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第11話 名か命か

 ゲンベに連れられてやって来たのは、彼の仲間達が生活する兵舎で、その敷地内にある倉庫の様な場所に案内された。


「ここか? 誰も居ないようだが?」


 その時、ゲンベは体当たりして2人を真っ暗な倉庫に押し込むと、すぐに扉を閉めて鍵を掛けた。


「やったやった閉じ込めた! 人間め、よくもオレをコケにしてくれたな!」


 ゲンベはまんまと罠にハマった馬鹿な人間を嘲笑う。

 中から騎士の可哀想な怒号が聞こえるが、これがまた胸がすく程に面白い。


「無駄無駄! そこは罪を犯した奴を閉じ込める獄倉だ! 防御魔法で強化された建物は、オーガの力でもびくともしない! 人間の力じゃどう頑張っても出れねえよバーカ! おーい皆来てくれ!! 間抜けな人間をつか――!!」


 その時、ドォンという音と共に獄倉の扉が張り倒される。

 まさかと思い振り返ると、そこには今まさに金砕棒を振り下ろそうとする三郎の姿があった。


「ヒイィッ……」


 そのあまりの殺気にゲンベは怯えて腰を抜かす。そしてたまたま運良く開いていた股の間に金砕棒が振り下ろされた。

 その衝撃たるやゲンベの身体が一瞬宙に浮き、地面が陥没する程のものだった。


「いやぁ……あの、違う。これは……ゆ……じゅみませんでぢたー!!」


 頬と股を濡らしながらゲンベは今度こそ完全に降参する。

 三郎は大きな鼻息をして仁王像の如く戒めの目で彼を睨み付けた。


「なんて怪力だ……」


 シャルディは壊れた扉を見て息を呑む。

 自分がどんなに叩いてもびくともしなかった扉を三郎はいとも容易く壊してしまったのだ。


(この男、本当に人間か?)


 オーガ以上の力なんて人間ではありえない。

 彼等と渡り合うなら、普通は魔法で身体強化をする必要があるのだが、三郎にその様子は無かった。

 ここで先程ゲンベが呼んだオーガ達が、何だ何だとこの騒ぎに集まって来た。

 数は30人といった所だろうか。人間相手に土下座しているゲンベ、大破した獄倉の扉、そして見知らぬ2人の武士と騎士という状況を把握できていない様子だ。

 三郎はそんなオーガ達の困惑に乗じて声を発した。


「やあやあオーガ達よ! お初に御目にかかる!」


 まるで最初から友人である様な気さくな態度で接する。

 というのもこのオーガ達はまだ魔王側の者達なのだ。だからこちらのペースに持ち込まねば、ゲンベの様に敵意を向けて来るかもしれない。

 見栄でもハッタリでも何でも良い。とにかく度胸を見せなければ話は始まらないのだ。


「我が名は朝比奈三郎義秀と申す者! 魔王を討ち取りに参った! 聞けばそなた等も魔王からの理不尽な仕打ちによって多くの同胞を失ったと聞く! 俺達も加勢する故、共に仇を討とうぞ!」


 握り拳を突き上げて高らかに演説を行う。

 だがオーガ達の反応は冷めたものだった。彼の呼び掛けに対して何の共感も賛同も示さない。

 そんな中、この中のリーダーと思わしき壮年のオーガが前に出て来て言った。


「人間よ。確かに我等は魔王様によって族長と同胞達を失った。しかしだからと言って仇討ちなどという無謀な事はしない。あの力に勝てるわけがない」


 カラミティの圧倒的な力をじかに味わった彼等にとって、魔王に逆らうなど自滅行為でしかない。

 だからこれ以上の死者を出さない為に、このまま大人しくしていた方が良い。


(そんな風に考えてんだろうなあ)


 そうはいかない。

 怒りを、憎しみを、悔しさを押し殺させたりなんかさせない。


 三郎は手に持つ金砕棒――、否、自分達を苦しめたガトリング砲の砲身を月光に掲げた。


「見よやこの手に持つ黒鉄(くろがね)を! これは昼間、魔王と戦い奪い取った物だ! 奴が何故急に帰って来たか!? それは俺達に負けて逃げ帰ったからだ! これがその証だ! 見よ!」


 嘘だ。真っ赤を通り越して猩々緋くらい鮮やかな大嘘を言ってのける。

 だがこれでオーガ達に「勝てるかも」という希望を見せてやる事が出来る筈だ。そしてその希望は蓋をしていた理屈にひびを入れ、中の感情を溢れ出させるのだ。

 現にオーガ達は三郎の言葉に動揺を見せている。


「馬鹿な。あの魔王を撃退したと言うのか? だが確かにそれからは禍々しい力の残り香を感じる。まさか本当に……!?」

「ここで大人しく引き下がり、未来永劫子々孫々まで魔王に屈した恥辱を残すか! それとも決起して一族の誇りを示すか! 名か命か!! オーガ共よ答えろ!!」


 三郎の言葉がオーガ達の心を大きく揺さぶる。

 もう彼等の恨みは煮えたぎっていた。いくら理性や恐怖で抑えても、内から湧き上がる魔王憎しの炎を消す事は出来ない。

 壮年オーガは強い目を持って力強く一歩踏み出した。


「頭領?」

「儂はアラッシュ様と同胞達の仇を取る。このまま引き下がってはあっちに行った時に族長や同胞に合わせる顔がないわい。ただしこれは儂の都合だ。お前達は付き合わなくて良い」


 彼は仲間にそう言って1人打倒魔王に立ち上がる。

 それを見て触発されたのか、それを皮切りに他のオーガ達も次々と、魔王ヘの怒りを爆発させて決起しだした。


 魔王を許さない! 族長の仇! 同胞の仇!

 俺達の意地と誇りを見せてやる!


 オーガ達の咆哮が夜空に響く。

 三郎は彼等の無念を理解し取り入る事で敵を味方に付ける事に成功したのだった。

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