表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の仲間ですが魔王の協力者です  作者: rocyan
第二章 見習い勇者の旅
30/34

疑惑



「既に支部長から聞いているとは思いますが」


 そう前置きをしてからカクタスは一枚の紙を取り出した。今回このモーブ・ベンダーの邸宅へと訪ねることとなった原因である依頼“耀竜の幼子の捕獲”、その依頼用紙である。

 唯一神聖生物と崇められる魔物である耀竜の幼子を連れて来いという途轍もなく難易度の高い依頼で、それなのに受けられるランクが見合っていない可笑しなクエストだ。馬鹿な冒険者以外誰だって口を揃えてこう言うだろう。


 絶対に受けたくない、と。


「これは貴方の字で間違い無いですね?」


 お洒落なテーブルの上に出されたその依頼用紙に書かれたサイン。筆記体で“モーブ・ベンダー”と書かれている。

 実は依頼用紙と依頼書は違う。依頼用紙は依頼人がギルドに依頼を仲介してもらうように、依頼の要件を記入して提出する用紙である。対して依頼書はギルドの掲示板に掲載される冒険者向けの書類だ。この二つは見た目はほぼ同じだが決定的な違いがある。依頼用紙の方には依頼人の直筆サインが入っているのだ。それを証拠としてギルドは保存しておく。そうする事で不正を防ぐのだ。

 なのでまずは確認をと、依頼用紙に書いている文字を見せた。モーブ・ベンダーは言い訳する事もなく頷き、その事にカクタスとシアンは驚いて顔を合わせる。


〝どういう事だよこれ、オレ達の予想なら否定するはずじゃ〟

〝焦るのはまだ早いよ、シアン〟


 予想と違う事に驚いた二人は“念話”を発動させる。予想外のことが起こったのなら発動させると約束していたからだ。こうする事で三人の辻褄をその場で合わせることができる。


「そうですか。では、この依頼を申し込んだ覚えはおありですか?」


 そうしてカクタスはサインを差していた指を依頼名の欄へとスライドさせた。そこにはもう見慣れた“耀竜の幼子の捕獲”。冒険者が全員受けたくない依頼である。


「耀竜の幼子の捕獲……な、なんだね!? この依頼は!?」


 その文字を目で追い、口に出してゆっくりと読んだベンダーは声を荒げて驚く。椅子から立ち上がるほどで、その瞳には怒りが宿っていた。


「貴ッ! 様等! モモリ支部長の使いだからと招き入れたが、私を愚弄する気なら出て行け!!」


 心外だ! と言う様に顔を真っ赤にして怒鳴るベンダーにカクタスとシアンはやはりかと納得していた。元々モーブ・ベンダーが依頼したは思っていない二人である。期待通りの反応に安心して、カクタスは人の良い笑みを浮かべた。


「落ち着いてください、ベンダー氏。何も貴方が依頼したなんて言っていませんよ」

「……っ……どういう事だね?」


 此方の話に耳を傾ける姿勢になったのを確認してから、カクタスはもう一枚別の紙を取り出した。生活水準が中世程しかないこの世界で、シンプルな真っ白な紙というのは高価なものであり王族や貴族でしか使えず、そして重要な書類にしか使わない物である。そんな真っ白な紙を取り出した事にベンダーは驚いた。


「支部長から秘密裏に借りたものです。貴方、モーブ・ベンダー氏と支部長、冒険者ギルド出張所モスモ支部ギルド長モモリ氏が交わしたある契約書です。まぁそれほど重要なものではないからこそ借りれたのですが、それはともかく……ここ見てください」


 つつ、とカクタスの指が紙の上を滑る。辿って行くと行き着く先はベンダーのサイン。それが何だとベンダーは訝しげに眉を顰めた。


「これは支部長の前でベンダー氏が書かれた正真正銘のサイン……そしてこちらが先程の見覚えのない依頼用紙。何かわかりませんか?」

「言いたいことがわからないのだが?」


 まるで理解していないベンダーにシアンは表情を歪め、同じくカクタスの言いたいことを理解できない英二は蚊帳の外な事もあり虚構を見つめていた。そこに何かあるのだろうか。


〝此奴、よくこんなので貴族できてるな……〟

〝それ僕も思ったけどちょっと黙っててシアン〟


 軽くシアンを睨んでからベンダーに向き直り笑顔で続きを話す。流石この中で一番の年長であると言えるだろう、切り替えがとても早かった。


「良く見てください。確かにこの二つのサインは同じように見えます。ですが、それだけです」

「勿体ぶるな、さっさと話さんか」


 最早客人に対しての態度じゃなくなったベンダーに苦笑いを零しながら、カクタスはある一点を指差した。モーブ・ベンダーと書かれた、とある文字の終わり。


「ここです。貴方の字はこの時だけ、大きく跳ね上がる。けれど依頼用紙の方ではその特徴的なハネがない……意味はわかりますね?」


 流石にもうわかるだろう、という心の中の言葉も乗せてそう問うと、ベンダーはハッ! とした表情を作ってから頷いた。それはもう納得した! と言っているかの様な笑顔で。


「成る程、君達は裏付けに来たということか。先程のは失礼した。改めて君達をモモリ支部長の使いだと認めよう」


 気難しい顔から一変、笑顔になったベンダーにシアンは小さく顔を歪めた。


〝手の平返しが凄いな……〟

〝……シアン、黙って〟


 シアンの言葉に共感しながらも“念話”で感想を言う彼にため息を吐きたくなりながらも我慢し、ベンダーへと向き直る。


「ご理解頂けて何よりです。ではこの“耀竜の幼子の捕獲”を依頼申請された日、貴方は何をされていたか聞かせていただきますか?」

「話す必要があるのかね? 身の潔白はそのサインで証明した筈だろう」

「いいえ、まだです。サインぐらいではまだ駄目です。本当は貴方が依頼したのにも関わらず、他の者に代筆を頼み依頼したとも考えられる」


 カクタスの言葉にまたもや驚いた後、ベンダーは叫ぶようにそんなわけあるか!と否定した。


「では、教えてください。教えられない、というのは無しですよ? 前代未聞のクエストです。ギルドの方も形振り構ってられませんから」


 年の功故の眼光の鋭さを発揮しながらベンダーを諭すように説得すれば、彼はカクタスの目に怯んだのか悲鳴を小さくあげながら何度も頷いたのだった。


〝おー、怖〟

〝マジで黙れ〟











 結果からしてモーブ・ベンダーはその日ギルドには赴いていなかった。このモスモの街を治めている貴族に呼ばれていたことがわかったのだ。その屋敷がある門の門番へと確認しても、ベンダーの言葉が正しいことがわかった。


「と言うわけで、お前というわけだ」

「なんで僕!?」


 少年ロッカは驚愕した。何故そこで自分に飛ぶのかとシアンを見つめるが、彼は馬鹿にしたように笑う。そんなシアンにロッカはむっとして、拗ねたように睨んだ。


「バカにしてるだろ」

「あぁしている。聞けば、依頼受付は殆ど任されてるらしいじゃないか。依頼人は白だったんだ、その次に疑われるのはお前だと容易く思い浮かべれると思ったんだが」

「うぐっ」


 だから馬鹿にしているとクスクス笑う時空間魔法の使い手。魔法使いと言うのは総じて頭が良い。全て鍛えて来た肉体とセンスにモノを言う剣士などの近接戦闘が得意な彼らと違い、魔法使いは遠距離から魔法で攻め、属性の相性や使う魔法の詠唱を覚える必要があるからである。ましてや相手は時空間魔法の使い手、敵うはずがない。

 いやまぁ、これはロッカの現実逃避ではあるのだが。


「で、僕をどうするつもり」

「おー、見事な開き直りだな。当然、支部長のところへ連れて行くさ」

「既に決定事項!?」

「何を言ってる。犯人が見つかったんだ、それ以外の選択肢はないだろ」


 ニヤリとシアンは笑う。その悪どい笑みにロッカは口角が引く付く感覚がした。


「(僕……生きて帰れるかな……?」

「声に出てんぞ」

「ハッ!」


 慌てて口を塞ごうとするも、そもそも首から下の身体の自由を干渉魔法によって奪われていた。担がれている今、逃げる事も心の声をなかった事にしようともできない。キリリと歯を食いしばった。

 その様子にクスクス笑うシアンと更に悔しがるロッカはとある扉の前へと辿り着いた。今までの扉とは違い豪華なそれは、位が高い人物の部屋だとわかる。身体が動かないのに固まったような気がしたロッカは、ゴクリと生唾を飲み込んだ。

 コンコンコン。ノックが響く。


「どうぞ」

「失礼する」


 比較的重厚な扉がシアンの手によって開く。見えたのは大きな窓がある執務室の様な部屋。一介の市民では見れない様な部屋にロッカは驚き、そして目の前に立つ誰かがいるのに気づいた。

 一人は黒髪黒目のそこらに居るような変哲も無い青年、しかしながらその格好がやや目立つ様な気もする。

 一人は上方向に尖った耳にさらりとした紙に、男とも女ともつかないエルフ。

 一人はザ・秘書な格好をした女性、ロッカは支部長の秘書と記憶している。

 そして最後はこの街にある冒険者ギルド出張所モスモ支部ギルド長、モモリである。


「(わぁ……)」


 己の予想が外れてない事に現実逃避したくなる。思わず遠い目をしてしまうロッカをシアンは乱暴に降ろした。


「って!」


 いや降ろしたと言うより投げ捨てたと言われた方がしっくり来るその動作に、一連を見ていたカクタスはため息を吐いた。


「犯人だからって乱暴に扱って良い訳じゃないんだよ。一応支部長の身内とも言えるのだから丁寧にだね」

「細かいな、カクタスは。怪我もないんだから良いじゃないか」

「痛かったんですけど!?」


 ロッカは思わず吠える。確かに許されない事をしたのはわかっているが、もう少しだけ扱いを良くしてくれても良いのではないだろうか! そう思うロッカではあるが、今までのシアンの印象からして無理だろうなと諦めた。


「大丈夫?」


 ロッカから見て変哲も無い青年、雄城英二がしゃがみ込んでロッカに手を差し出した。その顔には心配がありありと浮かんでおり、心から心配していることが伺えた。


「(や、優し!? 何か目立たないとか言って(言ってない)ごめん! 凄く優しい! アシードさんと大違いだ!)」


 何故か感動するロッカ。きらりと目尻に何かが光った気がしたが、気のせいという事にして英二の手を取ろうと思うが身体が動かない。そういえばまだ干渉魔法を解除してもらっていない。放り出された今、四肢を投げ出した状態で支部長の前にいるという事にロッカは今頃気づいた。冷や汗が流れる。


「ん? 受付君、いつまで寝転がってるの? …………て、この魔力の残滓」

「あー、エルフって魔力見えるんだったか」

「まぁね。前は力って言ったけど主に魔力を見るのが得意だね。生まれ育った場所の影響かな」


 妖精人種、エルフが住む森には魔力が満ちていると言われている。精霊が暮らしているのもあるのだろうが、元々神聖な場所とも言われる森の奥地、精霊の領域であるそこはこことは数倍ほど魔力が違うらしい。シアンもカクタスに聞いた程度なので詳しくはわからない。

 その為かエルフは魔力や相手の力を見抜く力を子供のうちから秘めているとか。一人一人が魔術師程度の魔力量を持つのに加え、亜人種ならではの筋肉量、そしてこの能力。人間と敵対していなくて良かった、とは誰の言葉だっただろうか。

 まぁ亜人種の為に繁殖能力が低い為少数精鋭、人海戦術を用いれば勝てるのだが。


「シアン、君……随分危険な魔法を使ったんだね」

「魔力だけでバレるのか……凄まじいな、エルフは。直ぐ解くから安心しろ」


 随分聞き捨てならない言葉があったような気がする。

 首から上だけを動かしシアンの方を見た。今の言葉は嘘だと淡い期待を乗せながら。しかし彼は薄っすら笑みを浮かべるだけで何も答えてくれず、魔杖の杖先をコツンとロッカの頭に当てただけだった。そこからすすすと優しく身体に当てながら足先まで杖を滑らしたシアンは、よしと小さく言葉を零しロッカを見やる。


「ゆっくりと手足を動かせ。急に動かすなよ、明日筋肉痛になっていても知らないからな」


 理不尽では!?

 ロッカは心の中で叫びながら言う通りに手足を動かし、時間をかけながら立ち上がった。たった数分間動かせなかっただけなのに少し痛みが走る。これは肩が凝った時の様な感覚にも似ていた。けれど動かせないことはなく、しっかりと立ち上がったロッカはこの場で最高権力者であるモモリ支部ギルド長を真っ直ぐ見つめた。


「(やっぱ無理!)」


 すぐに外したが。


「こほん。では改めて……ロッカ君」

「は、はい!」

「事の次第はそこのシアン・アシード冒険者から聴いているとは思います。なので、単刀直入に尋ねますね」


 ゴクリ、と誰かが生唾を飲み込んだ。


「この“耀竜の幼子の捕獲”という依頼書を横流ししたという疑惑があります。それは本当、ですか?」


 出張所だがギルドの長を務めているだけあり、その鋭い眼光は嘘は許さないと雄弁に語っていた。ロッカはその目に怯みながら思う。


 あ。


「(死んだ……)」


 と。



思ったより話が進まない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ