最期の東京
「俺は東京見納めかー」
東京のなんてことない街を歩きながら、俺はそんなことを言う。姿は見えないはずだが、大輝が歩くスピードを合わせてくれている。
「というか、俺の歩幅知ってたんだ?」
「まぁね。いつも隣歩いてるわけだし」
さらっと大輝は言った。その言葉を聞いて俺は立ち止まる。なんか熱い。そうすると、大輝も止まった。
「どうした?」
大輝は俺の顔を覗き込むように言った。その目は、生前の俺を心配していた目とさほど変わらない。
「な、なんでわかる?」
「んー……勘?」
そう言うと、大輝の手が俺の頭に乗ってきた。実際にはエアーだが、ちゃんとそこには俺の頭がある。
「……やっぱずるい。俺はもう死んでるんだよ」
「わかってるよ。でも今だけ」
俺はさっと前に進み、大輝の方を見た。やはり実際には見えていないのだろう。空気をなでなでしている。第三者目線から言うと滑稽だった。
「大輝! 早く行くよ!」
「はいはい。わかったよ」
大輝は何もなかったように前に進む。俺のいる方向へと向かってくる。そして、通り過ぎる。俺はその後を追いかけていく。
しばらくすると、古い商店街のようなところを歩いていた。大体の店は閉店して、人の気配もない。この場にいるのは、完全に大輝一人だった。それなのに、
「お兄さん、ちょっといいかい?」
大輝は店のシャッターの前に段ボールを敷いて座っていて、黒いフードを被った老人に声をかけられた。俺の感覚としては、急にこの老人が現れたという感じだった。まるで、最初からここに来ることがわかっていたかのようだ。
「……なんですか」
大輝は答えてしまった。何故か今だけは大輝に言葉が届かなかった。まるでコイツに何か抑えつけられているようだ。
「いーや。なにか後悔しているそうな顔をされているもんでさ」
「後悔?」
「そう。でさ、過去に戻ってみたいと思わないかい?」
だめだ。また来る。
俺はそう思った。だが、今は身動きが取れない。これを俗に言う、金縛りのようだ、なのか。俺はなったことないからわかんないけど。
「なにこれ?」
大輝は老人から渡された変な機械をじっと見ていた。その目からはなにを考えているのかわからない。
「ここのボタンを押しさえすれば、好きな時間まで戻れるものなんだ。上限はないよ」
「へー……」
だめだ。大輝の目が完全にそれだ。
「じゃあ……」
大輝の手が例のあれに触れた。




