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蘇生

《我は…我は、蘇るのですか。》

千夜が、戸惑ったように維心と碧黎に言う。碧黎が、頷いた。

「主が良い子であるからの。さあ、では冷たい石の上に寝ておる己の体の所へ参ろうか。しばらくは体が重いであろうが、段々に元に戻るからの。だが、聞いておった通り、誰にも我と維心が主を蘇らせたと知られてはならぬ。これは特別な事なのだ。分かるの?我らは本来、このようなことをしてはならぬ命。贔屓目で見て手を掛けてはならぬのよ。なぜなら、我らは神世や人世、全てを司っておるからぞ。」

千夜は、緊張した顔をした。

《我が…よろしいのでしょうか。》

碧黎は、頷いた。

「良い。我が良いと申しておるのだ。さあ、参れ。」と、碧黎は千夜の命を、光の玉にして手の上に浮かせた。「では、奥へ。千夜の棺に参ろう。」

光の玉になると、やっと高司にも高晶にも、詩織にもそれが見えた。

「ああ、これが千夜なのですね…。」

詩織が、感極まって涙を流している。維心は、チラと義心を振り返った。

「義心。主はここで、誰も寄せ付けぬように見張っておれ。決して漏らしてはならぬ。」

義心は、膝をついてずっと控えていたのだが、頭を下げて答えた。

「は!」

そうして、維心は碧黎と共に中へと入って行く。

その後ろを、高晶と高司、詩織がもはや、品のある動きなど意識も出来ずにフラフラとついて行く。

義心はそれを見送ってから扉を閉じて、そうしてその前で、近寄って来る神は居ないかと警戒して辺りを探っていた。


奥の棺の場所へと到着すると、少し開いた棺の蓋の間から、千夜の愛らしい顔が覗いていた。

血の気は無いのだが、それでも崩れることもなく、じっと身動きせずに横たわっているだけだ。

「蓋を開けよ。」

維心が言う。高晶が、命じられても何の抵抗もなく急いで歩み寄り、その石の蓋を気で持ち上げて、脇へと立てかけた。

維心は、じっと千夜の動かぬ体を凝視した。

「…確かに。碧黎が申すように、体は全く問題ない。このまま使えような。まだ千夜の魂魄と器が繋がっておる証拠ぞ。」

碧黎は、頷いた。

「我が間違うはずはないわ。では」と、後ろを振り返った。「激しい気流が発生する。主らは気で床に杭を打っておかねば吹き飛ばされようぞ。高晶、妃は主が支えよ。維心の力を侮るでないぞ。」

高晶と高司は、言われた通り急いで己の気で床へと杭を打ち、吹き飛ばされぬように固定した。そうして、詩織のことは高晶がしっかりと抱えた。

維心は、碧黎に手を差し出した。

「では、参る。」

碧黎の手の上に浮かんでいた千夜の魂魄は、維心の手の上に移った。

そして、維心が手を前に差し出してそれをじっと見つめると、途端にその回りに激しい気流が湧き上がり、維心を中心に渦を巻いて吹きすさんだ。

「く…!!」

高晶は、気で自分を繋ぎとめているにも関わらず、詩織を抱えたまま尻餅をつき、その場に詩織を庇って伏せた。高司はと見ると、高司も床に伏せて必死に堪えている。

激しくはためく着物の袖をものともせず、維心はそのまま、手にした千夜の命を、その体へと投げるようにして放出した。

すると、眩い光の放流が湧き上がり、気の渦の力は更に激しくなった。

「・・・・・。」

維心は、小さな声で聴いたこともない不思議な言語の呪を唱え続けている。

これほどに大量の気が一気に使われるのを、目の前で初めて見た高司と高晶は、ただひたすらに身を硬くしてその気の圧力に耐えた。維心の髪も着物も巻き上がっているが、維心自身は自分の気に押されることもなく、目をしっかりと見開いて、じっとその光を見つめていたが、ふいにその力を止め、言った。

「…今ぞ!碧黎!」

碧黎が、脇で途切れなくサッと手を上げた。

「参る!」

今度は、碧黎から一気に大きな気が千夜の体へと流し込まれた。

維心から湧き上がっていた気の放流は、見る見る収まって吹きすさんでいた気流もすぐになくなり、伏せていた高晶は、顔を上げてそちらを見た。

碧黎が、かがみ込んで千夜の顔を覗き込んでいるのが見える。

高晶は、詩織をそこに置いたまま、気の杭を消して慌てて駆け寄った。

「碧黎殿…?」

碧黎は、高晶を振り返った。

「終いぞ。千夜は復活した。今は眠っておるだけぞ。」

高晶は、思わず声を上げた。

「おお!」そして、横たわる千夜を抱き上げた。「おお誠に…!体が温かい。おおなんと…!まさか取り戻すことが出来ようとは…!」

詩織が、身を取り繕うことも構わずに乱れた髪のまま、そんな高晶に駆け寄った。

「千夜…?!」と、その手に触れて、途端に頬を摺り寄せた。「ああ…!温かい。ああ千夜…!」

高司が、それを見て涙を流しながら、維心と碧黎に頭を下げた。

「誠に、感謝し申す。決してこのことは漏らさぬように、我が監督致しまするゆえ。このように力の要ることを、誠に誠にありがとうございまする。」

維心は、話すのも億劫で、ただ頷いた。やはり龍の宮でやるのとは違い、気の消耗が激しく回復が遅い。ここの気は龍の自分には合わない。龍の宮の奥宮に居ると、いくら大きな気を放ってもすぐに回復するのに、ここではいちいち自分用に気を変換するので時が掛かる。

…この上気の補充までしたなら、義心に宮まで連れて帰らせねばならぬところだった。

維心は、やはり無謀なことだったなとその時思った。碧黎が居らねば、絶対にやらないことだった。とにかくは、早く宮へ帰って気を戻さねば。

維心はそう思って、ぶっきらぼうに言った。

「では我は帰る。長く居過ぎたわ。」と、外へと足を向けた。「義心を連れて帰るぞ、碧黎。主はどうする。」

碧黎は、維心の気の消耗が見えていたので、答えた。

「我は後の事を言うて聞かせておかねばの。主は帰れ。維月を待たせるでない。」

維心は、頷いた。

「頼んだぞ。ではな。」

「維心殿!誠にありがとうございます!」

その背に、高晶が声を掛けていたが、維心はもう、帰ることしか考えておらず、振り返ることは無かった。

碧黎は、そんな維心を感謝の目で見送る高晶と詩織を見て、言った。

「では、千夜を宮へ連れて帰るのだ。それから、最初は体が思うように動かぬから、少しずつ動くようにして体を慣らして参るように。ひと月動かなんだのだから、三月は体が自由にならぬと思うが良い。そのうちに元に戻るゆえ、辛抱強く動くようにせよと。」と、高晶に抱き上げられた、千夜の頭を撫でた。「誠に良い子よ。これを取り戻せたのは、これの心根の良さであるからの。主らは王族という立場を自覚して、千夜に倣ってしっかり生きるが良い。我を通して良いことではないぞ。分かったの。」

高晶は、何度も頷いた。

「は。必ずや、王族として恥ずかしくないように生きて参るように致します。このことは、決して神世に漏れぬように致しますので。」

碧黎は、途端に険しい顔になると、高晶をじっと見た。

「確かに約せ。主の命を懸けてこのことは秘めるのだぞ。どれほどに若くでも寿命を切るからの。分かったな。」

高晶は、頭を下げた。

「はい。必ずや。」

碧黎は、それをじっと見てから、頷いて高晶から離れた。

「ならば良い。では、我も帰る。千夜に何かあって知りたいことがあるのなら、月に申せ。我が息子が答えようほどに。月は天上から、我は地から主らを見ておるからの。」

それを聞いて、高晶は身が引き締まる思いだったが、覚悟を決めて、頭を下げた。

碧黎は、それを見てから、その場からスッと消えて、その場を去って行ったのだった。

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