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通い妻となったクラスメイトに堕落させられる  作者: 進道 拓真
第三章

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第九十八話 お悩み相談


 体育祭が終わってしまえばそれからの日々はあっという間であり、代り映えのない日常が過ぎ去る頃には十一月の下旬に差し掛かろうとしている。

 徐々に気温も下がり、肌が乾いた風から冷気を感じ取ってくるようになってきたことで、服装も自然と長袖を着るようになってきた。


 日によっては上着を着こむようになるこの時期は体調を崩しやすくもなるので、拓也たちもその対策もしっかりとしているが……今はまた別のことからうんうんと唸っている。


(……もう一か月以上経っちまった。本当にどうするかな……)


 机に座りながら表面上は平静を保っているように見せている拓也だったが、その内情は頭を抱えていた。

 若干眉間にしわを寄せながら悩んでいるさまは一見不機嫌なようにも思えるが、実際のところは猫の手も借りたい気分だった。


 唯へと想いを伝えると決意したのがおよそ一か月と少し前に開催された体育祭の時。

 そこからどのように伝えようかとあれこれ考えを浮かばせては消していきを繰り返していく内に、気が付けばもうこんなにも時間が経ってしまっている。


 焦る必要はないと前に決めたはずだが、ここまで来てアイデアの一つもないとなると、さすがに焦燥感も出てくるというものだ。


(…俺だけじゃそろそろ限界か? だけど、ここであいつらの手を借りるっていうのもな……)


 この停滞してしまっている現状を打ち破るためには、拓也一人だけでは厳しいのかもしれない。

 もちろん、一人で全ての手筈を整えた上で告白するというのも素晴らしいものではあるが、それができない以上友の手を借りるというのも一つの選択肢としてはありだろう。


 そうとなれば、後必要なのは拓也の心持ち一つだが……それを決断する前に、向こうの方から手が差し伸べられてきた。


「なんだなんだ拓也。何か悩んでるみたいだけどどうしたんだよ」

「…颯哉か。まぁ…少し迷ってることあってな」

「お前が素直に白状するとは珍しいな。よければ相談乗るぜ?」

「ありがたいけど……ここだと少し話しにくいことなんだよ。別の場所でもいいか?」


 拓也がしかめっ面になっているのを見かけて近寄ってきた颯哉は、こちらが正直に悩みがあると打ち明けたのが意外だったのか少し驚いたようにしていたが、すぐに真剣な表情へと戻る。

 ただ今は授業終わり直後ということもあって教室には人が溢れているので、この状況では唯とのことについて話すことはできない。


 そう言うと颯哉は何かを察したのか、さっきまでの表情から一転して納得したように頷いている。


「あぁ、あの人とのことか。…だとしたら放課後の方がいいかもな。どっか寄って行こうぜ」

「いいのか? お前だって何か予定があるんじゃ……」

「今日は部活もねぇし、用事も大したものはないから問題ねぇよ。…それに、お前の悩みなら一緒に聞いてやるのが親友ってもんだろ!」

「…そうか。なら遠慮なく頼らせてもらうよ」


 つくづく拓也は縁に恵まれている。

 こうして率先して接してきてくれる颯哉は元より、自分の周囲には前と比較しても比べ物にならないくらいに良い友人が近くにいてくれるのだ。


 昔の自分に教えれば、信じられないと言われてしまいそうな環境に身を置けていることが嬉しくもあった。


「何々、騒がしいけどどうかしたの?」

「ん、池上か。別に大したことでもないけど、俺の悩み相談を颯哉がやってくれるってだけのことだ」

「へぇ、原城が悩みなんて珍しいね」

「まぁちょっとしたことでな。……よかったら池上も来ないか?」

「ん? 拓也いいのか? それって朝陽にばらすことになるだろ」


 騒がしくしていた拓也の机に近寄ってきたのは、最近よく話す間柄になってきた朝陽だった。

 彼もまた気心知れた仲であり、拓也が話す相手としてはかなり親しい友人になるので、せっかくだから相談に乗ってもらおうと誘ってみれば颯哉から待ったがかけられた。


 颯哉の言いたいことも分かる。

 これから話す内容は拓也と唯の関係に直結したことであり、彼女との親密さを知っている朝陽であっても伝えていないことが多分に含まれた相談でもあるのだ。


 その場に彼を誘うということは唯とのことに関して全てを明かすということと同義であり、そこに伴うリスクを考慮してくれているのだろう。

 もちろん拓也とて、何も考えずに誘いを持ち掛けたわけではない。


 会話を重ねていく中で朝陽が友人の秘密を言いふらしたりするような人間ではないことはとうの昔に分かっていたし、信頼のおける人物であると判断したからこそ、彼にも話しておこうと思えたのだ。

 …まぁそんな建前を言っておきながら、最大の理由はこんな自分とも対等に接してくれる朝陽に黙ったままというのも心苦しかったから、というのが本音だが。


「池上なら大丈夫だよ。それくらいはしっかり考えてる」

「お前がいいんなら別にいいんだけどな」

「こっちとしては何の話なのかも全く見当もつかないんだけど……それも含めて放課後に話してくれるって感じかな?」

「そうだな。急で悪いけど、今日はよろしく頼む」

「あいよ。場所とかはこっちで決めておくから、あとで教えるわ」

「了解。それじゃ、僕もそろそろ自分の机に戻るからまた後でね」


 放課後に集まることを確定させ、その後の予定に関しては颯哉に一任することにした彼らはそれぞれの机に戻っていく。

 そのタイミングで授業担当の教師も教室へと入ってきたので、軽く筆記用具やら教科書の類を並べて準備を整えておくが、拓也の頭の中ではそれ以外のことで思考は埋め尽くされていた。


(結局頼ることになったけど、まぁいいだろ。それで良い案が出てくるなら万々歳だ)


 友の手をつかんだことに思うところもあるが、別に悪いことでもないので堂々と頼ってしまえばいい。

 彼らなら拓也でも思いつかなかったアイデアも持っているだろうし、それは今の自分にとって何よりも欲しいものでもある。


 …それと、朝陽に拓也たちの秘密に関して教えるという決断まで下したのだからもう後には引けない。

 この判断がどういった結末を導くのかは不透明だが、流れに身を任せるしかないだろう。




 そして時間は過ぎ、放課後。

 一日の終わりを告げるチャイムが校舎に鳴り響く中、拓也は颯哉と朝陽の二人と合流を果たした。


 てっきり教室から三人で行くものだとばかり思っていたが、颯哉の提案で昇降口前で待ち合わせをすることになった。

 それ自体は構わないのだが、わざわざ場所を変えてまで集まる必要があったかどうかは不明だ。


「もう二人は来てたんだな。待たせた」

「そんな時間も経ってないからいいって。そんじゃ早速向かおうぜ!」

「ああ…ってその前に、まずどこ行くんだよ」


 拓也がやってきたのを皮切りに張り切って歩いていこうとする颯哉だったが、その前に目的地も何も聞かされていないので待ったをかける。

 当然の疑問ではあると思うが、行き先を決めたのはこいつだったし特に連絡もされていなかったので知らされていなかったのだ。


「あはは……それが舞阪のやつ、僕にも教えてくれないんだよ。何度聞いてもはぐらかされてさ」

「池上にも? …お前、本格的にどこ行こうとしてるんだよ」

「それは言ってからのお楽しみってやつだな。変なところには行かないからそこは安心してくれ」

「何も言わない段階で既に怪しさ満点だろ……」

「仕方ないよ。僕らは黙ってついていくしかなさそうだし」

「…池上も池上で、順応早いよな」


 なぜか目的の場所を明かそうとしない颯哉と、それに諦めたかのように肩を叩いてくる朝陽。

 初っ端から不安が絶えない寄り道になりそうだが、志願したのは自分なこともあって追及できる雰囲気でもない。


 そこはかとなく心配ではあるが、朝陽の意見に従い黙ってついていくしか選択肢は残されていないようだ。


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