第12話 弱点発見
戦いはなお激しく続いている。
巨人はその再生能力に任せて防御を考えない攻撃を繰り出す。
三郎と笑亜はそれを躱し、または真っ向から受けながら巨大な敵と渡りあっていたが、切ろうが砕こうが瞬く間に再生してしまう巨人の前に段々と疲労の色が見えていた。
「くぅッ!? これじゃあ切りがないですよ!!」
笑亜は巨人の一撃を盾でガードするも大きく後退してしまう。そこへ三郎が太刀を振りかざし、その伸び切った腕を両断するも、斬った途端に再生が始まる。
「ああ、こうも平気な顔されてちゃ悲しくなってくるな」
巨人の身体は凄く脆い。斬るのも砕くのも造作もないのだが、痛くも痒くもないという様に元通りに再生してしまう。これを早く打開しなければ、いずれこちらは疲れて戦えなくなってしまうだろう。
その焦りは後方で援護するアルケーも同じだ。
「菊子! 貴方あのモンスターを封印してたんだから何か弱点とか知らないの!?」
「そないなもん分かっとったら封印なんかしとらんわ」
ご尤もな返事が帰って来る。
永遠に再生し続けるから誰も倒せず封印されたモンスター。一体どうすれば倒せるのかと思考を巡らせた時、アルケーはある事に気づいた。
それはこの部屋一面に転がる巨人から落ちた肉片である。
(身体から離れた部位は再生しない? 再生するのは決まって巨人の胴の方から……)
菊子曰くここに集まるモンスターは地下から湧き出る魔力を目当てに集まると言う。
ならあの超再生能力も魔力あってのものである可能性が高い。そして再生が起こる方向に魔力の核がある筈だ。
「三郎!! 笑亜!! 下がって!!」
アルケーは大声で叫ぶ。
いきなりの声に2人は一瞬戸惑いつつもアーリーライフルを構える彼女の姿を見て、何かあると後退を始めた。
「爆散魔法!!」
砲声と共にアーリーライフルから魔弾が放たれる。かつてモンスターの大群を葬った空中で爆散し魔弾の雨を降らせる魔法だ。
本来、爆散魔法が降らす魔弾一発一発は射撃魔法とそう威力は変わらない。
だが今回は魔弾の雨を降らせるのが目的ではないのだ。
魔弾は爆散する前に巨人の胴へと食い込んだ。
次の瞬間、内部で起爆した魔弾が無数の小魔弾をぶち撒けて巨人の胴を引き裂く。
文字通り胴から真っ二つになった巨人はその身に隠した秘密を曝け出した。
「あれよ!! あの魔石をぶっ壊して!!」
人の頭ほどある翡翠色の宝石が巨人の胴に埋まっている。すなわちあの巨人はゴーレムの変異種だったのだ。
弱点が見付かった事でそれまで疲れていたはずの三郎と笑亜の目がギラリと光る。
「行くぞぉ!!」
「反撃だぁ!!」
笑亜は剣を魔法で目一杯強化し、三郎は朱弓を構えて射掛ける。
魔石から巨人の肉体が再生するが、やっと見付けたゴールに3人は再生が追い付かないくらいの集中砲火を浴びせた。
三郎の放った矢が肉を削ぎ取り、アルケーの砲撃が魔石を露わにさせる。そこに剣を構えた笑亜が吶喊し跳躍の勢いのまま魔石を剣で貫いた。
「「「やった!!」」」
3人の歓喜が一つになってダンジョンに木霊する。
永遠に再生を繰り返すのではと思われた巨人は核を破壊された事で、ぴたりと動かなくなり地面に倒れ脆い身体が雪像の様に砕けた。
「よぉし!! ようやった笑亜!!」
最後の止めを刺した笑亜を三郎が褒める。
彼も本当は矢で核を狙ったのだが再生で溢れて来た肉によって狙いが逸れた。そんな悔しい事情があったのだがそれで拗ねるほど子供ではない。
褒められた笑亜は嬉しそうに足踏みして喜びを表した。
「ホンマに倒せた……。あんな弱点があったやなんて……」
菊子は呆然とかつての強敵の呆気ない姿に目をやって瞑目した。それはどこか遠くの誰かに思いを馳せている様に見える。
そんな戦勝ムードの雰囲気にぱんぱんと手を叩く音が響いた。
「さあさあ、まだ終わってないわよ。何だか菊子は探し物があるんですって。手分けして探すわよ」
アルケーが音頭を取って紛失物捜索を呼び掛ける。
「え? 聞いてねえぞそんなの」
「私もさっき知ったの」
驚く三郎にアルケーはやれやれ顔で返した。
「手伝うてくれるん?」
「この広い部屋だもの。皆で探した方が早いわ。探し物が何か教えてくれる?」
「……スマホや」
この世界には似つかわしくない名詞が出て来た。
「スマホぉ? あんな物こっちじゃ何の役に立たないでしょうに」
地球の神でないアルケーだがスマホくらいは知っている。だが彼女の言った通り、インターネットもGPSもないこっちの世界では無用の長物だ。
「それでもあれにはうちの家族の写真が入っとる。せやからどうしても見つけたいんや。大切な家族の写真を」
もう会えない家族を思い菊子は目を伏せる。
この世界にやって来た事で、死んでしまった家族との唯一の思い出がその写真なのだろう。
(これは私も悪いわね……)
アルケーも思う所はある。
あちらの世界では死の運命にあった人間とは言え、彼女達はまだ生きていて、思い出も何も全てあちらに置いてきてしまったのだ。
ならせめて彼女の拠り所だけでも与えて上げたい。
「分かったわ。じゃあ三郎は巨人の下とその周りを探して。笑亜は三郎のサポート。どうせスマホなんて知らないでしょう?」
「当たり前だ。何なんだスマホって?」
「えーと、これくらいの板状の機械ですね。まあ変わった物が落ちてたら私の所まで持って来て下さい」
「犬か俺は?」
三郎と笑亜には巨人が横たわる一番力仕事が多い場所を任せる。
アルケー自身もごく当然の事の様にスマホ捜索に取り掛かった。
何かと意地悪してしまったのに自分の個人的事情に協力してくれる女神に、菊子は意外そうな顔をする。
「これが女神アルケー……まあ、ええやろう」
まだ完全に心を許した訳ではないが、まあ少しくらいなら信用してやっても良いかと、菊子は作り物でない笑みを浮かべた。




