第十話 月見酒
温泉回、最初は・・・?
・・・。
俺は寝室として割り当てられた和室で、みんながお風呂に行っている間に眠ってしまっていたらしい。
隣の女子部屋の光も消えている。みんな眠っているようだ。
俺は、静かに寝汗を流そうと布団を抜け出し露天風呂に向かう。
脱衣籠に浴衣を入れて、露天風呂につかる。
まだ、。この時期の深夜は冷えるので、この温泉の暖かさとのコントラストが気持ちいい。
しばらく、ぼうっとしてお風呂に浸かっていた。
そうすると、何やら脱衣所が突然開く。
バスタオルを巻いた綾瀬君が入ってきた。
俺は慌てて目をそらし、出ていこうとする。
「すまん!今すぐ上がるよ!」
タオルを腰に巻いて出ていこうとするが綾瀬君が制止する。
「いいよ、大木さん。わかって入ってきたんだから。」
「?」
「あ、下心とかじゃなくてですね。お互い節度ある成人なんで、お酒でも一緒にと思ってね。」
そう言って柱にぶら下がっているお酒の竹筒を見る綾瀬君。
「大丈夫なのかい?」
「うん、あの後、何回かお酒を飲んでみたら、飲み方とかはわかってきた気がするよ。
それに、こういった風情のある飲み方ってなかなかできないじゃん。さっき入った時はみんな未成年で、やっぱり、一杯飲んでみたけど気が引けてね。」
そう言って、かけ湯をしてから、備え付けのお猪口と徳利をお盆に乗せて竹筒を持ってやってくる。
「それと、冷蔵庫にあったおつまみも持って来ている待っててね。」
俺にそれらを渡した後、入口に置いておいたらしいおつまみを持って来てくれる。
お盆にこれらを乗せて浮かせながら、綾瀬君もお風呂に入ってくる。
タオルで大事なところを隠してはいるが胸の谷間や大きさは隠せない。
多分、半分外国の血が入っているだけあってメリハリの利いたボディでタオルが張り付いた今では、
それが強調される。
思わず見とれてしまう。
「おや?大木さん何をみているのかなぁ?」
「いや、なんでも・・・。」
「またまたぁ~。初心なんだから。」
そんなことを言いながらお猪口を渡して、お酌してくれる。
俺もお酌し返して、二人で乾杯する。
「乾杯。」
先ずは一献互いに飲んでみる。
「うーん、やっぱり日本酒って、独特な味がするね。お米の味が強いかな?」
「だね。でも、これだけいい味がするから大吟醸じゃないかな?」
「ワインは里奈さんから教えてもらっているからある程度分かるけど。日本酒なんて学校の授業でさらっとやっただけだからあんまりわからないよ。」
「俺だって、細かいところまではわからないよ。
ただ、確かそういうグレードになるためには手がかかってるんだよ。」
「だったよね。お米の加工が~って言っていたね。」
そんなことを言い合いながら二人でお酌しあい数献飲みあう。
綾瀬君も温泉の温かさと、良いでほんのりと肌が上気して赤くなってきている。
それが殊更に色気を強調してくる。
彼女はそんなことも露も知らずに髪をかき上げ、うなじを見せてくる。
「大木さん、見とれてたでしょ?」
「いや。そんなことない。」
「ううん、目線がそうだったもん。別にエッチなんて思ってないから正直に言いなよ?そうじゃなきゃ一緒に入っていないヨ?」
「はい・・・。色っぽいと思いました。」
「でしょ~。いのりちゃん大正解!!私のお色気に気付かせようと敢えてやってみました!!
どうだ!私のお色気パワーは!!」
「うん、なんだか和洋折衷な感じがして、日本人の画家が描いた油彩みたいな艶やかさがあったよ。」
「・・・。うん。まぁ、合格かな?」
「?」
「ああっ!いや、こっちのことだよ!気にしないで!!」
そう言って顔を赤くして、竹筒から徳利にお酒を移そうとした綾瀬君は竹筒をお風呂の中に落としてしまう。
「あっ!」
「いいよ。ほら、残りも少ないしちょうどいい、酔い醒ましにお湯に浸かりながらぬる燗になるまで待って、最後に飲んじゃおうか?」
「え?いいの?そんなの?」
「知らないよ。でも、このまま温泉に温められた日本酒を飲むのも乙かなって思うよ?」
「ふーん。そういうものかな。まっ、確かに温泉でしかできないことにチャレンジするのもいいよね。やっちゃおう!!」
そう言ってぬる燗になるまで俺と綾瀬さんはおつまみをつまみながら徳利に入ったお酒を飲んで満天の夜空を見上げる。
「大木さん。」
「なんだい?」
「あのね、わたしさ。みんなでこういう旅行に来ることも、こうしてお酒を飲むのも初めてなんだ。」
「ああ。」
「わたし、大木さんのところに来てから幸せでさ、今までの不幸なんてぜーんぶ忘れちゃうんじゃないかなって思う時があるの。」
「忘れていいんじゃないかい?つらい思い出なんだったら。」
「ううん、違うの・・・。
きっとね、普通の人は当たり前の人生の中での特別だからさらっとしているかもしれないけど。今のこの幸せの絶頂って、つらい過去があるから引き立っているんだって思うんだよ。
ほら、料理だって辛み、酸味のアクセントが引き立ててくれるでしょ。それと一緒。
今の幸せなわたしがとっても幸せって感じることが出来るのは今までの辛いことがあったから。
なお更に感動できているんだと思うよ。
だから、今までの辛いこともわたしにとっては人生のスパイスなんじゃないかなって思えるようになってきたの。
ひょんなことから味変してみようなカンジ?」
そう言ってお猪口のお酒を一気に飲み干す綾瀬君。
その姿が月夜に照らされて美しい。まるで、女神が愁いを帯びて酒席にいるようだった。
「そうか・・・。綾瀬君はすごいな。俺なんてまだ、亜咲のことや家族のことをそう捕らえることが出来ていない。多分、年数が違うからだろう。
お酒みたいにうまく醸造して、自分にとって納得のできる形に昇華していきたいよ。」
本当に綾瀬君はすごいと思う。俺なんかよりも壮絶な生い立ちをしているが彼女は悩みながらも前を向いて悩みながらも明るく進んでくれている。
俺もそういったところは尊敬するし、見習いたい。
綾瀬君は急に顔を赤くしている。
酔いが急に回ってきたのかな?
「・・・大人って・・・。ほんと、大木さんってずるいよね・・・。」
「? 大丈夫かい?綾瀬君。何か気に障った?」
「ううん。何でもない。大木さんの魅力にクラっと来ただけだよ!」
「冗談。」
「ははっ。冗談だよ!さぁ、ぬる燗になってきたんじゃないかな?飲んでみようよ。」
そうして互いにお酌をして、再び乾杯した。
「幸せな生活に。」
「新しい日常に。」
二人で飲んでみる。
「なんだか幸せな人生みたいな味だね。熱くもなく、冷たくもない。でもだから温かくって、優しいそんな癖になる味・・・。」
「ああ、蕩けさせれれるような味だね。尖っていないけれど芯まであたたまる温もりがある気がする。」
そうして俺と綾瀬さんの月見酒は終わる。
先に綾瀬さんが上がり、俺も上がって眠ることにした。
なんだか、綾瀬さんの話を聞いていると自分の小ささ、綾瀬さんの大きさに気が付かされた気がした。
というわワケで次回は茉莉、楓編です。
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直ぐに終っちゃいます。
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