青原先輩のデリバリー
佐々木さんを家へ送り届けた俺は、遅刻気味に学校へ到着した。
校門をくぐるなり、職員室前で沢田先生を見つけ、足早に駆け寄る。
「お、朝見なかったから心配したぞ? ……重役出勤か?」
腕を組み、沢田先生は穏やかな微笑みを浮かべる。
だが、その目は「よく来たな」という皮肉を含んだ視線だった。
俺は申し訳なさそうに頭を下げ、佐々木さんの事情を一から説明する。
「そうか……まぁ事情が事情だ、今回は不問にしてやろう。佐々木は休みか、分かった。君は早く授業の準備をしなさい」
「はい、ありがとうございます」
ほっと胸をなで下ろし、教室へ戻ろうとしたその時——。
「よっ、遅かったな!」
春樹がいつもの調子で俺の背中を叩く。
「珍しいな、休むかと思ったぜ」
「悪い、ちょっと色々あって」
そこへ、神木さんが俺の前に立つ。
「そういえば、悠里は? 今日、いなかったけど」
心配そうに周囲を見渡す彼女に、俺は佐々木さんの状況を簡単に説明した。
「……働きすぎ、かぁ。まぁ、私もバイトしてるから気をつけないとね。それより、悠里って……どこでバイトしてるんだっけ?」
神木さんが俺に探るような視線を送る。
ヤバい、メイドって言ったら誤解される……!
「か、カフェだったかな。たぶん……」
「ふーん、そっか。意外と似合いそうだもんね」
神木さんは、すんなり納得した様子で頷いた。
ふぅ……危なかった。
すると今度は、神木さんが頬を赤らめながら、もじもじと口を開く。
「な、なぁ裕貴……今日、一緒に帰らない?」
「いや、今日は——」
「ちょっと待った!」
春樹がニヤリとしながら割り込んでくる。
「今日は俺と裕貴、ジムで筋トレの日なんだよな〜?」
「え、そうなのか?」
神木さんが俺に詰め寄る。
「いや、その……ごめん、2人とも」
俺は申し訳なく視線を落としながら答えた。
「今日は……佐々木さんのお見舞いに行こうと思ってるんだ」
「そうか」
神木さんは少し寂しそうな表情を見せたが、すぐに微笑み直す。
「なら、私も行く」
「お、じゃあ俺も!」
「え、2人も?」
「多い方が楽しいだろ?」
春樹がガハハと笑う。
俺はそんな2人を見て、ふっと肩の力を抜いた。
「……じゃあ、頼むよ」
※
午前の授業を終え、昼休み。
俺は気分転換もかねて売店へ向かっていた。
並んだパンを見るが、どれもカロリー高めで悩む。
「うーん……どれが筋肉に優しいかな」
「おやおや〜? 裕貴くんじゃないか〜」
突然、背後から柔らかい声がかかる。
振り向くと、そこには青原先輩と、1年生の澤部さんが並んで立っていた。
「え、2人一緒に?」
「ふふ、偶然だよ〜」
「わ、私は青原先輩と、たまたま……」
澤部さんが少し照れたようにうつむく。
その反応に、思わず心の中でツッコミを入れる。
(その仕草は誤解を招くからやめようね……特に俺とか)
「良ければ、私たちと一緒にお昼どうかな?」
「え、俺なんかでいいんですか?」
「もちろん。ね、澤部?」
「は、はい! ぜひ!」
「じゃあ、連れていこうか〜。私たちの“秘密の場所”へ」
青原先輩は謎めいた笑みを浮かべ、俺たちを引き連れる。
※
辿り着いた先は、部室棟の一角にある文芸部の部室だった。
「え、文芸部?」
「うん。実は、私たち……文芸部員なんだ〜」
青原先輩が、静かに部室の扉を開く。
中は落ち着いた空間で、壁一面に大きな本棚が並んでいる。
そこには様々な文庫本や分厚い辞典、そして見慣れない同人誌までズラリと揃っていた。
「……澤部さんも小説とかを書いたりするんでしょ? すごいね」
「そ、そんなにすごくないですけど、私、小説書くのも読むのも好きで」
「すごいな……」
そんな会話をしていると、青原先輩が得意げに言う。
「さて、ここからが本題だよ〜」
「本題?」
「これから、私たちがすること——分かるかな?」
俺が首を傾げると、先輩はニヤリと笑って一言。
「デリバリーさ!」
「……え?」
まさかの一言に、俺はただただポカンとしていた。




