当日
あれこれと考えているうちに映画に彼と一緒に行く日が来た。集合時間十分前に駅に着いたのだがもう彼はそこにいた。
「おはよう、柳田さん」
「おはよう」
彼はにこやかに笑いながら私にあいさつした。異性と二人で出かけるのは初めてだったので緊張であまり声が出なかったのだが何とか挨拶を返した。
「それじゃあ、映画館に行こうか」
「う、うん」
お互い緊張の中にいてうまく会話が進まない。それもあってかあっという間に映画館についてしまった。
「もう着いちゃったね」
彼が静寂の中一言を絞り出した。私も何とかして返さなければならないのかと慌てていると彼はそれを見て言葉をつないでくれた。
「ねぇ、あれすごく綺麗じゃない?」
彼はもうすぐ訪れるクリスマスのために置かれているツリーを指さしながら言った。ただ、ああいったもは色とりどりに飾り付けがされているのだろう。それが私にはわからなかった。ただ、彼がせっかく話題を出してくれたのだから何とか返そうと言葉を返した。
「そうだね。もうすぐクリスマスだから準備が始まってるのかな」
私の言葉は思っていたより感情がこもっていなかったみたいだった。色の見える彼にとってはあのツリーはとてもきれいなものだったのだろう。ただ、私からすれば何とも言えない木でしかなかったのだ。思えもしないことを言葉にするのはとても難しいのだ。
彼が空を切るようにいきなり言い出した。
「実はさ、聞いたんだ柳田さんが色が見えないのを。」
もしかしたら知られているかもしれないということは思っていはいたのだがこのタイミングでそれを言い出すとは思わなかった。
「あ、うん。そうなんだ、、いやだよね色が見えない人なんて」
ほかの人と同じように彼は私のことを”普通でない”ようにい見るようになるのだろう。
まるで私が普通の人のように喜びを感じられないかのように扱いだすのだろう。
「でもね、そういうのってどうでもよくて」
「え?」
「もうばれてると思うけど、柳田さんが好きなんだ。全部含めて。」
突然の言葉に私は顔が赤くなったのだろう。彼の告白は私にとって満更でもなかった。むしろ彼のような人が私に好意を寄せてくれていることが本当だったのだと信じられなかった。
「それ、今言う?」
少し面白くなってしまって彼にこう言った。よく考えればこれから映画を見るのにここで告白するのか?もし失敗してたらどうするつもりだったのだろう。彼はもしかしたら面白い人かもしれない。彼のイメージが少し柔らかくなっていったように感じた。
「やめてよ、頑張って言ったんだから」
彼は顔をしかめた。表情が豊かでかわいい人だ。
「よろしくね。」
私は私の思いのままを返した。
それからはいたって普通の映画館デートだった。ただ、彼はヘタレなので私の手を握ったりはしなかった。少しはそういったこともあっていいんじゃないかと思ったが。
「じゃあ、今日はありがとう。」
「またね」
駅で私を見送る彼の顔はもしかすると赤かったのかもしれない。
かくいう私もそうだったのだろうが。




