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自由な背中

 夕焼けの光が、校舎の壁を赤く染める。


 五十嵐さんの姿が屋上から消えても、しばらくの間、俺と悠里は無言で手を繋いだまま座っていた。


 ――けれど。


「おーい、イチャイチャしてるとこ悪いけどー!」


 屋上の扉が、今度はさらに勢いよく開いた。


 夕日に逆光となって現れたのは――


「……沢田先生!?」


「どーもー、担任の沢田でーす。いやぁ、まさか本当に屋上で青春してるとはねぇ?」


 ニヤッと口元をゆがめながら、先生は歩み寄ってくる。


「い、いや……あの、ちょっと休憩というか……!」


「ふーん? “ちょっと休憩”で手繋いで夕日見てるって、何そのエモい構図。告白シーンの撮影でもしてんの?」


「そ、そんなつもりは……っ」


「やだなー、そんなに動揺されたらこっちが照れるでしょ。で、キスはした?」


「ぶっ!? な、なんでそうなるんですか先生!」


 俺の慌てた声に、悠里まで顔を赤らめて俯いている。


「……ま、まだですけど」


「うおー! まさかの肯定来たー!? ちょ、青春がまぶしい、私の目がぁ〜!」


 芝居がかった動きでバタッと手すりにもたれる沢田先生。


「やっぱりねぇ……あたしが昔から目ぇかけてた甲斐があったってもんだわ。あの陰キャ君が、屋上でマドンナとデート……いやもう成長物語完結しとるがな!」


「完結って言わないでください……まだ始まったばっかなんで……」


「おっと、名言きましたー。うんうん、立派だわ。で、佐々木」


「はい?」


「アンタも、こんな真面目なヤツを選ぶなんて見る目ある。……でも、ちょっと可愛げあるところも残しといてやってね?」


「ふふ、もちろんです。ご主人様、ですから」


「はーいそこ! そういう関係は先生聞いてない! 18禁! っていうか職員室じゃ言えないやつー!」


「な、なにを想像してるんですか先生!?」


「うっさい! でも、マジな話……お似合いだよ、ふたりとも」


 沢田先生はふと声を柔らかくする。


「……だから、変な噂に流されないで、自分たちのペースで進みなさい。ね?」


「……はい」


 俺も悠里も、思わず同時に頷いていた。


「よし。じゃ、そろそろ下校時間。……でも、次に屋上来た時は、ちゃんと映画のワンシーンみたいなキス、見せてよね?」


「なに言ってんですかっ!!」


「ばいばーい!」


 夕焼けを背に、満足げに手を振る沢田先生の背中は、今日いちばん自由だった。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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