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通い妻となったクラスメイトに堕落させられる  作者: 進道 拓真
第三章

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第九十三話 昼の居心地


 水飲み場から唯と戻って来た後。

 昼食前最後の種目である騎馬戦が終わったことを合図に、放送で一度教室に戻るように連絡がされていた。


「ちっくしょーっ! あともう少しで勝てたってのに!」

「惜しかったな。でもあれだけ囲まれたってのに、かなり持ちこたえてた方だろ」


 昼食をとるために教室へと向かっている拓也の隣で吠えているのは、先ほどの騎馬戦で惜しくも終盤に崩されてしまった颯哉だ。

 序盤は大勢の敵に囲まれながらも獅子奮迅の勢いでかなりの人数を崩していったが、やはり数の暴力には勝つことができずに終わってしまった。


「それはそうだけどよぉ……何であんな俺のところにばっか敵が狙ってくるんだよ。おかしくないか?」

「……さぁな。偶然だろ」


 拓也も騎馬戦は一部始終を眺めていたので流れは把握しているが、こいつの言う通り颯哉の騎馬はなぜか異常なまでに狙われていた。

 それだけならば敵にとって狙いやすい位置に立っていたから、とか大立ち回りをしていたから注目されてしまった……なんて理由も挙げられそうなものだが、見た限り颯哉の騎馬から最も遠く離れた場所に位置していた組が真っすぐに狙って走っていたことから、なんとなくその内情も察することができた。


 …これは推測でしかないが、おそらく彼らは颯哉の普段の行動……より正確に言うのであれば、彼女である真衣との絡みを見せつけられてきた恨みでも晴らそうとしていたのではないだろうか。

 校内でも真衣と颯哉が付き合っていることはそれなりに有名だし、彼ら自身も特に隠すこともなく公言している。


 それに関しては拓也も普段から見せつけられているので、今更思うこともないが……全員が全員、納得しているわけではない。

 もちろん二人の仲を引き裂こうなんて考えているやつはいないだろうが、それでも日々の学校生活の中でいちゃついている彼らの姿を見て、甘い空気に当てられてきた者も多いのだろう。


 そして、今日の騎馬戦をいい機会だと言わんばかりに、これまでの恨み……主に独り身の者達の間で蓄積させられてきた怨念を発散してきたのではないか。

 結局は拓也の勝手な妄想でしかないので断定などできないが、試合中の彼らの必死の形相を思い起こせば、あながち外れてもいないような気がする。


 騎馬戦に参加しているのは男子だけということも相まって、ある意味見ごたえも凄まじい勢いで高まっていたが、こうした裏事情があったなんて思えば心境も複雑になってきた。

 …まぁ、良い方向でとらえれば多くの生徒の心が一致団結していた場面だったとも考えられるので、悪いことばかりでもないと思いたい。


「やっ、原城も舞阪もお疲れだったね。見てるだけで気迫があったよ」

「お、朝陽じゃんか。お前も見ててくれたのか!」

「そりゃあね。…にしても、なんだか不服そうだけどどうかしたの?」


 歩いていた二人に聞き慣れた声が話しかけてきたので、声の主にある程度予想を付けて振り返ればそこに立っていたのは朝陽だった。

 彼もこれまでに種目をこなしてきたのか少し汗をかいているが、その顔は満足そうに笑みを出している。


 そんな朝陽だったが、不満気に顔をゆがめている颯哉の態度に疑問を覚えたのかこちらに投げかけてきた。


「よう池上。それがよ、颯哉のやつ騎馬戦で自分が執拗に狙われたって騒いでんだよ」

「だってよ、明らかに集中砲火してきたんだぜ? なんかあると思うじゃん」

「あー……日頃の行いのせいじゃない?」

「だとよ」

「嘘だろ!?」


 朝陽の方も大方の事情はなんとなく察したようで、彼にしては珍しく辛辣な言葉を投げかけてきた。

 拓也としてもその意見に全面的に賛成な立場なので、この場で颯哉に味方する人物などいるわけもなかった。


 朝陽の言う通り、こいつの日常の行いのせいで蒔かれた種なのだから、同情することもない。

 がっくりとした様子の颯哉を眺めながら、俺たちは教室へと進む足を早めていった。




 軽く昼食を済ませた後、拓也は予想よりも持て余してしまった時間をどう過ごしたものかと悩んでいた。

 別にこのまま教室で種目が開催されるまでの時間を過ごしていてもいいのだが、教室内はクラス全員が一斉に昼休みを満喫していることもあってかなりの騒がしさだ。


 ゆっくりと落ち着いた空気を満喫したい拓也としては、ここにいるのは得策ではなさそうなので一度違った場所に移動することにした。

 この時間ならば生徒は皆校舎の中で待機しているだろうし、逆にグラウンドに赴いてみるのもいいかもしれない。


 昼休みにまで外に出るのかと言われそうなものだが、特に出てはいけないとも言われていないので構わないだろう。


「颯哉、少し外に出てくるわ。なんか言われてたりしたら頼む」

「ん? ああ、わかった。早めに戻って来いよ」

「わかってるよ」


 お互いに向き合いながら昼食を過ごしていた颯哉に席を立つことを告げ、何かあった時には伝言するように頼んでおく。

 これで万が一の時には対応もできるし、懸念することもなくなった。

 せっかくの休み時間なんだ。有意義に使わせてもらおう。


 そのまま賑やかさに満ちた教室を後にし扉をくぐっていく。

 …しかし、そこでふとあることに気が付いた。


(そういや……教室に唯がいなかったな。手でも洗いに行ったのか?)


 さっきまでは疑問にも思っていなかったが、よくよく思い返してみれば拓也の教室に唯の姿が見られなかった気がする。

 最初は真衣にでも連れられて別のクラスに行ったのかと思ったが、昼休みが始まってから真衣がやってきた覚えもないのでそれも違うだろう。


 そのことに少し引っ掛かりを覚えたが、今から探したところで行方も一切分からないので無駄に終わるだろう。

 もう一度体育祭が再開する頃には戻ってくるだろうし、それまでは拓也も自分の時間を過ごしていればいいさと思い、グラウンドへと向かって行った。




 正午辺りにもなってくると日差しの強さはますます強まっているようで、肌に照り付けてくる紫外線を感じ取れるようだった。

 ギラギラと輝いている太陽はまだまだこの暑さが終わらないことを暗示しているようで、目元を手で覆って見上げれば雲一つない快晴が広がっている。


「暑いけど……やっぱり、俺以外にも人はちらほらいるもんだな」


 やってきたグラウンドに目を向ければ、意外にもまばらに生徒はやってきているようだった。

 彼らも拓也と同じように静かな場所を求めてやってきたのか、それとも早くに暇になってしまったがゆえに来たのかは不明だが、見た感じそこまで人も多いわけでもない。


 なので、当初の目的である落ち着いた場所を探すというのは達成できたと言っていいだろう。


「あの木陰の辺りで少し涼んでるか……外に来ておいてなんだけど、日には当たりたくないしな」


 グラウンドの隅には花壇の傍に生えている木によってできた木陰のスペースがあり、拓也も時々暑さ避けとして利用させてもらっていた。

 場所もちょうど死角となるような位置にあるので、人の目を気にすることなく休めるのも個人的に気に入っているポイントだ。


 そうと決まればやるべきことは明白だ。

 のんびりと歩きながら日光を遮っている自然の避暑地を目指していけば、数秒前までの蒸し暑さが嘘のように心地よい風が吹き込んでくる。


 所々に点在するかのように植えられている花を潰さないように注意しながら花壇のレンガに腰掛ければ、ようやくホッと一息つくことができた。


「うー…ん。なんかこうして落ち着いた状況になると、とたんに眠くなってくるよな……」


 少し前まで全力で動いていたことによる反動なのか、ゆっくり体を落ち着かせることができたことで眠気が襲ってくるようだった。

 ここで寝てしまえば後々の予定にも支障が生じてしまうので実際に寝ることはないが、体はたまりにたまった疲労を発散させようと訴えかけてくる。


 一瞬少しくらいならいいかもしれない、なんて思考も浮かんでくるがすぐにその考えは打ち切り、頭を振って無理やり眠気を覚ます。


「…さすがに居心地が良すぎたかな。でもゆっくりいられる場所なんて他には………あ? あれって……」


 襲い掛かってくる睡眠欲に抗いながらも、程よく冷気が流れ込んでくるこの場所のあまりにも良すぎる居心地から、少し離れた方がいいのかと検討していれば、視界の隅に映り込んできた人影が気にかかった。


「……もしかして、唯か?」


 視線を向けた先。

 そこにいたのは、見知らぬ男子生徒に連れられてやってきた唯の姿だった。


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