ヒューネイドとの会話
「バーン、お前は過去に作者に削除されたのだ。そしてまたお前は作者の創りだした虚構の世界、アドューラに閉じ込められている。イストワールは無限に広がり続けるこの世界の中で、お前が「勇者」として覚醒するために作者に生み出された存在。これから先、様々な困難にあうだろう。それを乗り越え、お前が「勇者」として目覚めたとき、真の魔王のいる世界へ帰らねばならない。つまり旅の終わりはお前が目覚めない限り訪れないということだ」
バーンたちは混乱しています。バーンを除き、彼らは魔王に負けて「封印」されていた、と思っていたからです。しかし、魔王の話となると、誰も何も応えられない様子。そこで彼らは、バーンの夢の話を思い出しました。
(私は私の役目を知っている。お前はお前の役目をまだ知らない)
バーンの役目とは一体何なのでしょう。「勇者」として目覚めること、と一言でいってもバーンは作者の意図がわかりません。なぜ自分を生み出しておきながら、その存在を消してしまったのか。また、そんなことができる作者に恐怖をいだきます。
「アズトール、レティ、フィーネ、ガストン……お前たちも同じだ。作者に記憶を改ざんされているが、お前たちも同じくこのアドューラの住人ではない。よって、お前たちもバーンを支え、ともに強くならなければ、永遠にこの世界を旅することになる」
フィーネが、イストワールの持っているという、聖書『イミタシア』について聞き出しました。ヒューネイドは、その存在を知っているようで、「あの書物は作者の心の闇をつづった物だ。それを使って我のような動物を穢れさせ、お前たちをある場所へと導いている」と答えます。
「まとめるよ。ここはアドューラ。作者と真の魔王は別物で、バーン君の覚醒によって真の魔王のいる世界へと帰ることができる。そのために作者が生み出したのがイストワール。『イミタシア』は作者の心の闇で満たされてるから、聖なる動物は穢れていく。そしてそれは、あるところへ導くため……ということでいいかな?」
レティは、絨毯の上で胡坐をかいてヒューネイドに言いました。「そうだ」というと、ヒューネイドは、『アニマハール』の中に入っていきました。虹色の残像が空に残ります。アズトールが、「もっと聞きたいことがあったのに……」と、『アニマハール』を眺めながら惜しむように呟きました。
「事情はよくわかりませんが、私を帝都ジャミールへと送り届けるという約束。覚えていてくれていますか」
アシュリーがバーンに問いかけます。そこにはフィウスもいました。
「本当に帰るのかチビ。あんなところ、戻ったってもう居場所はないと思うがな」
「……あなたに私と話せとは言っていません」
フィウスとアシュリーの会話を聞いて、バーンは苦笑いします。しかし、約束は果たさなければ。きっと帝都ジャミールでもなにか起こる。彼はそんな気がしました。自分が「勇者」として目覚めなければ、この旅は終わらないのですから。バーンはこのままフィウスに帝都ジャミールへ向かうように言います。
「……わかった。あそこは無慈悲で利己的なやつばかりだ。実験台にされないように気をつけろよ」
「あなたにそれを言う権利はありません」
アズトールが、「まぁまぁ」と二人をなだめました。帝都ジャミールに着くには一晩かかるようです。バーンたちは疲れた身体を休めるために、居住区に戻って眠ることにしました。