第10話 危険な配置
村の櫓に吊るされた鐘が鳴り響く。
駐屯している王国兵が慌ただしく駆け回り、避難民達は一箇所に集められた。
岩山の上にある砦からは荒野が一望出来る。
だから逃げて来る人々やそれを追って来る魔王軍もよく見えた。
それはもちろん追い付かれて容赦なく殺される人々が見えるという事だ。
今も白い布を纏った人影がコボルトに取り囲まれどんどん赤黒く変わり果てる。その様を王国軍指揮官は奥歯を噛み見ていた。
「指揮官殿! このままでは街の住民達が!」
「分かっている! だが……!」
王国軍はこの村に籠城して援軍を待つという作戦をとっている。
その防衛ラインは村の横を流れる川であり、川を渡河して来た敵を岩場に隠れた伏兵で一網打尽にし、そこを突破されれば村、砦へと引き込んで持久戦に持ち込むのが狙いだった。
だが逃げて来る住民達を助けに行くとなれば、こちらが川を渡る必要があり籠城を捨てるという事になる。
「敵は我々を荒野に引きずり出すつもりだ。兵力で上回る敵と平野で戦うなど出来ない!」
「ですがそれでも彼等を見殺しにする訳には……!」
魔王軍の兵力は目算で700と言った所だろう。それに対しこちらが動かせるのは村防衛の守備兵を差っ引けば300弱くらいだ。
平野という数が物を言う地形で倍の数の敵とぶつかるなんてわざわざ負けに行くようなものだ。
「こうなれば彼等を使うか」
その時、慌ただしく塀に上がって来る足音が聞こえた。
「どないしはったんです!?」
急を報せる鐘を聞いて菊子とその護衛である三郎達も砦までやって来たのだ。
指揮官は事の状況を説明しユニオンにも協力を要請する。ただし内容は、
「王国軍が避難民を収容している間、ユニオンは敵を食い止めてもらいたい」
そう、王国軍指揮官は冒険者ユニオンに魔王軍の相手を押し付けようというのだ。
「700の敵に対して50にも満たんうちらをぶつけるんですか!?」
「もちろん我軍の精鋭50人も共に戦います」
それにしたって数が全然違う。
だがそれに異を唱える前に指揮官は高圧的な態度で菊子を睨み付けた。
「まさかこの期に及んで協力しないなどとは仰っしゃらないでしょうな?」
「何ですって?」
「確かに我々に貴方達への指揮権はありません。しかしここで協力を拒否すれば、貴方のギルドは避難民を見捨てた卑怯者として永遠に蔑まれる事でしょう。ここは我々と共に王国の為、民の為、共に戦おうではありませんか」
「上手い事言いよって……」
人命を盾に危険な役目を押し付けようとする指揮官達に軽蔑の目を向ける。
確かに協力は惜しまないとは言ったが、こんな捨て駒の様な扱いは御免だ。
それに見捨てる見捨てないの話しなら、別にこんな危険な配置で無くてもいいではないか。
それこそ避難民収容の役目をユニオンでやってもいい筈だ。
(そう言い返えされたら、どないするつもりなんやろ?)
圧を掛けてきたって菊子は冷静だ。むしろ今まで女だからと脅して来た相手を何人も屈服させてギルドを成長させて来たのだ。
今回もこの穴を突いて後方配置に着いてやろうとした所、横からぬっと三郎が入って来た。
「おお先陣か! こりゃあ腕が鳴るなあ!」
「は?」
キラッキラの笑顔で死への片道切符に大喜びしている。
そのまま「良いとこ貰っちまって悪いな」と機嫌よくお礼まで言うものだから、菊子はもちろん指揮官達も何を言ってるんだと面食らってしまった。
「ちょっと何勝手な事言うてくれますの!?」
「何? 俺なんか不味いこと言った?」
こんな時に鈍感キャラを見せなくていい。
「あんたは良うても、うちらはこんな危険な作戦御免なんや。命が幾つあっても足りんわ」
「じゃあ他に手はあるか? 逃げてる奴等を逃がすには誰かが殿をやんなきゃならねえ。誉れある戦だ。乗らねえ手はねえぞ」
さすが命知らずの鎌倉武士だ。死ぬ恐ろしさより名誉を得る嬉しさが先行してる。はっきり言ってバカだ。
「それに何も策が無い訳じゃねえ。おいアルケーやれるか?」
そう言って三郎は迫る魔王軍を観察している女神に声を掛けた。
「ここからでも射程内よ!」
アルケーは自信満々に答えるとアーリーライフルを召喚し、その銃口を彼方の魔王軍に狙いを定める。
「爆散魔法」
一発の魔弾が放物線を描いて魔王軍に放たれる。
まるで森に石を投げ入れる様な小さな一撃だがそんなの関係ない。
刹那、魔弾は魔王軍の中心で弾けて辺りの地面に赤みが混じった土煙を上げた。
以前デュラハン率いる魔王軍を屠ったあの魔法だ。
空中で炸裂し無数に魔弾を敵の頭上からぶち込むこの魔法砲撃なら、一瞬で多数の敵を倒す事が出来る。
「何だ今の魔法は!? 2000mは飛んだぞ!?」
その威力に指揮官達は目が飛び出さんばかりに仰天した。
アルケーの発射した魔法は、軍の魔法士が数人掛かりで放つ長距離魔法の倍以上の射程があったのだ。
「アルケーがここから援護すれば兵力差なんてすぐに覆るだろ? 俺達が戦場に付く頃には敵はボロボロだ」
そう言って三郎は勝利を確信した笑みを見せる。
彼の自信と女神の魔法を目の当たりにした菊子の心は大きく弾んだ。
これなら勝てる。今もアルケーの魔法で荒野には土のカーテンが上っている。こんな圧倒的光景を見たら負ける気なんてしない
「指揮官さん。別に倒せるんやったら倒してもうてええんでっしゃろ?」
さっきとは打って変わって自信満々に問いかけると、指揮官達は動揺しながらそれに頷く。
「ほな行こか! 兵隊さんらにうちらの力見せたり!」




