第36話 徐福の進言
秦王政は、徐福の話に耳を傾けた。
「我が秦国の海を隔てた東の果てに倭国という島があります。その国の真ん中に蓬莱山(富士山)という高き山がそびえ、そこに住む仙人は不老不死の妙薬を煎じると聞きます。皇帝が所望であれば手に入れてまいります」
嬴政は不老不死の妙薬に興味はあったが、それ以上に東の果ての国に興味をそそられた。
そこは、もしかしたらエデンの園かもしれないと思ったからだ。
「徐福よ、倭国について、もう少し詳しく教えよ」
「倭国には四季があり水も豊富です。にもかかわらず水田の知識が乏しく、いまだ陸稲で米を作っています。彼らの住居は竪穴式であり、主食は栗とどんぐり、それを土器で煮て食べています。彼らはまとまって集落を形成していますが、集落に城壁はなく、助け合って暮らしているため争いはありません。かといって文明が遅れているかといえば、そうでもありません。彼らは六本の大きな柱を建て、定位置からその柱を通る太陽を勾玉に開けた穴で地面に映して観察し、春分、秋分、夏至、冬至を正確に知ることができています」
水が豊富で争いがない。まさにエデンの園ではないか。嬴政は確信した。
「徐福よ、だいたい分かったが、最後に聞きたい。倭国の民は何を信じ、何を信仰しているのだ」
「出雲という地方で、八百万の神々、霊魂、黄泉の国などを信仰する勢力と蓬莱山の東に大きな平原(関東平野)があり、倭国で最も東に位置する所。つまり、この世で最も早く日が昇る所に日高見国があり、そこで太陽信仰が盛んです。いま、倭国はこの2つの勢力で二分していますが、日高見国が、勢いを強めています」
嬴政は胸の高まりを抑えることができなかった。
呂不韋からユダヤの伝説を何度も聞かされた。
数百年の間、探し続けたエデンの園が伝説の通り、東の果てにあるかもしれない。
「徐福よ、これから予が申すこと、他言はならぬ。レビ一族がこのまま秦の国を統治できるとは限らない。この地で一族を消滅さしてはならないのだ。倭国が我々を受け入れてくれるかわからぬが、倭国へレビ一族の童、男女5百人を連れてゆき一族を増やすのだ。そして、五穀の種を持ち、水田の耕作や鉄の農具あるいは剣を作る技術を持つもの5百人と兵2千人で倭国へまいれ。よいか、決して滅ぼしてはならぬ、争いを好まぬ民族ゆえ、滅ぼそうと思えば簡単に滅ぼせよう。だが、それでは意味がないのだ。我々が彼らと共存共栄できる道を探ってまいれ」
「かしこまりました。この徐福、身命を賭して使命を全ういたします」
「それから予に何かあった場合は、長男の扶蘇と連絡をとれ。時折、予を諫めるが20人の息子の中で一番頼りになる」




