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みんなの想い

 放課後。


 校舎の最上階にある屋上へと続くドアを開けると、海風がふわりと頬を撫でてきた。


 潮の香りと、夕暮れの柔らかな光。それがいつもの風景なのに、今日は少しだけ違って見える。


 ――隣に、彼女がいるだけで。


「わぁ……夕日がきれい」


 そう呟いた悠里は、フェンスにもたれて海を見下ろしている。髪が風に揺れて、どこか儚く見えた。


「……こっちの方がきれいだけどな」


「え?」


「いや、なんでもない」


 そんなセリフ、正面から言えるほど器用じゃない俺は、誤魔化すようにベンチに座った。


「ねえ、裕貴くん」


 隣に座った悠里が、俺の肩に軽くもたれかかる。


「……なんだよ」


「……今がね、夢みたいに感じるの。ずっと、こうして一緒にいられるのかなって思っても……ちょっとだけ不安で」


「悠里……」


「だから、今日も一緒にいてくれて、うれしい」


 そう言って微笑む彼女の瞳は、少し潤んでいた。


「……俺もさ、今までいろいろ迷ったけど。悠里とこうして並んでる今が、たぶん一番“自分らしい”気がする」


「えっ……それ、なんか嬉しいな」


「それに、今ならはっきり言える。俺、悠里のこと、本気で――」


「ちょっと待ったー!!」


 俺の言葉をかき消すように、突然ドアが開いた。


「……って、あれ? ほんとにいた。ふたりともラブラブじゃーん」


 現れたのは、五十嵐 累。


 風に揺れる明るい茶髪と、屈託のない笑み。そこに、どこか含みのある影はなかった。


「……五十嵐さん?」


「やっほ、裕貴先輩。佐々木先輩も」


 ふらりと近づいてくると、彼女はベンチの前でぴたりと足を止める。


「なんか、良い雰囲気だったのに邪魔しちゃった? ……でも、確認したかったんだよね。ちゃんと付き合ってるのかどうか」


「……うん。そうなんだ」


 俺が頷くと、五十嵐さんはほんの少し目を細めて――


「そっか。じゃあ……おめでとう、ふたりとも」


 その声は、驚くほどまっすぐだった。


「佐々木先輩、幸せにしてもらってくださいね? この人、見た目はちょっと地味だけど、内面は割とイケてますから」


「ふふっ、わかってるよ。……ありがとう、累ちゃん」


「先輩も、ちゃんとカッコつけてね? マドンナ彼女だぞ~。不安にさせたら、許さないから」


「うっ、気をつけます……」


 五十嵐さんはくるりと背を向けながら、手をひらひらと振った。


「ま、それでもたまにはからかわせてもらいますけど? ……よろしくお願いします、先輩方」


 そう言って、彼女は明るく笑いながら屋上を去っていった。


 その背中には、確かに一抹の寂しさも見えたけど――

 何よりも、友達としての祝福が真っすぐに伝わってきた。


「……やっぱり、五十嵐ちゃんってすごいね」


 悠里がポツリと呟く。


「飾らないで、まっすぐで、でも誰よりも空気読めるっていうか」


「うん。俺も、ちゃんと応えられる人間になりたいな」


 俺たちはもう一度、ベンチに腰を下ろした。


 夕焼けに染まった空の下。繋いだ手に、ほんのりと温かさが残っていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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