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第15話 厄介事

 アルケー達が食べなかった芋粥はそのままドラコフォンズの傭兵達に振る舞われることになった。


「いやぁ~、お客人のお陰でこんな美味いもんにありつけるなんて」

「ネバープラントなんて一生に一回食えるか分からないからな。しっかり味合わないと」


 汗水垂らし働いていた中の思いがけない甘味に皆喜んで舌鼓を打つ。

 ところで傭兵達は100人近く居るのだが、親衡は一体どれだけの芋粥を作っていたんだろう。この量を食べさせるつもりだったと考えると、彼も割とバカなのかもしれないとアルケーは思った。

 それでも親衡は諦めない。料理がダメなら今度は酒だと、すぐに酒宴へと切り替えた。


「さあさあどうぞ呑んで下さい」


 親衡自らアルケーに酒を注ぐ。まるで社長に媚びる部下のようだ。

 一方のアルケーはそんな饗しを悪くない気分で受け入れていた。何せ女神として敬われ饗されるのは久しぶりだ。

 笑亜は敬ってはくれるが特別何かを捧げてくれる訳ではないし、三郎に至っては態度が論外。アンジェもミュンネイも菊子もどこか自分を女神と言うより魔王討伐としての仲間として見てくれている感じで、それも悪くないのだが時々、女神である事を忘れられている気がする。

 だからこの接待にアルケーはすっかり気を良くしていた。


「貴方の誠意は十分伝わったわ。これからは仲良くしましょう」

「ありがたき御言葉。我らドラコフォンズ、全力で魔王軍と戦います」

「何かあれば頼りにするわ。ちか――じゃなかった。えーっと……」


 これまで通り『親衡』と呼ぼうとして口を噤む。

 鎌倉時代の人間にとって本名は口にしてはいけない事は三郎で経験済みだ。

 だからこの男の通称は何だったっけと思い出そうとするが、それを親衡は笑って許した。


「親衡でよろしいですよ」

「いいの!? 本名で呼ぶのは無礼じゃないの!?」

「我々の習慣を気にして頂けるとは、さすがアルケー殿。ですがお気遣い御無用。こちらの世界では皆本名を名乗るのでしょう? なら郷に行っては郷に従えです。どうぞ気軽に呼んで下さい。あ、何ならニックネームと言うものを付けていただいても構いませんよ?」


 この鎌倉武士めちゃくちゃ優しいし考えが柔軟だとアルケーと笑亜はびっくりする。いつぞや「ぶっ殺すぞ!」と怒ってきたどこぞの坂東武者とは大違いだ。

 でも確かにアンジェリカも『チカチュウ』なんて言う本名をもじったニックネームで呼んでいたし、彼の妻達もそうだ。


「じゃあ親衡。これからはお互い力を合わせてカラミティと戦いましょう」

「ははあ!」


 だがこれが面白くないのが三郎だ。


「面白くねえなぁ」

「嫉妬ですか師匠?」

「お前も言うようになったよなぁ」


 面白い冗談を言って来た笑亜を睨んで三郎は酒を飲み干す。

 周りから止められるから大人しくしているが、やっぱり親衡の事は気に入らない。何よりアルケーに上手く取り入っているから余計にだ。

 別に妬いてる訳じゃない。アルケーが奴の肩を持つと首が取りにくくなるから嫌なのだ。

 そうやってむしゃくしゃしていると、空になった盃に酒を注ぐ為にラミがやって来た。


「ラミとか言ったな。あいつのどこが良いんだ?」


 三郎は親衡の妻の1人である彼女に絡み始める。

 聞かれたラミは指を口元に当てて何から言ったら良いか迷いながら答えた。


「ん~、そうですね。皆を纏め上げるカリスマ。底知れない知性。何より男性として魅力的な所です」

「へっ、お前さん男を見る目ねえな」

「ちょっと師匠!」


 笑亜がちょっとキツめに直垂の袖を引っ張る。そして自分の目を示しラミが盲目である事を指摘した。


「あ……すまん」


 さすがに三郎も悪い事を言ってしまったと思いすぐに謝る。

 しかしラミは特に気にした様子もなく、逆に自慢する様な感じで言った。


「ふふ、ですが私は目が見えない代わりに、人の可能性の光と言うものが見えるのですよ」

「可能性? どういう事だ?」

「簡単に言えば、出世しそうな人が分かるのです。ちぃ様が放つ光はとてもギラギラしてて素敵です。私はそのギラギラに惹かれました。きっと今に出世なさるでしょう」

「はぁ~、やっぱりお前さん男を見る目――むぐぅ」

「は~い師匠。ちょっと黙りましょうか」


 さっきと同じ事を言おうとする忘れん坊なお口を塞ぐ。いやホントいくら鎌倉時代の人間だからって、これくらいの気も使えないなんて恥ずかしい。

 一方の親衡はアルケーと他愛もない、しかし面白みのある雑談をしていた。

 彼の言葉は巧みでアルケーの言葉に相槌を打ってよく聞き、自分の話す番になったらこの世界で見聞きした面白い事を伝えた。

 アルケーにとっては自分が司る世界を褒めて貰っているのだからますます気分を良くした。

 そして話が盛り上がった所で親衡は本題を切り出した。

 

「ところでアルケー殿は女神の力を持った勇者をお探しになられているとか?」

「ええそうよ。まぁ、ここ最近全然情報が無いんだけどね」


 アルケーは美酒で赤くなった顔を困らせる。

 逃げた勇者達の情報は今のところ何も入って来ていない。

 彼らを戦線復帰させてカラミティに対する戦力を増強するという思惑は暗礁に乗り上げていたのだ。

 しかしここで意外な言葉が親衡の口から飛び出た。


「その勇者の1人に心当たりがあります」

「それ本当!?」

「はい。実は最近その勇者に、モンスター討伐を邪魔されたり、村の食料を盗まれたり、家に石を投げられたりと悪さをされて困っていたのです。ラミ、ここへ」


 親衡はラミを呼び寄せた。


「この者には以前男が居りましてな。それが貴方に力を与えられた勇者との事です」

「きっとあの人は別れた腹いせに嫌がらせをしに来てるんだわ。このままでは私の新生活を壊されてしまう。お願いします女神様! どうにかしてあのストーカー勇者を止めさせて下さい!」


 さっきまでおしとやかだったラミの声に怒気が孕む。

 事情を聞いたアルケーは話がぶっ飛び過ぎてて暫しフリーズした。いやまあ別に驚くほどの事ではない。勇者も人間なのだからこの世界でいい人を見つけて一緒になるくらいの事はするだろう。


「え? 待って待って何? つまり貴方の元旦那は勇者だったけど別れて親衡に乗り換えたと。それに怒った勇者が嫌がらせに来ていると?」

「乗り換えたなんて、そんな風に言わないで下さい!」


 それじゃあまるで自分が不義理をしたみたいだとラミは怒る。向こうでは三郎が「ほら見ろ。やっぱり見る目ねえだろ」と笑った。

 なんと言うか……。せっかく勇者の情報が入って来たのに凄く面倒臭そうだ。仲間にしようにも必ずこの案件が枷になってくるだろう。


(こいつ厄介事を押し付けて来たわね!)


 その時、傭兵の1人が血相を変えて飛び込んできた。


「ボス! また出やがった!」

「今行く!」


 親衡はすぐさま立ち上がると弓と胡簶(やなぐい)を取って家を飛び出して行く。

 どうやらそのストーカー勇者が現れたらしい。

 ここに残る訳にも行かずアルケー達も後を追った。

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