第一話 ある朝の日常
第四章、夏前編開始です。
カレンが退院してからしばらくたった。
季節は春が過ぎ梅雨も終わろうかというぐらい、まさに初夏に入ろうとする頃合いだ。
みんなでの生活も慣れて来て、なんだか家族って言う感じが出てきた気がする。
「おはよう、綾瀬君。」
「おはよう!大木さん。今日は早いね。どうしたの?」
「たまたま早く目が醒めたんだよ。コーヒーもらっていいかな?」
「うん、座って待ってて!今淹れるよ。」
朝ごはんの準備をする綾瀬君にコーヒーを淹れてもらい新聞を取りに行く。
いつもは茉莉ちゃんが取りに行ってくれるんだけど、今日は取りに行こう。
「あら、和樹?おはよう。
珍しいわね、こんな朝早くに。」
「ああ、目が醒めたんだ。おはよう、カレン。
こんな朝早くからリハビリしているなんて知らなかったよ。」
「違うわ。これは朝のルーティーンよ。柔軟にヨガ、身体機能の維持と健康のためね。」
カレンはリビングで英語チャンネルのニュースを見ながらヨガマットの上でストレッチをしていた。
カレンが朝早く起きてストレッチをしていることは知っていたが実際に見るのは初めてだった。
体にの線がくっきりと出るボトムスとタンクトップといった格好でしていて朝から刺激的だ。
「!? もう・・・。そんなにジロジロ見ないの!」
「ごめん、つい、綺麗だなって。」
「---。あっち行ってて。集中できないわ。」
そう言われ追い出される。
俺は家の入口にある郵便受けまで新聞を取りに行って戻ってくる。
すると、カレンに加えて茉莉ちゃんもヨガマットの上でカレンと同じようにストレッチをしていた。
「あ、和にい。おはよう。今日は早いね。」
「ああ、おはよう、茉莉ちゃん。
茉莉ちゃんもストレッチかい?」
「うん。カレンさんに朝教えてもらっているんだ。その後に新聞を取りに行っているんだけど。
今日は和にいが持って来てくれたんだ。」
「ああ。いつもすまないね、茉莉ちゃん。」
「ううん、気にしないで。私が好きでやっているんだから。」
「ほら、和樹。さっさとダイニングで読んでちょうだい。次は私が読みたいから。」
カレンにリビングから追い出される。
「大木さん、デリカシーのない目線はダメだヨ?
女の子にはいろいろあるんだから。」
「うん、反省だよ。」
「よろしい。いのりちゃんからご褒美のフルーツをあげよう!」
綾瀬君は俺に朝ごはんに使わなかったおやつ用のフルーツを盛り付けた皿を渡してくれる。
それを食べながら、新聞を読んでコーヒーを飲んでいる。
本当に今までの生活では考えられないな。
数か月前までは食パンにコーヒーの朝ごはんだったからな。
しかも、最近は女の子が住んでいるせいか、細かいところに可愛らしいかったり、センスのあるおしゃれな小物が飾られたりするようになっている。
生活も人が増えると、こうも変わるものかと思う。
そんなことをしているうちにカレンと茉莉ちゃんは交互にシャワーを浴びてくる。
カレンはエスプレッソを自分で淹れて、俺が読み終わった新聞を席について読み始める。
実家がカフェをやっているだけあって、コーヒーにはこだわりがある。実際、エスプレッソを淹れてもらったがとてもおいしかった。
綾瀬君が淹れてくれたものも美味しかったが、カレンのものはそれ以上の味がした。
曰く、年季が違うかららしい。綾瀬君も経験ばかりはお手上げのようだった。
しかし、カレンが来てからは二人でコーヒーをああだこうだ言って試行錯誤しているのでコーヒーの質とレパートリーが増えている。キッチンにはコーヒー豆のコーナーが出来て最近は二人で好きなように味を作っている。
最近は綾瀬君とカレンに押し切られる形で焙煎機を購入させられて、ガレージに置いてある。
「・・・。みんな。おはよう。」
最期に楓ちゃんが起きてきた。階段から降りしなにおはようと言ってくる。
彼女は昔から朝が弱く、茉莉ちゃんに起こしてもらっている。
茉莉ちゃんに起こしてもらわないと、かなり遅い時間まで眠っている。
「おはよう、楓ちゃん。」
「おはよう、和にーちゃん。」
「おはよう!楓ちゃん!
ほら、温めの甘いホットミルク飲んで、目を醒まそう。」
綾瀬君がマグカップを渡して、楓ちゃんはちょびちょび飲み始める。
「楓、おはよう。」
「おはよう、カレン。」
その後、茉莉ちゃんが降りて来て、みんな席について朝ごはんを食べ始める。
「大木さん、今日は雨が酷そうだから、楓ちゃんと美里ちゃんを送ってから行くね。」
「いのりん、お願い。美里にも伝えておく。帰りはバスで帰ってくる。」
「ああ、頼むよ。茉莉ちゃんとカレンはどうするんだい?」
「私は講義が午前の日だから、大丈夫。でも・・・カレンさんが。」
「そうね、私が二、三時間目の講義と相談会。で、今日はアメリカの大学に留学する子たち向けのオリエンテーリングがある日だから夕方までかかるわね。」
「なら、俺が送っていこうか?」
「朝は茉莉と行って、図書館で今日の資料を確認しているわ。帰りは少し遅くなるかもしれないけど私もバスね。」
「わかった。今日はリハビリは?」
「用があるから明日にしているの。最近は普通に動かす分には痛みも全然よ。」
そんな話をしながら時間が過ぎていく。
ウチは女の子が多いので朝はある意味戦場だ。
朝ごはんを食べ終わった子から身だしなみを整える時間だ。
それぞれ着替えや化粧は部屋でするけれど、洗面所が渋滞するので食べ終わった子から順番に行っているようだった。
俺はその間に空いた食器を下げて、食洗器にセットしたり、洗い物にいそしむ。
「和にい。それ、手洗いって言ってるでしょ。」
「大木さん、キチンと洗っておかないと錆びちゃうから気を付けてね!」
「・・・はい。気を付けます。」
意外と家事に厳しい我が家の料理人たちに通りがかりに指摘されながら片づけをする。
二人ともバタバタしているのに、良く気が付かれる・・・。
みんな出発して、家に一人になる。俺はコーヒーを淹れて一息つく。
最近は常見絡みの仕事はカレン絡みが多く、夕方に立花さんがカレンの家庭教師を受けに来たあと、迎えに来た修造さんを交えて、時たま常見や明美ちゃんを加えてここで話し合うのが常なので基本日中は暇だ。
俺は暇を持て余しがてら、雑誌をタブレットで読んでいると車のページが目に留まる。
・・・コレ、欲しい。買おう。
そうだ、カレンが茉莉ちゃんと登校時間が合わない時があるって言っていたよな。
うん、それのために必要だね。うん。
まだ、ガレージには車が置けるから、一台くらい増えても問題ないよね。
今度ディーラーに行ってみよう。
俺は心の中でそう決めて、準備を始めるのであった。
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