第一話 最強のアーチャー
「だから言ったんだよ!前衛入ってからにしようって!」
「うるせぇな!あんなのいるなんて思わねぇだろ!」
二人の男が、言い争いをしながら走って…いや、逃げている。B級モンスター〔ブラックベア〕、戦闘能力は龍モンスター等に比べれば大したことはないが、魔法が効かない体質を持つ。身なりからして、あの二人はどちらも魔法使い。攻撃することができず、ただただ逃げているのだろう。最終的に逃げきれず、骨まで喰われる所まで、この森ではよくある事だ。だが、あいつらは運が良い。ここなら、俺の矢が届く。
《アサシン・ショット》
-ドスン-
突然、大きな音が辺りに響いた。
「なんだ…今の音」
「おい、見ろよマカ!」
ジルに言われて後ろを見ると、あの熊野郎が倒れている。額に矢が刺さった状態で。誰かが助けてくれたのか…?
「大丈夫だったか?」
突然の声に驚いて振り向いたが、誰もいない。
「あぁ、すまんすまん」
その言葉が聞こえた直後、木の上から誰かが飛び降りてきた。毛皮でできた服にボサボサの茶髪、街の下層の連中でも、もう少しマシな身なりをしている。まさか、こんな所に住んでいるのか…?
「そうだよ。ここに住んでる」
考えていた事にピンポイントで返事をされ、面食らった。
「あ、あんたが助けてくれたのか?」
「あぁ。大変そうだったからな」
命の恩人に対し、大分失礼な事を思ってしまった…。
「別に気にしねぇよ。そんくらい」
また考えていた事を見透かされた。
「あんた、心読めたりすんのか?」
「全然。ただ、顔見れば大体は分かる。あんた、動物たちより分かりやすいしな」
「な、なるほど…」
「てかよぉ」
ジルの声に反応して振り向くと、ジルは熊野郎の革を剥ぎ取っていた。依頼は薬草だけだったが、あの革を土産に持っていけば、パーティーの評価はより上がるだろう。ジル、案外そういうの考えてくれるんだよな。
「その服、どうやって作るんだ?」
ジルに期待した自分が恥ずかしくなってきた。そうだ、こいつはこういう奴だった。
「知らん。以前山賊から獲った」
答えるのかよ…、しかもクソ物騒だし。
「あ、後さ」
ジルの奴、どうせ今度はオススメの熊料理でも聞くんだろうな。
「あんた、すごい腕前だな。矢が正確に眉間にぶっ刺さってる」
すまん、ジル。
「まあね」
「なにか特訓でもしてるのか?」
「別に。ここで生きるために、動物とかモンスターとか狩ってたら、いつの間にか身に付いた」
この森に住み、自給自足の生活をしているなんて、偶然出会っただけだったら、きっと信じなかっただろう。けど、体に所々見える傷痕、街の人々とかけ離れた服装、何より、あの弓の腕前。それら一つ一つが、彼の言葉に大きな説得力を持たせていた。
「すごいな、あんた」
ジルの言う通り、彼はすごい。けど、すごいからこそ、疑問が生まれてくる。
「なんで、街に行かないんだ?」
少し考えた後、彼が口を開いた。
「パーティー組んでるなら知ってるだろ?剣士、魔法使い、僧侶、色々いる中で、アーチャーの需要は断トツ最下位。前衛としては脆すぎて剣士以下、後衛としては火力不足で魔法使い以下、まあ、当然の成り行きだな」
確かに、アーチャーを募集しているパーティーも、アーチャーを採用しているパーティーも、見たことがない。
「で、何が言いたいかっていうと、俺はパーティーに入れてもらえない。つまり、金を稼げない。だから、ここで生活するしかなかったんだよ」
境遇としては、下層の人々に似ていたんだな。きっと、色々な苦労をしてきたのだろう。
「というわけでさ」
「ん?」
「俺をパーティーに入れてくれ」
思わず、ジルと顔を見合わせる。
「ちょ、ちょっと考えさせてくれ」
そう言って、俺はジルと後ずさりして、彼に背を向けて話し始めた。
「どうする、ジル?」
「俺は、入れてもいいと思うな。強いし」
「けど、あの身なりだぞ。ただでさえトーソがいなくなってサポーターが減ってんのに、これ以上減ったらそもそもパーティーが無くなっちまう」
「見た目は後からどうにでもなるだろ」
「んー…、まあ見た目はいいとしても、やっぱ今から雇うなら前衛を…」
ガサガサ
横の草むらから音がして振り向くと、そこには矢の刺さった小さな熊が倒れていた。
「前衛ならいらねぇよ」
彼の方を見ると、弓を引き終えた体勢になっていた。
まさか、今の一瞬で射貫いたのか…?音がしてから、その方向を俺たちが見るまでの一瞬で…。
「誰よりも早く、俺がぶち抜いてやるからな」




