006●第1章なの?
装備は途中の武具屋さんでそろえた。
店主は、レイディ・ソレイユから聞いている、
お代は頂いている、どうぞって。
どこに行くかのメッセージも受け取った。
霧が立ち込める森を抜け、わたしたちはたどり着いた。
風の谷・・・そう呼ばれる場所は、静かで、どこか神聖な空気に包まれていた。
「ここ・・・風がずっと吹いてるね。」髪を押さえながら言う。
「うん。でも、なんか・・・風の音が、言葉みたいに聞こえる。」
さやちゃんが耳を澄ませる。
風は、まるで何かを語りかけてくるようだった。
谷の中央には、苔むした石碑が立っていた。
表面には、風化した文字が刻まれている。
風は記憶を運び
声を重ねて道を開く
ふたりの心がひとつになれば
精霊アキシュアンは目覚める
「これって・・・謎解き?ロールプレイング・ゲームみたい?!」
「うん。たぶん、ふたりで声を合わせるってことじゃない?」
石碑の前に立ち、ふたりで詩を読み上げる。
「風は記憶を運び、声を重ねて道を開く・・・」
詠唱が終わるやいなや、谷に吹く風が一方向に流れ始めた。草がなびき、木々がざわめく。
「風が・・・道を示してる!」
「行ってみよう!」
風の流れに導かれ、谷の奥へと進む。
だが、すぐに濃い霧が立ち込め、視界が利かない。
「見えないね。」わたしの言葉に、さやちゃんが応える。
「でも、聞こえるよ。風の音が、こっちって言ってる気がする。」
さやちゃんは耳を頼りに、わたしたちは手をつなぎ、進む。
地面の感触と風の流れを感じながら、慎重に歩を進める。
霧を抜けると、目の前に崖が現れた。
下がどうなっているのか、見えないぐらいの高さだ。
風が強く吹き荒れ、足場は不安定だった。
「ロープがある。これ、使えるかも。」
「渡れるかなあ?」
「先にやってみるよ、なっちゃん!」
わたしがロープを張り、さやちゃんがバランスを取りながら渡る。
風がふたりの声をかき消す中、目と手の合図だけが頼りだった。
「やったよ!次は、なっちゃんの番!こっちでロープ、引っ張ってるからね!」
う~ん、さやちゃん、いつも大胆。そんなにうまく行くかな、わたし?
「やったね、なっちゃん!」
「うん、さやちゃんのおかげ!」
なんとか無事に、わたり終えたぞ!
しばらく進む。また、雰囲気が変わったね。
うわぉう、なんだ、あれは?
透明な羽を持ち、風とともに舞う姿は、まるで空気そのものだった。
肩まで伸びる栗色の髪、青い異国風の衣服。
金色の草が揺れ、風が渦を巻くように集まった。
「わたしは風の精霊アキシュアン。ふたりの絆が風を導いた。よく、来ましたね。」
精霊がわたしたちに、何かを差し出してくる。
「風の結晶」って?
「これは、世界線を越えて冒険をする者に必要なの。いずれ、真の冒険が始まるでしょう。」
風が静かに止み、谷に陽光が差し込んだ。
あれっ、アキシュアン、消えちゃった。
「ねえ、なっちゃん。これって、始まりなのかな?」
「うん。きっと、わたしたちの物語の第1章だよ。」
手をつなぎ、谷を後にした。
風の結晶は、胸元で静かに輝いていた。




