでしょ?
いがみ合うより協力してもっと思い出を作る方が絶対、いい。
結果、大木さんが誰か一人を選ぼうが、亜咲さんしかいないって思い知らされえても悔いが残らないようにだけはしようよ。
みんなで大木さんと楽しい思い出をつくりたい。二人っきりの時は思いっきり甘える。
この先、大木さんが決断するその時まで私たちは全力で大木さんに恋をするんだ。」
「あははっ!いのりちゃん!!それいいっ!それいいよ。
私、賛成。
なんだか少女漫画の恋愛協定とか同盟みたいだね。」
「お姉ちゃん、ここは笑うところじゃない。」
楓ちゃんがツッコミを入れてくるけど、構わない。
だって、本当にいい話だって私には思えた。みんなが大好きなんだ。
たとえ同じ人が好きになっても、みんなの恋は応援したい。
そりゃ、独り占めしたい、先に進みたいっていう思いはある。
建前で抜け駆けしないって言っても、もしその時になったら本音では我慢できないのもわかっている。
でも、だからこそ必要なんだ。
私達が正々堂々と戦える、協力し合えるルールが。
「なら、ここからは前を向いていきましょう。
言い方が悪いかもしれないけど、和樹が選ぶその時まで私たちは和樹をシェアするの。
それでいて他の女が入り込めないように。
いい?あくまでも最後に決める、選ぶのは和樹。これが絶対のルールよ。」
「それでいい、カレン。
私達から告白するのは無し。その場の雰囲気には流されないよう、努力する。」
「なら、こういうのはどう?
メッセに報告しあって、いいなって思ったことはシェアするの。」
「いのりちゃんどういうこと?」
「たとえばさ。前に温泉に行ったでしょ?
バラされた時に気まずい思いしたけど、とっても幸せだったからね。
一人だけ抜け駆けするのは良くないからね。」
「? 一体、何の話?
私にはわからないけど、教えて?」
「あ、その、ですね・・・。なんというか、これは・・・。」
「はぁ・・・。いのりん最後の詰めが甘い・・・。」
「あはは・・・。でも楓ちゃん、こういう話になったんだからカレンさんにもキチンと話さないとフェアじゃないよ。」
「そうだね。お姉ちゃん。」
「で、何なの? 茉莉。」
「ごめんなさい! カレンさん。
カレンさんが来日する前だったんだけど、私と楓ちゃん、いのりちゃんが和にいと一緒に温泉に入っていたの。
偶然と故意とかがあったと思うけど、いかがわしいことなしで入ってました。」
「・・・たしかにそれはズルいわね。私がいなかった時のことでノーカンって言ったら、それまでだけど・・・。」
「もうこの際、みんな同じだよ!デートもなんだかんだカレンがお膳立てしてくれたようなものだしね!
茉莉ちゃん、楓ちゃん!
ここはひとつ一回だけカレンが大木さんとお風呂に入るのを手伝ってあげよう!」
「いのりんが自爆しなければ、良かっただけじゃない?」
「そうね。でも聞いてしまったからね・・・。」
「あはは・・・。いのりちゃんらしいよ。
それに楓ちゃん、これからはこういう事がよくあるんだと思うから、隠し事はなし。」
「わかってる。単にいのりんをからかっただけ。」
「そんな~。」
それから、詳しいルールを決めながら、楽しくお話をした。
もちろんこの恋愛協定の最初の適用はカレンさんが和にいとお風呂に入るってことになった。
カレンさんは顔を赤くして、嫌がっている素振りだったけど喜びが隠しきれていなかった。
私達は夜が明けておしゃべりをしながら寝落ちしていった。
こうして私たちは恋愛協定を締結したのだ。
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