葵の過去
シャワーヘッドを手に取り、イスに掛ける。その仕草さえも「誰かに見られている」と感じる程だ。
確かに俺は小さい頃から周りからいろいろ言われた。なぜなら、普通より、小さいから。
俺の誕生日は3月。つまりは早生まれだ。そのせいもあるのか、背が伸びない。
小学生の頃はいろいろと頑張ったつもりだ。毎朝牛乳を飲み、早寝早起きを繰り返した。
だが、一向に背が伸びない。それが俺の……。
「おい! 大丈夫か?」
俺は大輝の声で正気に戻った。いつの間にか、お湯に浸かっていたらしい。
「あ、あぁ……大丈夫」
「それならいいが……また変な考え事か?」
「変とはなんだ、変とは。これでも悩んでるんだよ」
「へー」
大輝の返事は素っ気ないものに聞こえた。だが、俺は知っている。こういう話は苦手なのだと。
明るいが取り柄な人は大体、重い話は苦手だと思っている。勝手に。大輝も例外じゃない。
「でもいいじゃん! それが葵の武器だろ?」
「武器」ねぇ。そんな武器があってもどうするのか。中学校に舞台をする機会があった。その時も俺は女性の役だ。しかもクラス満場一致で。
大輝は「かわいかった」とか言っていたが……。うん、まぁ。「うれしくない」とは返した気がする。
そんなことを考えてると、気づいたら畳の上で寝転がっていた。
周りには雑誌と漫画が大量に、テレビまでもある。ぼんやりとテレビを観ていると、大輝が話しかけてきた。
「おーい。大丈夫かー? 雰囲気ヤバかったけど」
「? そんなにか?」
大輝は無言で頷いた。こんなに喋らない大輝は初めてだ。そんなに酷かったか?
「ほい、これ飲んで元気だそう!」
大輝が買ってきてくれた物は、いちごみるくだ。だが、その手は震えていた。大輝なりの機嫌の取り方だろう。
「はは……ありがと」
俺はそう言って素直に受け取った。その反応に安心したのか、大輝の肩が降りたようだ。
「ごくごく……」
うまい。それが感じられたら満点だろう。俺は甘いものが大好きだから助かる。
「流石だな」
「まぁねー。好きな系統くらい分かるよ」
長年一緒に居るのが功を制した。まぁ、そんな大層なことではないが。
休憩した後、俺達はスーツケースを受け取りに行った。スーツケースに手をかけた瞬間、「手ぶらって楽だな」と思ってしまった。怠惰だ。
そして電車に揺られ、ホテルに戻った。一日目と同じホテルだ。
「次こそは朝ごはん食べよう!」
そう高らかに宣言したのは、フラグだろうか。




