第十六話:再び冒険者の襲撃
オティーリエが踊り狂っていると、胡散臭い連中が崖の上に登って来た。
全部で十二人いる。
俺たちを取り囲むように迫ってきた。
一人、見覚えがある奴がいる。
昨日、森の中で襲ってきたチンピラ冒険者の一人で、最後に逃げ出した奴だ。
「今度は随分と人数を増やしてきたようだな」とオティーリエに小声で言うと、
「何、怖いの? あたしがいれば大丈夫よ」と笑いやがった。
バカにしてんのか。
「火薬で崖崩れを起こして軍隊を全滅させるとは随分と凄い事をやらかしたな。お前らはカクヨーム王国からも賞金をかけられているんだが、一桁値上がりしそうだぞ」とチンピラが俺たちをあざ笑う。
そいつが斧を持った筋骨隆々としたデカい奴に、
「こいつらが弟さんを殺した奴らですぜ」と言った。
「よくも俺の弟をやってくれたな! お前らぶっ殺してやる」とデカい男が斧を振り回す。
こいつは復讐にきたのか。
弟ってのは、こいつの背格好から見ると、森の廃屋で俺が頸動脈を切って殺した、顔に傷があった奴かなと俺は思った。
「もう魔力は残ってないわ」とオティーリエが俺に囁く。
「ナイフで戦うしかないな」と俺は答えた。
「じゃあ、全員、ナイフで血まみれにして殺すのね、ウフフ!」とオティーリエが笑う。
血まみれになるのが本当に好きなのか、冗談で言ったのか俺にはわからない。
俺たちは太陽の光を背にしている。
迫って来た連中は眩しそうだ。
「血まみれになるが、別にお前の趣味に合わしたわけじゃないがな!」と俺は端っこにいる間抜けな顔をした奴と小太りの奴へ、同時に二本、小型ナイフを素早く投げた。
シュッ!
俺たちが二人しかいないので油断していたのか、ナイフはそいつらの喉に同時に突き刺さり、首を押さえながら両方とも後ろにぶっ倒れた。
「やりやがったな!」と斧を持ったデカい奴がうろたえている。
「おい、お前の弟を殺したのはこの俺だよ!」と挑発すると、
「この野郎!」と斧を持ったデカい奴が俺の方へ突進して来た。
もの凄い形相をして巨体で迫ってくる。
しかし、ドスンドスンと足取りは重い。
斧を片手で大きく振りかぶったその隙に、俺は懐に一気に飛び込んで、ナイフでそいつの頸動脈をぶった切る。
「ウッ!」とそいつは一瞬うめき声を上げる。
振り下ろされる斧から、俺は地面を転がってよけた。
デカい奴は斧を振り下ろした後、首から血を噴き出しながら前のめりに倒れて痙攣している。
「やった!」とオティーリエが嬉しそうな顔をする。
「オティーリエ、後ろ!」と俺は叫んだ。
小型の剣を持った逆手に持った背の高い男がオティーリエに襲いかかる。
オティーリエの首を狙って剣を振った。
オティーリエはのけぞって、危ういところでよける。
男の剣が空を切った。
オティーリエの金髪が男の剣の刃先で少し切れて、宙を舞った。
「失礼な奴ね! 勝手に人の髪の毛を切るな!」と体勢を戻し大型ナイフで、オティーリエはそいつの腕を叩き切る。
剣を持ったままの腕が地面に転がった。
「ウギャア!」と腕から血を噴き出しながら悲鳴をあげる男。
オティーリエは返り血を浴びながら、男の心臓めがけてぐっさりとナイフを突き刺し、えぐった後、引き抜く。
男は残った方の手で胸から流れ出る血を押さえながら倒れた。
「アハハ!」とオティーリエは笑いながら小躍りしている。
顔に大量に返り血を浴びているが、かえって楽しそうだ。
もう一人、長剣を持った奴がオティーリエの背後から近づくのを、俺は細いナイフを速攻で投げる。
首に刺さった。
そいつはビクッと体を震わして、オティーリエの方へ倒れ込む。
「ありがと」とオティーリエは血まみれの顔で俺に片目をつぶってお礼を言う。
お礼を言われたのは三度目かな。
しかし、またもや新手がオティーリエを襲って来る。
「礼を言ってる場合じゃないぞ!」と俺は叫んだ。
「そっちこそ!」と叫んで、オティーリエは襲って来た奴が振った斧をよけると、長い脚を振り回し、俺の方へ男を蹴り飛ばす。
そいつは俺の目の前によろけると、背中に弓の矢が刺さって悲鳴を上げて倒れた。
自分が弓に狙われているのには気づかなかった。
「すまんな!」と俺が声をかけると、
「気にしないで」とオティーリエが返事してまたニコリと笑う。
弓矢を持ってる奴が焦って、もう一度矢を放とうとしている。
俺は素早く走って行き、弓使いの腹に向けてナイフを投げた。
「グエ!」と腹にナイフが刺さった弓使いは倒れて、悲鳴を上げて腹を押さえて地面を転げ回っている。
オティーリエも弓使いの方へ走って行き、転げまわっているそいつの首の後ろをブーツで思いっきり踏みつける。
ボキッと音がして首の骨がへし折れたようだ。
「キャッホー!」とオティーリエが飛び跳ねて喜ぶ。
ナイフを持った奴と剣を持った奴が同時に俺に襲いかかって来た。
俺は逃げるふりをして、両手にナイフを持って岩石の上に登り、そこから飛び上がり空中で一回転して、チンピラ二人の頭を飛び越す。
背後に降り立つと同時に頸動脈を切ってやった。
チンピラ二人は首から血を噴出し倒れる。
「チキショウ!」と長い槍を持った奴が俺の方へ突進してきた。
槍を俺に突き刺そうとするが、紙一重でよけて、槍先をナイフで叩き切る。
地面に転がった槍先を拾ったオティーリエが、槍を叩き切れられて動揺している男の右目に槍先を突き刺した。
男は悲鳴をあげて使い物にならない槍を落とす。
オティーリエが槍先を引き抜くと大量の血と眼球の液体がほとばしる。
男は思わず両手で顔を覆って逃げようとした。
オティーリエは追いかけて男を脚で前方に蹴り倒し、馬乗りになる。
「助けて!」と叫ぶ男の背中を、
「助けてなんて言うなら最初から襲うな! キャハハ!」と笑いながら槍先でめった刺しにした。
男はピクリとも動かなくなった。
もう一人黒装束の男が、俺の後ろから大型ナイフで襲いかかって来る。
「ウッ!」俺は右腕を少し切られた。
「大丈夫!」とオティーリエが叫ぶ。
「大丈夫だ」と言って、俺はナイフで応戦する。
だが、相手が大型ナイフを的確に繰り出してた。
首や心臓を狙ってきやがる。
両手にナイフを持っても、防戦一方だ。
「クソ!」手強いぞ、こいつ。
崖の手前まで追いつめられた。
その時、
「ファイアーボール!」とオティーリエが叫んだのを聞いて、俺は地面に伏せた。
火の玉が大型ナイフを持った奴目がけて飛んでくる。
そいつはよけきれず、火の玉が命中して、真っ黒こげになって絶叫を上げて倒れた。
「ありがとう。けど、魔力は尽きてたんじゃないのか」と俺がオティーリエに声をかけると、
「嘘ついたの。切り札は最後まで取っておくものよ」とオティーリエはちょっと得意げな顔をする。
本当は血まみれになりたかっただけじゃないのか、この女。
最後の一人が逃げ出すのが見えた。
昨日、襲ってきたチンピラ冒険者の一人だ。
「あの野郎、また逃げる気らしいぞ」と俺がそいつにナイフを投げようとすると、
「あたしにやらせてよ」とオティーリエが俺のナイフを奪い取って、逃げ出した奴に投げた。
逃げていく男は、一瞬後ろを見て、横に飛んでよけた。
「外した!」とオティーリエが悔しそうにしていると、
逃げた奴はよけた際に滑って、崖から落ちていった。
崖の下を見ると、動かない。
どうやら死んだようだ。
「ねえ、投げナイフくれない、練習したいの」とオティーリエにねだられたので、投げナイフを二本くれてやった。
「まあ、とにかく勝ったな」と俺が言うと、
「そうよ! やった! 皆殺しよ! 虐殺よ! 快感よ!」と飛び跳ねてオティーリエが興奮している。
本当に楽しそうだな。
すると、急にオティーリエがそわそわしている。
「どうしたんだ、ケガか」と俺が心配すると、
「ちょっと用を足してくる」とオティーリエが草むらの方へ行く。
何だ、心配させんなよ。
俺は使えそうなナイフを回収した後、
「ふう、疲れた」と地面に座り込んだ。
腕の傷を見るが大したことは無い。
それにしても、ほとんどギリギリで勝てたってのが正直なところだ。
チンピラ冒険者とは言え手強い奴がいた。
俺一人だったら確実に殺されていただろう。
結局、オティーリエの火炎魔法攻撃に頼ることで勝つことが出来た。
やはりあの女は必要だ。
逃亡が成功したら殺されたくないので、さっさとさよならするけど。
俺が額の汗を手でぬぐって休んでいると草むらの方で、
「ギャア!」と悲鳴があがった。
「どうした!」と俺が走って行くと、
オティーリエがディックにまたがって、またもや顔をぶん殴ってる。
「またかよ、何してんだよ」と俺がうんざりしていると、
「ディックがあたしが用を足しているのを覗いてたのよ」
「違うよ、俺が草むらにいてお前たちの戦闘を見物してたら、お前がションベンしに来たんだろ。お前は他人におしっこするのを見られるのが好きだからな」
「何言ってんのよ、この変態」とディックの顔面をさらにぶん殴るオティーリエ。
「オティーリエ、やめろよ」と俺が止めようとすると、
「おい、知ってるか、この女は小さい頃から毎日おねしょして、いまだに治らないんだぜ。一人で寝たがるのも、いつも香水を沢山つけてるのも、ションベン臭いのを誤魔化すためだ。この寝ションベン垂れが。誰もお前とベッドを共にする男なんていないだろうな、このションベン臭い女め!」
「このウソツキ! 黙れ!」とオティーリエは叫ぶが、珍しくうろたえている。
「オティーリエは寝ションベンが治らなくて、毎日、親父やお袋に殴られて、学校でも散々虐められて、頭がおかしくなったのさ。裸で寝てるのも寝間着が毎回ションベンで汚れるから仕方なくそうしてるんだ、この女は。眠るのが怖くて不眠症だ。眠れないからイライラして、やたら人に暴力を振るうんだ。寝ションベン垂れの変態だ、殺人狂だ、嘘つきの人でなしだ、アハハ!」とディックはゲラゲラと笑う。
「うるさい! 黙れって言ってるでしょ!」とオティーリエはさらにヒステリックになって、ディックを殴りまくる。
「おい、やめろよ」
なんとかオティーリエを押しとどめる。
ディックはどうしちゃったんだろうと俺は思った。
「ディック、俺たちが二人だけで戦っているのを見物するくらいなら加勢してくれよ」と俺が非難がましく言うと、
「何であんな大勢に勝っちゃうんだよ。負ければいいのに。そうすれば奴らは俺も殺してくれたんだ」とディックは陰気くさい表情を見せる。
オティーリエがディックの発言を聞いて、
「ふざけんな! このアル中野郎!」と再びディックに殴りかかるのを俺は押さえ、
「ディックは心の病気なんだから仕方が無いよ」と小声で言った。
俺たちは生気の無いディックを連れて、馬車が置いてある場所に戻った。
ゲニタルが気絶しているので、俺が小さい馬車に乗ろうとすると、
「もうその馬車はいらないでしょ。火薬は全部使ったし。あたしの隣に乗ってよ」とオティーリエが手綱を持って、御者席に座った。
確かに、このゴブリン仕様の骨だらけの装飾で、髑髏の絵が側面に描いてある馬車は目立って仕方が無い。
幌馬車の方は地味で目立たない。
小さい馬車は捨てる事にし、馬は幌馬車につなげた。
崖を下りて、近くの川に行く。
手綱を操るオティーリエに元気がない。
さっきのチンピラ冒険者と戦っていた時とは打って変わって、しょんぼりして黙っている。
俺の方へ顔を向けない。
さっき、ディックの言った事は本当なのだろうか。
オティーリエは夜尿症ってやつかね。
まあ、他人には知られたくない事を兄貴に大声で言われてしまったんなら、本人はショックだろうな。
プライド高そうな女だし。
あまり深く立ち入らないで、この話題には一切触れずにそっとしておいてやろうと俺は思った。
川辺に幌馬車を停める。
ディックは血まみれの顔のまま荷台でぼーっとしている。
今だ気絶しているのか寝ているのかわからないゲニタルをずらして、荷物を取り出す。
さっきのチンピラ冒険者との戦いで服がすっかり血だらけになったし、汗だくだ。
もう冒険服が無いので、一般人が着るような恰好に着替えて、小川で顔を洗う。
右腕の傷を見ていると、オティーリエがやって来た。
「腕の傷はどうなの?」
「大した事ない」
「さっきの連中と戦った時のあなた、なかなかカッコよかったわ」とオティーリエがニコニコして言った。
多少は元気を取り戻したのかな。
「珍しいな、お前が褒めてくれるなんて。それより、その血まみれの恰好、目立つから着替えた方がいい」
「そうね」と言って、オティーリエがその場で服を脱ぎだす。
「おい、何やってんだ」
「あなたが脱げって言ったんじゃないの、それに汗かいちゃったから川で行水したいのよ」と全裸になるオティーリエ。
完璧なプロポーションを見せつけるようなポーズを取る。
ホントに露出狂か、この女。
しかも、この前は夜中だったが、今は真っ昼間だ。
さっきの戦闘のせいか、じっとりと全身に汗が浮かんでいて、どことなく淫靡な感じがする。
普通の女ならじっくりと見たいと言うか、いっそこの場で押し倒したいけど、この女に限っては火だるまにされる覚悟がなきゃそんなことは出来ない。
そそくさと離れようとすると、
「着替え持ってきてよ、あたしの鞄にはいっているから」とオティーリエに頼まれる。
仕方が無いので、幌馬車の荷台に置いてあった鞄を川で行水しているオティーリエのところに持って行くと、水を滴らせながら濡れた体で鞄を受け取って、
「どれ着ればいいの」と俺に聞く。
「そんなのお前が決めろよ」と少し離れて、オティーリエの方は見ないで、川で水筒に水を補給する。
まじまじと裸を見たら、因縁つけられて火だるまにされかねん。
しばらくすると、
「これでいい?」となぜか嬉しそうな声でオティーリエが俺に声をかけた。
オティーリエが真っ黒な恰好をしている。
例の革製のオーバーバストコルセットに、腕にはロンググローブ、下は黒い革製のミニスカートで今回は右の腰辺りまでスリットが入っていて、下着が見えそうだ。
脚には黒い革製のヒールが高いニーハイロングブーツを履いている。
腰には何だかジャラジャラと鎖を付けている。
首にはまた金色のリングが付いた黒い首輪をはめて、手首に手枷まで着けている。
「なんだよ、その恰好」と俺が呆れた表情をすると、
「あなたが自分で決めろって言ったんじゃない! だから自分で決めたのよ! あなたがあたしをこんな恰好にしたのよ!」
「何言ってんだよ! だいたいその腰に付けた鎖とか、首輪とか手枷って戦うのに何か役に立つのか?」
「何の役にも立たないわよ」
「じゃあ、何で付けるんだ」
「何であたしの服装に文句つけるの。この服を脱げって言うの? 裸になれって言うの? あたしを無理矢理、ニーハイロングブーツだけの全裸で四つん這いにして、この首輪に鎖を通して牝犬みたいに引っ張りたいの? 鞭であたしの綺麗な背中やお尻を叩きたいの? あなたって変態ね!」
お前に変態って言われたくねーよ!
まあ、確かに男から見るとエロい恰好だけど。
オティーリエは投げナイフの練習をすると言うので、先に幌馬車に戻ると、ゲニタルが起きている。
「やっと起きたか、調子はどうだよ」とゲニタルに声をかけると、
「……ちょっと用を足してきます」と森の中に走って行った。
また、腹をこわしたのか?
ディックは顔面ボコボコで寝たまんまだ。
こんな状況で果たしてキングゴブリン軍団に勝てるのだろうかと考えていると、
「やめてー!」とゲニタルの悲鳴があがる。
その声の方に駆けつけると、オティーリエが大木の前にゲニタルを立たせてナイフを投げている。
ゲニタルの首筋寸前の場所に刺さった。
「おい、ゲニタルを殺す気かよ」とオティーリエを止めると、
「殺す気なんかないわ」とオティーリエがニヤニヤと笑う。
「練習なら木に当てればいいだけじゃないか」
「人がいたほうが真剣にやれるじゃない」とニヤついてまたナイフを投げる。
ゲニタルの股間ギリギリの場所にナイフが刺さった。
「あひい!」とゲニタルが悲鳴をあげる。
「もし、当たったらどうすんだよ」
「このデブは脂肪が厚いから大丈夫よ」
「いい加減にしろよ!」と俺が怒ると、
「まあ、あたしは百発百中だから、練習する必要はないわね、キャハハ!」とオティーリエが笑った。
チンピラ冒険者たちと戦った時、外してたじゃねーか!
オティーリエはゲニタルに近づいて、木に刺さっているナイフを抜く。
「お望みなら、心臓に刺してもいいのよ」とゲニタルの胸を小突きながらヘラヘラと笑う。
「オティーリエさん、もうこういう変態行為はやめて下さい」とゲニタルが涙目で訴えるが、
「変態行為とはなによ、この変態!」とオティーリエがまたもや鞭を叩いてゲニタルを追い回す。
二人で大木の周りをぐるぐると回っている。
もしかして、実は仲が良いのか?




