第二十六話 縞々をさがせ-1(ハロウィン絵おまけつき)
僕:亘平火星の平凡なサラリーマン。鉱物採掘会社に勤め、『センター』に秘密で猫を飼っている。
ジーナ:僕がセンターに秘密で飼っている猫
そのころジーナはどうしてたかって?
ジーナはもう家で留守番をするようになってたよ。ひとりでね。
ひとり暮らしだったころ、僕の家はこのうえなく殺風景だったんだけど、ジーナが来てからは少し変わった。
ジーナが遊んでも大丈夫なようにちょっとした人口草原(猫に無害な草を植えてね)を部屋の片隅に作ったり、あとはちょっと高かったけど、爪とぎ用に籐製の椅子を買ったりした。
火星では木製のものってとても高級なんだ。でも、藤のツルでつくった家具は少しマシだから、それを開拓団の店で買ったよ。
もうそのころには僕は火星世代の同僚なんかとはほとんど出歩かないで、開拓団のたまり場にばかり行くようになっていた。
ジーナは遥さんになついていたし、遥さんもまんざらじゃないようだった。
それに、遥さんがバイクを整備してくれなければ、僕はジーナを日光浴に地上に連れていけなかったしね。
ジーナが僕のところにやってきて……怜が僕の前に現れて……、僕はたぶん少し変わり始めていた。
それは、自分がそこにあるとすら知らなかった、大きな扉が少しずつ開いていくような感じだ。
でもそれは、とんでもない事件のきっかけでもあった。
その日、僕はあさおきてすぐに、いつも通りに洗面所に向かった。
いつもだとジーナは洗面台に流れる水を見に飛び起きてくるんだけど、その日はこなかった。
それで隣の部屋をのぞくと、ジーナは藤の椅子で丸くなっていた。
「ジーナ、どうした?」
「……」
ジーナが返事をしなかったので、僕はジーナの背中を撫でようとした。
そうしたら、ジーナが毛を逆立てて怒るんだ。
「さわんにゃいね!」
僕は心配になってジーナの顔をのぞきこんだ。
「どうした、具合悪いなら仁さんとこに行こうか……?」
「ぱっぱ嫌いにゅ」
どうやらジーナはものすごくスネているみたいだった。
僕は原因が思いつかないので困ったけれど、すぐに会社に行く時間になってしまった。
その日は出先からの直帰(会社に寄らずに家に直接帰ること)で、いつもより少し早かった。
お土産にジーナの好きなイタチ用のスナックを買って、開拓団の酒場にもよらずに急いで帰った。
玄関を入ると、いつもジーナは出迎えてくれるのだけれど、その日は違った。
僕が部屋をのぞくと、ジーナは出かけたときのまま、藤の椅子に顔も上げずに丸まっていた。
僕は何も言わないでジーナの横に座って、ジーナの耳を触った。熱が出ていると熱くなるからね。
でも、ジーナの耳はジーナの態度以上に冷たかった。
ジーナがじっとりとスネているので、僕はしかたなく自分の食事をさっさと済ませて、調べ物をすることにした。火星開拓団の前に火星にたどり着いた、『はじめの人たち』に関する情報を探そうとね。
怜がほんとうに『彼ら』の一人ならば。






