交錯する想い
小野井は緊張していた。何せ防大の卒業式以来であるから約2年半ぶりであった。
「武士…?あんたちょっと痩せたんじゃない?」
「そうか?それより今日は時間作ってくれてありがとう。」
いつもの2人はこんな感じである。
「例の店?」
「しかないでしょ?」
例の店というのは"タンポポ"という喫茶店だ。
「よく、外出許可もらって来たわよね。」
「ここでcoffeeを飲んでショッピングするのが俺達の定番コースだった。」
「でも、あの頃とは違うから…。」
「そうだね。彼氏とか出来た?」
「いや、そんな質問野暮だね。」
「武士以上の人なんてそうはいないから。」
「でも、武士には、私以上の大切な人が必ず現れるって‼」
「説得力ないよ。そんな事言ったって。大体分かってるふりじゃん。」
「この2年半で変わったって言いたいの?」
「違う。そうじゃない。」
「春代は分かってない。何も分かってない。俺の別れの言葉の意味なんて。」
「あんな最低な別れ方しておいて、その言葉はないと思うけど?」
「確かに最低な別れ方だったかもしれないが、あれしか俺には選択肢が無かった。」
「格好つけないでよ!あんなに辛かったんだから。本当に。」
「もうやめよう。こんな話をしに鹿屋から来たんじゃない。」
「どうなのよ?鹿屋は?」
「横須賀より住みやすいけど、スクランブル(緊急発進)が多いな。」
「そんな事知りたい訳じゃないよな?」
「うん。向こうで良い人出来たかなって?」
「美人が多いって聞くし。」
「バカ野郎。春代以上の大切な人がいるはずねぇだろ?」
「酒は旨いぞ。鹿児島の芋焼酎。隊員クラブで休日はしこたま飲まされてる。」
「有名だもんね。でも武士酒弱いじゃん?」
「そう。飲めない酒を飲まされてる。」
「ふふ。そういう所は変わってないのね。」
「春代の方こそ、どうなのよ?」
「どうもこうも、住み慣れてる横須賀基地だから何も無いけど?」
「そうか?合コンとかちょくちょく行ってんじゃんないの?」
「私、合コンとか嫌いなの。」
「護衛艦らいちょうの水雷科No.2は違うな。」
「情報早いわね。飛行機に乗る武士も見てみたいけど?」
「時間大丈夫?」
「あっ‼やっべ。行かなくちゃ!また連絡する。」
「TELいつでも待ってるから。メールでも良いけど。」
小野井はサヨウナラは言わなかった。まだ捨てきれない彼女への想いを胸に引きずったまま鹿屋へと戻ることになったが仕方あるまい。




