あのキーホルダー
「……やっぱり。またじゃん」
俺は朝早くから早々、呆れていた。その理由はもちろん、大輝にある。起きる予定だった9時はとうに過ぎて、もはや11時寸前だ。
「はぁ……仕方ない」
俺は善意で近くのティッシュ箱を地面に叩きつけた。あくまで、ティッシュ箱が地面に落ちた、というシチュエーションだ。
「ん……? あ、やっべ!」
大輝が起きた。俺が「おはよー」と返しても、返事は帰ってこない。当たり前だ。そもそも期待もしていない。
「おはよ! お昼ご飯食べに行く!」
「へー」
なんと、返事が帰ってきた。俺のことはお見通しってわけか。なんとも感動的だな!
「だけど、寝癖が付いていて、寝起きの姿で言われてもなぁ……」
大輝の格好は起きてほんの数分って言った感じだ。やれやれ、こっちはお昼くらいまで暇してるんだぞ。
大輝は洗面所に向かった。俺はその部分は見ないでおいた。あくまでも、プライベートゾーンだろ?
しばらくすると、いつも通りの大輝が帰ってきた。まぁ、前よりは、しょげているが。
大輝はホテルから出て、荷物を駅のロッカーに入れた。「500円って高いなぁ……」と独り言を言っている大輝に同意する。荷物を入れ終わると、大輝が顔をあげた。そして、俺と目が合った。
俺はニコッと笑ったが、大輝はその中を通り過ぎる。やっぱり、どう頑張っても無理なものは無理か。
今、俺が現世へと帰ってきているのはお盆期間だからだ。あと3日もすれば居なくなる。まぁ、お供えは溢れるほどあったから退屈はしなかった。
「東京と言えば……もんじゃ焼きか」
自分で質問して自分で答えるパターンか。これを俗に言う、自問自答だろう。
地下鉄で移動して何千里、とまではいかないが、結構移動した。電車の中はいつもより騒がしく、観光に来ている家族が多い。
その中でも一人で座っている大輝が浮いてしまう。
「大丈夫、一人じゃないし」
と、一応声を掛けておいた。聞こえるはずはないが……、
「聞こえてるよ」
「え?」
大輝が返事をしてきた。 なんで? なんでなんだろう。でも目は合っていない。大輝の目の前にいるのに。
「声だけ聞こえるんだよ。いや、聞こえるようになった」
「え? どういうことだよ。ってか何で今日?」
「実は……」
大輝がとあるものを見せつけてきた。それが、カバンに付いているキーホルダー。2つで一つになるやつ。
「そういえば、お供えにそんなものがあったなぁ」
「一緒に買ったでしょ。あの山の上のホテルの時」
「あーあれね! たしかに!」
大輝は笑った。電車に乗っている何人かは、大輝の方に目線をやっていた。




