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暴れん坊勇者 (後編)

「最初に決めときたいんだけど、『俺』『お前』でいいよな?」

 吉田宗男がルールを決めようと提案した。

「ああ、そのほうがいい。オレ、気ぃ使えねぇやつだし」

 丸山猛があっさり了解する。

「よっしゃ。改めてよろしく頼むわ、マール」

 吉田が丸山を勇者ネームで呼んだ。

「おお、こっちこそよろしくな、ヨシムネ」

 マールは吉田宗男を略して呼ぶ。はじめてそう呼んでもらえてうれしいらしい。子供のようにニコニコしている。

 ルールといってもそれだけのことだったが、お互い心の中で折り合いをつけたようだ。なんとか協力体制が整った。

「すばらしいですね、男の友情」

 イチが鼻腔を膨らませながら言う。

「お前、子供のくせに変な想像巡らすなよ。それにまだ友情が芽生えたわけじゃない。魔王に殺されないためだけの協力体制だ。俺はそれで構わないと思うが」

「そうですね。私もできれば二人には生き残ってもらいたい。命さえあれば……」

「ちょっと待ったあ! 今度の魔王ってそんなヤバげなやつなんか?」

 レイとイチの表情を見て、急にビビりだすマール。

「逃げるのアリっすか?」

 ヨシムネはすでに逃げ腰だ。

「いや、中位悪魔一体と下級悪魔だ。もしかしたらバンパイアが敵側に付くかもしれない。まあ、中位って言っても、お前ら二人が同時にかかれば倒せないこともない」

「いやいやいや、その間、下級は誰が相手するんすか! 他の魔物たちは? 二対一じゃなく、二対三、二対多なんすからね!」

「今、『倒せないこともない』って言ったぞ。奇跡が起きたら倒せるってことだぞ! 起きんのか、奇跡?」

「騒々しいやつらだな。心配すんな。この世界にも勇者は存在する」

 レイが二人を安心させるべく、マーガレットの話を切り出した。本当は彼女の救出というミッションが余分について来るのだが。

「え? そいつは今どこに?」

「魔王に捕らえられている」

「ガーッ! 使えねえ~」

「先にそいつを救出して仲間にしろ。そうすりゃ三対三で戦えるぞ」

「魔王に捕まるくらい弱っちいんすよね、戦力になるんかな」

「お前らでも一人で乗り込みゃ捕まるだろうが。それにここだけの話、その勇者は美少女だ」

「なに!」

「ま、マジすか?」

 レイ自身、勇者マーガレットを美少女とは思わないが、魔王が苗床として見初めた女性である。悪魔から見たらそこそこなのかもしれない。(たぶん魔力量が多いせいで選ばれたんだろうが)

「ああ、お前ら剣士と違って魔法使いだ」

「なら、ケガしても治してもらえんな」

 マールは少し勘違いをしている。

「いや、ふつう魔法使いはヒールなんて使えない。そんなときのために、聖女も準備している」 

「せ、せーじょ!」

「逆から読むとじょせー!」

「レイ様、この二人、めっちゃ気が合ってる」

「だろう? 俺の目に狂いはないさ」

「大丈夫かしら」

 宿の窓から黒いカラスが飛び込んできた。イチに何かを報告しているが、どうやら緊急事態のようだ。

「魔の岸壁(仮)のマーガレットを見張っていたカラスから伝言だそうです」

「なにがあった?」

「マーガレットがいなくなったようです。洞窟へ移送されたのではないかと思われます」

「まだ二日しか経ってないぞ。一週間後じゃなかったのか。こっちはまだ打ち合わせも終わってないのに」

「こちらの動きがバレたか、クイーンが急に産気づいたか。どちらにしろ急がねば」

 レイが皆の顔を見回した。

「聞いてくれ、今回、相手の力量がよくわかっていない。だから、途中で変更が入るかもしれないが、作戦としてはこうだ。二人の勇者が攻め込むと同時に、マーガレットが檻を破って敵を背中から攻撃する。そのために魔力を封じる腕輪は無効にした。で、それでも苦戦するようなら、魔王の背後にバンパイアのクリストフを出現させ、後ろから心臓を一突き。

「おおざっぱすぎません? その作戦」と、イチ。

「というか、背後から狙ってばかりっすよね」と、ヨシムネ。

「オレはいつだってイケイケどんどんだぜぇ」マールは常にイケイケである。

「お前たちにも言いたいことはあるだろうが、ここはリーダーである俺に従ってくれ」

 レイは口元をキリリ結び、窓の外を見た。


 洞窟のそばの木陰に転移した。

 数本の木の向こうには開けた場所があり、そこには大量の魔物たちがこちらを向いて立っていた。洞窟の入り口はやつらを越えた先にある。よく見ると岩山の上にも弓を構えたゴブリンが並んでいる。

「まさかの待ち伏せ? 俺たちの動きってバレバレだったのか」

「その割には規模が小さすぎます。見張りを強化しているだけではないでしょうか」

「となると、女王の産卵の線が近いな」

「二百匹以上いるっすね。ま、俺一人で十分っすけど」

「レイさん、あんだけしかいねえのか? いくら何でも物足りねえぞ」

「洞窟の中は魔法で作られた空間が広がっている。街があって、たぶん何万もの魔物の兵がいるはずだ。まずは目の前の二百、それから魔王軍本体。そいつらを倒してようやくラスボスに会える」

「親玉って、最初に言ってた中位悪魔っすよね。マール、協力忘れんなよ」

「ヨシムネこそ一人で抜け駆けすんな」

「とりあえず洞窟前のあいつらから排除だが」

 レイが皆を見回してから言った。


「久しぶりなんで肩慣らしさせてもらっていいすか?」

 ヨシムネが前に出た。しばらく先頭から遠のいていたため、勘を取り戻すべく、自分で戦いの口火を切りたいようだ。

「しゃあねえ、お前に譲るぜ」

 一番槍をヨシムネに譲るマール。

「マール! 俺をぶん投げろ、できるだけ……ベフッ」

 いきなりマールに殴られ、ヨシムネは顔面から地面にめり込んだ。

「ぶん殴ったが、おまえ、やっぱ頑丈だわ」

「誰が殴れっつった! 投げるんだよ! 『ぶ・ん・な・げ・る』スローイングだ!」

「なんだよ、最初っから英語で言えよ!」

 そういうとヨシムネの腕を掴んで上空に放り投げる。見事というほど真上に上昇していく。

 空中で体勢を整えたヨシムネが剣を取り出して構える。

「氷刃流星雨!」

 必殺技なのだろう。剣の周囲にアイスナイフが無数に生まれ、一気に地上へ降り注いだ。

 無数といっても本当に無数というわけではない。せいぜい百本程度だ。倒せる敵はその三分の一くらいか。しかも技を放った後、落下してくるヨシムネは格好の弓の的だ。

 地上でのたうち回っている男がいた。マールである。

「ギャハハハハ! ひょーじんりゅーせーうだって! アニメの見過ぎだっつうの。ガハハハハ! 殴るときは黙って殴れっつうの」

 どうやら技の名前を叫んだことがウケたらしい。必要以上に笑っている。

「くうう、俺が行った世界ではみんなそうやってたのに」

 どうやらヨシムネ自身も恥ずかしかったようだ。飛んでくる矢や火球を剣で弾き飛ばしながら、顔を赤らめていた。

「ヨシムネが倒したのは三十二匹か。んじゃ俺は」

 そう言ったとたん、マールの姿がぶれた。次の瞬間にはもうそこにいない。

「敵のど真ん中を真っ直ぐ貫いてる。二刀流か。すげえな」

 落下しながらヨシムネが見たものは、まるで暴走トラックだった。

「マールが持つ双剣は」

「ああ、俺が新しくプレゼントしてやった。二振りともそこそこ切れるぞ。特に魔物はな」

 マールが通り抜けるだけで、切り落とされた魔物の手足が宙に舞う。そのまま壁を突っ切り、巨大なオークの前に躍り出た。

「マール! 今の技名はなんというのだ!」

 無傷で着地したヨシムネが大声で聞く。

「んなもん考えてねぇよ! だが次は、必殺奥義『流れ打ち』」

 オークの右脚に向け、二本の短刀を連続で叩きつける。何度も何度も。

「おおっ、あれが玄海の暴れん坊、無法丸の『流れ打ち』か。あのオークの硬い皮膚が裂けてきたぞ」

 ヨシムネに当てられて、マールも技に名前を付けたようだ。所詮は十七歳、やはりやりたいのである。

「え? あれって祇園太鼓に見立てているのか? 道理で、荒々しい中にもどこか花がある攻撃だ」

 玄界灘に『流れ打ち』とくれば、福岡は小倉こくらの祇園太鼓である。レイも興味があるようで、思わず前のめりになって見ている。

「レイ様、おっしゃっていることがわかりません!」

「イチよ、いいから見ておけ。次の技は」

「『勇み駒』!」

 さらにマールは二本の剣を連続で叩きつける。そのたびにオークの足から血が糸を引いて飛んでいく。

「激しくも華麗、野蛮に見えて優美! これぞ度胸千両の真骨頂だ!」

 レイは興奮を隠せずに、握りこぶしを作って叫ぶ。

「そして最後は『暴れ打ち』だあ!」

「あの、レイ様? 技の違いが判らないのですが。さっきからおんなじように切り付けてるだけですよね?」

 イチが困ったように首をかしげる。

「しかもオークはまだ倒れねえ!」

 ヨシムネが焦れるようにつぶやく。

「効いてないのですよね?」

 イチの首がさらに傾く。

「よし! とどめだ! とぅっ!」

 そう叫んでマールが飛び上がる。同時にオークがようやく膝をついた。その脳天に向かって右手の短刀を振り下ろす。そのまま股間まで一気に切り下げた。

 オークの体が縦に真っ二つになり、左右に分かれて倒れた。

「やったぜマール!」

「なぜ最初からそうしないの?」

 イチは首を戻しながら言った。

「ふうっ」

 残心のマールは、他のオークに囲まれていることに気付いた。

「ほら、早く倒さないから」イチがため息をつくように言う。

「なあに、あいつの本領はこれからっすよ」

「お前も見てないで早く行けよ」

 レイにそう言われてハッと我に返るヨシムネ。だがその時、マールを囲んでいたオークたちが、腹を割られて一斉に倒れた。

「ガハハハハハ! ショーは終わりだぁ! これからは数を倒すぞ!」

 そう叫びながらワーウルフの集団に躍り込んでいくマール。ヨシムネも周囲の敵を斬り飛ばし始めた。

「囲まれていたのは私たちも同じのようです」

 イチが無造作に右手を振りながら言った。横から殴りかかってきたゴブリンの首が飛ぶ。

「木の陰から回り込んできたのか。イチ、お前が手を出すのはいいが、なるべく減点にならないようにな」

 勇者に代わって魔物を倒しても、正当防衛ならポイントがマイナスになることはない。だから相手が攻撃してくるのを待っている必要がある。なかなか神経を使う作業ではあるが、イチにはもう慣れたものだった。

「承知!」

 そう言ってイチはレイの前に出た。


 レイは目の前で激しい戦闘を繰り広げるイチを眺めていた。ときどきレイに切りかかって来る魔物がいるが、体の周囲に展開した逆相空間のせいで、レイへの攻撃はすべて攻撃者自らが受けることになる。

 洞窟前広場の魔物も数えるほどになり、ほどなくヨシムネの風刃魔法で全滅した。

「洞窟から応援は出て来ないっすね」

「つまり今のは時間稼ぎってわけだ。中で大軍勢が待ち構えてんじゃねーか?」

 時間稼ぎというのはレイも同じ意見だ。その理由が、はたして軍備を整えるためか、わなを仕掛けるためか、それともクイーンが、マーガレットに卵を産み付ける時間なのか。

「中に入ればわかるさ」

もしマーガレットに手を出せば彼女は即座に反撃する。彼女はおそらく火球を使うだろう。それも無限連発で。当然中の街は火の海となる。

「うわあ、マジ街じゃねっすか」

「どんだけ広いんだ、ここ」

 街はとても穏やかだった。それはそうだ。誰も出歩いていないのだ。家に閉じこもっているのか、それともどこか他の場所へ避難したか。

「これが中位悪魔の空間魔法だ」

「でもこれ、建物とかはマジもんっすよね」

 空間は魔法で想像するが、さすがに建物は魔法で建てられない。

「ああ。俺と違って大工の友人が多いんだろう」

「かはは、レイさん、まるで大工以外だったら友達いそうな言い方じゃん」

「お前、しばく」

「ま、待ったぁ、冗談だってば。なんならオレがダチになってやっからさぁ。怒んないでくれよお、マジ怖ぇんだわ、アンタ怒ると」

「ふん、何も知らないのね。レイ様のお友達は百柱を越えているわよ」

 イチが腕を組み、胸をそらしてレイの交友関係を自慢する。百人ではなく百柱と言った。

「は? はしら?」

「レイ様のご交友関係だけど、お友達は全員が神様よ」

「えっ、レイさんにとって、ダチは神に等しいってわけ?」

マールの勘違いにレイも思わず笑ってしまった。たしかに、もし親友と呼べるやつがいれば、それは天の神様よりも大切なんだろうと思う。

「イチ……か」

「はい? なんでしょうか」

 親友と考えて思わず口から出たイチの名前に、自分でも驚きを隠せない。

「な、なんでもないない。というか、なんで魔王軍が出てこないんだって思って」

「レイ様、刮目して丘の上をご覧ください」

 レイは言われた通り顔を上げて前方を見た。

「どひゃひゃ! いつの間に? って上空にもワイバーン?」

 丘の上、城の前には武装した魔王軍が整列していた。四足や六足歩行のものはとげの付いた鎧を着こみ、二足歩行は手に武器を持っている。さらには翼竜が空を舞い、おそらく地中にはワームやモグラ系の魔物もいるのだろう。

「レイ様が私の名をつぶやいたとき、突然現れました」

「なに? まさかお前の名前がトリガーか」

「そんなわけないじゃないですか。たまたまです」

 レイはまだ動揺が収まっていなかった。


「クッソ! 予定が狂ったが、先にクリストフを呼ぶ。出てこい!」

 レイの呼び声に応えるように、目の前に四人の人影が現れた。

「うおっ! 敵か!」

「ヨシムネ、味方だ。裏切るかもしれないけど」

「裏切りませんよ。まだ死にたくないですからね。で、ここはウリンとロアが作った空間ですか?」

 クリストフが街を見渡してた感心している。あまりにも巨大な空間だからだろう。

「そっちの二人は屋敷で会ったな。で、こっちが屋根の上に潜んでいたやつか」

 レイは三人の男たちと、一人一人目を合わせる。

「はい。ショア、モドヴァ、ベセラと言います。私の眷属なので今はバンパイアの姿をしていますが」

 クリストフはバンパイアの姿と言ったが、人間の姿とほぼ同じである。細身の女、大柄のお男、がっしり系で背の低い男。

「あなたたちが裏切らないという保証はあるのかしら」

 イチがクリストフに問いただす。

「うん? さては君が元バンパイアか。たしかにもう悪魔の臭いはしないな。しかしばかなことを聞くものだ」

「どういうこと」

「考えてもみろ。私たちがレイさんの側に付けば、あの魔物たちにとっては脅威となる。だが、我々があちら側に付いたとして、君たちは我々を脅威と感じるか?」

「あ、それはない」

「だろう? これこそ確実な保証だ」

 クリストフが胸を張って言う。

「みょ、妙に説得力がある理由だわ……わかった、信じる」

 イチが引き下がった。

「奴らから動かないようなんで、こっちから動くか。クリストフは剣で、眷属たちは弓だな」

「ベセラはガーゴイルなので、矢を使い切っても空を飛んで翼竜を攻撃できます」

「え? ガーゴイルって石像だと思ってた」

「ええ、間違いありません。あいつは石像ですが、なにか?」

「えっ? いや、バンパイアの眷属って、血を吸ってなるものかなって思って。だって石像って、血、ないじゃん?」

「はっはっは、そんなことですか。モドヴァはストーンゴーレム、ショアはホムンクルスですよ。おかげでほら、私の牙は二本とも折れてありません」

 牙がないのはレイも気付いていた。それにしても、ホムンクルスの硬さはわからないが、どちらにしろ全員血は流れていないはずだ。

「クリストフ、お前、なにもんだ?」

「ちょっ、レイさん、何今頃言ってんすか。何者かわからないで仲間にしたんすか?」

「レイさん、私は人形遣い。人血アレルギーのバンパイアで人形遣い。そして、決してあなたを裏切らない。それでじゅうぶんでは?」

「わかった。十分だ。じゃあ、まずは上のあいつらを落としてくれ」

 レイが納得した顔で空を指さす。

「御意」

 眷属たちはすべて理解していたのか、すぐに行動を開始した。

 三人は空に向けて矢を放つ。強弓だった。一撃必殺でワイバーンが落ちる。

『ウォーッ』

 丘の上の敵から鯨波が上がった。戦闘開始だ。


 最終的にはマーガレットと協力し、城にいると思われる悪魔の夫婦を倒す予定だが、そのマーガレットにまだ動きはない。

どちらにしろ丘の上の魔王軍に対処しなければならないが、この街には城まで直線で結ぶ大通りがないため、あの軍勢が一気に押し寄せてくることはないだろう。裏を返せば、街中には相当数の伏兵が潜んでいるはずで、こちらが道を進めば間違いなく死角から襲われる。

「マール、ヨシムネ! 薙ぎ払え! 城までを更地にするぞ」

「町を破壊してかまわないんっすか?」

「全然問題ない! 思う存分やれ!」

「そりゃありがてえ! いっくぜぇぇぇ」

 マールが剣を空間にしまい、左右の手首を合わせ、何かを掴むように胸の前で構えた。手の間に光球が生まれる、それをゆっくりと右わきに引き寄せる。

「おい、それって」

「か~め~は~」

「ばか! 技名を言うな! 無言で撃て!」

「ええ? 気分が出ねえじゃん! まいっか、そりゃあ!」

 光球を前方に押し出す。それは魔族の軍勢に向かって高速で飛んでいく。衝撃波がその光球を追い、時間差で周囲の家屋を消し飛ばしていく。

「ああっ! マール、それ、俺にも教えてくれ!」ヨシムネが目をキラキラさせながらマールが放った技を見ていた。

「あん? 実はただの火球だ。ああやってノリノリでやると、なぜかすげえ威力になる」

『ドーン』と地響きがして、敵がいる丘の斜面が崩れた。

「なっ! まじか! オレもやってみよう」

 そう言ってヨシムネも長剣をしまい、同じように胸の前で手首を合わせる。やはり彼も勇者である。マールと同じように光球が出現した。

「技名言っちゃうとなぜかレイさんが怒るんだよな、よし。ま~め~ま~め~まっ」

「まめまめって……それもギリでアウトだろうな」

 ヨシムネの光球は少しずれて飛んでいく。先ほど難を逃れた家屋が無慈悲に消滅していく。

『ドーン』

「あっくそっ。ヨシムネの方が威力あるじゃん! 今度ぁ負けねえぞ! どりゃあ!」

『ドカーン』

「やるじゃんマール、よし、みてろよ。おどりゃあああ!」

『ズババババーン』

「ひょう! ヨシムネ、おめえ、すげえ魔力だな。ちぇすとおおおお!」

『バガガガーン』

「ねえ、レイ様、これ、私たちが加勢に来る必要、ありました?」

 クリストフがなんだか申し訳なさそうに聞いてきた。眷属たちも今はおとなしく、二人のバカ勇者の芸を見て拍手を送っている。

 レイたちがいるところから魔王軍の場所まで、広範囲に更地ができあがっていた。瓦礫すら落ちていない。敵の軍勢はまだ大量に残っているが、もはや戦意を喪失し、逃げ腰になっている。

残っていた家が熱波の影響を受けて燃え始めていた。魔物の大工や職人たちが何年もかけて築いた街が、たった二人の男に、わずか三分で消し飛ばされた。おそらくこの空間史上初めての大惨事だと思う。

「マール、ヨシムネ、ちょっと休憩!」

「ウィーッス」「アイアイサー」と答える二人も、さすがに疲れた顔をしている。

「レイ様、そろそろ出てきますかね」

「ああ、二匹の怪獣が暴れて街が壊されたんだ。もうスーパーヒーローが現れるタイミングだろう。その前にイチ、どうも暑くてかなわん。火災を止めてくれないか?」

「えっ? 私がですか? 街の両側がすでに火の海になっています。これではさすがに、魔法でどうこうできる限度をはるかに超えていると思いますが」

「できるさ。冷やしてやれば火は消えるもんだ」

「ええ! 氷河期でも呼ぶのですか?」

「それ、いいね。イチ、両手を出してみろ」

 イチは首をかしげながらも、言われた通り、両手をイチに差し出す。そのてをいきなりぎゅっと握られ、心臓がドクンと波打った。その音を聞かれたのではないかと思い、イチは頬をピンク色に染めるが、その顔をレイに正面から見つめられ、さらに朱を増していく。

「今パワーを注入している。そうしたら能力を全開放しろ。そして氷河期を呼べ。それで火は消える」

 レイはそういうが、イチは心臓の極大鼓動が止まらない。パワーの注入のせいかもしれないが、それが恥ずかしくてどうしようもない、目の前がぐるぐる回り始める。

「レイ……様……」

「よし、完了だ。イチ、やってみろ」

 レイに身体をくるりと回され、イチは静まり返った魔王軍に向き合った。


 イチは目を閉じて大きく深呼吸を繰り返す。おそらくレイのたぎったエネルギーが体の中心部で暴れているのだろう。

 目を開いたイチは両手を左右に広げ、燃え続けている街並みに向ける。

「大氷河!」

 別に声に出す必要はないのだが、何かを記憶するときにも音読がいいという。精神をそれに集中するには、やはり声に出した方がいいと思う。

 悪魔が創造した空間の中ではあるが、空から、大地から、周囲のあらゆるところから魔力が流れ込んでくる感じがあった。それが体の中で変化し、両手の指先から飛び出ていく。白い光のようなものに包まれていることをイチは感じていた。ただ、それが光なのかどうかはよくわからない。

「マジかよ……」「エグすぎだろ」「これで元下級悪魔だというのか」

 いろいろな声が飛び込んでくる。それを聞き分けられるほどに、イチは落ち着いていた。

「イチ、これ以上は、寒いからもうやめて」

 最後にレイの声が聞こえた。魔法を止めろと言うことだ。イチは静かに魔力を絞っていく。

 

「ええっ」

 周囲を見てイチが小さな叫び声をあげた。一面が氷の世界になっている。レイたちはどこから出したのか、毛皮のコートを着てマフラーを巻いている。吐く息が白い。

「加減を……ズズッ……知れ……ズビッ」

 鼻をすすりながら叱るレイ。だがその顔は優しく笑っていた。

「ごめんなさい! 私」

 イチが謝罪の言葉を発したその時、その声にかぶせるように大音声が響いた。

「キサマらぁ! オレ様の街をこんなにしやがってぇ!」

 魔王軍の前に、身長三メートルほどの大男が二本足で仁王立ちしていた。腕は左右に二本ずつある。

「熊と虫がくっついたような顔だな。見るからに魔界出身って感じだ」

「ウリンです」

レイのつぶやきにクリストフが答えた。

 そのウリンを先頭に、魔王軍が崩れた丘の斜面を駆け下りてくる。士気は高そうに見えないが、勇者以外の人類が対応できる軍勢ではない。


「なあレイさん、俺たちってあれに勝てるんすか?」

 ヨシムネが頼りない声で言う。

「剣を交えてみて、勝てそうにないと思ったら尻尾を巻いて逃げ帰ってこい。誰も笑うやつはいないよ」

「チッ煽りやがって。ヨシムネ、負けるわけにゃいかねえぞ」

 ウリンが速度を落とし、数百メートル先で停止した。彼のスピードについていけない魔物の軍勢が、ばらばらと遅れて集まって来る。

 小型の魔物たちが大きな鉄製の檻を抱えて前に出てきた。六畳はありそうだ。

中に人間の少女の姿がある。言うまでもなく勇者マーガレットだ。

「レイさん、ありゃ誰だ?」

 マールが目を凝らしながら檻の中を見ている。

「この世界の美少女勇者、マーガレットだ」

 マールもヨシムネも勇者なので目がとてもいい。二人はマーガレットから視線を外し、お互いを見ながら話し合っている。

「レイさんは美少女っつってるけど、あれってどうよ?」

「マールに賛成の一票。イチちゃんのほうがよっぽどきゃわゆい」

 自分を引き合いに出されてうれしそうにニヤけるイチだが、それを無視してレイが言う。

「あいつ、なんで檻の中で大人しくしてるんだ? 挟み撃ちにできなくても、敵陣を錯乱することはできるだろうに」

「レイ様、彼女、首輪がつけられています。もしかしてあのせいで魔法が封じられているのではないでしょうか」

「ほんとだ。あのバカ、せっかく腕輪のほうは解除してやったのに」

「戦力じゃなく、ただのお荷物になっちゃいましたね。マールたちが戦っているすきに、私が行って救出します」

「いや、待て。……おい、マール、話がある」

「ん? なんだいレイさん」

 レイは空間から、回転ずし一貫ほどの小さな赤い宝石を取り出した。

「マール、お前、あの檻に近づいていき、二百メートル以内に入ったら中に転移しろ。そして、この宝石を彼女の首輪に押し当てるんだ。できるな?」

 マールにプレゼントした空間転移魔法は、半径二百メートルしか移動できない。

「お安い御用だけど、なんか意味が……やっぱいいわ。たぶん聞いてもわかんねぇ」

「さすがに分かると思うが、まあいい。ヨシムネと二人でタイミングを相談しろ。頼んだぞ」

「らじゃあ!」

 マールがおどけてレイに敬礼する。この能天気さは、予測不能な現状においてなぜか心強い。マールなら最悪失敗して命を落としても、『まあいいか』と思えるような安心感がある。

「ヨシムネぇ、オラァちょっくら密命を帯びてあの檻に特攻かける」

「ああ、知ってた」

「バッキャロー、それじゃ昔から知ってるみたいじゃねぇか。ちげぇよ、そこは『聞いてた』って言うんだよ」

「レイ様、やはり私が行った方が」

 二人のやり取りを見て、イチが不安のあまり変顔になりながら言う。

「いや、ここは若い奴らに任せよう」

「私の方が三歳も年下なんですけど」

「はっはは、そうだったな。お前があまりにしっかりしてるんで、もっと上かと思ってしまったよ」

「誉め言葉と受け取っておきます」

「いや、ガチで褒めてるつもりだけど」


「マール、さっきのやつ、俺を投げ……スローイングするやつを頼まあ」

「おう! だが必殺技名を叫ぶのはやめてくれよ。笑っちまって腹に力が入ら……いかん、思い出しちまった、うぷくくく」

「俺がいた世界じゃあれが標準なんだよ。俺だって恥ずいんだぞ」

「あれが標準? もし乱戦になったら、あちこちで技名を叫びあってんのか。ぐふう、あかん、想像した。腹痛てぇ」

「やめろ、そのまま腹下しちまうぞ。いいからとっとと投げろ」

「わあったよ。いくぞ、そりゃああああ!」

 腕を掴んだマールに空高く放り投げられ、ヨシムネは剣を取り出して身構える。

「氷刃流星雨!」

 ついクセで技名を叫んでしまった。一瞬しまったと思い、地上のマールを見る。

「なにが自分でも恥ずいだ。もう生活の一部になってんじゃん」

 などと言っているが、大笑いしている様子はない。そんなマールが魔王軍に向けてダッシュした。ヨシムネは慌ててアイスナイフを魔物の軍勢に放つ。

「もう一発、氷刃流星雨!」

 上空からヨシムネの援護を受けて、マールは一直線にダッシュする。目標は(美)少女が囚われている鉄製の檻、いや、その中だ。

 魔物の軍勢から矢や風刃、小型の火球などが飛んでくるが、取り出した二振りの短剣でそれらを打ち払い、ひたすらに走る。今回で二度目の魔王退治だ。パワーも前回よりアップしてもらっている。なにより転移魔法が使える。並みの攻撃では今のマールを止められるわけはない。

「あの悪魔が大人しくしてくれてりゃな」

 ちらりとその魔王に視線を移す、ちょうどマールに何か攻撃を仕掛けようとしていた。

 マールは檻までの距離を目測する。まだ三百メートル以上ある。

「かまわねえ、転移!」

 どうやれば転移魔法が発動するのかわからなかったため、ヨシムネのように声に出して叫んだ。

「よせマール! 無理だ! 檻まで二百メートル以上あるぞ!」

 地上へ落下中のヨシムネが叫んでいる。

「ノー・プロフェッショナル!」と返事を返し、マールの姿が消えた。

「それを言うならノー……、あれ? ノー・プログラム?」

 ヨシムネが地上に激突して地面が揺れた。落ちた本人にけがはなく、「ノーなんだっけ?」とつぶやきながら頭をひねっている。

 マールが二百メートル先に出現した。案の定牢まではまだ五十メートル以上ある。

「ワンモア・ブリーフ!」

 再びマールの姿が消える。一粒二百メートルなら、二回繰り返せばいいだけだ。――魔力はそうとう消耗するが。

マールが現れた先は牢の中、勢いがつきすぎており、反対側の鉄格子に激突する。

「ぶっしゅぅぅ」と、額から血が流れるさまを、口で言っているマール。

「マジパねえな、純度百パーのアホだ」

 ヨシムネがそんなマールにエールを送っていた。


「がああ、びっくりしたぁ。あんた、異世界の勇者だね? レイさんに呼ばれた」

 檻の中に突然現れた男にマーガレットが言った。鉄格子に激突してかなり痛そうだ。

「ってぇ! この檻、鉄じゃねえな。マジ固てぇ」

 周囲の魔物が突き込んでくる槍を避けながらマールが言う。

「アタシ、アンタよりアホだって言われてんだけど。ちょっとへこむわ」

 頭にできたたんこぶを抑えながら、ひょいひょいと槍を避けるマールを見ながらつぶやくマーガレット。

「あ、でも、おまえのこと美少女っつてたぞ、レイさん」

 レイの冗談をまじめに伝えるマール。マーガレットの頬が少し赤くなった。

「それはいいけど、封魔の首輪を付けられちゃってさ、アタシ、力が出せないのよ、これ、壊してよ」

 そう言ってマーガレットは顎を突き出す。まるでキスを迫られたようで、マールが後ずさり、そのせいで槍の穂先が横っ腹の肉を裂いた。

「いでぇ! これ預かってきた。く、首輪に触れれば解除できるってよ」

 そう言って宝石をマーガレットに投げる。

「おっ、あんがと! こんなのあるんだ」

 空中でパシリと受け取り、素早く首輪の効力を解除するマーガレット。

「ううう、血が止まんねえ。どうなってる?」

 マールがえぐられたわき腹を押さえてうずくまる。

「待ってて」

 マーガレットがそう言うと、檻の中から外に向け、火球を連射し始めた。

「多連装ロケットランチャーかよ……」

 マールも呆れるほどの威力と連射速度。魔王軍がたちまちパニックになる。

 檻の格子も吹き飛んでいた。マーガレットは火球の発射をいったん止め、マールの腕を自分の首に回して肩で支える。そのまま格子の切れ目から外に飛び出し、レイたちがいる方へ向かって一目散に駆け出した。

 マーガレットはちらりと魔王の動きを確認する。もう一人の勇者らしい剣士と、ガーゴイル、ゴーレム、魔導人形が戦っているが、かなり劣勢のようだ。

「この人をレイさんに預けて、早くアタシも参戦しなきゃ」

先ほどの火球の連射の影響で、他の魔物たちはまだ混乱しているようだ。そこらで上がる煙の中を駆け抜け、二人はレイのもとに戻ってきた。

「マール、お疲れさん。マーガレット、ご苦労だった」

「すみませんイチさん、アタシこんなん付けられちゃって、力が出せなかった」

 マーガレットが悔しそうに首輪を触る。レイはマーガレットの傍に寄り、痛みで顔をしかめているマールを受け取り、同時に首輪を外してやった。

「こんな簡単に?」

 あっけにとられているマーガレットを無視し、地面にマールを横たえる。

「がああ、ちったぁ優しくしてくれよ」

「ちょっと待ってろ、イチ、聖女を呼んでいいか?」

「はい、いいも悪いもレイ様のお役に立てて、彼女も喜ぶと思います」

「よし、聖女よ、来い!」

 レイの前の空間が一瞬ゆがみ、三十過ぎの太った女が現れた。

「「えっ?」」

 イチとその女が同時に声を上げる。

「ど、どこよ、ここ? 何が起きたの!」

 女が半ば狂乱状態できょろきょろあたりを見回している。

「あ、あなたは誰? 聖女はどうしたの?」

 女の次に驚いているのはイチである。どうやら聖女とは違う女性が呼び出されたらしい。

「ああっ、あんた副看護師長のローズマリーじゃん!、ブレスト中央病院の」

 どうやらマーガレットの顔見知りらしい。

「アンタは勇者じゃないか。魔王軍にとっ捕まったって聞いたけど。もしかして、ここが魔王国? なんで私がこんなとこに」 

「ああ! その指輪! なぜあなたが付けているのですか! しかも左手薬指に」

 イチが女の左手を指さしている。

「えっ? 指輪? もしかしてこの指輪のせいなのか? おのれイルゼ! こんなもの私に押し付けやがって」

「それよりなぜあなたが? その指輪は聖女イルゼさんに渡したものよ」

「ヤンキーを半殺しにして病院へ担ぎ込んだ女って、お前か? イルゼが不気味な指輪を手渡されたと報告してきたんで、私が預かってたんだよ。それより」

「返してください」

 イチが女に飛びつき、指輪を抜き取る。

「レイ様、送還していただいて結構です」

「えっ! ああ、そうか」

 その女、ブレスト中央病院の副看護師長が皆の前から消えた。

「申し訳ございません、レイ様。さっきの女が聖女から指輪を奪ったに違いありません」

「いや、まあ事情はだいたい想像できる」

「おい、それよりせーじょは来ねえのか……よお」

 地面に寝かされたマールはかなり苦しそうだ。

「はあ、仕方ないな」

 レイはそういってマールに回復魔法をかけた。ほんの一瞬で傷がふさがる。

「す、すごいな。聖女いらないじゃん」

 マーガレットがびっくりしているが、

「俺が手を出すとなぁ……査定に響くんだよな」

「レイさん、事情は知らねえけどさ、できりゃ今後もあんたが直接治してくれねえかな。一番早いし体も楽だ」

「ああ、考えとく」レイはそう言ってから、空間より取り出した回復ポーションをマールに手渡した。

「あ、あっち応援に行かなきゃ」

 マーガレットが魔王の方へ走っていき、マールが慌ててその後を追った。

 入れ替わりでクリストフの眷属たちが帰ってきた。いろんな個所が欠けている。レイが直そうとすると、

「いや、ほっときゃ数日で修復しますから」

 と、クリストフが遠慮したのだが、石像の修理は勇者の手伝いには当たらないと判断し、その場で直してやる。

「ありがとうございますレイ様。私たちは弱いのでウリンの相手はできませんが。他の魔物どもは蹴散らしてごらんに入れます」

 と言い、ぺこりと頭を下げたクリストフが飛び出した。ガーゴイルたちも後に続く。

「で、クイーンはどこだ?」

「そのうちウリンを助けに城から出てくると思います」

「じゃあもうすぐだな」


 イチの魔法で凍り付いていた街は、魔王軍の魔法により大方溶かされており、現在それほど足場は悪くない。

「おおっ! お前がこの世界の勇者か! よろしくな! 俺はヨシムネだ」

 駆けつけたマーガレットに挨拶をするヨシムネ。マーガレットも笑顔で返す。

「アタシはマーガレット。よろしくね!」

「なんだ、近くで見るとなかなか可愛いじゃん」

「ええ? まじでぇ」

「まあな」

「なによ、まあなって」

 勇者三人が戦っている相手、ウリンには四本の腕があり、上二本で剣と盾を。下の二本は両手で槍を握っている。そのため非常に攻めにくい。ただ、たまに剣と槍がぶつかって邪魔をしあう。その隙を見て剣や魔法を叩きこむのだが。

「剣は届くが魔法は盾に吸い込まれるな」

「あの盾、空間魔法が付加されてんぞ」

 火球やアイスナイフなどの魔法攻撃はすべて盾が吸い込んでしまう。おそろしい空間魔法の使い手だった。

「アタシ一人でこいつと戦うはずだったなんて。絶対無理」

 マールやヨシムネがこの世界に呼ばれる前、マーガレットは自国ブレストの軍勢を引き連れ、一度討伐しに来ていた。だが魔物の力量の方が数段上であり、ほぼ壊滅状態となる。

その際に、人間の姿に擬態したウリンから降伏を勧告され、それに従ってマーガレットは捕虜となった。

「人間の姿の時はまだ何とかなりそうな気がしてたんだ」

 そう言いながら盾を避けて振るった剣が、ウリンの脇腹をかすった。その隙をつき、マールが度胸千両打ちを足に仕掛ける。ヨシムネは長剣で槍をはね上げる。

 連携が取れているというわけでもないが、三人の勇者はそれなりに善戦していた。この調子ならいずれ致命傷を負わせることも可能、そう思っていたが。

「もう一匹出やがったぞ!」

 マールが叫ぶ。

「メスのほうか? あっちのがでかくないか?」

 ヨシムネの言う通り、ウリンより一回りほども大きいロアが登場した。


「ロアよ、無事終わったか」

「ああ、その娘が逃げ出したのは残念だったが。あん? 封魔の首輪まで破壊されておる! ウリンよ、敵は何者じゃ! 勇者だけではないのか?」

 クリストフたちにより倒された魔物の死骸を踏みつけ、ロアが甲高い声を発しながら歩いてくる。

「我らが天敵の手の物じゃ。入口の方に二匹おるだろう」

 そう答えたウリンの右脚から血が噴き出る。ヨシムネの突きが入ったのだ。

「ウリン、もうよい! この空間を放棄せよ。維持しておると力が出せぬであろう。人間ごときに後れを取るウリンなぞ見とうない」

「ふん、わしはまだまだ余裕よ。それよりロア、入り口の、娘の方には気をつけよ。すさまじい魔法を使うぞ」

 その言葉を発し終わったタイミングで、マーガレットが槍の柄で弾き飛ばされた。

「それはそうと、この辺りに散らかっておる死骸は誰の仕業じゃ」

 着地したマーガレットがロアに向け火球の連射を放つ。それを魔法で弾き飛ばしながら、ロアが涼しい顔で言う。

「一年前この星に現れたあのバンパイアよ。神に寝返りおったわ」

 クリストフがこの星に飛ばされてきたことは、ウリンたちも把握していたようだ。

「バンパイアにしては力がありすぎぬか?」

 向かってきたマールに強風を叩きつけてロアは会話を続ける。

「二体の石像と人形を手なずけておる。はて? そういやどこへ消えた?」

「よいわ、バンパイアごとき。それよりあの娘じゃな。で? 男の方は?」

「娘の従者ではないかの? あやつからは魔力を感じぬ。人間ではなさそうじゃが」

「よいわ。まとめて片を付ける」

 ロアがイチを目指して走り出した。


「レ、レイ様? なんか、こっち向いて走ってきてますけど」

 イチが後ずさりながら言うが、その声は明らかに震えていた。

「ラッキー これで正当防衛だ。あいつらが倒すよりポイントは低いけど」

「いえ、そうじゃなくって、私、無理ですう」

 イチが泣きそうになってレイを見る。接敵まで十秒かからないだろう。

「力を解放したお前なら大丈夫だ。それにアイツは下級で、たぶん出産直後だ」

「え? そうなんですか? でも」

 レイが突然イチを抱きしめた。

「またパワーを注入してやる」

「レ、レイ様? さ、さっきと、あの、方法が、ちが……う……」

 その時間はイチにとって、永遠に長いようでもあり、刹那のようでもあり。

「よしオッケー! ちょうどヤツも来た。行ってこい!」

 レイがイチを押し返すと、先ほどのように体をくるりと回された。いや、それより、ロアがもうすぐそこに迫っている。

 イチは咄嗟に左手を向けた。そこから青い光がロアに向かって走る。

「くっ」

 ロアが防御魔法を展開するが、体ごと弾き飛ばされた。

「す、すごい」

 転がるロアを見てイチは自分の力に驚き、思わず声を漏らした。

「ロアーッ」

 この光景を目にしたウリンが叫ぶ。だがその隙を見逃す勇者たちではない。ヨシムネの長剣が槍を持つ手を深く切り裂き、マーガレットがその槍を遠くへ弾き飛ばした。マールが脚に双剣の連打を入れる。

「あいつは脚ばっかだな。しかも効いてないし」

 レイがつぶやく。

『ドスッ』っと鈍い音がしてイチが腹に蹴りをもらった。相当な体格差だが、イチの体は少し浮いただけだ。

 イチはその場でしゃがみながら回転し、ロアの軸足を払った。そのまま尻から落ちたロアの腹を踏みつけに行くが、体を捩じって躱される。イチが踏み抜いた石畳の周囲に大きなひびが走る。

 二人の戦闘はレイの目の前で行われている。ロアの目が小さく動いてレイを見た。その瞬間にはもうレイの姿が十メートル先に転移している。

 レイは攻撃を受けても平気、というか、その攻撃がそのままロアに返る仕組みなのだが、今はイチの邪魔をしたくなかった。相手は下級だと言え、悪魔との対決経験は必ずイチの糧となる。

「ただの下僕か」

 ロアがつぶやいて再びイチに前蹴りを入れる。イチは腕でそれを流しながら前に踏み込み、股間を蹴り上げた。

 痛みに顔をゆがめ、前のめりになるロアのあごに、渾身のアッパーカットを見舞う。

 とことんまで肉体強化の魔力を乗せたパンチだ。ロアは後ろ向きに二回転して地面に落ちる。

 そこへアイスニードルを打ち込み、ロアの六本の手足を石畳に縫い付けた。

「イチ! 勝負ありだ。おめでとう」

 レイがニコニコ笑いながら手を叩き、残心のイチへ歩いて行く。

「ロアーッ」またしてもウリンの叫び声が響く。

「クッ、使徒め! さあ殺せ! 妾は死してもこの心はこの世に残り、必ずキサマに復讐を果たす」

 まるで呪詛のような言葉を吐くロアだったが、次の瞬間その表情が凍り付いた。

 魔物を蹴散らした後雲隠れしていたクリストフだが、この場に眷属の三体を引き連れて戻ってきたのだ。しかもその腕にはバレーボール大の卵が三つ、しっかりと抱かれていた。

「バ、バンパイア! キサマ、それが何かわかっているのかぁ!」

 ウリンが叫び、同時にマールが脚に切りつける。

「レイさん、城の寝室にありました」

 クリストフがニコニコしながら報告する。

「よし、やっていいぞ」

 レイがそう告げると、クリストフは抱えた卵を一つずつ石畳に落として割っていく。

「ああああああ」

 ロアの口から声にならない呻きが漏れた。

 ガーゴイルが火炎を吐き、三つの目玉焼きが出来上がった。

「おい、あれ、なにやってんだ?」と、マールの声が聞こえる。

 クリストフがもう一度レイを見る。

「遠慮することはない」

 その言葉が合図となって、ガーゴイル、ストーンゴーレム、ホムンクルスの三体が、這いつくばって目玉焼きを食べ始めた。

「レ、レイ様? 悪魔のタマゴも黄身と白身があるんですか?」

 イチがその光景に驚きつつも、胸をよぎった疑問を口にする。

「種族によるんじゃない? 料理研究家じゃないからわかんないけど」

「そうですね。って、あれ!」

 目玉焼きをがっついていた三体から光があふれ出す。クリストフが期待するような目でその光を見守っている。

「予測通りの結果だな、クリストフ」

「ははっ、レイ様! この身が生れ落ちてから初めて味わう幸福です。なんとお礼を申せばよいのか」

 ガーゴイル、ゴーレム、ホムンクルスの三体は生命を得て、それぞれ、グリフォン、大男、美女の姿になっていた。

「クリストフ様、ようやくお話が出来るようになりました。ありがとうございます」

 そうしゃべったのはグリフォンだった。

「お前、口が利けるようになったか! ゴーレムとホムンクルスもか」

「「はい、クリストフ様」」

 クリストフが、新しく命を得た二人と一匹に駆け寄り、両手を目一杯広げて抱きしめる。

「レイ様、私、目玉焼きを作った時はギャグだと思いました」

「ははは、実際は感動のヒューマンドラマだったってわけさ。ヒューマンじゃないけど」

「では仕上げに」

 クリストフはそう言うと剣を抜いてロアのもとへ歩いて行く。

「クッ、殺……」

 ロアの言葉が終わらないうちにクリストフが剣を振るう。その速さは勇者並みだった。縦横に、何度も何度も振るううち、やがてロアの体は霧になって消えていった。

「ローアーッ」

 今は勇者たちにその身を削られ、四つん這いの状態で叫ぶウリン。

 その時、大地がゆがんだ。城が丘ごと、焼け残っていた家が、すべてが崩れ始めた。

「マール! ヨシムネ! マーガレット! 戻れ!」

「レイ様!」

「クリストフたちもこちらへ」

 空間が収縮している。

「ウリンが空間を閉じますか」

 クリストフが落ち着いた声で言う。こうすることは当然わかっていた。

「相当な魔力を消費していただろうからな」

「万全のウリンに勝てますかね」

「勇者たちにやられ、すでに満身創痍だ。そのうえすべてを失って傷心の身ときた」

「たまにレイ様が鬼畜に見えます」

「魂を無垢に戻してやるだけさ。次もまた悪魔に生まれたら、その時はまた俺たちが滅してやるけどな」

 勇者三人が走って戻ってきたので、全員で洞窟の外に転移した。


 洞窟の入り口がゆらゆらと揺れているように見える。

 レイたちは洞窟前広場の一番端まで退避している。

 美女に進化したホムンクルスが、自称バンパイアであるクリストフに日傘を差してかけていた。その日傘や彼女が体に巻いている薄布も、すべてレイが空間から取り出したものだ。値札が付いていたことから考えると、レイの空間収納は、どこかの大型スーパーに直結しているのかもしれない。

「マール、ヨシムネ、あの極大火球を二人で撃ってくれるか?」

「えっ? カメハ」

「名前は言うな。大人の事情だ」

「はい、おしっ、マール、やるぜ」

「おう相棒! ほんじゃ」

 二人は胸の前で白い光を作り、右わきに引き寄せると、

「「もごもごもご!」」

 とつぶやいて光球を発射させた。マールとヨシムネ二人の光球は、まるでじゃれ合うように絡みあい、螺旋の尾を引きながら洞窟に吸い込まれていく。

 イチは、何も言わずに手で耳をふさいでいるレイを見て、慌てて自分もそうする。

『ズズズズ……ゴアアアアアン』

 地響きの後に壮大な爆発音を伴い、洞窟のある岩山が崩れ始めた。

 土煙を上げながら地響きが続いている。

「出てきたぞ!」

 レイの言葉の通り、崩れた岩塊を吹き飛ばしてウリンが現れた。体長が五メートルほどに拡大している。だが、勇者たちから受けた傷はそのままだった。剣も盾も持っていない。

「盾がなくても攻撃魔法は通らないだろう。剣で倒すしかない。強化魔法を目いっぱいかけておけ。みんな、準備はいいか」

「アタシ、剣士じゃなく魔法使いなんだけど」

 マーガレットが少し困った顔で言う。しかし右手には剣がしっかりと握られている。

「神界で剣術スキルをもらっただろう。それに、お前に渡したその剣はマールのと同じ斬魔剣だ」

「斬魔剣ってなに! 聞いたことないし! それにマールって、脚ばっか細かく切り付けてるだけだし」

「脚を傷つけ体勢を崩し、そこで脳天をかち割る。これぞ秘儀『暴れ馬』よ!」

「『暴れ打ち』って言ってなかったっけ? それよりマール、思い出したんだが、さっきのやつ」

「なにをだ?」

「たしか『ノー・プロブレム』だ」

「え? なにが?」

「い、いや、なんでもない」

「行くぞ!」

 勇者三人がウリンに向かった。


「レイ様、ウリンの空間の中で生き残っていた魔物たち、彼らはどこへ行ったのでしょうか」

 ウリンが魔力の供給を断って空間を破棄した。あの中にいた生命体や建物はどうなったのか。空間とともに消滅してしまったのか。

「空間収納魔法を使えるやつが死んだ時と同じだ。術者の拘束が切れて周囲にあふれ出す」

「ということは、魔物たちがこの周りに?」

「マールたちが岩山を崩したからな、たぶんほとんどが埋まったんじゃないか? 空から見たら、建物の残骸とかが森に転がっているかもしれない」

 レイがウリンたちから目をそらさずに答えた。

「収納空間からあふれ出す……、自分が死んだときのことを考えて、アレとか処分しといた方がいいかな」

 イチが小さな声でつぶやき、

「終活は大事だ」レイがぼそりと言う。

「やだ! 聞こえたんですか!」と顔を真っ赤にするイチ。見られてマズいものとなんだろうか。少し気になるレイであった。


 空間魔法を放棄し、完全体に戻ったウリンが繰り出す蹴りやパンチは、勇者であっても目で捕らえられるものではなかった。しかもリーチが長いため間合い広く、うかつに近寄れない。つま先や筋肉のかすかな動きを見極め、攻撃を打ち出す前には回避行動をとる必要があった。

「中位悪魔ってこんな強いんか?」

 ヨシムネが後ずさりしながらつぶやく。

「蝿の騎士団とかって言ってた気がする」

 ウリンを見据えたままでマーガレットが応える。

「脚に切り込む隙がねぇ!」

 下半身にこだわるマール。三人ともそれぞれに焦りを覚えているようだ。

「ヨシムネ! いくよ!」

 マーガレットが火球を連射するが、ウリンの前でことごく消失する。その火球に隠れるようにヨシムネが走る。ウリンとすれ違いざま長剣を水平に薙いだ。

 ウリンの脇腹を裂くことに成功したが、顔を爪で削られ、左側の目と耳が潰された。両者が傷に手を当ててうめいた。

「ヨシムネ!」

「マール……、行け!」

 双剣を胸の前で交差させ、マールが飛び出す。ウリンは狙われるだろう右脚を咄嗟に引いた。

 マールはウリンの前で一瞬身体を沈めると、そのまま伸び上がる。

「エックスゥ、斬りぃぃぃ」

「ハァ?」「ダサ」

 マールはウリンの前でジャンプしながら、交差させていた腕を広げた。

「これは、まさにエックス!」「でもなんで足まで広げるの!」

 ヨシムネの羨望とマーガレットの嘲笑を浴びながらも、ウリンの下段の両腕が切飛ばされた。

 だがウリンの目の前で、両手両足をエックス型に開いたマールは完全無防備。そこを上段右腕が襲う。

「いやああああ」

 マーガレットの悲鳴が広場に響く。

 が、マールの姿がウリンの前から掻き消え、ウリンの攻撃は空振りに終わる。そして背後に転移したマールが、

「ダブル、エーックス!」

 と叫びながら、左手の剣だけでウリンの背中を斜めに切り上げた。

「もはやエックスじゃないし」

「終わりじゃねえ!」

 今度はウリンの前方空中に転移し、落下しながら右手の剣で、脳天から切り下げる。

 縦に真っ二つにされ、血を吹きながら倒れるウリン。

「やっぱエックスじゃなかったし」

「マーガレット! このまま灰にしてしまえ!」

 そう叫んだヨシムネに頷き返し、マーガレットは火魔法を使った。タンパク質が焦げる臭いがあたりに漂う。

マーガレットが焼け具合を見ながら火力を上げたため、二つになったウリンの体は一気に燃え落ちていく。

「そっかぁ、お前、転移魔法が使えたんだったな」

「ああ、やられかけた時、急に思い出したんだ。で、これ、戦闘に使えねぇかなって試してみた」

「最初から使えよ!」「バカ、もともとトイレ駆け込み用にもらった魔法だぞ」

 マーガレットはアホ二人の会話を聞きながら、先ほどまでの戦いが実感となって湧きあがったのか、急にがくがく震えながらその場に膝をついた。

「どうした、マーガレット?」

 心配そうに声をかけられ、二人に顔を向ける。

「えっ、ヨシムネ、顔が治ってる?」

 半ば乾いた血の間から、しっかりと開かれた左目がマーガレットを見ていた。

「ああ、俺のスキル、超速回復だ。マールと違って少々ケガしてもヘーキなわけ」

「カッコイイよ、二人とも」

 心の底からそう思った。

「だろー! お前も可愛いかったぜ!」と、マールが笑う。

 さっきまでのどの場面で可愛いと思ったのかわからないが、マーガレットはにっこり笑い、再び二人を見て言った。

「ねぇ、アタシと結婚しない?」

「それはちょっと違げぇ」きっぱり断るマール。

「俺、あっちの世界で彼女いっし」やんわり断るヨシムネ。

「あ……、ふん! そうだな、お前らアホすぎて、アタシとは釣り合わねぇし」

 マーガレットは負け惜しみを言い、すっくと立ちあがった。


「よくやった、お前ら。思ってたより余裕だったな」

「あいつ、防御用の空間魔法張ってる時って、自分でも攻撃魔法を使えないんすね。そんで助かったっつうか」

「だな。あれで攻撃魔法撃たれたら、いくらオレでも危なかったぜ」

「あんたにはエックス斬りがあっから大丈夫だよ」

 三人がかりだったとはいえ、中位悪魔を倒したのだ。みんなうれしくて仕方ないのだろう。

「じゃあ私がマーガレットを送っていきます。ブレストの教会にもちゃんと報告する必要がありますし」

 紫色のワンピースに着替えたイチが言う。たたんだ背中の羽根とは別に、今は頭上にリングが光っている。この姿が対教会用の礼装なのだろう。司祭たちがひれ伏す姿が皆の目に浮かぶ。

 レイは二人をブレストに転送した

「なあレイさん、頼みがあんだけど」

 マールが頭を掻き、苦笑いをしながらレイのそばに来た。

「どうした?」

「オレ、前んとこじゃなくて、ヨシムネのいる世界に行きたいんだけど、マズいかな」

「レイさん、俺からも頼んます。ほら、こいつんところ、元々少なかった魔物を狩りつくしちゃって、今は盗賊退治くらいしかやることねえって。その点俺んとこはまだ魔獣も多いし、ドラゴンだっているし」

「二人で狩りつくさないって誓うならいいぞ。それと、ドラゴンは邪か聖かを見極めてからやれよ。聖竜殺したら神罰もんだからな」

「気を付けるっす」「あざーっす」「住むとこだけど、俺実は屋敷持ちなんよ」「でへ、そりゃスゲエ」

 今はまだ知性レベル1と2だが、人生経験を積めば少しはマシになるだろう。なにより、同レベルの仲間というのは心強いものだ。お互い背中を預けられるほどになればいい、そう思いながらレイは二人を転送した。

「で、クリストフたちだが」

「森に帰ってひっそり暮らします」

「いや、待て待て。実は折り入って頼みがあるんだ」

「レイ様の頼みなら、できれば引き受けたいとは思いますが……なんです?」

「実はこの星って、いたるところに魔物が出るだろ? できればそれを束ねてほしい」

「ええ! 私に魔王をやれと言うことですか?」

「いや、『魔の王』な。もちろん神界だけじゃなく、各国の元首たちにも承認させねばならないが」

「神界はともかく、人間たちは納得しないでしょう」

「いや、この世界の主神に言って、世界中の教会に神託を下してもらう。お前を魔のお王と認めるってな」

「そんなことが……本当にあなたって何者なんです?」

「勇者派遣センターの営業だよ。それこそお前だって何者かわかんねえし」

「私は人血アレルギーのバンパイアです」

「ああ、それでいい。今後は人間たちとうまくやってくれ。それと、そいつらに早く新しい名前を付けてやれよ」

 もとは三体の人形たち。今ではちゃんと血が通う生物になったのだ。新しい命は新しい名前で謳歌してほしい。二人と一匹がレイの前で片膝をついて頭を下げた。

「ええ、帰ってさっそく。実はもう前から考えていたのですけどね」

「そうだとは思ってた」

 朗らかな笑い声が森にこだました。


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