身長の話は厳禁
おはようございます。第91話投稿させて頂きます。
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暑い日が続きますが皆様も熱中症等にお気を付けください。
☆は和登視点、二個目の星からはコハク視点です。
楽しんで頂けたら幸いです。
☆
赤い髪の男が綺麗な回転をして宙を舞う。
周りの人間は王様や男のパーティメンバーも含めて皆唖然とした顔をしている俺も当然、同じ顔だろう・・・
理由は簡単だ。男の立っていた位置から少し前にはドレスを着た銀髪の美しい少女が腕を思い切り振り抜いた姿勢で立っている。要するに男は彼女によって殴り飛ばされたのだ。その動きが速すぎて全員反応が出来なかった。
コハクは振り抜いた手を下ろすと優雅にディオルド王の方を向いて見惚れるほどに綺麗な笑顔で礼をしてから口を開く。
なぜだろう?綺麗な笑顔なはずなのにすっごく怖い・・・?
「陛下、先程も申し上げましたが改めて言わせて頂きます。陛下からのご依頼はこの私、コユキが謹んでお受けいたします。決闘の日時は明日の午後から場所は冒険者ギルドの訓練場を指定させて頂きたいのですが宜しいでしょうか?」
「あ、う、うむ、手配しておこう・・・」
コハクの怒気に中てられていたディオルド王はその言葉に少ししどろもどろになりながら返事を返す。
コハクはその言葉を聞くとニッコリと笑いながら(まだ怖さは消えていない)再び綺麗なお辞儀をして口を開く。
「ありがとうございます。それでは明日の準備も有りますので私達はそろそろ御暇させて頂きますね。狗神君、行きましょうか?」
「あ、はい・・・すみません。陛下、失礼いたします」
やたら丁寧な口調のコハクに一緒に退室する様に促されディオルド王に一言断りを入れ立ち上がり謁見の間を後にする。
謁見の間を出て尚、笑顔のコハクに俺は恐る恐る声を掛ける。
「えっと・・・コユキなんか怒ってる?」
「うん?私は怒ってなんかいないよ?うふふ♪ウフフフフフフフ♪」
怖い怖い怖い‼じゃあ何で未だに笑顔なの⁉超怖い‼てか、俺この状態のコハクとこのまま一緒に馬車で帰るの?すっごく気まずい‼
背か?背なのか?そう言えば森で俺が背の事を聞こうとした時も物凄い殺気を放っていたよな?背が小さい事ってそんなに悪い事かなぁ・・・?
俺は溜息を一つ吐き、行きは話をしながら通った道をやたら怖い笑顔のコハクと一緒に戻って行った。
「あ、主様、お帰りなさい・・・ま・・・せ?」
「ただいま、ルージェ」
結局、コハクは帰って来ても笑顔のまま怒っておりルージェさんも流石に戸惑っているようだ。
「ルージェ、悪いのだけど今日の食事は私の部屋に運んでくれるかな?今のままだと皆を怖がらせてしまうから、狗神君もごめんね」
「か、畏まりました」
コハクも流石に不味いと思っていたらしいが直ぐには怒りを収める事が出来なかったみたいだ。
着替えると言ってコハクが自室に戻るとルージェさんが俺の腕をグイっと引き寄せ耳元で声を潜め聞いてくる。
「ちょっとちょっと狗神様、お城で一体何が有ったんですか‼主様滅茶苦茶ブチ切れているじゃないですか‼」
「えっと・・・お城の人達とは何にも無かったんだけどその後に来た選定勇者って奴がコハクに低身長のちんちくりんって暴言を吐いたんだよ」
俺の言葉を聞いた途端にルージェさんはうわぁっと言う様な顔をする。
「よりにもよって身長の事を主様に言った馬鹿が居たんですか・・・全く持って愚かな・・・」
「何とかコハクの機嫌を直してあげる事が出来ないかな?」
「いえ、明日になれば主様も落ち着きますので大丈夫です。狗神様、お気遣いいただきありがとうございます。着替えてゆっくりしてください。直ぐに夕餉になります」
このままだと明日の選定勇者との試合にも影響が出るかもしれないと思いルージェさんに相談するが彼女に大丈夫だと言われたので俺は一抹の不安を抱えながら残りの時間を過ごした。
「やあ、おはよう。昨日は不快な思いをさせてごめんね」
翌日、いつも通り稽古をしに庭に出て見るといつも通りのコハクに挨拶され俺は密かに安堵の息を吐いた。
☆
昨日はとんだ失態を犯してしまった。背の事を言われて怒ったとは言え周りに迷惑を掛けてしまうとは・・・
昨日の出来事から時間が経ち私はやっと頭が冷静になった。
幸いだったのは昨日迷惑を掛けたことを彼が許してくれたことだろう。
彼との稽古を終え、片づけをしていると彼はまだ恐る恐ると言った感じで口を開く。
「今日は冒険者ギルドに行かないといけないんだよな?」
「うん、狗神君の男としての冒険者登録とディオルド陛下の依頼を果たさないといけないからね。朝食を摂ったらギルドに行こうか?」
「分かった」
そんな会話の後、私達は朝食を摂り、フェルシアの冒険者ギルドに向かった。
「成程、了解しました。イヌガミさんの冒険者登録とここ最近の魔物の目撃情報の目録、両方用意しておくよ。それとリルさんとマカさんのお二人は面倒ごとが終息するまでその冒険者証を使ってもらった方が安全でしょう。皆が本名で登録しているわけでもないしね。」
さて、時間は少し過ぎリルやマカさんを含めた私達は冒険者ギルドに訪れ、フィルクス支部長に頼み事とこの前の襲撃の結末の話をした。
ちなみに支部長の最後の言葉は私の方を見ながら言ったセリフだ。
しょうがないじゃん、コハクで登録すると面倒な事になるんだもん。
「さて、じゃあ、コユキさん。今度は僕の質問に答えて貰えるかな?陛下から連絡が有ったんだけどなんで選定勇者と此処で戦う事になったの?」
フィルクス支部長は些か複雑そうな顔であの失礼な男と戦う羽目になった経緯を聞いてくる。
「あぁ、その件でしたらディオルド陛下に依頼されたんですよ。魔王側としても選定勇者とは言え性格に難有りな人物に増えられると迷惑なので実力が無ければ早々に退場してほしいのでこの依頼を受けただけですよ。国王、直々の依頼なのでギルドに迷惑は掛かりませんから御心配頂かなくとも大丈夫ですよ?」
「いや、うん、それは安心しているんだけど何でギルドの訓練場を指定したの?陛下からの依頼ならお城の訓練場が使えたでしょう?」
あぁ、支部長は此処で戦う理由が知りたかったのか、いやいや、失敬失敬、どうやら私はまだ冷静ではないらしい。
内心苦笑を浮かべながら私は此処を指定した理由を支部長に話す。なに、理由は簡単だ。私が物凄く性格が悪いと言うだけだからね。
「理由は簡単ですよ。此処なら色んな冒険者が試合を見ることが出来ます。さて、ここで問題です今まで力を手に入れたからと横暴な態度を取っていた人間がいきなりその力を失ったら周りの人間はどうするでしょうね?それに正式に奴が選定勇者ではなくなったというのを広めやすくもなりますからね。あと、私の事をチ・・・っと呼んだ人間を私は生かして返す気は有りません。まぁ、ただの嫌がらせです」
隣の狗神君から「やっぱりまだ怒ってるー‼」っと情けない声が聞こえてきた気がするけどそこは華麗にスルーしておく昨日の経緯を知らないリル達は頭に?を浮かべている。
「はぁ~、成程、選定勇者の失脚を早く世に知らしめたかったていう思惑も有ったんだね・・・じゃあ、皆で少し食事でも取ろうか?フレストとの試合は午後からだよね?」
支部長にそう言われ私達はちょっと早めの昼食を摂る事になった。余談だが昼食の席でリルとマカさんに昨日の一件を聞かれ、リルにはまたドレス姿を見損ねたと拗ねられてしまった。
「待っていたぞ‼銀姫‼この僕を殴った事をこの試合で後悔させてやる‼」
昼食を終え約束の時間に近くなったのでギルドの訓練場に行き中に入ると一番にそんな不愉快な声が聞こえて来る。
心配そうな顔の皆と別れ、近づくのも嫌だが選定勇者の近くまで歩を進める。
周りを見るとご丁寧に観客まで集めたみたいだちらほらと知った顔もいる。よく見たらディオルド陛下もお忍びの格好で混ざっている。
・・・てか、銀姫って呼ぶなし
「なんだ。今日は女らしくドレスではないのか?全く君達の勝手な話に付き合うのだからもう少し気を遣うのが常識という物だろう」
馬鹿かコイツ?戦うのにドレスで戦う人はいないでしょう?大体、お前がちゃんとしていればこんな事には為らなかったんだよ?わかっている?わかってないか・・・
駄目だこの選定勇者、視界に入れているのも不愉快だし早々に退場して貰おう。
私は皆から離れて選定勇者の言葉には何も返さず奴の前に立つ。
「あぁ、そうだ。この試合をするにあたって銀姫、君にも一つ誓いを立てて貰いたい。僕が勇者の地位を賭けるんだ。君にも相応の物を賭けて貰わないとフェアじゃないだろう?」
「その話に乗ったとして君は私に何を賭けろと言うのかな?」
私の言葉を聞き、選定勇者はニヤリと厭らしい笑顔を浮かべて口を開く。
「もちろん。君には君自身の人権を賭けて貰う。要するに君が負けたら君には僕の奴隷に為ってもらうという事だ。言っただろ?ボクの顔を殴った事を後悔させるって、まぁ、嫌なら今ここで土下座をして許しを請うのなら無かったことにしてあげるよ?」
選定勇者の言葉に見学に来ていた人間がざわめく中、私は溜息を一つ吐いてから口を開く。
何を言うかと思えば馬鹿馬鹿しい。勇者も魔王も選定勇者も選ばれたとはいえその後の強さはどのぐらい努力したかで変わる。選定勇者に選ばれた時点で天狗になった分際で私に勝てると思っているのか?
「良いよ。その代わり君も私も女神に誓約する事が条件だ。君が負けた後で騒がれても面倒だしね」
「良いだろう。僕、フレスト・カウデはこの戦いに負けたら選定勇者資格を返却する事を女神、レスナ・ネス・ルスヒシビタ・ベスゼスに誓う。この誓いを破ったのなら僕は死も受け入れよう」
なんか芝居掛かった口調でそう言いながら女神の誓約を口にする選定勇者を見ながら私も誓約を口にする為に口を開く。
ちなみに女神の誓約とは今回みたいにお互いに何かを賭けて戦いを行う際に不正を行わない事を誠に不本意ながらレスナにする誓いで破ると最悪死ぬ。
「私、コユキはこの戦いに負けたらフレスト・カウデの奴隷に為り一生を捧げる事を女神、レスナ・ネス・ルスヒシビタ・ベスゼスに誓う。この誓いを破ったならば私は死を受け入れる事をここに誓う」
宣誓が済むとお互いの右手の甲に誓いを立てた事の証明である桔梗の花の形をした痣が浮かぶ。無事に誓約が聞き遂げられた証であり、決着がついた後に負けた方の誓約が履行されるまで消える事は無い。
「それで?勝負のルールはどうするの?」
正直言ってこれと話すのも腹が立つがルールを決めておかないと決着がついた後で五月蠅そうだ。最低限の会話は我慢するしかない。
「ルールは簡単さ、魔法及び武器の特殊能力の使用有でどちらかが降参するか戦闘不能に為ったら決着だ」
「分かった。じゃあ、始めようか?」
私はアイテムボックスから一本の鉄剣を取り出し鞘から抜いて構える。
カグツチ?操られていた狗神君以下の人間に使う必要は無い。魔法が使えるのならこの程度の人間、鉄剣で十分だ。
私の剣を見て選定勇者は馬鹿にしたような顔で口を開く。狗神君達も何でと言う様な顔だ。
「おいおいおい、なんだその剣は?ボクの剣は女神の贈り物だぞ?君は見かけによらず―――「無駄口叩いてないで始めるぞド三流、格の違いを教しえてあげるから少し黙れ」―――‼生意気な口を叩いた事を後悔させてやる」
男の言葉を遮り挑発すると余裕そうな顔から一転して怒りの形相で私を睨みながら剣を構える。
「それでは、両者構えて・・・始め‼」
「飛べ‼‼アンシャル‼‼‼」
審判役をやってくれた支部長の開始の合図と共に天空剣アンシャルの能力を使ったのか剣の刀身が九つに別れ柄から離れ、空中に浮かぶ。
成程、天空剣アンシャルは刀身が空中を飛び回り敵を切り裂くタイプの武器か・・・使う人間がちゃんとしていたら脅威だっただろうに・・・
「切り裂け‼」
男は九つの内、二つの刃を私に向け飛ばし攻撃してくる。
飛んでくる二つの刃に向かって鉄剣を振るい弾く。
ガキン‼っと硬質な音が辺りに鳴り響き私に向かって飛んできた二つの刃は高く高く空中に飛ばされ訓練場の天井に突き刺さる。まずは2つ。
「「「・・・は?」」」
その光景を見た観客と選定勇者から驚きの声が上がる。まぁ、《レジェンド》クラスの武器の攻撃を何の変哲もない《ノーマル》クラスの鉄剣で弾くという通常ではありえない光景を目にすれば当然の反応か・・・
別に私は何も不正はしていない。ただ単純に土の魔法で剣の強度などを強化しているだけだ。それでも天空剣アンシャルのスペックを全て引き出せていれば剣は簡単に砕けていただろう。
「馬鹿な‼ただの鉄剣でアンシャルの攻撃を防げるはずがない‼ただの偶然だ‼切り裂け‼アンシャル‼」
驚愕の表情をしながらも選定勇者は私に向けて更に三つの刃を飛ばしてくる。
再び硬質の音が鳴り、今度は二つの刃が天井に一つの刃が地面に突き刺さる。これで5つ
その光景を信じられない様に見ている選定勇者に私はゆっくりと歩を進める。
その姿を見て焦ったのか選定勇者は逃げる様に後退りながら何やら叫びだす。練度不足にも程がある。
「嘘だ!嘘だ!嘘だぁ‼僕は勇者なんだぞ‼それがただの冒険者の娘に二回も攻撃を防がれるなんてありえない‼アンシャル‼‼‼‼」
馬鹿の一つ覚えの様に叫びながら残りの四つを私に向けて飛ばしてくる。全く・・・せめて緩急を付けるとかランダムに軌道を描かせるとか刃に魔法を纏わせるなどをすれば良い物をお粗末な攻撃を繰り返せば勝てると思っているのか?こいつには鉄剣でも勿体なかったな・・・
唯々向かって来る残り四つの刃を全て叩き落し、一気に距離を詰める。正直、やるだけ無駄な戦いだったな・・・
「ま、待て待て待て待て‼‼‼‼‼僕をこんな所で倒したら世界が大変な事になるぞ‼僕は勇者なんだ‼こんな所で終わって良い人間じゃないんだ‼」
この期に及んで何かをほざく選定勇者に私は殺意を込めた笑顔向けてやる。
「だから?そんな事より私はあんたに対して許せない事が有るからぶん殴るただそれだけだよ?それにあんたを野放しにした所で別に何も関係がない。そもそも、あんたはなにをもって自分を勇者だと言っているの?言っておくけど別に勇者って聖武器や女神の贈り物に選ばれたから名乗るものじゃないよ。勇者って言うのは、誰もが恐れる困難に立ち向かい偉業を成し遂げた者やそれらを成し遂げようとする者に対する敬意を表す呼称だ。お前のような者が易々と使って良い言葉じゃないんだよ。身の程を知れ愚か者が‼」
その言葉と共に私は男の顔面を思いっきり殴り飛ばす。殴り飛ばされた男は歯が折れ、鼻血を吹き出しながら後ろに吹き飛ぶ。
私は吹き飛んだ先に先回りし飛んでくる男の腹にかかと落としを喰らわせ地面に叩きつける。
更に数発、拳を叩きこもうとした所で男が息も絶え絶えになりながら悲鳴を上げる。ぶっちゃけこの状態で気を失わなかった事に少しだけ驚いた。
「ま゛、待っでぐれ・・・降参だ・・・ボグのまげだ・・・だがらもう殴らないで・・・」
「そこまで‼勝者、コユキ」
その言葉を聞き支部長が試合終了の声を掛ける。ぶっちゃけると私としては不満な結果で終わってしまった。
二回しかこの屑を殴れないとは・・・もうちょっと殴る力をセーブするべきだったか・・・
そんな事を考えながら男を冷たく一瞥し、背を向けて皆の所に戻ろうと歩を進める。
皆の所に戻る途中、アンシャルを回収し忘れた事に気付き歩みを止め、選定勇者の所に戻ろうとすると狗神君が剣を抜き慌てた様子で私の脇を駆けて行く。
それと同時に後ろから何か壊した様な硬質な音と狗神君の怒鳴り声が響いた。
次ぐらいで魔族領に戻れるようにしたいと思います。
ごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




