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短編集(仮)  作者: 佐伯浩
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仕打ち

何不自由のない"彼女"の暮らしは「あること」のせいで崩壊する。

"彼女"は望んでいない。

私たちは気付けない。


"彼女"の正体、分かりますか?

〜私の訴え〜


ここ最近、ご主人様は私にひどい仕打ちをされます。


私にはもう、何が何だか分かりません。


どうか私の話を聞いてくださいませ。


私は、ご主人様が所有しておられるこの地で生まれました。


母に聞いたところ、ご主人様は私のことを生まれた時から可愛がってくださり、厚遇してくださったそうです。


そのおかげで、私は何不自由なくこれまで暮らしてまいりました。


ところが、数ヶ月前から状況が一変しました。


最初の異変は食事でした。


とても一人では食べきれないほどのご馳走が食卓に並ぶ毎日だったのですが、今となっては、わずかな野菜が用意されるだけです。


私は、このような経験をしたことがなかったので、お腹いっぱいになるまで食べることが出来ないというのは、大変な苦痛でした。


1日や2日なら我慢できます。


しかし、かれこれ1ヶ月は満足な食事を与えて頂いてないように思います。


先日、あまりの空腹に耐えかねて、ご主人様にもっと食事をお恵みくださるよう懇願したのですが、ご主人様は聞く耳を持たず、部屋を出て行ってしまわれました。


食事だけではありません。


最近は、私の労働時間も以前とは比べ物にならないほど増えました。


私は、ご主人様に仕える身なので当然労働は欠かせません。私の仕事は、他の召使と同じように肉体労働です。


と言っても、ご主人様は優しく、私たちを酷使するようなことは滅多にありません。


休憩時間もしっかり与えてくださいますし、労働時間も長くはありません。


ところが最近、私は周りの者よりも明らかに酷使されるのです。


ご主人様は、度々私の様子を見に来られ、何かと私の仕事ぶりに文句をおっしゃるようになりました。


私は、決して手を抜いているわけではないのですが、ご主人様はお気に召さないらしく、ここ最近毎日ご主人様に監視されています。


加えてこのところ、残業を命じられることが多く、他の者たちが仕事を終えたにも関わらず、私だけが残業を強いられるのです。


食事も十分に与えられず、その上、過酷な労働を強いられる毎日に、私の心と体は悲鳴をあげているのです。


私は、自分が置かれている立場のあまりの変わりように耐えきれなくなって、母に相談しに行きました。


しかし、私が望むような言葉を母はかけてくれませんでした。


母「これまで散々ご主人様の世話になっておいて、少しあなたの思い通りにならないくらいで文句を言うのは薄情者がすることよ。私達一族は、あなたが生まれるずっと昔からご主人様の世話になっているのよ。私も、あなたのお父さんも、おじいさんもお世話になってる。ご主人様は神様のような人よ。あなたのお父さんを、私に紹介してくれたのも、ご主人様なのよ。遠く離れた地から、ご主人様が引き抜いてきたの。」


私は、なぜご主人様が父を引き抜いてきたのか聞きました。


母「あなたのお父さんはとても優秀な労働者だったのよ。ご主人様はそんなお父さんに魅了されて、引き抜いてきたみたいよ。そして、私にお父さんを紹介してくれたの。年はだいぶ離れてたけど、私はすぐに好きになった。私たちは結ばれて、あなたが生まれたのよ。」


私は、父がこの地での生活をどう思っていたのか知りたくなりました。


昔住んでいた地に未練は無かったのかとも。


父は数年前病気にかかり、もうこの世にはいませんので、確かめようがありませんが。


母「あなたの不満を聞いたら、お父さんもきっと悲しむわ。お父さん、言っていたわよ。以前住んでいた所に比べて、ここは天国だって。お父さんも昔は大変な苦労をしてたのよ。でもお父さんは負けなかった。そうでしょ?あなたもお父さんの血が流れているのだから、きっと強いわ。だから大丈夫、頑張れるわよ。」


私は、おそらく母が想像している以上につらい思いをしていましたが、父の話を聞いて、少し気持ちが楽になりました。


ところが、本当の苦しみはそれからでした。


私に対するご主人様の仕打ちは酷くなる一方でした。


食事制限、過酷な労働、そして、身の毛もよだつような出来事が起きたのです。


あれは、二週間ほど前でしょうか。


見たことのない男が、働いている私の方へ近づいて来ました。


ご主人様も一緒です。


何やら二人で話しているのですが、聞き取れません。


すると、男がいきなり私の上に乗っかってきたのです。


私は、突然のことに驚いてその男を振り落とそうとしましたが、男は動じません。


ご主人様は、真剣な顔でただ私を見ておられるだけです。


私は、今自分が置かれている状況に怖くなって震えあがりました。


すると、私に乗っかった男は、なんとそのままの状態で私に労働を強要しました。


私は、なす術もなくその男を乗せた状態で労働することにしました。


その時です。


痛い!


お尻のあたりに激しい痛みを感じました。


男が手に鞭を持ち、なんと私のお尻を叩いているではありませんか!


私は、痛みと恐怖から悲鳴をあげました。


しかし、その男の仕打ちは止まりません。


何度も何度も、鞭で私のお尻を叩くのです。


叩かれるたびに、私は悲鳴をあげました。


その後、どれくらいの時間だったでしょうか。


私は、男を乗せたまま必死に労働を続けました。


私が疲れて、仕事のペースが落ちると、男はすぐにそれを感じ取り、鞭でお尻を叩きます。


私は、男の機嫌を損ねないように、必死に労働を続けました。


やがて、男が私から降りて、私の頬を軽く撫でて微笑みました。


気持ちが悪い笑顔でした。


ご主人様と男は、私を部屋に戻して去って行きました。


私は、強い恐怖心と解放された安堵感に包まれて眠りにつきました。


それから今日に至るまで、毎日私は男を上に乗せ、労働を続けています。


男は相変わらず、私のお尻を叩きます。


お陰様で、私のお尻はもうパンパンに腫れ上がっています。


ご主人様も、見ているだけで私を助けてくれません。


とても辛いですが、良いこともありました。


ご主人様と男に厳しい仕打ちをされ続けた結果、私の仕事ぶりは上達し、以前とは比べものにならない腕前になりました。


周りの者たちと比べても、私の仕事ぶりは群を抜いていたように思います。優れた労働者であった父の才を引き継いでいるということでしょうか。


しかし、ご主人様と男による私への仕打ちは治りません。


私は一体どうなってしまうのでしょうか?


この仕打ちは、いつまで続くのでしょうか?



〜当日〜



朝早くに私は起こされて、小さな小屋へと入れられた。


中は暗くてよく見えないが、先程から小屋全体が揺れているのを感じる。


揺れが収まり小屋から出されると、そこには見知らぬ光景が広がっていた。


巨大な建物の中にいるようだ。


少し歩かされると、ご主人様と例の男が待っていた。


例の男が私に歩み寄り、いつもみたく、私の上に乗る。


男を上に乗せるのも、もう慣れたものだ。


数ヶ月に及んだ過酷な労働ですっかり痩せてしまった私と同様に、男もだいぶ痩せた様だ。


上に乗っている重みをあまり感じない。


建物の外が嫌に騒々しい。


しばらく歩くと、私と同じように男を乗せている召使いたちが集まっている。


どの召使も痩せている。


私たちの周りには、見知らぬ男や女がちらほらいて、何やら話し合っている。


やがて私たちは、男たちに順番に並ばされて、建物の外へと通じるであろう廊下を歩いて行く。


なぜかは分からないが、私の上に乗っている男が緊張しているのが伝わってくる。


男の緊張を感じ取り、私まで不安になる。


廊下を抜けて建物の外に出た瞬間、割れんばかりの声が耳をつんざく。


周りを見渡すと、信じられないほどの人々が建物に押し寄せている。


その光景に唖然とする私の背を男がそっと撫でる。


狭い庭をグルグルと歩かされる私たちを、大勢の人々が見つめている。


笑っている者、深刻な表情をしている者、光る眼を持つ得体のしれない者。


一体これから何が起こるというの?


やがて、上に乗っている男が、私に軽く労働を強いる。


他の召使いたちも同様に労働を始め、狭い庭から広大な敷地へと移動する。


円形に柵が張られ、芝の上を柵に沿って移動していくと、18に区切られた檻が前方に見えてきた。


私たち召使は、別々にその檻に"頭から"入れられる。


前が閉まっていて、スペースも僅かなので、緊張と相まってとても息苦しい。


すると突然、檻の前部分が大きな音を立てて開いた。


同時に、男が鞭で私のお尻を叩く。


痛い!


突然の出来事に不意をつかれた私だが、男の要求は即座に理解できるようになっていた。


私は男の要求に応えるべく、勢いよく労働を始める。


別の檻に入っていた召使たちも一斉に飛び出してきて、私は危うく交錯しそうになる。


男が続け様に私のお尻を叩くので、私は初めから全力で労働に励む。


他の召使いたちも、今まで相当しごかれたのであろうことが、彼女らの労働する姿を見てすぐに分かる。


男が執拗に尻を叩くので、私は集団の先頭に出て労働する。



あぁ、苦しい



いきなりこのような激しい労働を強いるなんて。


私は無我夢中で労働を続けた。上の男もそれを望んでいる。


私は集団を大きく離し、大勢の人々が蠢いている建物の前に差し掛かる。


蠢く人々の激しい興奮が伝わってくる。


私を見る無数の光る眼、激しい怒号、狂気に満ちた顔の数々。



怖い!



肉体的にも、精神的にも私は憔悴しているが、上の男がここぞとばかりに鞭をお尻に振り下ろす。



この人でなし!



男に対する憎しみの感情に駆られながら、私は最後の力を振り絞って、目の前に広がる道を駆け抜けた。



〜場内にある一室〜



実況「クイーンパレス!クイーンパレス!他を寄せ付けない圧倒的な強さを見せつけ、今ゴールイン!初参戦にしてこの強さ。流石は名馬ヴォルフの娘です!」


解説者「流石ですね〜。実績のある雌馬たちが相手であるにも関わらず、これだけの差をつけての圧勝ですからね。ただ、彼女のポテンシャルも素晴らしいですが、やはり牧村騎手の最初から先頭を走らせる作戦が勝利を引き寄せたのだと思いますね。」


実況「間違いないでしょうね。また、馬主である乾さんは、牧村騎手と協力してクイーンパレスを最高の状態に仕上げたと言っておられました。騎手、馬主、競走馬が三位一体となって戦ったことが良かったのですね。」


解説者「えぇ、きっとお互いが強い絆で結ばれているのでしょうね。この勝利をクイーンパレスも喜んでいますよ。見てください。あの、誇らしげな姿を。」


実況「本当ですね〜。さて、第42回ビクトリア女王杯はご覧の通り、クイーンパレスの圧勝で幕を閉じました。期待のサラブレッド登場に今後も目が離せません!父、ヴォルフがそうであったように、クイーンパレスの末永い活躍を期待しましょう。」



終わり













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