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説得2

レイティアは、足を進める。

リークは、母を見て言った。

「母上…ご存知であられたのか。」

レイティアは、頷いた。

「我が友の維月が案じて月から話し掛けて参ったからの。リーク、龍王にすればこのような遠回しな事は面倒でしかないのに、わざわざ声を掛けてくれておるのだぞ。確かにあちらの地を守りながらこちらも攻めるなどリスクが伴おうし、我らが数で掛かればまた面倒であろうが、時さえあればどうにでもするだけの力があの王にはある。だからこそ、妥協しておるのだ。抗わぬのなら、ドラゴン城にたどり着いた後も一気に殲滅せずに質の神達を助けてやろうと。」

リークは、それでも言った。

「ですが…こちらへ来ている間にあちらを攻められたらと思うたら、龍王だとて動けぬのではないのですか。」

レイティアは、苦笑した。

「あちらに龍しか居らぬと思うておるのではないのか。他にも力のある神は居るわ。ただ龍王が突出しておるだけ。まして月は、たとえ龍でも抗えぬ力なのだぞ?少しぐらいあちらを空けてもあの地は落ちぬわ。」

義心は黙って聞いている。臣下達も水を打ったように静まり返っている中、ディークが言った。

「とにかく、もっと慎重に考えねば。」と、義心を見た。「レイティアも参ったし、場を会合の間に移そう。こう臣下が立ち並ぶ場で、立ち話で済ませられるようなことではない。主とて早く戻りたいであろうが、こちらの情報も必要であろう。重臣筆頭と軍神筆頭は会合の間へ。ゆっくり話そうぞ。」

しかし、義心は目を細めて、答えた。

「…本日中にはこちらを発たねばと思うておるので、答えをゆっくり待っておる時がありませぬ。リーク様には我が王に逆らうおつもりは無いとのこと。しかし他の王達への働きかけはお出来にならぬとのこと。ならばこちらからはそのお話だけをもらって参り、他の王にこのお話を持って参る所存。何も王が交流なさっておるのは、こちらの城だけではございませぬゆえ。ドラゴンに何かを策する時を与えとうないので、こちらとしては力になるやる気のある王と早く繋がらねばならぬのです。でなければ、我が帰らぬと結局我が王はこちらへ何もご配慮なく攻め入って来られましょうし。悠長にはしておられませぬ。」

ディークは、ショックを受けた顔をした。義心は、こちらは役に立たぬと。

ディークは、急いで言った。

「確かに王のリークのこの様子では、頼りにならぬと思われて仕方がないこと。こちらは長く平穏で、ヴァルラム殿の血族が治めてくれておるからそのままであろうと思うて…これも、戦場に立ったことも無いのだ。ヴィランが押し入って参って、妃と皇子が連れ去られるがままになってしもうたのも、初めての脅威にどうすることも出来なかったからぞ。だからこそ、今己で何とかすることを覚えておかねば、これから先王としてこれが君臨して参ることに関わって参るのだ。我らが説明するゆえ、今しばらく話を聞いてはくれぬか。」

義心は、ディークを真顔で見つめて、首を振った。

「子を育てるとおっしゃるのなら、今ではなくこれまでに育てておかねばならなかったのです、ディーク様。こういった際の判断で、王の真価は決まって参ります。ディーク様もレイティア様も、王座に居られた際に判断の速度がどれほどに大切なのか分かっておられるはず。只今は戦時中、しかも我らの土地とこちらの土地との戦い。本来なら敵同士であるはずで、それは只今のリーク様の我へのご対応で分かろうもの。我が王は、ディーク様との繋がりでご信頼なさって最初にこちらへお声を掛けさせて頂いた。ですが、只今の王がこのようなお考えで、それでも叛意を示さぬだけ良いと判断して、我は次へと向かわせて頂きまする。」

グッと詰まるディークに、レイティアが脇から足を進めて、義心と向き合った。

「ならば我が城へ。我が城の王、アディアは主らに手を貸そうとしておる。もう、口利きを出来そうな城もいくらか見繕っておるのだ。ここでは具体的には名を出さぬが、あちらで詳しく話そうぞ。我と参れ、義心。」

義心は、じっとレイティアを見た。王座にあった時は、かなりの手練れの女王だった。思い出してみると、北での戦闘の折には、アマゾネスは居なかったような…。

「…分かり申しました。では、アディア様の城へ、お話を聞きに参ります。」

レイティアは、ホッとしたように今入って来た扉の方へときびきびと足を進めた。

「参ろうぞ。我らは前向きに対応を考えておる。」

そうして、サッとディークとリークに頭を下げると、義心はレイティアに従って、臣下達が不安そうに見送る中謁見の間を出て行った。

リークは、ただ何も言わずに棒立ちになっているままだったが、ディークはチラとその息子を見て、息をついた。

「…まだ母が残っておって良かったことよ。あちらがうまくやってくれたなら、間違いなくライナスは助け出してもらえようほどに。リーク、頭を使わぬか。積極的にこちらが手を貸しておったなら、あちらもこちらの皇子を助けぬわけには行かぬようになろうが。だが、後ろ向きで他の王が手を貸してドラゴン城を攻めたとなると、放って置かれることはなくても真っ先に探し出して助けてくれるとはならぬだろう。主は義心に激昂して捕らえようとまでしてしもうた。そんな様では、感情的にライナスは最後に助けるということになるやもしれぬだろうが。」

リークは、それでも父親を睨むように見た。

「あんな言いようは腹が立ち申した。父上はあのように下に見られて、誇りはおありにならぬのか。」

ディークは、何度も首を振った。

「リーク、誇りが何であろうか。」リークは、意外だったのか目を丸くする。ディークは続けた。「己の治める領地の民を守るため、王は下げたくなくとも頭を下げねばならぬのだ。まして相手は主が太刀打ち出来なんだドラゴンより力を持つ種族ぞ。いくらか譲って主が言うたように身動き取れぬとしても、相手を捕らえるとは何事ぞ。我は老いておるが頭ははっきりしておる。だからこそ知恵を貸しておるのに、何だそのていたらくは。臣下達とて呆れておろう。あのままでは、軍神達は消され、主だって命は無かったやもしれぬのだぞ。うまく立ち回らぬか。」

リークは、悔しげに下を向く。臣下達も、顔を見合わせて囁き合っていた。リークは、己が間違っているとは思えなかった。ライナスを、我が助ける。龍王の手を借りるのではなく、己の手で。

「…馬鹿にされたままでは引き下がれませぬ。」リークは、心許なさげに立っている、軍神達に向き直った。「見回りのドラゴン兵をこれへ。ヴィランに情報を渡せば子を返すとは誠かと問い合わせる。」

軍神が、躊躇いがちに頭を下げる。ディークは、老いた体に鞭打って叫んだ。

「何を馬鹿なことを!そのような事をしたら、通りすがりに龍王はこちらを滅してからあちらへ向かおうぞ!なぜに分からぬ、あの王にとってそんなことは指一本ぞ!」

軍神達が、ピタリと動きを止めた。リークは、ディークに構わず軍神達に叫んだ。

「何をしておる!早く行け!」

軍神達は歩きだそうとするもの、足を止めたままのものと、皆どうしたらいいのか分からずにキョロキョロと答えを探して体を揺らした。

「行けと申すに!」と、手を上げて気弾を落とした。「行け!」

大広間の床に大きな穴が開き、城の壁がビリビリと震えた。

ディークが、手を上げた。

「血迷ったか!」と、気を放った。「頭を冷やせ!」

ディークの放った力は、リークを拘束するためのもので、傷付けるものではなかったが、リークはそれを両手で叩き落とした。

「老いて力が弱くなったと王座を降りられたのではないのか。我を拘束など出来ぬ!」

逆に、リークからディークへと拘束の気が巻き付いて絡め取り、ディークはその場にどうと倒れて転がった。リークは、ふんと鼻を鳴らした。

「さあ。我が王ぞ。早くドラゴン兵を連れて参れ!」

ディークは、倒れたままあちこち打って立ち上がれなかったが、必死に叫んだ。

「ならぬ!主らが犠牲になることなどないのだ!王族は臣下を生かすために存在しておる!ドラゴンなどを城へ引き込むでない!」

戸惑う軍神達の中から、一人の軍神が進み出た。そして、臣下達を見て頷くと、リークを見上げた。

「リーク様。我ら、ドラゴンには与することは出来ませぬ。」

リークは、激しい様で怒鳴り付けた。

「何を軍神風情が!アドリアン、主がいくら筆頭でも我に意見するでないわ!」

しかし、アドリアンは首を振った。

「我は龍王との戦いを目の当たりにしもうした。お預かりした五千の軍神達は、悲鳴を上げる暇も与えられずに、まさに一瞬で龍王に消し去られ申した。ドラゴンの命では本州に上陸せよとのことでしたが、とてもそのような事は望めなかった。リーク様は来られなかったが、他の城からはほとんど王が来られており、それを見定めたように龍王はそれらだけを選んで殺さず残し、質に取った。そんな能力を持つ神が、手を差しのべて参ったのなら、我らそちらへつき守られる事を望みまする。他の城からも、恐らくそうなりましょう。なぜなら、王を捕らえられておる城が多いからでありまする。リーク様のように、城で残った王は少ないのですぞ。臣下なら、皇子より王を助けたいと思うもの。その王は、今龍王のもとに居る。龍王に、城を消してでもドラゴンを討って王を返して欲しいと願うでしょう。リーク様のように、先の見えないご決断には我ら従えませぬ。」

アドリアンがそう言い終えると、それを聞いた軍神達が、皆一斉に膝をついてアドリアンの方を見て、待機の姿勢になった。リークは皆を激しく首を振って見回しながら、さらに叫んだ。

「何を言うておる!我が王ぞ!主らは従わねばならぬ!」

しかし、その叫びには誰も、反応しなかった。重臣達も、ただじっと黙ってリークを睨むように見ている。ディークが、起き上がろうともがきながらも、言った。

「教えたではないか。王は、王として認められてこそ王となる。主は、戦場へも行かずにドラゴンから求められた軍神をあちらへ行かせて己は高みの見物をしておった。他の城では王が出ておったのだ。アドリアンはそれを見ておるし、龍王の強さに目の当たりにした。だからこそ、主の決断にはもう従えぬと判断したのだ。他の者達が異論を唱えぬところを見ると、皆同じ心地であろう。主は今、王ではないのだ。」

リークは、皆をもう一度、まるでそこに否定の意を探すように見回す。

しかし、重臣達は皆リークと目を合わせず、軍神達もただ険しい顔でリークを見返すだけだった。

そういえば、アドリアンは自分を王とは呼ばす、ただ名前で呼んだ。

リークは、それに気付いてそこへ、突然に足に力を失くしたように両膝をついた。ディークを拘束していた気も、それでフッと消失して、ディークは打ち付けた腰を庇いながら、何とか立ち上がる。

アドリアンが手を貸そうと手を差し伸べたが、ディークはそれを見て大丈夫だと手で制し、膝をついて茫然としているリークを見下ろした。

「我が悪い。主を甘やかせて育て過ぎたのだ。我もレイティアも余裕が出て参ったのは隠居してからで、そう考えるとアディアとライナスの方がよういろいろ厳しく話して聞かせておったやもしれぬ。こうなったからには、主は本来、処刑される。」

リークは、ビクッと肩を動かす。ディークは息をついて、先を続けた。

「だが、軍神達から闘気が感じ取れぬところを見ると、此度はそこまで考えてはおらぬようよ。」

アドリアンは、頷く。

「は。我はディーク様に再び王座に就いて頂き、リーク様には我ら軍神の将が監視を。その後の事は、ライナス様が戻られた後の事かと思うておりまする。」

ディークが他の意思も確かめようと重臣達へと視線を移すと、皆が何度も頷いているのが見えた。軍神達は、こういう時は元より筆頭軍神に従うもの。なので、誰も何も言わなかった。

「…ならば我が今一度王座に。レイティアに知らせを入れて、我も協力すると義心に伝えさせよ。密かにの…ドラゴンの兵が見回って居らぬ時を窺ってあちらへ参るようにせよ。」

アドリアンは、今度は膝をついて、ディークに頭を下げた。

「は!」

そうして、そこを出て行った。

ディークは、その背を見送り、リークが軍神達二十人ほどに囲まれて牢へと引き立てられて行くのを、老いた体を必死に奮い立たせながら見送った。

今は自分よりリークより、ただ城の未来を平穏に確実に導かねばならないのだ。

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