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アマゾネスの城2

「…ならばそのように王にご報告を。」義心は、淡々と言った。「陛下、時がありません。それで、渡りをつけられそうな王とはどなたか。あの戦には来ておられたのか。」

アディアは、まだ書状を手に考え込んでいたが、ハッと顔を上げた。

「ああ…そうであった。時が無いのであったの。」と、息をついた。「お祖母様と話しておって、ならばヴァンパイアの王に頼めば良いのではと。」

義心は、両方の眉を上げた。ヴァンパイア?

「…確か昔、サイラス様がヴァルラム様とご友人であられ、幾度かお見上げしたことはあり申しますが、今はどなたが王であられますか?ヴァルラム様が亡くなられてから、一切出て来られぬと聞いておりまするが。」

アディアは、頷いた。

「今も変わらずサイラス殿が王ぞ。ヴィランですら、サイラス殿のことはどうにも出来なんだ。元々潜むのが上手いかたで、ヴィランが城へと向かった時にはもぬけの殻で、その後も行方はようとして知れぬまま。だが、度々城へは戻っておるようで、二度目の進攻の際にはたった一人で対峙したと。だが、サイラス殿は大変に力を持つので、一切主らには手を貸さぬと言い放ち、その場から消え去ったのだと。なので、ヴィランもどうしようもなく、今は城で臣下と共に普通に過ごされておるようだが、あちらは放置したままなのだ。ミハイル殿ならいざ知らず、ヴィランにはあの王に太刀打ち出来る気が、そもそもないからの。」

義心は、立ち上がった。

「ならば我が直接にサイラス様に陳情を。」

アディアは、今にも飛び出して行きそうな義心に、慌てて言った。

「主などドラゴンの兵に見咎められて捕らえられてしまうわ。ドラゴンは我らがサイラス殿と接するのをことのほか警戒しておって、あの辺りの兵の数は半端なく多いのだ!我らに任せよ。女と侮っておるからと申しておるではないか。」

義心は、確かにそうだが、このままでは王に予定通りのことしか持ち帰れない。こちらの他の城を説得し、龍に立ち向かわぬという選択をさせる王を見付け、戻る。せめて、出来たらサイラスが手を貸してくれるという確約が欲しかった。

義心がどう言おうかと黙ると、突然に声が割り込んだ。

《…いや、サイラスは今、城には居ねぇな。臣下達の姿も見えねぇぞ。サイラスの事は知ってるし気を探ってるんだが、どこに居るのか全く分からねぇ。ということは、月の光の届かねぇ地下に居るってことになるな。》

十六夜の声。

義心は、空を見上げた。

「聞いておったか、十六夜。」

義心が言うと、十六夜は頷いたようだった。

《その城は見てたからよー。レイティアが出て行って戻って来たら、お前の気がいきなりしたから驚いた。気を遮断する膜を着てたのか。》

義心は、頷いた。

「ならばサイラス様には連絡がつかぬか。」

十六夜は、困ったように言った。

《居場所さえわかったら地下だろうとあいつの目からいろいろ見えるんだが、気が気取れねぇからなあ。とはいえ、オレとはあんまり面識ねぇし、話し掛けて聞いてくれるかどうかだがな。》

レイティアが、脇から言った。

「ならば維月は?あれならいくらか面識があったではないか。龍王の妃であるのは分かっておるのだし、信じようぞ。」

十六夜は、うーんと唸った。

《そうなんだが、維月は蚊帳の外だからなあ。維心も心配させたくねぇって詳しいことはあんまり言ってねぇみてぇだし。聞いたことは答えてるみてぇだけどさ。そうだな…炎嘉。あいつなら友達だったし確実なんだけどよー…あいにくあいつにゃ月は使えねぇしなあ。直接行くのはリスクが高過ぎるし、そもそもどこに居るのか分からねぇし。》

義心は、食いぎみに空を睨んで言う。

「ならば碧黎に居場所を聞けぬのか。あやつなら知らぬはずはあるまい。」

十六夜は、首を振ったようだった。

《だーかーらー親父は言えねぇの!言えたら今頃先頭に立ってこうしろああしろって指示してらぁ。とにかく、お前は一度帰って来い。ミハイルに心当たりはないか聞いてみるから。》

そうか、ミハイル…。

サイラスは、ドラゴンというよりヴァルラムと仲が良かった。ヴァシリーの代でも時々は様子を見に来ているようなことは伝え聞いていた。ということは、ミハイルとも気安い可能性はある。

「ならば早急にそのように。主は王に、今知り得た事を全て知らせておいてくれぬか。聞いておったならリーク様の城の事も知っておろう。それを全て申しておいてくれ。」

十六夜は、怪訝な声で答えた。

《そりゃそれぐらい朝飯前だが、お前は帰って来るんだろ?なんならオレが運んでやろうか。夜になりゃ確実に運べるし。》

十六夜には、それが出来るのは分かっていた。しかし、義心は首を振った。

「我にはやらねばならぬことがある。明羽を探さねば。」

十六夜は驚いた声で答えた。

《なんだって、明羽?匡儀の軍神じゃねぇか。連れて来てたのか?》

義心は、ため息をついて頷いた。

「匡儀様が連れて行かねば行かせぬと仰られたからぞ。ドラゴンの兵に見付かりそうになり、あやつは我を逃がすために別方向へ潜んで向かった。気を遮断する膜を被っておるゆえどこかに潜んでおろうが、あやつは龍。危ないのは確かぞ。放っては置けぬ。」

十六夜は、舌打ちした。気を遮断する膜を被っていたなら、自分にも簡単には居場所は分からない。

《なんだってそんなお荷物を…》十六夜は少し黙った。何事かと義心が不振に思っていると、しばらくして、十六夜が言った。《…維心が、帰って来いってよ。明羽のことは諦めろって。》

義心は、目を見開いた。

「王が居られるのか。」

十六夜は、だるそうに答えた。

《維月が居るから会議してても定期的に戻って顔見てまた出てくんだよ、維心は。オレと二人でそっち見てたらちょうど戻って来やがって、何をしてるってうるさいから、維月が見てることを維心に通訳して、維心がそれを聞いてお前にそう言えって言ってるんでぇ。匡儀には維心が話を通すってさ。》

義心は、ぐっと眉を寄せた。王に命じられてしまっては、帰るよりない。

「…では、帰ろうぞ。王の仰る通りに。我はどうしたら良いのだ。匡儀様にこのことをご報告して帰る方が良いのか、それとも夜までこちらで待って主に運んでもらうのか。」

十六夜は、また少し黙ったが、答えた。

《…うるせぇな、最初から運べってオレが運んだら到着先に月から光が収束するから目立って潜むなんて無理なんでぇ。あくまで帰りだから使えるんだっての!》義心が、何事かと目を丸くしていると、十六夜の声は言い訳のように続けた。《ああ、今のは維心に言ったんでぇ。そうだな、じゃあ夜までそこで待て。で、月が昇ったら窓際に居てくれたらサッサと回収するよ。で、維心はまたミハイルにサイラスの居場所のことを聞きに出て行った。何か分かったらまたそっちへ連絡を入れるよ、オレが。》

最後の一言は皮肉たっぷりな音だった。恐らく、十六夜は自分を道具のように使う維心に、それが必要だと分かっては居ても、腹が立つのだろう。

義心は、息をついて頷く。

「では、我もこちらでもうしばらくアディア陛下にお話を聞いておくことにする。主にしか出来ぬことが多いのだ、十六夜。頼んだぞ。」

十六夜は、ぶっきらぼうに答えた。

《あーあー分かってるよ。また夜にな。》

そうして、十六夜の意識はこちらから反れたようだった。

後ろで、ただそれを聞いていたレイティアとアディアは、顔を見合わせてから、義心に言った。

「…では、夜までこちらで足止めということであるな?」

レイティアが言う。義心は、ため息をついて椅子へと座り直した。

「はい。申し訳ありませぬが、もうしばらくお付き合いいただければ。」

アディアが、頷いて義心に向き合った。

「我とて龍王の役に立つのなら、なんなりと答えようぞ。して、他に何を聞きたいのだ。」

義心は、とりあえず周辺の城のことを聞こうと、首を傾げてから、言った。

「はい。…こちらの城だけ、特別扱いと言われるような状態ではありまするが、他の城はこちらへの対応はどうでしょうか。」

アディアは、それには息を長くついて大袈裟にうんざりしたような顔をした。

「それよ。我らが求めたわけでは無いのに、周辺の城は確かにこちらと距離を置いておったわ。もしかして、ドラゴンに取り入って己だけ良い位置に居るのではないかとか、そんなことをの。何しろ、我が領地の外は皆、男社会であろう。女だと言うだけで、いろいろおかしな勘繰りをされて面倒この上ないのだ。」

レイティアは、頷いて続けた。

「そうなのだ。アディアがヴィランに取り入って特別待遇を取り付けたようなことを噂しよって。これは政務ばかりで未だ通う男も居らぬと申すに。」

アディアは、赤い顔をしてレイティアを軽く睨んだ。

「お祖母様…そのような事を申しておるのではありませぬ。」と、義心を見た。「我らだってどういうことなのか分からぬのに。我はヴィランとは会ったことも無いのだ。それなのに、女ばかりの城など戦力では無いと言うておるようで、ドラゴンの見回り兵も、我らにはそううるさいことも無くて。縁戚同士とはいえ、本来城と城を行き来するには、わざわざ外のドラゴン兵に許可を得てからでないとならぬのに、お父様の城へ行くのは、咎められることは無い。形式上、輿を確認はするが、簡単なものよ。だから義心も簡単に移動出来たのであるしの。」

義心は、例えドラゴンがこちらを女だと侮っているのだとしても、あまりに極端だと思った。女ばかりでも、こうして城を持ち領地を持ち、そこそこの力の結界を張っているのを見たら、捨て置くのは危ないと考えるのが普通だ。戦をするのなら、賑やかしに軍神ぐらいは出させるだろう。何しろ、男社会の中では女は警戒されず、なぜかは知らないが誰かに本州へと上陸させたいのなら、女の軍神を着物姿で送り込む方が楽だと考える方が自然だと思えたからだ。

「…何か理由があるのでしょうが、陛下に分からぬのなら我にも分かりませぬな。ヴィランという王には、何か弱みがあって、こちらがそれに当たる何かがあるのやもしれませぬ。その、弱みさえ分かれば良いのですが。」

アディアは、途端に顔をしかめた。

「この城にあやつの弱みとな?…何であろうの…女ばかりで男の軍神や重臣が居らぬ以外、特に特別な所など無いのだがの。」

それだけでも十分に特別なのだが。

義心は思ったが、確かにそれだけでは弱みとは言えないような気がした。

「そうよなあ…ドラゴン城に潜入した者が言うには、別に決まった女も居らぬようで、弱みなど無さそうだと。ただ、血が繋がらぬ妹が居るとか何とか聞いてはおるが…そも、女をこれほどに侮っている男が、妹を、まして血も繋がらぬ妹など弱みにもなるまいがな。」

妹、か…。

義心は、ため息をついて空を見上げた。確かにレイティアの言う通り、これまでのやりようを見ても妹などを気遣うような男には思えない。

空は、日は傾いて来ているが、まだ日暮れまでには時がありそうだ。

無駄な時間を過ごすのは義心には向いていないので、義心はアディアを見て、言った。

「陛下。では、見つかるかどうか分かりませぬが、城の中を見学させて頂いてよろしいでしょうか。もしかしたら、男の我から見て何かあるかもしれませぬ。ヴィランの弱みさえ知ることが出来たら、優位に立つことが出来ると思うのです。それを、探してみとうございます。」

アディアは、戸惑うような顔をしたが、頷いた。

「それは…いくらでも見て回れば良いがな。しかし、知っておろうがここは女の城。男の主は、本来この城では地位の無いものであって、他の侍女や軍神が知らぬで不敬な扱いをするやもしれぬが、それでも良いか。」

元より、分かっていることだったので、義心は頷いた。

「はい。では、案内の…そうですね、侍従が居れば。」

アディアが、頷いて手を叩いた。

「ニコライ!」

すると、黒髪に青い瞳という、義心と色合いが似ているが、線の細い、それは美しい男が入って来て、頭を下げた。

「はい。お呼びでしょうか。」

アディアは、頷いた。

「この、龍王からの使者である義心に、城の中を案内せよ。聞かれたことには何でも答えても良い。」

ニコライと呼ばれた男は、頭を下げ直した。

「はい。」そうして、義心を見た。「義心様。こちらへ。」

義心は、もしかしてこれは、女王の相手の候補なのだろうかと考えながらも、そのちょっと見ないほど美しいニコライについて、城の中を歩いて行った。

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