星霊
おはようございます。第92話投稿させて頂きます。
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振り向くと右手の聖武器を振り、フレストのアンシャルを破壊した狗神君が今まで見たことがないくらいに怒った顔でフレストに怒鳴っている。
「後ろを向いた人間に向かって剣を振るうなんて何処まで腐っているんだ‼この卑怯者‼」
その怒鳴り声に私は少々、驚いてしまう。まだ、知り合ってそんなに経っていないが彼の洗脳を解いてから私はこんな風に怒った所を見たことが無かったからだ。
「う゛、う゛るぜぇ‼大体、お前は何なんだよ‼関係ないやづが割りごんでぐんじゃねぇよ‼」
殴られた事で喋り難いのかフレストが聞き難い声で叫びだす。
「いや?関係有るけど?俺は彼女の仲間だからあんたの事を止める権利は十分に有ると思うけど?」
フレストの言葉に彼はただ冷たく淡々とした口調で答える
「だだ、ぞれだげのやづがうぜぇんだよぉぉぉぉ‼‼」
狗神君の態度に頭に来たのか折れたアンシャルを狗神君に向けようとした所で皆の目が驚きに見開かれる。
フレストの手に握られたアンシャルは光の粒子になり、狗神君の聖武器に吸収されて行く。
通常、聖武器や魔王の使う専用武器、女神の贈り物はある程度、壊れてしまったり刃が欠けても一定の時期を持って再生していく。アンシャルみたいに破壊されて光の粒子になって消えるなんて事象は今まで見たことが無かった。
「⁉」
その異様な光景に誰も何も言えないでいると不意に観客として見ていた人達の中から威厳に満ちた声が響いて来る。
「ほぅ、勝負にも負けた上に汚い手を使って女神の贈り物すら失ったか・・・正式に選定勇者の資格を剥奪するのに意義は出無さそうじゃのぅ」
ディオルド陛下は実に愉しそうに選定勇者に向かってそう宣告する。
「さて、選定勇者で無くなったお主には色々と償わなければならん事が有るな?話はお主の仲間を含めて聞こうか?連れて行け」
ディオルド陛下がそう言うと護衛で着いて来たのであろう複数人の騎士がフレストとその仲間に猿轡を噛ませ連行していく。
フレスト達は暴れて抵抗していたが騎士達は意に介さずに連れて行った。あれが普段から鍛えていたかそうでないかの違いか・・・
「さて、コユキ殿、ワト殿、二人共、依頼の達成ご苦労だったの。それと我が国の不始末を押し付けて申し訳なかったの」
ディオルド陛下は一言そう言うと頭を下げその場を去る。
ディオルド陛下が頭を下げた事で周りで見ていた皆が再び騒めいた。
「コユキ‼怪我はないな?」
狗神君は私を見て心配そうに聞いてくる。
「君が守ってくれたから怪我は無いよ。ありがとう」
私の言葉を聞くと狗神君はホッとしたように表情を緩め、直ぐに少し怒ったような顔になる。
「無事でよかったけどちょっと油断し過ぎじゃないか?相手の武器も奪わずに背を向けるなんて切ってくれって言っている様なものじゃないのか?」
「あ~、うん。それに関しては言い分けの使用の無いぐらい私のミスです・・・ごめんね」
彼に言われたのは本当に初歩の初歩で普段だったら絶対にやらない事だ・・・おかしい・・・通常だったらたとえ怒り狂っていようとするようなミスじゃないのに・・・
「まぁ、怪我がなくて良かったよ。皆の所に戻ろう」
そういう彼と一緒に皆の所に戻る。戻る途中、見物に来ていた冒険者の人達の声が少し聞こえて来る。
「おいおい、銀姫がソロじゃなくてパーティで行動とかマジかよ・・・」
「春か?俺達が見守って来た銀姫にもとうとう春が来たのか?」
「他の子も可愛い子が多いな。ワトと呼ばれていた男・・・許せん・・・」
「い~や~よぉぉぉぉ‼‼‼コユキちゃんに男とか神が許しても私が許しません‼」
そんなよく分からん声を聞きながら私は今回の自分の犯したミスやアンシャルを吸収した聖武器の事を考えながら歩いた。
☆
さて、コハクが選定勇者と戦ってから早2日が経ち俺達はカルルカの街に戻るために専用の鞍を付けたネージュの背中に乗る準備をする。今思えばクラシアから逃げる際にネージュに乗っていたんだよなぁ・・・ネージュにお礼を言っておかないと・・・
残りの日にちはギルドで依頼を受けたりして過ごした。それにしても、残りの2日間の冒険者達が怖かった・・・
やたらと怖い笑顔で俺達、皆の関係性を聞いてくる人やなんで俺の剣でアンシャルを壊せたのかとかやたらとそんな事を聞かれた。
それら全てにコハクや皆と話し合い適当な理由を答えたけどそれで納得したかは分からなかった。
アンシャルと言えば、俺の聖武器であるバルドルが吸収した事に関してコハクに聞いてみたけどコハクにもよく分からないらしかった。
ただ、アンシャルの能力自体は失われておらずバルドルでもその能力の発動が可能だった。
一昨日の訓練の時に使ってみて思うように扱えず不規則な軌道を描いて飛んで行った時にはコハクと共に少し唖然としてしまった。しっかり使えるようになるには要練習だ・・・
「皆様お忘れ物はございませんね?」
考え事をしているとこの5日間お世話になったルージェさんに声を掛けられた。
「うん、大丈夫だよ。ルージェちゃん。ありがとう。」
「5日間ありがとうございました。また会いに来ますね」
「はい、お待ちしております。皆様、主様を宜しくお願い致します」
ルージェさんの言葉にマカとリルが返事をし、和やかに話をしている。この数日間で仲良くなったものだ・・・
「ルージェ、5日間ありがとう。店の皆にもお礼を言っておいてくれる?時々顔を出すけど皆、体には気を付けてね」
コハクの言葉を聞くとルージェさんはレイデア王国のリコリス商会の人達がしたような顔で口を開く。
「主様、その言葉はそのまま主様にお返しいたしますわ。怪我や病気に気を付けてくださいませ。主様に何か有ったら私達は気が狂ってしまいますわ」
「・・・努力します」
その言葉にコハクはやっぱりなんか納得がいかないという顔で返事をした。
「それじゃあ、そろそろ行こうか。ルージェ、元気でね」
「はい、主様、皆様、お気をつけて」
皆、口々にお別れを言いネージュに乗り(全員防寒具完備)、俺達は再びカルルカに戻った。
「さて、予定だけどここからは明日まで自由行動です」
数日前とは打って変わってお祭りムードなカルルカに戻って来て最初のコハク一言だ。
「えっと・・・要は好き勝手に見てって事?」
「そういう事だよ。折角のお祭りだし好きに見るのが一番かなって思ってね。私も色々用事が有るしね。では、そろそろ色々やばいので私はこれで失礼するよ。お祭りが終わった後の集合場所は星詠み亭でニアさん達には話を通してあるからそれじゃ‼ネージュ、おいで‼」
それだけ言うとコハクはネージュを連れてそそくさとこの場を去って行ってしまう。変に慌てていたが一体何が―――――――
「ほら急いで‼さっき、ネージュが飛んで来ていたわ。早くしないとまた何処かに行っちゃうわよ‼」
「待ってください。リーンそんなに急いでいると危ないですよ」
「落ち着けって毎回そうやって追い回して無理に着せようとするから何処かに行っちゃうんだろ?」
「お互い良く飽きないでやるよな・・・」
「多分もういないの」
そんな会話をしながら5人の男女が俺達の居る場所まで走って来る。
「あーーーーー‼‼やっぱりもういなかったぁぁぁぁ‼‼‼‼」
先頭を走っていた活発そうな少女が頭を抱えながらそう叫ぶ。
「だから言っただろう?あいつは此処に着いて3秒以内に駆け付けなくちゃいないと思った方が良いって」
「ネージュが飛んでくる場所なんて予測できないわよ‼あ~、もう‼星詠み亭に来た時に話が出来なかったから今回は絶対に捕まえようと思っていたのにぃ~」
「まだ近くにいるかも知れないですし、聞いてみましょう」
そう言うと眼鏡の男の子が俺達に近づいて来た。
「すみません。さっき此処に紫の瞳で銀髪の女の子が居ませんでしたか?」
人懐っこそうな顔に笑みを浮かべながら男の子は俺達に聞いてくる。
・・・もしかしなくてもコハクの事だよなぁ・・・これ言っちゃって良いのかな?
「その子の事を知っていますが貴方達は彼女とどういう関係ですか?それが分からなければ彼女がどっちに方に行ったのかは言えません」
俺が少し迷っていると以外にもリルが毅然とした態度で応対している。リルの言葉を聞いた男の子は苦笑を浮かべリルの問いに答える。
「あぁ、失礼しました僕の名前はファルクと言います。探している子とは友人です。まぁ、コユキ本人が居ないので証明にはなりませんが・・・残りの子達も彼女の友人です」
ファルクと名乗った男の子にリルは更に質問をぶつける。心なしか少し不機嫌?コハクがとっとと何処かに行っちゃったからかな?
「その友人がなんで彼女を追いかけまわしているんですか?捕まえるとか不穏な単語も聞こえてきましたけど?」
「誤解させてすみません。実は彼女の衣装合わせがしたくって追いかけているんですよ。まぁ、それもこの街の人達が、彼女が来たら歌姫にしようと本人の許可なくやっている事なんですけどねぇ・・・彼女、感が良いから毎年この時期になると祭りに訪れているらしいのですが見つからないんですよ・・・今回みたいにネージュに乗って来る時は急いで降りた場所に向かうんですけど何時もその場に居ないんですよ」
いや、まず本人に許可取れよ‼っという突っ込みをグッと堪えながら俺は少し疑問に思った事をファルクに聞いてみる事にした。
「なぁ、ファルク、コユキの衣装合わせって言っていたけど彼女のサイズが分からなければ衣装の作りようが無いんじゃないか?」
「それは、そこで嘆いているリーンが測定というスキルを持っていてコユキの身体サイズを彼女が来るたびに測定して作っているらしいです」
・・・・・怖っ‼そのスキル、一歩間違えればストーカーの所業だな・・・まぁ、彼等も悪い人間ではなさそうだ。信用してもいいかもな
などと考えながらリルを見るとさっきまでの不機嫌な様子から一転して目をキラキラさせている。そう言えばリルはコハクのドレスとかをとても見たい子だったっけ・・・?
「お話は分かりました‼私もコユキちゃんを探すのを手伝います‼あ、申し遅れました私はリリエル・ミューウェルクです。コユキちゃんとは同郷の親友です」
そういうリルに続いて俺達はお互いに挨拶をしてファルク達にお祭りを案内してもらいながらコハクを探す事になった・・・成程、コハクはリルが敵に回るって分かっていたわけか・・・
さて、時間は過ぎコハクが見つからないまま俺達はお祭りを堪能していた。どうやらファルク達5人とコハクにとってもお祭り騒ぎの一環らしく見つからなくて悔しそうではあるが楽しそうに過ごしている。
「ちぇ、今年もコユキの勝ちかぁ・・・」
今年の歌姫と言う人が壇上に上がるとアンクがポツリとそう言うのと同時に偶然、俺の視界にこの人混みから離れる少女の姿が入った。
俺は何となくその娘が気になり、皆に一言入れて追いかける。
髪の色が違うが何となく彼女の雰囲気が気になったのだ。
追って行くと彼女は守衛の隙を突き街の外に出て開けた草原に来る。
「さて、今回はここで良いかな」
彼女はそう言うと着ていた町娘風の服を脱ぎだす。
思わず目を背けたが彼女は下にトーガ風の衣装を着ていたらしい。服を脱ぐと艶やかな茶色の髪は輝く銀色の髪に変わっていた。やっぱりコハクだったか・・・
「狗神君、そんな所で隠れてないでこっちに来たら?」
彼女は俺の居る方を見て手招きをして来る。あ~、やっぱり追いかけていたのに気づいていたか・・・
「わかっていた?」
「うん、門を出たあたりからね。狗神君こそよく私だってわかったね」
「勘だよ。なんとなく。コハクな気がしただけだよ。それでコハクは何でこんな所に?」
「ちょっとした人に会いにね。まぁ、星霊だから人と言って良いのかわからないけど・・・」
「精霊?」
「精霊じゃなくて星霊。よくファンタジー世界に居る星の意思みたいなものだよ。彼に聞きたい事が有るけど年に一度この時期にしか会えないんだよね。まぁ、呼び出すのに一々歌を歌ってあげないといけないから些か面倒くさいんだけどね。元々、この星詠み祭りは彼を呼ぶための儀式が形骸化した物だったんだよ」
コハクはそう言いながら立ち上がり歌を歌い始める。
しばらくして彼女の歌が終わると俺達の目の前にキラキラと光の粒子が集まり人の形を模って行き、物凄く美形なプラチナブロンドの男が現れる・・・異世界すげぇ・・・美形がごろごろいる・・・。
「久しいな幼き魔王」
「久しぶりだね。ファクター」
驚いている俺を他所に二人は話しをしている。
「うーむ、其方の歌を我以外が聞いたのは少し納得が出来ん事だな・・・」
「彼は今代の勇者だよ。これからファクターに聞く事は彼にも関係の有る事だからそれぐらいは大きな心で見逃してよ」
「うむ、ならば来年も我の為に歌ってくれるか?」
「それで機嫌を直してくれるなら喜んで」
そんな話の後にファクターと呼ばれた星霊は機嫌を直した様子でコハクの質問を促す。
「して、今回は残りの厄災共の出現場所と日にちを知りたいのであろう」
ファクターはそう言いながら幾つかの国の名前と日にちを言っていき、コハクはそれをメモして行った。
「以上が残りの厄災共についてだ。幼き魔王、くれぐれも気を付けよ。敵は厄災だけではない人間にも魔族にも気を付けるのだ。また来年其方に会うのを楽しみにしている」
「ありがとう。ファクター。また来年ね」
そう言うコハクにファクターは満足そうに頷き光の粒子に為って消えて行った。
「ふぅ~、相変わらず前に立つだけで緊張する人だよ。全く・・・」
ファクターが消えた後、コハクは伸びをしながら息を吐く。
「さぁ、街に戻ろうか?」
上に先程脱いだ町娘風服を着ながらそう言ったコハクに先程から感じた疑問を聞いてみる。
「街の方に出ないのはファクターの為なのか?」
「アー、ウン、ソウダネ、ソンナトコロダヨ」
何でそこで片言なんだ・・・要は単純に街で皆の前で煌びやかな衣装を着て歌いたくないだけなのか・・・似合うのに勿体ない・・・
そんな事を考えながら俺達はゆっくりとカルルカの街に戻って行った。
翌日、俺達はお世話になった人達やファルク達に挨拶を済ませコハクの持っている転移魔法陣で他の勇者と合流する為にまずは白夜の国に向かった。
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全く持ってふざけている‼僕は女神の贈り物に選ばれた正真正銘の勇者だ。
勇者なのだから他の奴らは僕に媚び諂い女や金を献上するぐらい当然じゃないか‼
僕は勇者なんだ‼これから魔王を倒し、誰も手に入れる事の出来ない栄光を手に入れるはずだったのに・・・なぜ、今、僕は薄暗い牢などに繋がれているのだ‼
それもこれも全て銀姫とその仲間の男の所為だ‼ここから出たらまず銀姫を犯し、あの男を殺してアンシャルを取り戻す‼仲間だった奴らは僕が捕まるとすぐに手の平をひっくり返し逃げやがった。この牢に繋がれて一週間、まずは何とかしてこの牢から出なければ・・・
脱獄の方法を考えていると僕の牢を見張っていた愚かな看守共がいきなり悲鳴も上げずに血を吹き出し倒れる。
いきなりの事に驚いていると不意に女の美しい声が聞こえて来る。
「みーっつっけた♪」
顔を上げるとそこには美しく微笑む僕の女神が立っていた。
次回は和登視点で始ます。
次回から魔族領に戻ります。
ごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




