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失われた断片 ― 風の環 ―  作者: 半々月光
ビグトラス島編
31/61

第26話 ― 静止の選択 ―― 思いがけなく現れた者

>読者の皆さん、第25話へようこそ。


25話はこれまで以上に重く感じられるかもしれません。


友情、痛み、そして選択が同時に交錯し、涙を流す者もいれば、歯を食いしばる者、傷を負いながらも立ち上がる者もいます。


そんな瞬間に、どうか彼らと一緒に呼吸し、勇気と不安を感じ取ってください。


もしかすると、あなた自身も「言えなかった秘密」や「避けられない選択」を経験したことがあるかもしれません――


この物語はまさにその瞬間を描いています。


時刻:3670シヴン年12月25日 午前6時04分

場所:????・秘密研究室


光の幕の輝きは次第に弱まり、符紋の光流は一本ずつ消えていった。

蒼藍の残光は場の縁へと退き、研究室は再び本来の静けさを取り戻し、残されたのは装置の低い唸りと俺たちの呼吸だけだった。


まるで何かが強引に現実へ引き戻されたかのようだった。

ルキはその場に立ち尽くし、両手を脇に垂らし、銀の髪が顔の半分を覆っていた。彼女はもう光の幕を見ず、ただ俯いて静かに待っていた。


誰も言葉を発しなかった。



ミドは口を開きかけては閉じ、まるでどんな語調で話せば彼女を傷つけずに済むのか思案しているようだった。


教授は杖を収め、もはや記録を取ることもなく、ただ傍らに立って沈黙を選んでいた。

その時になって初めて、俺は気づいた――


先ほどの映像がもたらした衝撃は、すでに後景へと退いていたのだ。


「ルキ……君がそんな過去を背負っていたなんて、俺は知らなかった。友人でありながら、ずっと君に負わせてしまっていた。親を失う痛みは想像もできない。ただ、エン叔父さんが去った時、俺の心は崩れ落ちそうだった……あの時、君とミドがずっとそばにいてくれたんだ……」


「そうだよ、ルキ。イランの言うとおりだ。僕も本当にすまなかった。君がそんなに苦しんでいたなんて知らずに、笑って一緒に過ごしていたなんて……」


ルキの肩はわずかに震え、目尻から再び涙がこぼれ落ちた。彼女は顔を上げ、俺たちを見つめ、震えながらもはっきりとした声で言った。


「ありがとう……ずっと怖かった。もし話してしまえば、この友情を失ってしまうんじゃないかって……でも今は、打ち明けてよかったって心から思っていた。」



ミドは肩に手を置き、涙を含んだ笑みを浮かべながらも明るさを失わなかった。

「アハハ……早く言ってくれればよかったのに。地脈が崩れ続けることに比べれば、大したことじゃないさ!」


俺は深く息を吸い込み、胸を締めつけていた圧迫感が少しずつ解けていくのを感じた。

かつてエン叔父が去った時、絶望に沈んでいた俺の傍らにいてくれたのはルキだった……。


今度は俺とミドが、彼女の支えになる番だった。


「ルキ、その後はどうなんだ?」


ミドは一歩近づき、瞳を輝かせ、まるで考古学者が封じられた秘密を掘り起こそうとするかのように身を乗り出した。


「ミド、これで十分だよ。」


俺は彼の肩に手を置き、軽く押さえた。ミドは振り返り、静かにうなずいた。


「無理はしなくていいよ、ルキ。外に出る時はその腕輪をつけていてほしい。でも俺たちの前では外して、君らしくいてくれたらいい。後に何があったのかは、また機会がある時に話してくれればいい……痛みの記憶にずっと向き合っていたら、君はまた傷ついちゃうから。」


ミドは一瞬きょとんとし、唇を動かしたが、最後には静かにうなずいた。


ルキはうつむき、銀の髪が顔の半分を覆っていた。肩はわずかに震えていたが、俺たちの言葉を聞くと、ゆっくりと息を吐き出した。


「ありがとう……」


その声はほとんど聞き取れないほど小さかったが、どこか安堵の色を帯びていた。


「少しずつ話していくよ……今はまだ、本当に少し時間が必要なんだ......」


教授は傍らで静かに俺たちを見つめていた。じっとした眼差しを向けながらも言葉を挟むことはなく、ただ微かにうなずいた。杖が床を軽く叩き、低く安定した響きが広がり、この沈黙に確かな重みを加えていた。



空気の圧迫感は少しずつほどけていき、まるで重たい幕がほんの少しだけ開いたようだった。


「教授、これから私たちは……」


俺が言葉を発しかけた瞬間、ミドがすぐに割り込んだ。期待に満ちた瞳がきらめいていた。


「さっきイランが言っていた裂斗山脈へ行くのか?そこなら断片の手がかりが見つかるかもしれない!」


「裂斗山脈……通信障害が起きる前に、グモが強い外的干渉があると報告していた。彼はディアとヘペニーと一緒に内部を調べている。」


教授は眉を寄せ、杖で床を軽く叩きながら次の方針を考えていた。


「今はグモ教授と連絡が取れない。心配だ……私たちも様子を見に行こう。」


ミドは珍しく憂いを帯びた顔を見せ、ルキは俺に静かにうなずいた。俺は深く息を吸い込み、胸の奥の焦りを抑えながら、言いかけていた言葉を続けた。


「教授、俺もミドと同じ考えだ。風神の言葉が気になる。すぐに状況を確かめに行くべきだと思う……」


教授が答えようとしたその時、眉間に鋭い皺が寄り、視線が場の中央へと向けられた。床の符紋が光を帯び、何かに触れられたように揺らめいていた。


「……転送点が反応している。」


「グモ教授が来たのか?!」


ミドは驚きと期待で近づこうとしたが、教授の杖がその前に立ちはだかった。俺とルキはその反応に違和感を覚えた。


もし本当にグモ教授なら、こんな警戒の目を向けるはずがない。じゃあ、誰なんだ。


教授は符紋をじっと見つめ、首を振った。


「違う……この反応は彼じゃない。」


蒼藍の光が場を駆け抜け、圧迫感が再び押し寄せてきた。まるで未知の存在が近づいてくる予兆のようだった。


中央の転送台が突然激しく閃光を放ち、符紋は縁から次々と組み替えられ、蒼藍の光が溢れ出すように走った。


半透明の光の幕が台座の上に集まり、残像が現れては消え、何かが姿を現そうとしていた。研究室全体が、見えない力に封じられたかのように静止した。



「全員、構え!」


キリム教授が一歩前へ踏み出し、両腕を広げる。掌に刻まれた符紋が光を放ち、符光が全身を巡った。彼の視線は中央の転送台に釘付けとなり、全身が戦闘態勢へと移っていた。


俺とミド、ルキは思わず互いに身を寄せ合う。ミドの超合金義肢がわずかに震え、俺の指輪はすでに顕現し、ルキは魔導の徽環を呼び起こしていた。心臓の鼓動と符紋の脈動が交錯し、研究室の空気は極限まで張り詰めていく。


よく見ると、この転送台は人魚の噴水の下にある秘密の聖殿のものとはまったく違っていた。あちらの転送台は潮の満ち引きのように自然に呼吸し、星図の紋理が岩壁の間で浮き沈みしていた。


だがこちらの転送台は半ば自然、半ば人工の心臓のようだ――符紋は金属の秩序に絡め取られ、光流は導管に沿って正確に走り、ドームの冷たい蒼光の環は歯車のように通路を固定している。開かれるのではなく、無理やり制御されているのだ。


息を止め、胸の奥にひとつの思いが浮かぶ――


この転送台から現れるものは、誰にも予測できない。


中央の転送台の光幕が次第に凝縮し、冷たい蒼光の流れが空気の中で交錯する。低く唸るような音を伴い、ついにひとりのよろめく人影が姿を現した。



「うっ……」


銀に緋を帯びた長い髪は乱れ散り、波打つ毛先には血が滲み、かつての輝きを失っていた。額の両側から垂れた髪が頬に張り付き、その下から覗く銀灰色の瞳は――震え、苦痛に歪みながらも、必死に意識を保とうとしていた。


右腕は震えながら垂れ下がり、指はなお魔杖を握っていたが、失血のせいで力なく見えた。肩口と腕には黒く焦げた雷痕が残り、皮膚は焼けただれ、まだ消えきらぬ焦げ臭を放っている。


身体の周囲には微かな電光が残り、血痕と砕けた符紋の間で瞬き、まるで風雷の余韻がなお絡みついているかのようだった。


冷ややかな蒼光の符紋のローブはあちこち裂け、胸元と左肩には刃のような傷が走り、鮮血が布地を染め、衣襟を伝って滴り落ちていた。


彼女の体は揺れながら前へ進み、突然膝が崩れ、地に倒れそうになる。



「ヘペニー!なぜ君がここ……グモはどうした!」


教授の声には驚愕が満ち、次の瞬間、杖を振って彼女の身体を支えた。


「先輩、どうしてこんな傷に!」


ルキが慌てて駆け寄り、ヘペニーを支えようと手を伸ばす。その時、彼女はすでに腕輪をはめ直していた。一般人の目には、彼女はもはやリリマラの猫耳妖精ではなく、ただの品行方正な優等生――ルキに見えていた。



彼女の両手は震えながら、血にまみれたヘペニーの身体を支えていた。銀に緋を帯びた髪は呼吸に合わせて揺れ、血痕は冷ややかな蒼光のローブに広がっていく。銀灰の瞳は半ば閉じられ、額からは絶え間なく汗が滴り落ち、その苦痛に満ちた表情は見る者の心を揺さぶった。


教授はその場に硬直し、瞳に宿る驚愕はまだ消えていない。ルキは彼女の身体を支えながら、ゆっくりと脇へと休ませた。



「どういうことなんですか、ぺい姉!グモ教授は?」


その時、ミドも駆け寄ってきた。顔は蒼白で、いつも浮かべていた快活な笑みは跡形もなく消えていた。彼の視線は血に染まったヘペニーの身体と、周囲に残る電光の残光の間を揺れ動いていた。心臓は鷲掴みにされたようだった。



「ぺい姉……戦場から戻ってきたんですか?ディ、ディア先輩は……彼も傷を負ったんですか?」


ミドの声は切迫し、今にも裂けそうだった。彼は手を伸ばし、ヘペニーを支えようとしたが、焦げ付いた雷痕に触れることを恐れ、その手は宙に固まったままだった。



その瞬間、研究室の空気はさらに重苦しくなり、焦げ臭と血の匂いが混ざり合い、息が詰まりそうだった。


ヘペニーはゆっくりと顔を上げ、かろうじて口を開いた。声は途切れ途切れで、まるで裂けた呼吸のように掠れていた。


「……うっ……ディア……彼は……連れ去られた……」



銀に緋を帯びた髪がルキの肩に垂れ落ち、血痕と電光が交錯し、まるで風雷の余韻がなお絡みついているかのようだった。



「な、何だって!?」


「いや……いや……」


「そんなはずない!!」


研究室は一瞬にして騒然となった。俺は思わず信じられない言葉を吐き、ミドの声は震え、ルキの瞳は怯えに揺れ、キリム教授は杖を強く握りしめ、顔色は深く沈んでいた。


空気に残る電光はなお微かに瞬き、まるでヘペニーのもたらした報せそのものが、皆の心を引き裂いているかのようだった。



銀灰の瞳は半ば閉じられ、額からは絶え間なく汗が滴り落ち、その苦痛を噛み殺すように唇がかすかに震えていた。

呼吸は浅く、不規則で、胸元の裂傷が上下するたび、ローブの裂け目から新たな血が滲み出す。



「……グモ、教授は……」


掠れるような声だった。


それは問いというより、必死に現実へ繋ぎ止めようとする意識の痕跡に近かった。


教授の表情が一瞬、凍りつく。

杖を支える手に、わずかな力が籠もった。


「話さなくていい。今は何も言わなくていい。」


そう言いながらも、彼の視線はヘペニーの傷の深さを一つひとつ確認していた。


焦げ跡、雷痕、魔力の乱流――


これは単なる遭遇戦ではない......


逃走でもない、突破だ。


ミドは歯を食いしばり、義肢の拳を強く握った。



「……裂斗山脈だな。」


その一言で、全員が理解した。


通信が断たれ、外的干渉が報告され、そして――


唯一帰還したのが、この姿のヘペニー。


研究室の空気が、再び重く沈黙する。


だが先ほどとは違う。


それは感情を整理するための静けさではなく、選択を迫るための静止だった。


俺は無意識に指輪を見つめ、胸の奥で何かがはっきりと形を取るのを感じていた。


もう、待つ理由はない。




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