変な事言うとぶっ飛ばしますよ?
おはようございます。第90話投稿させて頂きます。
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「疲れた・・・王城に行く前なのにすごく疲れた・・・もうお婿に行けない・・・」
「本当だね・・・もうこのまま帰りたいよ・・・」
「いや、それは駄目だろ・・・」
「駄目なんだよねぇ~」
ゆっくりと揺れる馬車に乗りながら私達は些かぐったりしながら王城に向かっている。
まだ用事も済ませていないのに二人共もうくたくただ・・・
「ところで何でいきなりドレスなんだ?コハクならいつもの黒コートで行きそうだけど?」
だらりとした姿勢で私の方に顔を向け狗神君は不思議そうに私にそう尋ねる。
どうでも良いけどディオルド陛下の前ではピシッとしてよ?
「コハクもしくは私があの格好の時に名乗っているトワで呼ばれたのならそれでも良かったんだけどね。よりにもよって冒険者であるコユキの名義で招待状が届いちゃったんだよ。一冒険者が礼服も着ないで王様に会うのは外聞が悪いからね。仕方なくだよ・・・私だって動きにくいドレスなんて着たくないよ。全く自分の益しか考えられない馬鹿の所為でとんだ貧乏くじだよ」
まぁ、しっかり復讐はするけどね・・・
言葉には出さずに今回の騒動の原因の顔を思い浮かべる。次の魔王会議の時に覚悟しておけ・・・
「昨日も聞いたけど本当に何が有ったんだ?」
狗神君が本当に心配そうな顔で聞いてくる。そう言えば昨日も私の事を心配して部屋を訪ねてくれたっけ・・・昨日は誤魔化しちゃったけど今日、全部バレるかなぁ・・・まぁ、ソレが、私がおかしいと思った理由には結びつかないだろう。そのために誤魔化したわけだし・・・一応、念の為に駄目押ししておくか・・・
「あ~、うん、その事はお城に着いてから言うよ。でも、昨日私がおかしかったのは間違いなくドレスを着たくなかったからだから心配しないで」
「そうなのか・・・・」
心配そうな彼に再び昨日言った様な事を話して口を閉じる。些か気まずい沈黙に包まれながらゆっくりと馬車に揺られ私達は王城に向かった。
数十分後、私達は着いてすぐに連れていかれた謁見の間でディオルド陛下と御対面した。
「お久しぶりです。ディオルド陛下、お元気そうで何よりです」
自分で言うのもあれだが優雅な動作(私の場合ドレス姿限定)で淑女の礼を済ませ、まずは挨拶を行う。ちなみにこれ等の動作はメイド長を含めた皆に嫌という程、練習させられた。
隣で狗神君がなんか驚いた顔しながら一緒に礼をしているけどとりあえず無視。
「うむ、久しいの。コユキ殿」
ディオルド陛下は若干、声に笑いを含みながら応対してくれる。恐らく魔王の時とギャップが有り過ぎるのが未だにツボなのだろう・・・
いや、笑っているけどこういう格好になった理由貴方ですからね‼
「して、其方が今代の勇者の一人かの?」
一通り笑った(他からはそうと分からない笑い方)後で今度は私の隣で同じ様に頭を下げている狗神君に声を掛ける。
彼は些か緊張したように顔を上げて口を開く。
「お、お初にお目に掛かります。こ、今代の勇者の一人として、しょ、召喚されました。狗神 和登です」
・・・クラシアでも王族と会っていたんでしょう?そこまで緊張する?まぁ、クラシア王よりディオルド陛下の方がお年を召されている割に健康そうで大きな体躯をしているし、強面だし何となく分かるけど・・・
そんな事を考えているとディオルド陛下はニカッと笑うと狗神君に向けて耳を疑うようなことを聞きだした。
「そうかそうか、やはり其方が勇者の一人か、それで?イヌガミ殿、会って数秒で聞く事ではないがコユキ殿とはもう致「陛下、変な事言うならぶっ飛ばしますよ?と言うかいい加減厳格に見える茶番はもう良いですよね?」」
言い切る前にディオルド陛下の言葉を遮り(些か遅かったが・・・)文句を言うと王を守るための兵や宰相たちが我慢できずに笑いだす。全く・・・私が仕方なくこの格好で来るとこの茶番をやるって決めているのかね?
私の言葉に一瞬、ギョッとした顔の狗神君が周囲の反応を見て疑問符を頭に浮かべる。まぁ、王様に暴言を吐いて周囲が笑い出したらこうなるよね。
実は現在、がっちりと王を守るように周りを囲んでいる兵と近くにいるこの国の幹部は私の正体を知っている。ディオルド陛下が信頼する人達だ。なので、本来ならこんな面倒くさい礼等したり態々コユキとして振舞わなくても良かったり、いきなり本題から話し始めたりしても良かったのだが(予めディオルド陛下からトワの時はソレで良いと言われている)
私がドレス姿の時だけは何故か揶揄う様な茶番が毎回行われる。まぁ、毎回とは言っても今回を抜いてまだ2回なのだが・・・
今回はその対象が私ではなく狗神君に些か下品な方向で向いた様だ。
まぁ、つまり、何が言いたいかというとこの人達は見かけによらず乗りで人の事を揶揄う様な砕けた人達という事だ。
「なーんじゃ、コハク殿は慌てた様子も無いし何でもないのか、面白くないのぉ~、勇者とは言えコハク殿が男を連れて来たからもしかしてと思い。皆で賭けておったのに」
「真面目な話で呼ばれているのに賭けとかしないでください」
心底残念そうに(なぜ私の男関係を他国の王に心配されねばならんのか・・・)口をとがらせるディオルド陛下に些か冷めた口調で文句を言う。まぁ、とりあえず脅威が去った事によって余裕が出たのだろう。
「さて、では、真面目な話の報告を聞こうかの」
ディオルド陛下はスッと真面目な表情を作ると私に先日の魔族の侵攻についてどうなったのかを促してくる。
全く、こっちは最初から真面目な話をしに来たっての‼
私は溜息を一つ吐き、今回起こった侵略行為が強欲の国の独断で有る事。転移装置(転移魔法陣として報告)を任せていた職員に裏切者が居た事、今回の迷惑料を黄昏の国が肩代わりして払う事、今後の対策と罰則の強化をし、二度と起こらない様に務めるという事を伝える。
余談だが話している間、狗神君にはそんな事が有ったのかと言う様な顔で見られてしまった。
「ふむ、その迷惑料とは技術で請求しても良い物かの?」
私の話を聞き迷惑料の時点ですかさずお金以外での請求が可能かを確認して来る。はっきり言って予想の範囲内だ。多分、OKすれば転移魔法陣の事を言って来るだろう。強欲の国の肩代わりで技術の流出は頂けない。
「いえ、あくまで強欲の国の肩代わりなのでお金での支払いしか考えていません」
「ふむ、まぁ、しょうがないかのぉ~」
ディオルド陛下はたいして残念そうな様子も無くのんびりと髭を触りながら別の条件を提示しだす。
「それじゃあ、迷惑料はお金でなく。一つお願いを聞いて貰えんかの?」
「技術提供のお話以外で私にできる事なら善処させて頂きます」
「うむ、頼みたい事とはうちの選定勇者を倒して女神の贈り物を奪い、選定勇者の資格を剝奪して貰いたいんじゃよ。もちろん、奪った女神の贈り物は報酬としてそのまま持って行って貰って構わん。お願い出来ないかの?」
「はい?」
その突拍子も無いお願いに私は思わず首を傾げてしまう。狗神君は話に付いていけていない。
まぁ、なぜ苦労して選定した選定勇者を態々解任するのかはフィルクス支部長も言っていたので予想は付くけど報酬として渡される物がおかしい。てか、これって迷惑料の代わりの依頼でしょ?
「陛下、女神の贈り物を受け取っては迷惑料の代わりにならなくなってしまいます」
「うん?だって此処に有っても使い物にならんし、無駄な権力争いに使われるだけじゃよ。ならば現状で一番、役立てる事の出来る人物に持っていて貰うのが一番じゃろ?それで受けて貰えるかの?」
ディオルド陛下のその言葉に何となくだがフルニカ王国の現状を理解する。要するに今回の選定勇者は権力争いの結果、選定されたみたいだ。
ならば、陛下の厚意に甘えて女神の贈り物を回収させて貰おう。
「分かりました。その依頼謹んでお受けさせて頂きます」
「うむ、よろしく頼む。コユキ殿なら受けて貰えると思っていた。フレストには既に連絡を入れてある。明日か明後日にはフェルシアに戻って来るであろう。戻ってからまた連絡を入れるので都合の良い時に・・・」
ディオルド陛下が今後の予定を説明しようとすると唐突に謁見の間のドアがバァンっとすごい音を響かせて開け放たれた。
「王よ‼ルシアに通達して来た事はどうつもりだ‼」
ドアを開けて入って来た男は不機嫌そうに怒鳴りながら謁見の間に入って来る。
てか、王様に向かって失礼な奴だな・・・
「客人の前じゃ、落ち着かんかフレスト、どういうつもりも何もお前の最近の行動を見て出した結論じゃ、文句は聞かん。もし、まだウダウダ言うのなら救済処置も無く問答無用で選定勇者の資格を剥奪するぞ」
ディオルド陛下は厳しめの口調で諫めるがフレストと呼ばれた男は無礼な態度を改めずに口を開く。
うわぁ、相当調子に乗っているよ・・・
「王が指定した人物に負けたら勇者としての資格を剥奪するなど許されると思っているのか‼第一にこの事はカイン王太子も知っているのか‼」
「二つ間違いを訂正しておこうフレスト、第一にカインは王子であって王太子では無い。第二に選定勇者の解任にカインの意向は関係ない。たとえお前を選定勇者に押した人間であろうともだ」
ディオルド陛下の言葉にフレストは悔しそうな顔をする。
成程、こいつを選定勇者に押したのは馬鹿孫王子の方か・・・この国には現在、ディオルド陛下の正式な後継ぎが居ない。正確に言うとディオルド陛下は一度王座を退いた方だ。
4ヶ月前まではディオルド陛下の息子であるトーラス陛下が王座に就いており、国を治めていた。
しかし、トーラス陛下は厄災の襲来の際に長男である王太子と共に戦死してしまい。急遽、ディオルド陛下が王座に舞い戻る形になった。
トーラス陛下には三人の息子がおり、長男が死んだ事によって次男と三男の間に王位の継承権争いが起こってしまったのだ。
ちなみに先程、話題に上がったカインは次男で本来ならコイツが王太子になりそうなものだがこれがまたどうしようもないドラ息子だ。ちなみに第一王子、第三王子共に国民からの信頼の厚い人格者だ。
周囲からは第三王子を王にとの声が上がっているが一部の貴族は第二王子の派閥らしい。要するに傀儡の王を望んでいるのだろう。
今回の選定勇者は第二王子の派閥で人気取りの為に選ばれたわけだ。まぁ、これを選んだ女神の贈り物も悪いのだが・・・
「お主の対戦相手は此処にいる彼女だ」
ディオルド陛下はフレストと呼ばれた選定勇者に私が対戦相手だと話すとフレストはさっきまでの怒り顔を一転させ舐め回す様な厭らしい視線を私に向けて来る。
ぶっちゃけるとすごく気持ち悪い。
そんな事を思いながら私は、相手のステータスを覗き見る。負ける気はしないが相手の情報は有るに越した事は無い。
☆
HP 245822/ 245822 MP 22482/22482
名前:フレスト・カウデ 18歳 Lv.58 近接戦闘術Lv.53 魔法Lv.52
種族:人種
ATK:B2
DEF:B4
MAT:B4
MDF:D7
SPD:C8
適正魔法:火
スキル:火魔法攻撃力倍加、誘惑の魔眼、精力増強、攻撃力倍加、隠蔽、逃げ足
称号:《選定勇者》
特記事項:女神の贈り物《天空剣アンシャル》を所持、ゲス
☆
うん、ステータス的にも後れを取るような人間では無いね。天空剣アンシャルの能力やスペックには注意が必要だろうけど結局、今のこの人では扱いきれないだろう。
油断しなければ負ける事なんてないかな。
「フン、良いだろう。この僕が見た目は美しいが低身長のちんちくりんな娘に負けるわけがない。僕が華麗に勝利をおさめたら王よ。それ相応の報いを受けて貰うぞ‼」
・・・んだと、コラ‼テメェェェェェェェェェェェ‼‼‼‼‼‼‼‼
次回は和登の視点から始まります。
次は戦闘が入る予定です。
ごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




