「あなたが隣にいてくれるなら」
やがて宴もたけなわを過ぎ、帰ろうとする人々がちらほら出始めるころ・・・
「ああ、食った食った」
ライオネスが満足そうにお腹をさする。
「ライオネス・・・ほとんどずっと食べてばかりだったね・・・」
「当たり前だろ。ここに来てやることって言ったら食事がメインだ」
「・・・・・・・・」
ごはん食べにきただけってこと・・・?つまり・・・
「まあでも、なかなか楽しかったぜ」
「え?」
ライオネスを見上げると、彼は私に笑いかける。その笑みがなんだかとても優しくて、ドキッとした。
「・・・お前の、おかげかもな」
「ら、ライオネス・・・食べてばっかりだったのに・・・?」
「そんなことは問題じゃねえよ。お前、一緒にいて飽きねえし。いろいろやらかしてくれるしな」
「・・・・・・・」
・・・やらかすっていっても・・・ライオネスほどじゃ・・・怒りそうだから言わないけど・・・
微妙な気分に私が顔をしかめたそのとき。
「珍しいなライオネス。お前がこのようなところに顔を出しているとは」
ふいに野太い声が背後からかかった。振り向くと、そこには・・・
「あ・・・」
ウェルム、王宮騎士団長・・・
後ろになでつけた、白髪の混じるゴールドブロンド。
ライオネスをもしのぐ長身の大きな体を、王宮騎士の礼服が覆っている。
それに王宮騎士団長の証である、紋章や徽章を貼り付けたマント・・・を羽織っていた。
眼光鋭いネイビーのふたつの瞳が、私とライオネスを凝視している。
「・・・おや・・・・じ・・・・」
ライオネスの顔がさっとこわばった。
「お前は・・・イレインか。ふん・・・」
ウェルム団長は私の体を上から下まで無遠慮に眺める。にやりと笑って、口を開いた。
「年輪も行かぬ小娘だと思っていたが・・・なかなかのものだな」
「・・・やらしい目で、見んじゃねえよ・・・」
ライオネスがウェルム団長を睨み付け、素早く私をかばうように前に出る。
・・・ライオネス・・・
「ふん・・・できそこないが」
「っ・・・・・」
「異形との戦いでは、逃げ回っていたのではないのか?」
「そんなこと、あるはずねえだろっ!」
「ら、ライオネス!」
ライオネスが敵意をむき出しにして声を上げる。今にも殴りかかりそうで、私は慌てて彼の腕に触れた。
その姿を見て、馬鹿にしたように笑うウェルム団長。こちらまで不快になるような笑い方だった。
「ふっ・・・吼えるのだけは立派なものだが。まあせいぜい、今のうちに今後の身の振り方でも考えておくことだな」
・・・え・・・・みの、振り方・・・?
「今後の、身の振り方・・・って・・・どういうことだよ!?」
ライオネスの問いには答えず、ウェルム団長は身を翻した。
「なに、ここでわしが言わずとも、すぐにわかる」
「・・・・・・・・っ・・・・・」
「つかのまの平穏でも、楽しんでおくがいい」
そのまま去り行くウェルム団長の背中を、ライオネスは拳を握り締めながら睨みつける。
どういうことなんだろう・・・ウェルム団長・・・
「・・・っ・・・いつまでも、俺のこと・・・馬鹿にしやがって・・・。胸糞わりい。帰るぞ、イレイン」
「あ、待って・・・ライオネスっ」
きびすを返したライオネスを、私は慌てて追う。怒りに任せて歩いているのかひどい早足で、ついていくのがやっとだった。
「なんか・・・わりいな・・・」
本部前までつくと、ライオネスは私に謝った。
「え・・・・?」
「やな気分に、させちまってよ・・・」
「・・・ウェルム、団長のこと・・・?」
ライオネスは唇をかみ締める。少し間をおいてから、口を開いた。
「あいつは・・・昔からああなんだ・・・。気に入った女にはすぐ手出して・・・」
「そ、そうなの・・・?ウェルム団長が・・・・?」
「ああ・・・。あんま、言うなよ。親父に目つけられたら、何されるかわかんねえからな」
「し・・・信じられないけど・・・・・・」
何しろあのランスロットのお父さんだ。とてもそんなふうには思えない。
戸惑う私に、ライオネスは念を押す。
「とにかく用心してろ。お前は特に危なっかしいから・・・俺だってずっとついててやるわけにもいかねえし・・・」
ライオネス・・・
ライオネスのアイスブルーの瞳が、私を心配そうに見つめている。
・・・そっか・・・
前に試験前に襲われそうになったときも・・・ライオネスが助けてくれたんだよね・・・
いろいろ言うけど、ライオネスはいつも・・・私のことを気にしてくれているのだ。
「・・・ありがとう、ライオネス」
「あ、ああ?なんだよいきなり」
「その・・・なんていうか・・・そうやっていつも・・・私のこと気遣ってくれてたのかなって思って・・・」
ライオネスは頬をかいた。照れくさいのだろうか。
「・・・別に、俺は兄貴に頼まれたから・・・し、仕方なく・・・」
「それでも、簡単なことじゃないと思うし・・・嬉しかったから・・・」
素直な気持ちを口にすると、彼は途端に真っ赤になる。
「ま、まあ?お前はちゃんと目つけてねえと、何やらかすかわかんねえからよ・・・だから・・・」
「うん」
「あ・・・ああもう・・・と、とにかく、親父には気をつけろよ。もう遅いから寝ろ!」
「そ、そうだね・・・結構夜も更けちゃったし・・・」
気がつけば、いつも寝る時間をとうに過ぎていた。疲れているのか眠気もするような気がして、あくびも出てくる。
「ふああ・・・」
「ほら・・・さ、さっさと部屋行け!」
ライオネスがしっしと追い払うような仕草を見せる。
「はーい、おやすみなさい」
「ったく・・・」
歩き出すと背中からそんなつぶやきが聞こえて、私はなんとなく笑ってしまった。
・・・それにしても・・・ウェルム団長の言葉・・・身の振り方でも・・・って
・・・一体どういうことなんだろう・・・
部屋に向かいながら、そんな疑問が頭をもたげてくる。
だけど考えあぐねても答えは出なくて、部屋についた私は寝巻きに着替えるとそのまま心地よい眠りに落ちていった。
そして・・・婚約式から、一週間後。街も婚約式の興奮から冷め、落ち着きを取り戻してきた頃・・・
私はいつも通り地方騎士団の業務をこなしていた。
今の仕事は街の警備と見回りが主だ。異形がまだ出るともあって気は抜けない。
昼になり交代の騎士がきて、昼食を食べに本部の食堂へ向かうと・・・
・・・あれ?ライオネス・・・?
彼が食堂にいるのは珍しいことではないけれど、なんだかひどく沈んだ顔をしている。
「ライオネス?どうしたの?」
近づいて声をかけると、彼は緩慢な動きで顔をあげ、私を見た。
「・・・ああ・・・お前か・・・」
彼もお昼を食べにきていたのか、パンとスープのトレイがそばにおいてある。
・・・でも、手をつけてないみたい・・・ライオネスだったら、いつもすぐに食べちゃうのに・・・
「・・・どうか、したの?調子、悪いとか・・・?ご飯、食べてないみたいだけど・・・」
「・・・イレイン・・・」
ライオネスは顔を上げて私を見た。何か言いたそうに視線をさまよわせたが・・・結局は無言でため息をつく。
置いてある彼のスープももう冷めかかっているのか冷たそうだ。
「・・・あの、スープ、冷めちゃうよ?」
「・・・ああ・・・そういや」
指摘するとライオネスは今はじめて気づいたように、食事のトレイを引き寄せてスープを口に運び始めた。
やっぱり何だかおかしい・・・。
そういえば、ライオネスはヴァエルのこともクライストさんたちと調べていたっけ・・・
もしかしてそのことと関係ある?
「あの・・・ヴァエルのこと・・・何かわかった、とか?」
言うとライオネスは私をちらっと見て、またスープ皿に視線を落とした。
「少しは・・・な。そんことでグレッグ団長が話あるって・・・仕事終わったら部屋に寄ってくれってよ」
「え・・・私?」
「ああ、俺もだけどな・・・」
そういってライオネスは今度は黙々とパンを食べ始める。私は自分のトレーを置いて、彼の向かいで食事を始めた。
ふたりの間に流れる沈黙。
なんだか気まずいなあ・・・何か話題を・・・あ、そうだ。
「そ、そういえばさ、ヴァンディットさんって最近見かけないよね?もう王都を出てっちゃったのかな?」
私は少し明るい声でそう切り出した。ライオネスがパンの手を止める。
ヴァンディットは・・・以前は酒場をのぞくたびにいたのだが・・・
近頃はとんと姿を見せなくなっていた。
「ああ・・・あいつか・・・。あいつならもうクレールを出て行ったってよ。兄貴がこないだ言ってた」
「そうなんだ・・・見送りくらいはしたかった気もするけど・・・」
「また王都にくることもあるだろ。定期的に剣を王都の鍛冶屋に見てもらってるようだから」
「へ?そうなの?」
「あいつの双剣は特注なんだよ。兄貴と同じで。だから王都の鍛冶屋じゃねえとダメなんだと」
「へえ・・・」
「『へえ・・・』って、お前のもそうだろうが」
「あ、そっか。そういえば」
ライオネスが呆れた顔をする。双剣使いは世界でも稀な存在で、双剣も扱っている店や鍛冶屋はほとんどない。
私の双剣もランスロットがなじみの鍛冶屋さんに特別に注文したものだ。
ヴァンディットさんも同じなんだね・・・じゃあ、また顔を見ることもあるのかな。
「・・・また会えるといいね」
そういうと、ライオネスが肩をすくめる。
「俺はごめんだ。またからかわれると思うとうんざりするぜ」
「ふふっ・・・」
「・・・・・・。・・・・さて、ごちそーさん。仕事に戻るわ」
私が笑っていると、ライオネスが残りのパンをつめこんで立ち上がった。
口元には微かな笑みが見て取れて、さっきの落ち込んだ様子は見られない。
少しは気が紛れたのかな・・・でも、どうしてさっき浮かない顔してたんだろ・・・
私はそんなことを思いつつ、食堂を出て行くライオネスに手を振った・・・。
ライオネスが沈んだ顔をしていたその理由を、私はこののち知ることになる。
それは彼だけでなく、私やおそらく他の騎士団員にも衝撃を与える・・・残酷な事実だった。
「失礼します」
仕事を終えて、団長の部屋に入るとそこには団長をはじめトリスタン、セレさん、ライオネスそれから・・・クライストが立っていた。
皆そろってる・・・何か重要な話なのかな・・・
「・・・これでそろったな。それじゃあクライスト、話を」
グレッグ団長がクライストに目配せする。クライストはひとつうなずいて、口を開いた。
「ヴァエルについて、ガイア地母神教の巫女様から話を聞いてきたよ」
「巫女様から・・・?」
「ああ。やはり俺の睨んだとおりだった。大きな声では言えないけど・・・」
クライストの語った内容はこうだった。
今から何百年以上も前、クレールの町を魔力で救った魔族のひとりを、市民たちがその力を恐れ嬲り殺しにしたこと。
それだけでなく、人ならざるあやかしの力を使う者として、国をあげて魔族全体を潰そうとしたこと。
「・・・う・・・そ・・・」
思わずそんな言葉が、口からこぼれる。
「昔のクレールが・・・そんなことを・・・?そんな・・・」
セレさんが信じられないといった表情で口を押さえる。
「俺も最初はそうだった。そんなことがあるものかと。だが、これは本当のことらしい」
トリスタンがそういって、気遣うようにセレさんの肩にさりげなく触れた。
ライオネス、団長も重い表情をしている。クライストが真顔のまま、口を開いた。
「・・・巫女様も、このことは誰にも話すつもりはなかったみたいだ。だけど先代の巫女が、この事実を風化させてはいけないと言い残したって」
「クライストさん・・・だから・・・魔族の思念からできあがったヴァエルが、クレールに復讐を・・・?」
「・・・・・・・。そう、考えるのが妥当だろうね」
「・・・・・・・・・・・・」
昔のクレールの人たちが・・魔族に酷いことをしたせいで・・・
「・・・だから、ヴァエルが一方的に悪いと決め付けることはできない。これは昔のクレールが招いた結果でもあるから」
「・・・それでも、今ここにいる王都の人間は関係ねえだろ・・・。ヴァエルにとってみちゃ、クレールの人間が皆憎いんだろうが」
「・・・そうだね・・・」
ライオネスの言葉に、クライストはそういって目を伏せた。団長が何かをこらえるような表情で、口を開いた。
「因果応報なのだとしても・・・我々はおとなしく殺されるのを待つわけにはいかない。・・・生きるために。王都を守るために」
「団長・・・」
団長だけではない、きっとここにいる全員が、葛藤と戦っているのだろう。
相手のことを敵と決め付け、何も考えず戦えば躊躇や迷いはないのに・・・
部屋の中が沈んだ空気で満たされる中、クライストが気を取り直すように顔をあげる。
「・・・ヴァエルは精神体で、物質世界に生きる俺たちから攻撃を仕掛けることはできない。だから、こちらの世界に引き込む必要がある」
「物質世界に、引き込む・・・?」
「ああ。その方法を研究してる学者が、巫女様が言うには研究都市ウェスタにいるらしいんだ」
ウェスタ・・・昔ランスロットにちらっと教えてもらったような気もするけど・・・確か・・・
「ウェスタは・・・島にある、町とかって・・・よくわからないけど」
クライストがうなずく。
「そうだよ。クレールと南の大陸にあるフランチェスカとのちょうど真ん中、中央大海に浮かぶ島にある街だ」
「研究都市に・・・クライストさんひとりで?」
「いや、ライオネスとトリスタンも行くって」
「えっ!?だ、だって街は・・・騎士団の仕事は・・・?」
驚いて私がふたりを見やると、トリスタンは腕組をしてため息をつき、ライオネスは団長に目配せした。
「父さん・・・」
セレさんも不安そうな表情でグレッグ団長に視線をうつす。団長は少しの間目を閉じ、やがて私をまっすぐに見た。
「・・・イレイン」
「は、はい」
「・・・・・・・・・・・・実はな、まだ、全員には知らせていないことなんだが・・・・・今朝、王宮の使者が本部に来てな」
王宮の・・・使者・・・?
「わが地方騎士団の解散を陛下が決定したと、通達してきた」
「!!??」
団長の痛切な顔。私は目を見開いた。
「えっ・・・か・・・解散て・・・・・・・・その・・・つまりは・・・」
突然のことでよくわからない。震える唇で出した声が、掠れる。
「つまり、地方騎士団をなくすってことだよ。俺らはもう、騎士じゃなくなる」
ライオネスがややいらついたような口調できっぱりと言う。団長がうつむき、顔を覆ったセレさんをトリスタンが気遣った。
「そ・・・そんなっ・・・どうして!?」
本当に突然のことだった。
陛下の言葉ひとつで、今まで何年も街を守ってきた地方騎士団があっけなく消されてしまうなんて。
嘘・・・・
何かの間違いだと思いたいが、目の前にある仲間たちの表情が紛れもなく真実であることを物語っていた。
「・・・異形の騒動で街に大きな被害を出し、戦力も傭兵に頼るようでは、これ以上の存続は難しいだろうというのが、陛下の見解・・・だそうだ」
トリスタンが吐き捨てるように言う。彼も信じたくないのだろう、だが、一番信じたくないのはきっと・・・
これまで何年も地方騎士団を率いてきた、グレッグ団長、のはずだ。
「・・・皆には到底受け入れがたい事実だろうが・・・陛下のご意向だ。逆らえるものではない」
団長はまるで、自身に言い聞かせるような口調でゆっくりとそういった。
「・・・・グレッグ団長・・・・」
「わしはこれ限りで騎士をやめ、戦いから身を引こうと思っている。あとは・・・セレに任せる」
「ま、任せるって・・・・と、父さん・・・?」
セレさんが目を見開き不安そうに父親を見つめる。団長はそんなセレさんをなだめるように背中を軽く叩いた。
「大丈夫だ。あとは頼むぞ」
「・・・だ、だけど地方騎士団がなくなったら私はもう、騎士では・・・」
そう・・・だよね、騎士団がなくなってしまったら、所属するところのない団員は騎士の称号を奪われたのと同じ・・・
だが団長はセレさんを見つめながら、意味ありげに口を開いた。
「セレ・・・。・・・それがな・・・王宮騎士団に特例でお前だけ、地方騎士団からの入団を許されているそうだ」
「あくまでも特別な措置として、とのことだが・・・」
「父さん、私が王宮騎士団に・・・?」
茫然とするセレさん。当然だ。
貴族しか許されない王宮騎士団に入団できるなんて・・・
団長はうなずいた。
「ああ。もちろん断ることもできるが・・・せっかく王宮騎士になれる機会だ。セレ、お前には、頑張ってもらいたい」
「父さん・・・・・・・」
団長がセレさんに微笑み、セレさんが泣きそうな顔になる。
セレさん・・・セレさんも、お父さんの団長と一緒に地方騎士団を率いてきたんだもんね・・・。
なんだかこちらまで泣きそうになって、慌てて目頭を押さえた。
クライストたちのほうを見ると、彼らは何やらウェスタ行きの相談をしている。
「しかしウェスタに行くって決めたのはいいが、船はどうするんだ?」
「それは心配ないよ。俺の知り合いに船を持ってる男がいるから、彼に乗せてもらう」
トリスタンの質問に、クライストがこともなげに答える。ライオネスが眉をひそめた。
「お前の知り合いか・・・なんかうさんくせえにおいがするな・・・」
「あはは。大丈夫だよ。見た目はともかく、中身はまともな人だから」
地方騎士団はなくなる。ライオネスもトリスタンも、ウェスタへ行く。
そして、私は・・・。
私・・・。
一瞬、故郷であるテーベに戻ろうかという気も起きたが・・・
王都は第二の故郷みたいなものだ。ヴァエルは確実にクレールを狙っている。
持ち主がもし、現れることがあったら・・・。
私は拳を握り締めた。話し合う3人の男たちを見つめる。クライスト、トリスタン、そして・・・ライオネス。
私に・・・何ができるのかはわからないけれど・・・でも・・・王都の人たちのために、何もしないわけにはいかない・・・。
私も・・・。
「イレイン?」
ライオネスが視線に気づいたか、こちらに歩いてくる。
クライストとトリスタンも、話をやめて私のほうを見た。
「ライオネス、私・・・」
「イレイン・・・」
ライオネスの瞳が、心配そうに私を見つめる。想像もできない場所、ウェスタに行くのは不安もいっぱいだ。船だって、故郷のテーベに向かうような定期船ではなく、船中で泊まる長い旅になるのだろう。
それでも・・・
私は彼のアイスブルーの瞳を見つめ返した。
いつでもいつでも・・・隣にいて、見守ってくれたのって、きっとライオネスだと思う。
ランスロットは優しいし、私のことを心配はしてくれていたけど、結局近くにいて、守ってくれたのは彼なんだ。今だってそう、私のことを・・・気にかけてくれている。
彼が隣にいるなら・・・どんな場所だって、私は今までどおり、歩いていける。
「私・・・私も、ウェスタに行くよ」
「・・・なあ、でも、いいのか?他にしたいこととか、あれば・・・」
私は首を振った。
「今は私、王都のことしか、考えられないから・・・」
それに・・・
「・・・そっか」
決意をこめてライオネスを見上げると、彼がうなずく。私がうなずき返したのを確認して、ライオネスはクライストを振り返った。
「クライスト」
クライストがトリスタンと目を合わせて、それから私に視線をうつして、微笑む。
「じゃあ人数追加だね。よかった、女の子がいると船旅も楽しくなるし」
「お前な・・・」
「あはは。じゃあ、イレインちゃんも荷造り頼むよ。これから忙しくなるからさ。俺は、知り合いの船長に確認をとってみるから」
ライオネスのつっこみを軽くかわして、クライストが明るく言った。
「わかりました!」
私は元気よくいって、これからの旅に身を引き締める。
隣のライオネスを見上げれば、彼は目を細めて、あのアイスブルーの瞳で見つめ返してきた。
「お前トロいんだからな、足引っ張んじゃねえぞ」
「そんなことしないよ!」
憎まれ口に返せば、彼は笑ってくれる。馬鹿にした笑いじゃなくて、すごく・・・暖かい笑顔で。
ウェスタにいくのは、王都のこともある。
だけど、彼のこともあって・・・
今まで通り、隣に彼がいてくれるのなら、ウェスタだって、どこだって行ける気がした。
8年前から変わらない、あの透き通ったアイスブルーの瞳で、私の傍にいてくれるのなら。