第17話 魔王蹂躙
放たれた魔弾を三郎は反射的に金砕棒を構えて防ぐ。
だが先頭に居たチョウソは魔弾に貫かれ力無く倒れた。
「うん? それはヴァナリウスの砲身か?」
魔弾を防がれた事に男は少し驚いた顔をする。
三郎はその血色の悪い男をまじまじと睨んだ。
腕全体に装着されたアーリーライフルに似た武器、その恐ろしいまでの威力と、この金砕棒の由来について知っていそうな素振りですぐに勘付く。
「お前がカラミチか!?」
「カラミチ?」
相変わらずカラミティと言えない三郎に、当然その本人はムッとした顔になる。
その横でアルケーは聞き覚えのある喧しい声に反応して、棘の激痛に耐えながら顔を上げた。
「三郎……!? 生きてたの?」
「おい、あんな低次の存在と口を利くな」
カラミティは面白くない顔をするがそんなの知ったこっちゃない。
「逃げなさい! 貴方達じゃあカラミティは倒せない! 今は逃げ――ッ!?」
彼女の叫びを遮り棘が喉を貫く。
その残酷な光景に三郎達は彼女が殺されたと思った。
しかし死んではいない。
カラミティはアルケーの髪を掴み、自身の苛立った顔を近付けた。
「喋るなと言っているだろうが。そのまま無数の棘で首を落としてやろうか?」
望む所だ。やれるものならやってみなさい、とアルケーは声の代わりに目で反抗する。
「ハハハ、冗談だ。殺したらそれで終わりだもんなあ。もっとその屈辱に耐える顔を見せろ」
頬を撫でつつ首の棘を戻す。
アルケーの口から血が流れ出し、ドレスは全て赤黒く染まってしまっている。
一体何本の棘に貫かれただろうか。
いくら超回復で回復出来るとは言え、アルケーの意識はもう限界だ。意識を失えば魔法は使えない。
ダンッ――!!
床が砕ける様な音が響いた。
荒々しい踏込みと共に飛び出た武者は黒鉄の金砕棒を振るいカラミティに襲い掛かる。
取り回しの悪さなんて関係ない。部屋に置いてある椅子も机も全て薙ぎ払いながら必殺の一撃を見舞った。
だがその一撃は虚空から現れた巨大な手に阻まれてしまう。ヴァナリウスの手だ。
「低次の存在が、我に歯向かうとは。死ね」
ヴァナリウスの手が三郎を薙ぐ。
だが金砕棒での受け流しも利用し、三郎は上手くカラミティの側面に回り込んだ。
死ぬのは――、
「テメェだ!!」
だがそのの一撃も浮遊する盾によって防がれた。
カラミティの銃口がこちらに向く。
撃ち出された魔弾を金砕棒で防ぐが、至近距離だった為に吹き飛ばされてしまった。
カラミティは涼しい顔をして三郎やオーガ達を見る。
何も言わず、ただ一息だけ吐くと、周囲に現れたパーツが集まりカラミティは神の戦闘外殻に包まれた。
背には無機質な灰色の翼。腕には収束砲。浮遊し奴を守る盾。それはこの世界には似つかわしくない、別次元の代物であると誰もが思った。
魔力の粒子をまき散らし、ブースターを点火させたカラミティはアルケーを抱えて屋敷の外へと飛び立つ。
「逃げんなッ!!」
三郎は窓を砕き外を見やる。
そこには黒が支配する空に青白い光を撒きながら、眼下の者達を見下ろす魔王の姿があった。
怒りも憎しみもなく、ただただ無関心なものを見る目を向ける。自分の方が上位の存在なのだから、こいつ等なんてどうでも良いという見下しの目だ。
そして無関心であるからその扱いもぞんざいになる。
「よし。先ずはこの街にある生命を全滅させるか」
いるではなくある。
カラミティにとって下界の生命はその程度の扱いなのだ。
「アンタ! 私を苦しめたいならこの服の針で十分でしょ! 何で関係ない者まで殺そうとするのよ!? マナを生み出す生命を殺したら、アンタも弱体化するわよ!?」
「さっきも言っただろう。数千程度殺したとて我に供給されるマナ量に対した変化はない。それに矮小な生命が強大な力の前に成すすべもなくプチプチと潰れていく様は面白いではないか。それでお前が苦しむのなら尚の事、やらずにいれるものか」
狂気の笑みを浮かべ自己中心的な醜い加虐心を見せる。
もはやこの魔王は自分の満足のためだけに行動しているのだ。
自分以外の他者がどうなろうと知ったことではないのだろう。むしろアルケーを苦しませる材料程度にしか見ていない。
アルケーの絶句する表情を堪能したカラミティはいよいよその時が来たとばかりに狂喜した。
「さあ殺ろうか! ヴァナリウス召喚!」
空間が歪み光る角を有した半人半虫の巨大な機動武装が現れる。カラミティは機体内に取り込まれ、アルケーは機体から伸びたコードで磔にされた。
ヴァナリウスの巨体が地面を砕いて降り立つ。
屋敷の外には降参した波ノ里のオーガ達が居たが、カラミティはそれを意に介さずヴァナリウスの収束砲を彼等と屋敷に向けた。
「先ずはここにある生命からだ!」
青白い光が収束し破壊のエネルギーを生み出す。
オーガの魔人を消し飛ばしたノーチャージ砲撃とは違う。山を砕いたあの一撃がここで放たれるのだ。
「やめなさいカラミティ!! やめろぉ!!」
アルケーは喉がまた裂けそうな叫びを上げる。
だが彼女の悲鳴などカラミティにとって、これほど愉快な音色はない。
魔力のチャージを終えた収束砲はその集まった破壊のエネルギーを一気に解放し、アルケーの目の前でそこに居る生命達に向けて破壊の光を放った。
夜の闇を裂く様な一条の光が屋敷を、街を貫き全てを焼き尽くす。
遥か彼方で爆炎が上がりその衝撃波がアルケーに叩き付けられた。
「あ、ああ……ああぁぁぁぁーーーー!!」
悔しさか悲しみかアルケーは血を吐くほどに絶叫した。
「クハハハハハ! 見たかこれが我の力だ! もはやお前ごときが我に敵うことはない!」
「アンタは!! アンタだけは!!」
「ククク、どれだけ喚こうが無駄だ。お前はその特等席で矮小な生命が潰されて行くのをじっくりと見ていろ」
カラミティはこれだけでは飽き足らず、逃げるオーガ達を蹂躙し始める。
収束砲を発射し、建物を破壊して生き埋めにし、動けなくなっている者はゴミ虫のように踏み潰した。
アルケーがどれだけ叫んでもカラミティは止まらない。
空を焼くような炎が天に立ち昇った。




