江の島の前に
俺は鶴岡八幡宮で死にかけている大輝を救うべく、冷房の効いていると推測する江ノ電に乗る。だがしかし問題が……。
「人多すぎない!?」
「仕方ないだろ。人気なのに、車両少ないんだから」
鎌倉駅まで戻ったのはいいが、ホームに人が溢れている。こりゃ次の次で乗るか。
「もはや、俺がイスになってやろうか?」
俺がニヤニヤしながら、大輝に言われた言葉を言い返す。今しか言うしかなかった。タイミングが。
「いや、潰れるよ?」
大輝は真顔でそう言った。まぁそうだろうね。余裕ないんだろう。
しばらく待つと、江ノ電が来た。だが、ちゃんと降りる場所は確保している。それが日本人に埋め込まれた遺伝子。
「待て」
「え?」
大輝が行こうとしたその時、俺が裾を掴んで止めた。大輝の顔が傑作だから見てほしかったな。「なんで?」って、声を聞かなくても分かる。
「今行ったら江ノ電の江餌になるだけだ」
「え? 餌……?」
そんなことを言ってる間にドアが閉まってしまった。「あ」という声を聞いたが、そんなのは気にしない。
大輝を空いたベンチに座らせ、適当にスマホをポチポチする。
そして次が来た。来るまでの間は、無駄な雑談をした。無駄じゃない雑談なんかない。
「行くぞ」
「あぁ……そうだね」
江ノ電が空くことはない。ただ、前よりはマシだってことだ。
結局、俺達はぎゅうぎゅう詰めで乗る。見たことがない景色はいいものだ。新鮮、斬新、感嘆の三拍子だろ。
江ノ電は住宅街を突っ走るような感覚だ。家が間近にある。ここに住んでる人は寝れているのだろうか。
「あ、言い忘れてたけど、七里ヶ浜で降りるぞ」
「え? あ、わかった」
大輝の困惑した顔見るの好きなんだよなー。なんちゃって。
江ノ電は住宅街を抜け、砂浜と並走中。よく、インスタのリールとか、YouTubeのショートとかでよく見るやつだ。みんなカメラを砂浜に向けている。
「きれいだよなぁ……」
大輝がそう独りごちるのも頷ける。単純なことしか思い浮かばないって楽だと思う。
江ノ電が七里ヶ浜駅に到着した。人の流れに流れるように大輝の裾を掴んで引きずる感覚で一緒に飛び出していく。
「意外と降りる人いるんだな」
「そうなんだよな。綺麗だし。まぁ、俺の目的は違うかもだけど」
「え?」
またこの顔だ。癖になるよまったく。
七里ヶ浜駅を出ると、真っ先に砂浜と逆の方に向かだていった。大輝が「そっちなの!?」と言っていたが、そうだよ。
「言ったでしょ。目的が違うって」
俺は大輝が走ってるのを受け止めてそう答えた。




