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通い妻となったクラスメイトに堕落させられる  作者: 進道 拓真
第三章

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第九十四話 手遅れにしないために


 偶然見かけた景色の中では、見間違えるはずもない少女の姿と顔も知らぬ男子生徒の二人が立っていた。

 グラウンドからでは目視もできない死角になる位置にいることもあり、普通ならば気づくこともないのだろうが、拓也がいる場所からはギリギリ見えたので気づくことができた。


 …別にやましい事情があるわけでもないので堂々としていればいいのだが、なんとなくあの二人から感じる真剣な雰囲気に思わず隠れてしまった。

 距離もそれなりに離れていたのでこちらの姿は見られていないと思うが、念には念を入れておく。


(なんなんだ…? …何で、こんなに俺は不安になってるんだ…)


 校舎の壁にもたれかかりながらずるずると腰を落ち着ければ、なぜかざわめいてくる自分の胸に嫌な予感がしてならない。

 しかも自分を不安にさせてくる原因すらわからず、ただ漫然と浸食するかのように広がっていくこの恐怖感は、言葉では表せない不快感があった。


 そして、グラウンドに漂っている静けさのせいなのか、距離もある程度離れているはずの唯たちの会話も朧気ながら聞き取れてきた。


「その……いきなりこんなところまで呼び出したりしてごめん。秋篠さん」

「それは良いよ。それで、何の用かな?」


 かすかに耳に入ってくる会話の内容から考えるに、どうやら唯もここに来た理由は聞かされていないようだった。

 だとしたら、尚更何の用で……と思ったが、その答えを推察する前に男子生徒が声を張り上げてその解答を明かしてくれた。


「…秋篠さん、君が好きです。…俺と、付き合ってください!」



 …一瞬、息をのむ音が聞こえたのは、果たして自分のものだったのだろうか。

 万感の思いを込めて告げられた言葉は、紛れもない彼女への恋慕であり……疑いようもない唯への想いだった。


 どうやら拓也は……偶然にしてはできすぎている、唯への告白の現場に遭遇してしまったらしい。



 どれだけの時間が経ったのか。数分か、はたまた数秒か。

 途方もなく長く感じられた沈黙が破られることはなく、それに伴って無関係のはずの拓也の心臓もその緊張感を高めている。


 無意識の内に力強くつかんでいたシャツが皺になることも厭わず、ドクドクと響いている鼓動がうるさいくらいに聞こえてくる。


(…そう、だよな。わかってたはずだ)


 唯という少女は魅力にあふれている。

 それは誰よりも傍で見てきた拓也が一番よく知っているし、理解だってしている。


 当然、それに惹かれる者が拓也だけではないことも、自分以外の者が言い寄ってくることもあるなんて承知の上だったはずだ。

 …なのに、こうして目の前でその証拠を突きつけられれば、それだけでみっともないくらいに動揺してしまっている。


 俺はどこかで、勘違いをしていたのかもしれない。

 唯はいつまでも自分の隣に居てくれると、彼女はどこにも行かないなんて都合の良い考えだけを信じて、その先に進むことを恐れていた。


 だけど彼女だって、一人の普通の女の子なんだ。

 ほんの少しのきっかけで他の誰かのパートナーになることだってある。拓也ではない誰かを選ぶ可能性だってある。


 …そして、その結果を招くとしたら他でもない、一歩進む勇気も出せずに怯えてばかりだった拓也の臆病さなのだ。


(…考えたくはないけど、唯が俺を選んでくれる保証なんて無いんだ。それで迷っている間に手遅れ、なんてことだって全然ありえる)


 その思考は、今まさに間近で行われている告白がそうだろう。

 もし唯があの男子の告白を受け入れるというのならば、拓也はそれを止めない。止められない。


 全ては、自分のどっちつかずの態度が引き起こしてしまったことなのだから。

 …そしてとうとう、唯への告白に対する返答はなされた。


「…ごめんなさい。お付き合いすることはできません」

「っ! …そっか、わかった」


 …正直、我ながら最低だと思った。

 あの男子が自らの想いを振られる姿を見て、()()()()()()()()自分がいたからだ。

 深々と頭を下げながらきっぱりと断る唯の姿を視界の端で眺めながら、他人の不幸を喜ぶような感情を抱いてしまう自分に、どこまでも自分勝手な感情に嫌気が差してきそうだった。


「…なら、断られた理由だけ聞いてもいいかな? それだけ聞いたら、もう諦めるよ」

「……好きな人がいるの。だから、あなたの気持ちには応えられない」

「…そうだったんだね。告白しておいてなんだけど、頑張ってね。…それじゃ、俺は行くから」

「………」


 勇気を振り絞った一幕だったのだろう。

 そこに込めた時間だって、決して軽いものではなかったはずだ。


 それでも、尾を引くことなく自ら去っていく彼の姿は……今の拓也にとっては、少しまぶしすぎるものだった。


(…好きな人、か。それって……)


 告白を断る理由として唯の口から告げられた、好きな人という言葉。

 ただの方便なのかもしれないが……状況的に、その可能性が最も高いのは……


(今はやめておこう。…とにかく、唯にばれないようにしないとな)


 答えの出ない疑問に思考を集中させれば、それは無意味な時間を過ごすことになってしまう。


 ここには休みに来たはずなのに、ほんのわずかな時間でどっと疲れが溜まってきたような気がしてきた。

 …他人の告白を覗いていたなんて言われたらいい気分もしないだろうし、この場はそっと立ち去っておくべきだろう。


 そう思って重い腰を上げれば……背後からいきなり声をかけられた。


「…やっぱり、拓也くんだったんだね。まさか見られてるとは思ってなかったよ」

「……気づかれてたのか?」


 心地よさすら覚えるその声の正体にもなんとなく察しを付けながら振り返れば、少し呆れた表情で唯が立っていた。

 拓也としては上手く隠れていたつもりだったのだが、どうやら唯からしてみればバレバレだったようだ。


「最初は誰なのかはわかってなかったけどね。校舎の陰に誰かいるなーとは思ってたけど」

「その……すまん。覗くような真似をして」

「…一応聞いておきたいんだけど、どの辺りから聞いてたの?」

「ほとんど最初から……本当にごめん」

「そっかぁ……まあいいよ。だからそんなに謝らないで?」


 今更告白現場を見ていたことを誤魔化したところで意味など無いので素直に謝れば、唯は特に怒った様子も見せてこない。

 普通こういった現場を勝手に見られれば、激昂されてもおかしくはないというのに。


「…怒らないのか? 勝手に見ておいてって」

「そりゃ面白半分で見られたりしたら思うこともあるけどね。拓也くんなら偶然居合わせちゃったってだけだろうし、言いふらしたりもしないでしょ?」

「それはしないけど……でも、その…唯のあのことだって聞いちまったし……」

「あのことって…? …あー、そっか。最初から聞いてたんだもんね」


 拓也が微妙に気まずそうにしているのは、彼女の好きな人がいるという発言のことだ。

 告白という一大現場に居合わせたことから少し流しそうになってしまっていたが、やはり盗み聞きするようなことではなかっただろう。


 それは唯も同じことに思い至ったようで、気まずい空気の中を過ごしている……かと思いきや、なぜか彼女は面白そうに口角を上げながらこちらを見上げていた。


「じゃあさ、私の好きな人って誰だと思う?」

「……それ、答えによっては情けないことになりそうじゃないか?」

「いいから! ほら、誰か言ってみてよ!」

「…そんじゃ、さっさと帰るか。もうすぐ昼休みも終わりだしな」

「あ、逃げたー! もう! 一人くらい挙げてみてよー!」


 納得がいかないと言わんばかりに憤慨する唯の声を背に、彼女の問いをあやふやにしたままその場を後にする。

 …少なくとも、その答えを明らかにするのは今ではないから。



 先の出来事を通して、自分の中で一つはっきりとさせられたことがあった。

 唯との現状の関係に甘んじているばかりでは、いつかきっと後悔することになる。


 もう、彼女を離したくない。ずっと傍にいてほしいと、そう思っているから。

 他の誰にも取られたくないから。一歩を進むための勇気なんてなくても、踏み出すとしよう。


 …近いうちに、この胸の想いを伝えるために。


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