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第7話 魔王の虐殺

 魔王軍の前線拠点、モンティアルシュタット。

 ここはオーガ族の魔人アラッシュが支配しており、彼の部下達もそこら辺の野生モンスターではなく、同族の精鋭達だ。

 そのオーガ軍団は街の城門前に屯して、今まさに出撃の時を迎えようとしている。

 アラッシュはオーガ族の特徴とも言うべき赤髪を歌舞かせ、猛々しい鬼角で天を突いて檄を飛ばした。

 

「お前達、いよいよこの時が来たぞ! 魔王様が立たれた今、俺達に敵はいねえ! 暴れて暴れて暴れまくって王国の奴等を蹴散らしてやれ!」


 割れるような鬨が上がる。

 それだけで彼等の士気がとんでもなく高い事が分かった。

 それもその筈。今までアルケア王国に張られた結界の所為で本格的な侵攻が出来ていなかったのだ。

 先日送り出したデュラハンも人間によって倒され作戦失敗。

 次なる作戦を思案していた所に突然、魔王カラミティがやって来たのだ。

 魔王は滅多に戦場に姿を現さない。むしろこれまで自分は関係ないとでも言うように、王国との戦争に関わらなかった。

 しかしその魔王様が先陣を切った今こそ攻め時と、アラッシュ達は兵を掻き集め、後に続こうとしていた。


「族長! 魔王様が!」


 城門の上で見張りのオーガが叫ぶ。

 魔王様と聞いてアラッシュはすぐに城壁に上がり示された方向を見ると、草原の向こうからカラミティが操るヴァナリウスの巨体がこちらに向かって来ていた。

 アラッシュはすぐ下に降りてカラミティを出迎える。


「お帰りなさいませ魔王様。どうかなさいましたか?」


 予想外の帰投にアラッシュは内心困惑していた。


「どうもせん。我の用が済んだから戻ったまでだ」

「用が済んだ!? ではアルケア王国への侵攻はどうするのです!?」

「そんなものは知らぬ」


 アラッシュと兵士達はぽかんと開いた口が塞がらない。


(一体何がしたいんだ?)

 

 誰もがそう思っただろう。

 そこでふとアラッシュはヴァナリウスの手に拘束された女に気が付いた。


「へえ人間の女ですか。それもかなりの上玉ですな。如何なされるおつもりですか魔王様?」


 アラッシュも男であるから戦で女を攫って来る意味は分かる。分かった上で雑談のつもりで聞いた。そのつもりだった。

 その刹那、ヴァナリウスの収束砲に光が走り、アラッシュとその部下達は驚く暇も無しに纏めて薙ぎ払らわれた。


「下賤な存在がアルケーを見るな!」


 辺りは一変して騒然となり、運良く生き残ったオーガ達は大混乱して逃げ惑う。

 そんな中をカラミティは構わずヴァナリウスを進めた。まだ息のある者も踏み潰しながら。


「アンタ! 味方に何してんの!?」


 アルケーはこの常軌を逸したカラミティの行動に驚きの声を上げる。


「オーガごときがお前に目を向けた罰だ」

「目をって……。そんな事で!?」


 あまりにも自分勝手な理由に絶句する。

 この男は自分以外の存在を全て下に見ているのだろうか。でないと仲間をこんな簡単に殺せる筈がない。

 オーガ達は悠然と歩くヴァナリウスから慌てふためき逃げて行く。その目にはカラミティへの恐怖が刻み込まれているように見えた。


「止まりなさい! このままじゃ混乱で余計死者が増えるわよ!?」

「オーガごときがいくら死のうが良いではないか。元々我が力目当てに寄って来た者達だ。どうなろうと知った事では無い」


 どうなっても良いとカラミティは歩みを止めない。

 逃げるオーガ達は出撃の為に大通りに集まっていたのが仇となった。大勢が逃げ惑った為に、横に入る小道が詰まり、殆どの兵士達がヴァナリウスと同じ方向に逃げるしかないのだ。

 ヴァナリウスは詰まった配管のゴミを削る様にオーガ達を踏み潰して行く。

 いくらカラミティに加担する者達とは言え、この仕打ちはあまりにも酷い。オーガ達もまたアルケーにとってはこの世界の住人なのだ。

 我慢できなくなったアルケーは身をくねらせて遂にヴァナリウスの拘束から抜け出した。


「そこのオーガ! 傷を見せなさい!」


 ヴァナリウスに脚を潰されたオーガの元まで駆け寄ると、すぐさま超回復(リヴァイブヒール)を発動する。

 魔法を受けた脚が見る見る再生していく。その光景に最初は戸惑っていたオーガの顔が嬉しさと驚きに満ち溢れた。

 だが、もう少しで完治するという所でアルケーは再びヴァナリウスに捕われてしまう。

 ヴァナリウスの収束砲が発射され、彼女が助けようとしたオーガは炎の中に消えた。


「あ……あぁ……」


 アルケーは余りの愚行に怒りの目を向ける。

 一体あのオーガが何をしたと言うのか。


「下賤な存在がアルケーの祝福を受けるなど身の程知らずにも程がある。アルケーの祝福はこの我にこそ相応しいのだ」


 その姿は魔王と言うより暴君だった。

 まるで自分に集う者達を仲間とも眷属とも扱っていない。ただ単に偶然そこに居た虫を踏み潰すようにその命を奪って行く。

 アルケーは血の味がする程に奥歯を噛み締めカラミティを睨んだ。


「このイカれカラミティ! アンタは絶対に許さない! 必ず倒してやる!」

「ハッハッハッ! この力を見てまだそんな事が言えるか! ならもっと我の力を見せてやろう! 街を焼き、山を崩し、海を割ってそこに住む者達を殺し尽くしてやる! そうすれば我の力が分かるだろう! フハハハハハ!!」


 暴君の高笑いがオーガ達の悲鳴を掻き消して木霊する。

 カラミティはアルケーを自分に屈伏させるためなら、この世界の生物を絶滅させる事も厭わないだろう。

 今度は逃さないとヴァナリウスのアームクローが一層彼女を圧迫した。


「うぎぃッ!? うぅッ!!」


 身体から嫌な音が鳴る。回復しようとするも意識が定まらない。アルケーは口から血を吐いて力無く、ヴァナリウスの手から身を垂らす。

 ぐったりした彼女をカラミティは美しい芸術を見るような笑みを浮かべて眺めた。


「ふふっ、殺しはしないぞ。まだまだこれからなのだからなぁ」


 朦朧とする意識の中で、アルケーの目には西に傾きかけた太陽が写っていた。

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