第十五話:カクヨーム王国軍別働隊殲滅
翌日、早朝にオティーリエが大声をあげている。
「さあ、起きなさい! 東に向かうわよ」とオティーリエが上機嫌で鞭を二重に畳んで両端を引っ張って、パシパシと音を立てている。
「何でせっかく西へ逃げて来たのに、また戻るんだ」と俺が聞くと、
「ゴブリンのバカボスが言ってたじゃない。キングゴブリンの息子を殺した連中にカクヨーム王国が懸賞金をかけたって。あたしたちはカクヨーム王国と同盟を結んだキングゴブリンの息子を殺したのよ。そのせいで、キングゴブリンは手を引くかもしれない事態になったのよ。あたしたちはカクヨーム王国からも狙われる事になったわけよ」
「最悪の事態だよな」と俺が暗い気分になっていると、
「いいえ、最高の気分だわ。敵はナロード王国軍、キングゴブリン軍団、カクヨーム王国軍、賞金目当ての冒険者たち、大勢いるわ。あたしたちに敵対する連中は一人残らず皆殺しにするのよ、ゾクゾクするわ! 昨夜は眠れなかったわ! 快感よ! キャッホー!」とオティーリエが叫んでいる。
いかれた女が早朝に叫んでいるのを見てるとこっちは疲れる。
オティーリエは、まだ眠っているゲニタルの股間を鞭で叩く。
「ひい!」と叫んでゲニタルは起き上がった。
「デブ! 仕事だよ」とオティーリエが冷たい目でゲニタルを見る。
またオティーリエがゲニタルを鞭で叩いて追い回すといけないので、俺はカクヨーム王国軍について話を向けた。
「どうやって、カクヨーム王国軍を倒すんだよ」
「こっちに来る際に街道を通ったら、今にも崩れそうな崖があったじゃない」
「カノン峡谷のことか」
「そこをカクヨーム王国軍の別働隊とやらが通るときに火薬を爆発させて、崖崩れを起こして殲滅するのよ」
「そんなにうまくいくかな」と俺は疑問に思った。
「いくわよ」と自信満々な、オティーリエ。
しかし、足止めくらいは出来そうだなと俺は思った。
幌馬車はオティーリエ、ゲニタルは小さい馬車の手綱を取ってカノン峡谷を目指す。
俺は幌馬車のオティーリエの隣に座った。
ディックは幌馬車の荷台で寝たままだ。
途中でゲニタルと別れて、幌馬車は例の峡谷のすでに整備されている南側の一番高い場所を目指す。
ゲニタルは、北側の崖に馬車で火薬箱を持って行った。
南側の一番高い場所に到着すると、向こう側の崖の頂上にゲニタルが手を振っているのが小さく見える。
「向こう側の崖に、あの馬車に積んである火薬箱を全部置いて、あたしがメガファイアーを飛ばして爆破すれば、崖が崩れてカクヨーム王国軍は全滅よ、ウフフ」とオティーリエがニヤついている。
「おい、ゲニタルごと爆破する気じゃないだろうな」と俺が釘を刺すと、
「何言ってんのよ! そんな酷いことはしないわよ。あなたはちょっとカクヨーム王国軍を偵察してきてよ。その間にあのデブが火薬を設置するから」とオティーリエ言われ、俺は馬を一頭馬車から外して崖を下りて、東に向かった。
三十分ほど馬を走らせると、カクヨーム王国軍が街道の側の広い場所で野営しているのを見つけた。
これがカクヨーム王国軍の別働隊か。
今は朝食をとっているようだ。
千人くらいいる。
歩兵部隊、騎兵隊の他、何台か大砲も運んでいる。
ゴブリンたちもいて、火縄銃を携帯しているぞ。
キングゴブリン軍団とは違うはぐれゴブリンたちだろうか。
ゴブリンたちも食事している。
もうしばらくしたら出発しそうだ。
俺が、急いでオティーリエのところに戻ると小さい馬車がある。
ゲニタルが戻ってきたのかと思ったら、馬車の横で顔面血まみれで倒れていた。
またかよと俺がうんざりしていると、
「このデブが、火薬を設置中に一箱落としちゃって、それが下の川に落ちたのよ。火薬って水に濡れると使い物にならなくなっちゃうんでしょ」
「で、鞭で叩きまくったのか」
「こいつが、馬車でこっちに戻ってきて、申し訳ない事をしました、鞭で叩いて下さいって言うのよ。変態よ、このデブは。変態の言うことなんて誰が聞くかって。だから顔面を百回ぐらいぶん殴ってやったのよ。手が痛いわ。慰謝料貰いたいくらいよ」とオティーリエが笑って答えた。
俺はもうどうでもよくなって、気絶したゲニタルを小さい馬車に積んで、幌馬車が置いてあるとこまで移動させた。
とは言うものの、一応仲間だ。
これから大爆発が起こる。
俺は、いらない布を引き裂いて、気絶しているゲニタルと幌馬車の荷台で無反応のディックの耳に突っ込んでやった。
オティーリエのとこに戻って、
「この前あげた耳栓持ってるか」と聞いた。
「耳栓? ああ、あれね。あなたに貰った日に捨てようと思ってたけど、つい忘れてなぜか捨てないで持ってるわ」
「かなりの大爆発だから耳栓をした方がいい。そうしないと、鼓膜がやぶれる。俺は指で耳をふさぐが、お前は両手の指を使っているから耳をふさげない」
「そうなの、ありがと」とオティーリエが珍しくお礼を言った。
初めてお礼を言われたぞ。
いや、前にも言われたような気がする。
まあ、どうでもいいや。
しばらく崖の天辺の岩陰で、見つからないよう横になって、カクヨーム王国軍が近づいて来るのを待つ。
オティーリエは仰向けになって、鼻歌交じりに空を見上げている。
少し眠そうでもある。
こっちはいつカクヨーム王国軍が来るかと緊張しているのに、たいした度胸だ。
「オティーリエ、鼻歌を歌ってる場合かよ。もし、失敗して崖崩れが起きなかったら、千人もの軍隊が俺たちを追ってくるんだぞ」
「大丈夫よ、その時はとりあえずあのデブを小さい馬車と一緒にここから落として、カクヨーム王国軍の注意をそらしてその隙に逃げるのよ」とオティーリエが悪戯っぽく笑う。
本気なのか冗談なのかわからない。
「あ、軍隊がやって来た!」とオティーリエが街道を指さす。
カクヨーム王国軍が進軍して来る。
千人近くいるのでなかなか迫力がある。
人間とゴブリンが一緒に整列して行進しているのは奇妙な光景でもあるなあと俺は思った。
「さて、千人生き埋めにして殺すのね。楽しくて楽しくて仕方が無いわ」とオティーリエは手の指をボキボキを鳴らす。
「楽しいのかよ」と俺が呆れ返っていると、
「楽しいに決まってるわ。人の運命を決めるのは楽しいじゃない」と嬉しそうなオティーリエ。
これはゲニタルが怯えていたように、またディックが警告したように俺たちもオティーリエにいずれは殺されるんではないかと俺は思った。
ほとぼりが冷めたら、真面目な話、オティーリエの前から逃げないといかんな。
カクヨーム王国軍が火薬箱を設置した地点の真下に近づく。
しかし、オティーリエは寝転んで頬杖をついて見てるだけだ。
なんだかいまだに眠そうだ。
どういう神経しているんだ、この女は。
「おい、軍隊が通り過ぎちゃうぞ」
「焦らないで、そんな興奮して早く出してもしょうがないでしょ。あたしが満足するくらい大勢殺せる時に勢いよく出すのよ」
火薬をしかけている場所に、軍隊の列がちょうど真ん中ぐらいになった時、ようやくオティーリエが立ち上がった。
耳栓をして、両手の指を複雑に交差させて呪文を唱える。
「メガファイアー!」とオティーリエが声をあげた。
火の玉が向こうの崖に置いてある火薬箱目がけて飛んでいく。
俺は両耳の穴を指でふさいだ。
メガファイアーが見事命中して、火薬箱が大爆発を起こした。
爆発音でカクヨーム王国軍の兵士たちが動揺しているのが見える。
崖のひび割れが横に広がっていく。
徐々に亀裂が大きくなって、崖全体まで広がって行きそうな勢いだ。
表面の石が落ち始める。
崖の表面が崩れはじめた。
もの凄い勢いで、大岩や木々を巻き込みながら滑り落ちていく。
巨大な崖崩れだ。
兵士たちの悲鳴が聞こえてくる。
みんな右往左往して、逃げ出そうとしているが間に合わないようだ。
大量の土ぼこりが舞って、全然見えない。
しばらくすると、風が吹いて下の街道の様子が見えてきた。
カクヨーム王国軍が崖崩れの土砂で埋まって全滅している。
「やったー! 千人生き埋めにして殺したわ! 皆殺しよ! 虐殺よ! 大虐殺よ! キャッホー!」となぜかオティーリエは俺の周りをはしゃいで踊りまわる。
マジで気が狂ったか、この女。




