↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/152

第59話 無理解

おかしなテンションを引き継いでいます。なぜかフィリアの思考に引っ張られてる気がする……

 宿の自室の中でイオはアルバートたちに囲まれて座っていた。正面には座った眼をしたカナリアがいる。


「まったく……目覚ましたんなら起こせばいいでしょうに……」

「……いや、疲れているようだったから、寝かしておいた方がいいと思ったんだ」


 不満げなカナリアの言葉にイオは気まずそうに答えた。

 イオはただ顔を洗いにたった数分部屋から出ただけで、この間に3人が起き出すのは予想外だったのだ。基本的に間違いを指摘する立場に立つことが多いイオが、己の過失で責めるような視線を向けられるのはアルバートたちから見て珍しい光景だった。


「……それで、あれからどうなったのか教えてほしいんだが」

「いやよ」

「は?」


 話を逸らそうと問いかけたイオだったが、一考する間もなくカナリアに拒否された。現在この場はカナリアによって完全に仕切られているので、他の2人が口を挟もうとする様子はない。

 新手の嫌がらせか、などと思いつつ怪訝そうな目を向けていると、カナリアの目つきがさらに鋭くなった。それはイオを責めるようなものではなく、何かを求めているような目だった。


「その前に言うことがあるでしょうが」

「……あぁ」


 その言葉にイオもカナリアが求めている言葉が何かを思い当たる。たしかに心配と迷惑をかけておいてこれを言わないのは不義理なことだろう。

 イオはカナリアだけでなく他の2人も視界に入れて頭を下げた。


「心配かけて悪かった。 ……それと……ありがとう」


 謝罪と感謝。たとえイオが気を失ってから何が起こったとしても言うべき言葉。

 心のこもっていない形式的なものならこれまで何度もしてきたのだが、今回のそれは何となくむず痒さを感じさせるもので、すらすらと口から出てくることはない。しかしそれが逆にイオの本心からの言葉であるということを示していて、聞いた3人は心が温かくなるのを感じるのだった。


 これまでの流れを汲んでカナリアがその謝罪と感謝を受け取る。


「……無事でよかったわ。アルバートもルーも、私も心配してたの」

「イオ、体は大丈夫なのかい?」


 何とかカナリアの怒りが収まったのを見てとってアルバートが尋ねた。


「ああ……少し体が重いが、大丈夫だ」

「……そうか」

「イオ君、しばらくはお休みだからね」


 無事を告げているにもかかわらずアルバートは思いつめた様子だった。ルーも心配そうに休息を勧めてくる。

 イオとしては過保護すぎるだろうと思っているのだが、それを言うとまた正面のカナリアに小言を言われそうだったので黙って頷いた。


「それで、どうなったのか聞いてもいいか?」

「……分かった」


 気になっていたことを尋ねたイオに、アルバートが力なく了承し話し始める。


 突然イオの背後にレイスが現れたこと。

 接近に気づけずイオが憑りつかれたこと。

 イオが傷つかないように弱めの攻撃を加えても離れなかったこと。

 そして、そのまま大した打開策も思いつかずに時間だけが流れていったこと。


「そしたら突然レイスがイオから離れたんだ」


 アルバートが言うには、どうにかしてイオからレイスを引き離そうと策を考えていると、レイスは何の前触れもなくあっさりとイオから離れていったらしい。


「そのレイスは?」

「ごめん、攻撃したんだけど目の前で消えたんだ。多分、いや、間違いなく逃げられた」


 アルバートはイオの問いを、イオがレイスに恨みを持ってのものであると思ったようで倒せなかったことを謝ってくる。油断していたのはイオの方であるし、恨んでいないかと言われれば嘘になるがそれでもイオはある程度仕方のないことと割り切っていたので、倒せなかったことは特段気にしていなかった。


「それで俺たちはイオを担いでここまで戻ってきたんだ。本当なら朝一で治療院に連れて行こうと思っていたんだけど……」

「必要ない」


 イオはあっさりと治療を拒否した。それは治療費などではなく、もっと根本的な問題があるからだ。


「レイスから受けたダメージは治しようがないからな」

「……ッ」

「な! それってどういうことよ!?」


 淡々と事実を述べるイオにアルバートの肩がびくっと揺れ、カナリアが泡を食って問い詰めた。

 当事者のイオは落ち着いた口調で説明する。


「レイスは人間から生命力を吸収する。奪われた生命力は戻らないし、回復させる方法もない……と言われている」


 過去にギルドの資料室で資料を漁っていたイオは、レイスの能力の解明に研究者たちが長い間頭を悩ませていたことを知っている。

 傍から見るとただ浮かんで人の周りを漂うだけの魔物である。レイスが何をしているのかは誰にもわからず、無害な魔物と言われていた頃もあったらしい。

 しかし、ある時繰り返しレイスに憑りつかれた人間で体調を悪くし病気にかかりやすくなった者がいることが判明し、その評価は覆る。病気をまき散らす魔物として認識された後、さらに体力や魔力が少なくなった者も現れ始め、総じてレイスは「生命力を奪う魔物」であるというように結論づけられたのである。


「生命力なんて曖昧なものを戻す方法を知っている人間はいない。だから行っても無駄だ」

「そんな……イオ君はどうなるの?」


 レイスについて簡潔に説明を終えると、ルーが泣きそうな表情でイオに問いかける。

 それに答えたのはアルバートだった。


「体にどう影響が出るのかは分からないけど……イオの話からすると」

「ああ。おそらく体力が落ちたんだろう」


 イオは目覚めてからずっと体が重くなったことを感じていた。イオが眠っていた時間がたったの一晩だということを考えると、これはレイスによるものであると考えるのが妥当だ。

 先天的な体力の喪失。後天的に取り戻すには並大抵の努力では叶わない。


「だからこれからは足を引っ張ると思う。迷惑に思うなら……」

「パーティーを抜ける。そう言おうとしてるのなら本気で怒るわよ」


 背筋が凍るような低く重い声がイオの正面から聞こえた。

 先ほどのものとはまるで違う、本気の怒りを募らせたカナリアが険しい表情でイオを睨んでいた。


「なに? そんなに私たちといるのが嫌なの?」

「そうは言っていない。迷惑をかけるからと……」

「そんな話じゃない! 私は、一緒にいるのが嫌なのかって訊いてるのよ!」


 ついにカナリアが暴発した。隣の部屋にも聞こえるのではと思えるほどの大声を、顔を真っ赤に怒らせながらイオに叩き付けた。


「なんでそんな簡単に抜けるなんて言えるのよ! イオは私たちのことを邪魔に思ってるの!? 本当は抜けたいって思ってたの!?」

「……」


 難しい質問だった。ずっと行動を共にしていると動きづらいこともあったし、息苦しいと思ったこともある。一方でこの3人がいなければここまで依頼を成功させ続けることはできなかっただろう。

 都合の良い話だ。戦闘では頼れると感じ、それ以外の時は煩わしいと感じる。イオの無言はどちらとも言えないその複雑な心境を表してのものだった。


「……ッ! だいたい、イオがやられたのは私が警戒を疎かにしていたせいで……!」

「それは違うだろ」


 しかし続く言葉には反論せずにはいられない。


「もともと警戒を担当していたのは俺だ。俺が1人でミスをして、自分でそのツケを払っただけだ」


 イオが五感を基にする「感覚強化」に頼りすぎたから、浮遊して接近してきたレイスに気づけなかった。イオはそう考えている。「感覚強化」が使えるようになる前のイオなら直観やら何やらでその存在に気づけたかもしれないのだ。今回のことはイオとしてもいい教訓になった。

 イオという人間は、自分の失敗の責任を誰かに押し付けるようなことはしない。むしろ不必要に抱え込もうとする気質すらある。


 しかしそれを許せない優しい人間がこの場には多すぎた。


「俺も油断していた。だから責任は俺にもある」

「……私はそもそも警戒なんてよく考えてませんでした」


 皆がそれぞれ自分に責任があると主張する。これほど無益な話し合いがあるだろうか。

 収拾のつかない状況にため息を吐いたイオは1人立ち上がりこう告げた。


「朝食を食べてくる」


 言うや否や返事も待たずに部屋の外へと出て行った。3人は何か言う間もなくその姿を見送る。

 すると我に返ったアルバートが同様に立ち上がった。


「まだイオを1人にはしておけない。一緒に行ってくる」


 そう告げて足早にイオの後を追うアルバート。部屋に残されたカナリアとルーはしばらく無言だった。


「……なんなのよ、あいつ」


 重い空気に耐えきれず先に口を開いたのはカナリアだった。カナリアはまだ先の怒りが残っていたが、矛先を向ける相手はすでにこの場にはいない。


「なんで、あんな何でもない風にッ……!」


 カナリアはイオの精神を理解できなかった。レイスに憑りつかれて体力というすべての基盤が衰えて、果たして不安を感じないものなのだろうか。

 もし自分がそうなったなら不安を覚えずにはいられないはずだ。大切な何かを失う恐怖に耐えきれず、誰かに縋りつかずにはいられないだろう。

 それなのにイオは落ち着いているどころか、パーティーを抜けようとまでしたのだ。そこにどんな考えが込められているのかカナリアには全く分からない。


「カナリアちゃん……」

「分からない……! あいつが何を考えてるのか……!」


 無表情で淡々と自分の容体について話すイオを思い出すと、カナリアの胸はひどく痛んだ。こちらの心配など余所に自分を蔑(ないがし)ろにできるイオの悲しみを、カナリアが代わりに感じているのだ。


「どうしたらいいの……!? このまま放っておくしかできないの!?」


 いつの間にかカナリアの両目から涙が流れていた。

 当然カナリアの問いに答えを返すことなどできず、ルーは静かにカナリアを抱きしめるのだった。




補足:過去話で言っていたように、イオは自分のせいで他人に迷惑をかけることを嫌います。今回は自分でヘマをしてそのツケを自分で払うという自己完結に終わったので落ち着いていて、もし他の人に被害が出ていればトラウマが刺激されてひどいショックを受けていました。

   イオの性格が複雑すぎて書き切れないのでここで補足しました。本当に面倒くさい性格しやがって……という感じです(笑)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。