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不安定

「なんと申した?別次元に落ちておったと?」炎嘉が、宴の席に座った状態で、維心に言った。「だから主も志心も今来たのか。それで、助け上げたのだろう?」

維心は、脇に立つ志心と共に、立ったまま答えた。

「そうよ。とはいえそんな簡単なことでは無かったのだ。気が全くない空間であったから、全て取られてしもうて気を使って飛ぶことすら出来ぬ場ぞ。我には無理で、碧黎が参って救い上げて参った。それでも辺りの気がどんどんと取られて行って我も抑えるのに苦労した。」

焔が、顔をしかめた。

「また大層な。志心と高晶の気の相性はそんなに悪いか。」

維心は、心配そうに見ている高晶に気付きながらも、言った。

「碧黎が申すには、そのようぞ。何でも高司より高晶の方が気が大きいらしゅうてな。それが相性の悪い志心の気と接しておったから、面倒な事になっておるらしい。」

高晶は、神妙な顔をして、言った。

「誠に申し訳ないこと。まさかそのようなことが起ころうとは、思うてもみなんだゆえ。」

維心は、頷いて高晶を見た。

「ゆえ、主も来い。我はこれから志心と共に領地内の次元を整えて参る。念のため、主の領地も見て回らねば。で、その間、維月を頼むぞ、炎嘉、焔、箔炎、駿、蒼、それから翠明。部屋から出ぬように言うておいたが、あれは何をするか分からぬし。我がこの辺りの次元を整えるまで、主らもうろうろするでない。」

それには、炎嘉も文句を言わずに真面目な顔をして頷いた。

「分かった。次元の事に関しては、主に任せるよりないからの。我ら宮でおとなしゅうしておろうぞ。とはいえ、維月の傍には蒼に行かせる。主だって我らが己の妃に群れておっては落ち着かぬだろうが。」

言われて、維心は顔をしかめた。どうやらその様が頭に浮かんだらしい。

「…それはそうぞ。とりあえず、我の控えで騒動が起こったら頼むということぞ。維月の事は、蒼よ、傍で見ておってくれぬか。面倒やもしれぬが。」

蒼は、確かに前世の母ではあるが、今生結構撥ねっ返りに育っていた維月の記憶があるので、面倒だなとは思ったが、次元が面倒なのは知っているので、渋々頷いた。

「はい。まあ、オレが一番扱い慣れているとは思うんで。気を付けて行っていらしてください。」

維心は、頷いて高晶を見た。

「では、参れ高晶。志心、参るぞ。」

そうして、維心は志心と高晶を連れて、お世辞にも機嫌が良いとは言えない状態で、そこを出て行った。

それを見送ってから、炎嘉はハアと息をついて、仕方なくといった風に盃を置いた。

「仕方がない。我らも控えへ戻って、特に我の控えが維心の隣りであるから、そこへ参ろう。蒼、主は維月の傍に。あれがへそを曲げたら面倒な事になる。特にこのような、あれしかどうにも出来ぬ次元関連の何某かが起こっておる時はそうぞ。次元を広く安定させようと思うたら、あれぐらい気が無いと絶対に無理であるからな。我だって術ぐらい知っておるが、広域に飛ばせるほど気の量がない。とにかくここは、維心の言うようにしておく事ぞ。いつ何時、己の領地でそんなことが起こって維心に頼まねばならぬようになるか、分からぬのだからな。」

言われて、駿が神妙に頷いた。箔炎が、ため息をついた。

「確かにの。維心は昔からへそを曲げたら面倒であったし。ここは皆、控えへ戻るか。我が領地もここから近いし、駿もであろう。何があるか分からぬからの。次元問題は連鎖的にどこでどうなるか分からぬ厄介なもの。ここは我らも維心の言う通りにしておこうぞ。」

駿は、頷いた。実は志心と高晶の結界境がおかしくなったと聞いた時、自分の結界も志心の結界と接していたので、もしかしてと案じてはいたのだ。

今は何も起こってはいないが、確かに将来的には何があるか分からないのだ。

維心は、言えばいろいろ助けてくれるので助かるとは思っていたが、炎嘉や箔炎の言う通りだとしたら、こちらが困っていても、気が向かないとなかなか助けてくれないかもしれないと言う事なのだろう。

龍王の機嫌を損ねたらと皆が気を遣うのは、道理なのだと駿はやっと知った。

蒼が、よっこいしょと立ち上がった。

「じゃあ、オレも維月の所へ行って来ます。多分鬱陶しがられるだろうけど。」

炎嘉も、皆と共に立ち上がった。

「仕方がないことよ。また落とさぬように気を付けての。では、我らも戻ろう。」

そうして、上位の宮の王達は、宴の席を一斉に辞して行ったのだった。


その頃、維月は外へ出てはならぬと維心に強く言い聞かせられていたので、仕方なく窓辺で空を見上げて、十六夜と話していた。

《…てぇことは、義心は筆頭に座るんじゃねぇかって立ち合いをしたあの時に、記憶を戻したってんだな?それで、今は筆頭に戻ったと。当然と言えば当然だわな、あの義心なら。》

維月は、頷いてため息をついた。

「維心様に言うべきか迷っておるの。義心は私達に気を遣わせると思って、黙っておったみたいだもの。でも、隠しておったら知った時に維心様が拗ねてしまわれるような気もするし。私…お父様はああおっしゃったけど、今回は一緒に落ちて良かったと思うのよ。私なら死なないから義心を庇えたもの。せっかく私達のために黄泉の門まで走って、その上すぐに転生して来た義心を、あんな所で死なせたくないじゃないの。休んでもいないのよ?ずっと仕えてくれて…だから、私は間違ってなかったと思う。」

維月が言い切るのに、十六夜の声は頷いた。

《だな。オレもそう思う。お前の気持ちは分かるよ。オレ達は死なないんだから、いよいよってなったら親父が行かねぇならオレが行こうと思ってたさ。心配すんな、維心が行けなくてもオレが行くからよ。》

維月は、十六夜がいつも、自分と感覚が同じでフォローしてくれるので、ホッと和んだ。本当に、十六夜とは同じ感情を共有するので、話していると楽なのだ。

するとそこに、蒼の声が割り込んだ。

「ちょっと維月?なんだか物騒な話になってるんじゃないか?十六夜も、いくら死なないからって危険なことはするべきじゃないんだからな。維心様が大騒ぎしてみんな迷惑するんだし。」

言いながら、蒼がしかめっ面で入って来る。維月は、頬を膨らませた。

「何よ、蒼ったら。私達は私達の話があるの。あなたは控えに戻らないの?」

蒼は、ため息をついてその辺の椅子へとどっかり座った。

「オレだってゆっくり休みたいよ。でもね、維心様が維月を頼むって言って出て行かれたから、オレが来るしかなかったんじゃないか。他の王だと、いろいろ面倒だからって。そもそも、何で別次元なんかに落ちたんだよ。」

維月は、フンと横を向いた。

「いきなり義心の立っていた場所の下に穴が開いたのよ。亀裂が入っていたから、義心がそれを封じて戻ろうとしたところだったわ。何かしわ寄せが来て、ああなったのかもしれないけど。」

十六夜が補足した。

《オレも上から維月の気が乱れたので慌てて見てたが、一瞬だったぞ。急いで気を下ろして何とかしようとしたんだが、全部穴へと吸い込まれてしまって全く手助け出来なかった。そのうちに、二人とも落ちてったんでぇ。》

蒼は、空を見上げた。

「なんですぐ碧黎様か維心様に言わなかったんだよ。十六夜からは見えてたくせに。あのまま維心様が気付かず閉じてしまってたらどうするのさ。」

十六夜は、さらっと答えた。

《そんなもの、閉じようとしたら教えるつもりだったさ。でもあいつは鋭いから言う前に気付いたからよ。あいつはいろいろめんどくさいし、気付いたんなら呼ぶまでほっとこうと思って。》

めんどくさいって。

蒼は、顔をしかめた。確かに維心は維月のこととなると必死になるので、うるさいのはうるさいかもしれないが、今回は碧黎でなければ引き上げられなかったらしい空間に落ちていたのだ。いくら死なないからと、安穏とし過ぎているんじゃないだろうか。

「…維月の意識が閉じ込められたら困るんだろ?死ななくても意識は消滅する可能性があるんだからな。知ってるだろ?対策が遅れないためにも、これからは見えたらすぐ知らせるんだぞ。」

さすがに十六夜も、そこはばつが悪そうだった。

《分かったよ。で、別にお前、そこに居なくていいし。維月を月に帰したらいいんだっての。そうしたらどっかに落ちる心配もねぇだろうが。維心が帰ったら龍の宮に下ろすし、もういい。部屋へ帰れ。そんで他の王達にもそう言え。そしたらみんな眠れるんだからよ。》

言われてみたら、そうだった。

十六夜が蒼のこともめんどくさいと思っているのが伝わって来て面白くなかったが、それで全員維月の保護から解放されるのだから、それが一番だと蒼は思った。

なので、渋々頷いた。

「分かったよ。じゃあ、月に戻ってくれる?維月。」

維月は仕方なく立ち上がった。

「分かったわよ。みんなして私が重荷だと思われたくないし戻るわ。もう。」

そう言ったかと思うと、維月はみるみる光に変わり、月へと打ち上がって行った。

蒼はそれを見送って、落ち着いたと思ったのにやっぱり月は月だなあと、ため息をついたのだった。

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