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通い妻となったクラスメイトに堕落させられる  作者: 進道 拓真
第三章

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第九十九話 縮められた交友


 詳しいことも伝えられずに颯哉によって連れられてきた部屋の一室。

 そこでは拓也が呆れたように溜め息を漏らしながら、妙に盛り上がった様子の颯哉を見つめていた。


「よっしゃー! 盛り上がってるかーっ!」

「…盛り上がってるか、じゃねぇよ。一体どこに連れられるのかと思ってたら……どう見てもカラオケだろ、ここ」


 片手にはマイクを持ちながら声を張り上げる颯哉に文句を言いながら周りを見渡せば、明るさが心もとない照明で照らされた空間の中に、小さめのモニターや音響装置なんかが設置されている。

 店に入った瞬間からなんとなく察しはしていたが、どう考えてもカラオケルームの場でしかなかった。


 いや、別にカラオケが嫌いなわけではないのだ。

 歌うこと自体は好きでも嫌いでもないくらいだが、たまに思いっきりこういった場所に訪れることはなくもないし、ちょっとしたストレス発散にもなる。


 なのでそれは構わないのだが……何でよりにもよって、相談場所がここになるんだ。


「…それで、なんで場所をここにしたんだ? もっと良い場所だって他にあっただろ」

「一応ちゃんとした理由もあるぞ。ここなら完全に個室だから誰にも聞かれる心配もないし、ゆっくり話せるからな」

「……まぁ、それは確かに」


 友の言い分を大人しく聞いておけば、言われてみれば納得もできるものだった。

 これから話す内容がおいそれと外部に漏らしていいものではない以上、ある程度滞在する部屋は密室である必要がある。


 周りの者達がいちいち赤の他人でしかない拓也たちの会話に聞き耳なんて立てていないとは思うが、万全を期すのであればそれは必須だ。

 よもやそこまで考えてくれていたとは……と少し感心しかけたが、どこか違和感をぬぐい切れなかった拓也は、追加で質問を投げかけた。


「…で、本音は?」

「俺が歌いたかったからだな! 拓也とカラオケ来る機会だって滅多にないし、このチャンスを逃す手はないだろ!」

「そんなこったろうと思ったよ……」


 堂々と己の欲望を優先させたと言い張る颯哉に、拓也は当然、さしもの朝陽も苦笑いを浮かべている。

 確かにこいつとカラオケに訪れたことは皆無にも等しいが、この局面でまさかそれだけのために選んでくるなど、想像できるわけないだろう。


「もちろん相談も聞くぞ? だけどその前に、少しは歌って楽しむくらいの余裕はあっても怒られやしないって」

「…言いたいことは分かるけど、こうも巻き込まれるこっちの身にもなってくれ」

「まあまあ。僕も驚きはしたけど、舞阪の言うようにちょっとは楽しんでもばちは当たらないよ。原城の話も、それからでも遅くはないでしょ?」

「それはそうだけど……お前ら、結託早すぎないか?」


 まんまと言いくるめられてしまった自分に少し情けなくもあるが、彼らの言い分も理解できるので反論もできない。

 …ただ、颯哉に関してはあとで一発叩き込んでおこうと心に誓った。




 それから時間にして一時間と少しが経過し、カラオケルームの一室でそれなりに歌を満喫していた三人は、そろそろ良い頃合いだろうということでメインの話題を切り出した。


「…ふぅ。んじゃ、拓也の悩みとやらを聞くか」

「めちゃくちゃ熱唱してた後にそう言い切られるとなんか腹立つな……いいけどさ。もともとそれが主要目的だったわけだし」


 数秒前まで歌に熱中していた颯哉がマイクを置き、拓也の方へと向き合ってくる。

 切り替えが素早いのはこいつの美点でもあるが、こうも即座に意識を切り替えられるとこちらとしても戸惑いが隠せない。


 …というか、さっきまで夢中でコーラスを求めてきたやつがいきなり真剣な表情に転じたところで雰囲気などあるわけがない。

 本人はしっかり空気を入れ替えられていると信じているのだろうが、第三者から見たら台無しである。


「てかそれよりもまず、池上に説明するのが先だろ。まだ何も話してないんだから」

「あっ、そうだね。そうしてくれると助かるよ。現状だと何もついていけそうにないからさ」


 お腹いっぱいな展開につい流しそうになってしまったが、拓也の相談事を話すよりも先に朝陽へ事情を伝えなければならない。

 今もなお詳しい経緯を把握していない彼に言っておかなければ、余計な困惑を招いてしまうだけだ。


 そんな事態を避けるためにも、最初に全てを話しておくべきだ。


「そういやそうだったな。うっかりうっかり!」

「うっかりって……まぁ、今はあいつは置いておこう。とにかく、詳しいことを話すよ」

「う、うん」


 おどけたように誤魔化そうとしている颯哉は一旦無視して、拓也は経緯を話す姿勢に入った。

 無意識の内に雰囲気を切り替えでもしていたのか、その態度から本気度でも伝わったのだろう。


 朝陽の方も聞く態勢を整えてくれていた。


「それじゃあまずは秋篠……唯とのことについてだな」

「え? 原城、今名前で呼んで……」

「それも含めて言うよ。とりあえず一通り話させてくれ」

「わ、分かった」


 拓也が唯のことを名前で呼んだことに、違和感を覚えたのか指摘してくる。

 普段は親しい者以外にはほとんどしないものだし、それが女子相手なら尚更のことでもあるので気持ちは分かるが……それに関してもいずれは言及する。


 ゆえに今はその疑問は留めてもらうように頼み、拓也は説明に集中していく。


 それからは唯との出会いから始まり、現在に至るまでの過程を朝陽にも伝わりやすいように噛み砕きながら話していった。

 話し始めたばかりの時こそ驚いたように目を丸くしていた彼だったが、そこは持ち前の冷静さを発揮し、途中からはどこか納得したように頷いている場面も増えていった。


 今まで朝陽が認識していた拓也と唯との関係性は、なんでかは分からないけど親しい男女の友人程度のものだったのだろう。

 それは大まかにいえば間違ってもいないし、傍から見ればそう捉えられたものだったのだ。


 しかし、より正確に二人の仲を表すのであれば、それだけでは言葉が足りていないのも事実だった。

 少なくとも、普通とは言い難い交流を重ねてきた二人の関係値は、それだけでは到底言い表せないものだから。


 そうして全てを語り終え、今までに起こった出来事を説明し終えれば、朝陽は自分の頭の中で反芻するように目を閉じていた。

 それも次第に落ち着いてきたのだろう。ゆっくりと瞳が開けられていき、その視線はまっすぐに拓也へと向けられている。


「…とまぁ、大体はこんな感じだ」

「……なるほどね。今まで何で二人の距離が近かったのかは疑問だったけど、そういうことだったなら納得だ」

「怪しまないのか? こんな荒唐無稽な話、まず疑ってかかられるもんだと思うんだが」

「原城の話を聞いたらそんなことも思わないって。秋篠さんに手を差し伸べたっていうのも、こうして直接話してみたらそういう人だっていうのは伝わってくるし」


 ある程度事情を理解している者ならばともかく、そうではない者にとっては拓也が話したことは単なる作り話か妄想とでも思われてもおかしくはないものだ。

 だというのに、朝陽は一片の疑いもなく信じてくれていた。


 そしてその理由も、拓也が他人に優しさを分け与えることができる人物だと思ったからだと言われて、嬉しくもある。

 当時の自分はただがむしゃらに動いていただけだと思っていたが、そう言ってもらえたことは過去の行いを肯定されているようで、素直に受け取れるものだった。


「しかし、秋篠さんと一緒に過ごしてるってのは少し予想外だったなぁ……それに聞く限りだと、学校の様子よりもかなり距離も近いんでしょ?」

「俺も聞いた時には驚いたもんだぜ。そりゃ仲が縮まってたらいいなとは思ってたけど、実際にはそれ以上の関係にいつの間にかなってたんだからな」

「あっはは。それは確かに驚きそうだね」

「…黙ってたのは悪かったけど、そんなべらべら話すわけにもいかないものだからな」


 拓也たちの内情を知れたことで色々と合点がいくこともあったのだろう。

 これまでも対等に接してくれていた朝陽だったが、今回の会話を通してその距離をより縮められたような気がした。


 …まぁ、その距離感ゆえか二人ともがなぜか拓也をいじるように語り掛けているようにも思えるが、これもまた悪くはないと思えた。


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