第12話 騎士隊てんてこまい
駆け付けるとジュリが苦しそうなうめき声を上げてベッドに横たわっていた。
側には騎士が居るが彼もまたどうすれば良いか分からず、口を開けて狼狽えている。
だが慌てようが、祈ろうがジュリの苦しみは止まらない。
「医者はいつ来る!?」
「明日の昼には……」
こんな事もあろうかとシャルディは医者の手配をしていた。いたのだが、公爵令嬢をそこいらの田舎医者に診させる訳にはいかないと、わざわざモンテドルフから離れた街に居る有名な医者を呼んでいたのだ。それが仇となった。
「遅過ぎる! もうその辺の医者で良いから、今すぐ連れて来い!」
土壇場になり慌てて近場の医者を頼る。
戦場での傷の手当てくらいならいざ知らず、子供の出産なんて騎士達にはどうしたらいいのか全く分からない。
「隊長! ポーションも持ってきました!」
「すぐに運び込め!」
「隊長! 解毒薬は要るでしょうか?」
「要らん! 何に使うんだそんな物!」
皆どうすれば分からず右往左往するばかりであった。
そんな頼りにならない騎士達を押し退ける様に、老婆を先頭にした村の女性達が縦陣を組んでやって来る。その威圧感は三郎もたじろぐレベルだ。
「何だお前達は?」
「村長トビーの妻、カエナだよ。ジュリの陣痛が始まったって?」
まるで歴戦の戦士の様な眼光をシャルディに向ける。
これがあの村長の妻だとはにわかに信じられなかった。間違いなく夫を尻に敷いているだろう。
「この村のガキ共は皆アタシが取り上げたんだ。任せておきな!」
後ろに控えた女達もうんうんと頷く。
その中にはアルケーと笑亜の姿もあった。
「何でお前さんが居るんだよ?」
「回復魔法で手伝ってくれって頼まれたのよ」
アルケーはドヤ顔で答える。
「一応聞くが、お前さんお産を手伝った経験は?」
「無いわよ」
「おいおい大丈夫か?」
「こんな状況なのに、やった事ないからやりませんって理由には行かないでしょ」
「お前さんも手伝いか?」
その横にいる笑亜にも聞く。
「いえ私は手伝わなくていいと言われたんですが、ジュリさんが心配で」
メンバーに選ばれなかった笑亜は微妙な顔をした。荷が重い仕事をしなくて良かったという安心感と、それでもジュリの事が心配な不安感がごっちゃになっているのだろう。
「待て待て入るな!」
「早く中に入れとくれよ! アンタ等に赤ん坊を取り上げられるのかい?」
「あの方は貴族の御令嬢だ! 今ちゃんとした医師をだな!」
入口でカエナがシャルディを退けようと強気な言葉で攻め立てている。
彼はまだ身分というものに拘っているようだ。
中々言う事を聞かない分からず屋に業を煮やしたのかカエナはズンっと進み出て、シャルディの顔にがんを飛ばした。
「アンタ童貞だね?」
「は!?」
突然の一言にシャルディは引きつった声を上げる。何故か意中を射抜かれた様に肩を震わせて。
その様子に周囲の誰もが思っただろう。「あれ? 図星?」と。
「ふん、顔付き見りゃ分かるよ。退きなチェリーナイト! こっからは女の戦場だ!」
ドンと突き飛ばされ、シャルディは何も抵抗する事なく女衆を通す。よっぽどカエナから言われた事がショックだったのだろう。
「騎士さんや。ポーションはあるかい?」
完全にこの場の長となったカエナが現場指揮を取り始める。その凄みに圧倒されて騎士達も大人しく従うしかなかった。
「さっき家の中に運びました。緑のラインが入った木箱です」
「あと解毒薬もあれば寄越しな。あれを産湯に混ぜると病気を防げるんだ」
今さっき解毒薬を片付けた騎士が何か言いたそうな目でシャルディを見やる。けど何も言わずに大人しく片付けた解毒薬を取りに向かった。
もう完全にシャルディ達騎士は使いっ走り状態である。終いには「男は家に入って来るな」とまで言われて締め出されてしまった。
昼間まであんなに威張り散らしていたのに、随分な落ちぶれようだ。
「お前さん童……。いや、気にすんなって」
「おい何が言いたい? 待て、その目は何だ!」
憐れみの目を向ける三郎に対しシャルディは顔を真っ赤にする。
「隊長落ち着いて下さい」
「因みにフレデリク。お前はどうなんだ?」
「え、自分は……騎士になった時、キースと一緒に娼館で済ませて来ました」
まさかの流れ矢が横に居たキースを襲う。
「ッ! 穢らわしい!」
理不尽という言葉がその場の全員に過ぎった事だろう。もはや八つ当たりにしか見えなかった。
「それで隊長。俺達はどうしましょう?」
このままではいけないと思ったのか、一人の騎士が意を決して伺いを立てる。
「宿で待機だ。こうなってしまっては僕達にどうする事も出来ないだろ」
医者でも助産師でもない自分達に出る幕はない。大人しく赤ん坊が産まれるのを待っていようとした時、三郎が声を上げた。
「いやあるぞ! 俺達にも出来ることが!」
そして何故か三郎は着物を脱ぎ始めた。




