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第1話 有名人

 ギルドの一角にある石造りの建物。

 そこは教会の様な内装の小綺麗さと、倉庫の様な生活感の無い埃臭さのある場所だった。


「ほな、お気を付けて」


 そう言って菊子は魔法陣の外へと離れて行く。

 彼女のギルドが管理するワープシステムは各地のギルド支部と繋がっており、アルケー達は今まさに逃げた勇者、三浦アンジェリカが居る街ーーネスタへとワープする所である。

 光りだした魔法陣に驚き那古が嘶く。それを三郎がどうどうと沈めた。

 いよいよ長距離ワープが発動しアルケー達を光が包む。そして次の瞬間、一行の目にはさっきまでの殺風景な風景が続いていた。

 だがワープに失敗した訳ではない。

 その証拠に先程のまでは居なかった見知らぬギルド職員の男が笑顔で歓迎してくれている。


「ようこそネスタ支部へ。私はここのギルド支部を任されているロイドと申します。菊子様からお話しは伺っております。どうぞこちらへ」


 そう言ってロイドは腰低くアルケー達を案内する。


「三浦アンジェリカさんをお探しという事ですね? 彼女であれば、今からギルドの酒場で踊子ーー、いやアイドルとして出演もらう所です」

「アイドル?」


 この世界には似つかわしくない単語が飛び出す。


「聞いた事ありませんか? 『太陽の貴公子アンジェリカと月下美人ミュンネイ』と呼ばれている話題の2人なんですが?」

「笑亜知ってた?」

「いいえ」


 ずっと辺境のモンテドルフに居たからだろうか。そういう都会の話題は知らないと笑亜は首を振る。もちろんアルケーと三郎も知るはずがない。


「ギルドで働いてるなら菊子が呼び付ければ良かったのに」

「いえ、アンジェリカさん達はギルド所属という訳ではないのです。当ギルドでも滅多に呼べない方々なので貴方達は運が良かった」

「おい、アイドルって何だ?」


 例のごとく三郎は聞く。


「歌ったり踊ったりする人の事です。私達の時代じゃ皆の憧れの職業なんですよ」

「白拍子みたいなものか。そんな見事なもんなら見てみたいな」


 まるで普通の観光に来たみたいなノリで三郎は言う。だがアンジェリカの踊りに興味を示したのは何も彼だけではない。アルケーと笑亜も少し興味が湧いていた。


「どうせならアンジェリカさんに会うのはその後にしましょうか?」

「そうね。時間もある事だしちょっと覗いて見ましょう」


 そうと決まればと三郎は那古をギルドに預けに行く。冒険者の中にはモンスターを操るテイマーという者達も居るので、そういうモンスターを預ける獣舎は併設されているのだ。


 ネスタのギルド酒場はカルカスとそう変わらない。なんならカルカスもタイミング悪く見れなかっただけで、芸人が一芸を披露する催し自体はよくやっている。

 3人は空いている席に座り壇上で歌っている歌姫の声に耳を傾けた。


「なんと、まあ……」


 こちらの歌は初めて聞くであろう三郎は感心した様に言葉を絞り出す。

 空間を包み込む様な優しい歌声と共に川のせせらぎの様な楽器音が冒険者達を魅了する。普段は荒くれ者であるはずの彼等がうっとりする様に歌姫の歌に聞き入っていた。


「おい、あれがアンジェリカか?」

「違います。アンジェリカさんは次のようですね」


 聞いた感じ今歌っている歌姫はかなりのものだ。これの後が出番とは一体どんなものが来るのだろうか。

 気になっているうちに歌姫の出番が終わり、彼女は袖へと去って行く。

 酒場には談笑する声が湧くが、先程の歌の余韻を楽しむ様な落ち着いた雰囲気が作り出されていた。もちろん3人も同じだ。


「中々のもんだったな」

「へえ、貴方にもこういうのが分かるのね」


 感心する三郎だったが、これをアルケーはまるで侮る様にからかった。

 これには三郎も心外だ。


「お前さん俺を誰だと思ってんだ? 侍所別当、和田 義盛の三男だぞ? そこら辺の奴より目や耳は肥えてんだよ」

「へー、そうなの」

「おうさ。そうだなガキの頃、鶴岡八幡宮で見た(しずか)とか言う女の白拍子の舞は見事だったぜ」


 三郎は遠い日を思い出す様に言う。

 そこに珍しく笑亜が目を輝かせて食い付いた。


「静? もしかして静御前ですか!? 凄い有名人じゃないですか!」


 知っている歴史上人物が登場してテンションが上がったのだろう。

 確かに三郎の言っている人物は静御前その人なのだが、三郎的にはちょっとモヤッとする所があった。


「何で俺や鎌倉殿を知らねえのにそっちは知ってんだよ!?」

「だって有名ですもん! 源 義経の妻ですよね!」


 ここで間違えるのが笑亜の残念な所だろう。正しくは妾である。

 しかし義経の関係者として後世に残っているあたり、やはり後世でもその武勇は轟いているのだろうと三郎は思う。

 平家との戦いを経験した世代は、源平合戦の話となると必ず義経の話をする。頼朝と敵対して鎌倉の敵となったのにも関わらずだ。それだけ義経の武勇は坂東武者から見ても絶賛されていた。


(俺も北条との戦で大暴れしたんだけどなぁ。やっぱりあれしきの武勇では九郎殿に遠く及ばないって事か……)


 この世に武士として生を受けたからには、この名を天下に轟かせたいと思わない者はいない。

 しかし実際に名を残せるのは頼朝の様に世を動かした者や、義経の様に多大なる武勇を示した者達だけ。

 三郎はいくら手を伸ばしても届かない栄光に悔しさを感じた。


 ジャァーン!!


 突如、落ち着いた雰囲気を突き破る様な金属音が鳴り響く。

 続いて忙しく叩かれるドラム音と軽快なラッパ音で皆の視線が舞台へと釘付けになった。

 舞台の幕が開く。

 幕が開き切る前に人影が飛び出した。


 燕尾のジャケットを羽織った紳士服姿の少女。だがただの紳士服ではなく身体のラインがよく現れ、男を魅了する部分はしっかり魅せる改造服だ。

 鮮やかな紫色メッシュの入った黒い髪を弾ませ舞台に舞出た彼女は、驚き眼の客を煽るように呼び掛けた。


「うぇい! みんな先輩パイセンの美声はどうだったよ!? 胸キュンしたか!? でもこっからはアタシ達のターン! このアンジェとミュンミュンと一緒にテン上げブチ上げカマしてけイェイ!!」


 手に持った大きな紙筒を掲げて底の紐をぐっと引くと、筒の先端が弾けて中から金銀の紙吹雪が舞い客達から大きな驚きが上がった。

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